ブランド・グロースハック―ビジネスの成長を約束する「マーケティング×IT」新手法− #04

“意外とちゃんとやってない”PDCAの最近事情―効果検証をハックする―

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    谷澤 正文
    株式会社電通デジタル データアナリティクス事業部長/マーケティングディレクター

Ⅰ 実行動ベースの効果検証

デジタルかどうかを問わず、マーケティング活動には、結果を検証し、次の戦略、戦術に生かすPDCA活動というものがあります。

しかし様々なクライアントを担当していて、このPDCA活動をきちんとやっているケースは少ないように思います。これには、ウェブによる意識ベースのアンケートの限界が大きく関係しています。例えば、あるブランドのキャンペーンの効果検証調査では、そのキャンペーンのテレビCMを認知していて、ブランドの好意や購入意向も高いという結果にもかかわらず、実際には申し込みや購入実績が少なかったという事態が起こります。「調査上の意識」と「実際の行動」が、