地域創生と伝統工芸 #01

企業ブランド戦略が、伝統工芸を救う

  • 長尾 雅信
    新潟大大学院 技術経営研究科 准教授/博士(経営学)
  • 若林 宏保
    株式会社電通 CDC クリエーティブ・ディレクター

地域創生が叫ばれている昨今、「伝統工芸」はどうなっているか。
地域創生に伝統工芸はどう関わっていくべきなのか。
そこに、伝統工芸の生き延びる道はあるのか。

2009年の発刊以来、地域活性化を模索する自治体や研究者などに支持されてきた『地域ブランド・マネジメント』に共同執筆者として参画した、新潟大大学院の准教授・長尾雅信氏と電通CDCの若林宏保氏が、伝統工芸の向かうべき道を模索する。

 

危機に瀕している「伝統工芸」にこそ、

地域創生の可能性が見える

 

若林:伝統工芸品に関するデータを見ると、生産額や作り手の数が平成に入ってから急速にシュリンクしているんですね。世代交代もうまくなされていない。このままでは日本の伝統工芸がなくなるのではないか、という危機感を感じます。その中で、再生させていく方法はないんだろうか、という問題意識がまずあります。

長尾:そうですね。例えば桐だんす。昔は、嫁入り道具の必需品でした。しかし今は、そんなケースは数えるほどでしょうし、都市のライフスタイルには合わない。家にはクローゼットがありますしね。

しかし、いまだに昔と変わらないスタイルを続けている。絶対マッチしているわけないのに。そこに大きな課題があって、分業体制のわなにはまってしまったんですね。作り手は作るだけ、市場との関わりは問屋さんに任せてしまう。

すると、作り手は問屋さんからあまり情報を聞かないんですね。今の住まい方や使い方が、どう変化しているかを聞かない。そのうちに、売れないから問屋さんが廃れて、売り手がなくなる。情報も入ってこないし、販路もなくなってしまうわけです。
そして産地もどんどん、シュリンクしていく。これは、伝統工芸品全般的にいえる傾向です。

若林:現代のライフスタイルに合わせるのではなく、今まで作ってきたものだから売れるだろうと信じているんでしょうね。

長尾:市場がそうなってしまったと同時に、伝統工芸の技術を引き継ぐ人たち、後継者の世代交代がうまくいかなかった、ということも大きく影響しています。思ったよりも従事者が減って、どんどんシュリンクしていってしまった。それが現状ではあるのですが、地域や日本というものの良さを見直そうという中で、伝統工芸の再生に地域創生の可能性があるんじゃないかと思うんです。

 

「久保田」というブランドとともに、

手すき和紙が成長

 

長尾:デザインにこだわるというのも、再生への出だしとしてはいいとは思いますが、うまくいかないことが多いですね。最初はデザイナーと組むことでとても注目されますが、そのあと工芸家の方に、そのエッセンスが残らず、独り立ちできない。一過性のもので終わってしまう、というのがとても残念なんです。

若林:そういう活動も意義があるのだけれども、それなりに難しさもあるわけですね。頼り過ぎてはいけない、と。

そういう意味では、今回、長尾先生から紹介していただいた日本酒「久保田」の事例には、伝統工芸の活性化にいろいろなヒントが詰まっていました。30年前、新潟らしさを発信する、「原点に還る」という考えの下、ラベルに手すき和紙を使おうと当時の社長が決意する。技術的な制約が出てきても産地を巻き込んで挑戦し、久保田というブランドと共に手すき和紙という伝統工芸も活性化していきましたね。

この仕組みは今までにない。自分たちのブランドを作ろうとした中に伝統工芸があったわけで。しかも、それが今も継続され、いろいろな広がりを持った。自分たちのビジネスの行動、哲学が最初にあり、それが伝統工芸との関係の中で非常にうまくいっていることが取材で分かりました。

長尾:価値を共創していくことを30年前から試行していたわけですよね。久保田は、まさにパートナーとの共同体運動なんです。このブランドを作り上げるのは酒造会社だけじゃない。みんながブランド作りの担い手だということで結束している。手すき和紙の職人さん、ラベルの印刷会社、お米を作る農家、そして首都圏をはじめ全国の酒屋さん、みんなで育てているという姿勢にあふれています。

若林:まさに企業ブランドと地域ブランドが融合した事例であり、こうした関係が増えると地域は創生されると感じました。

 

今のライフスタイルの中での「伝統工芸」

点と点がつながるとき、可能性が生まれる

 

若林:僕は仕掛けもすごく重要だと思っています。民芸の分野の例ですが、盛岡の光源社や岡山の「くらしのギャラリー」というところでは、民芸といったものを編集して、それを生活の中に取り入れてもらおうという活動をずっとやっています。

また、ある編集者が、南部鉄器で紅茶をいれるとおいしいということを提案してそれがきっかけで売れたという例もある。久保田が和紙ラベルを導入したときも、伝統工芸の単なる継承ではなく、現代におけるラベルとして引用して、そこから新しく開けていった。

今年3月に発売開始となったディズニー〈ジャパン クラシック〉シリーズという商品では、伝統工芸の職人技でディズニーキャラクターの世界観を表現しています。

ディズニー〈ジャパン クラシック〉シリーズ                                               ©Disney

こうした現代での使い方、今のライフスタイルの中でどうあるべきかという視点で伝統工芸を活用していこうという運動がもっともっと起きると、日本の伝統工芸はまた次のステージに行けると思いますね。

長尾:伝統を単に受け継ぐだけでなく、今を表現するという。歴史をたどれば、千利休にしても、当時の伝統を「今」として表現したわけですからね。

若林:そのためには、その場所だけの伝統工芸ではなく、各地域の点と点を線で結ぶような仕掛けができて、新しいライフスタイルが提案されていくなどの展開が欲しい。地域が広域連携をしていくと、新しい流通が確立できる可能性も出てくると思います。

 

企業のブランド戦略が「伝統工芸」を支え、

地域創生のキーポイントになる

 

長尾:地域創生を考えていく上で、大学も関わっていく方向になっています。例えば、新潟には良質な粘土で作られる安田瓦という伝統工芸があります。屋根の瓦の一大産地があるんですよ。現代の家屋では、瓦はあまり使われませんが、断熱性などさまざまな性能面で他の素材より格段にいいという話です。こうしたメリットをアカデミアの共同研究によって、しっかり実証していく。そして言葉として、物語として伝えることができれば、ブランドの強さになっていくと思っています。

若林:私はさまざまな企業が、しっかりとした目利きで地元を愛して、地元の文化を理解することが大切だと思います。

そして、目先の利益ではなく中長期的にできることを考えるかどうかによって、まったく変わってくる、と強く言いたいですね。企業の文化度が伝統工芸を支える、というところがすごく大きいはずなんです。それには業種は問わないと思います。

長尾:そういう意味では、「久保田」は普遍的なモデルかもしれません。効率などをよりどころにする価値観ではなく、社会や経済に対して多様性をもたらす、まさに運動体のようなインパクトがあります。伝統工芸は単なる製造業ではなく、土地の自然、歴史、人々の精神性が織りなすコミュニティーのひな型なんです。

若林:物の作り手や売り手、どちらでもいいのですが、そこに目利きがあるほど、地方の良さや価値を活用する。その結果、良いコミュニティーみたいな器ができていく、というところですよね。

それは、企業体の理念であったりビジョンであったり、そこで、企業ブランド力の差ができる。そのブランド力の差こそが、地域創生のキーポイントになるんですよね。

長尾:そうした企業の姿勢に消費者が共鳴し、口コミによって拡散し、ファンに厚みが増すことになる。それが世界にも広がっていく。

若林:企業は地域の文化を理解し、それを活用することによって地域に経済循環を起こす。そこには、伝統を守り、雇用を生むようなことも含まれている。こういうことをぜひもっとやっていいただきたいですね。

それが、自分たちのブランド価値に反映されるわけですから。これこそ究極のCSV(共通価値の創造)だと思います。そのためには、企業はもちろん、地域のメディアなどが一体となって、行動すべき時期になっていると痛切に感じます。

 

プロフィール

  • 長尾 雅信
    新潟大大学院 技術経営研究科 准教授/博士(経営学)

    神奈川県出身。地域ブランド、関係性マーケティング、CSVに関心。
    主著に『地域ブランド・マネジメント』『宝塚ファンから読み解く超高関与消費者へのマーケティング』(いずれも共著・有斐閣)など。

  • 若林 宏保
    株式会社電通 CDC クリエーティブ・ディレクター

    電通地域ブランドプロジェクトabic(アビック)を推進。
    地域ブランディングに関する手法、実践、知見を結集した独自のプラットフォームを構築。(www.dentsu.co.jp/abic/)
    主な著書、論文に『地域ブランド・マネジメント』(共著・有斐閣)、「地域ブランドアイデンティティ策定に関する一考察(マーケティングジャーナル2014年6月)がある。

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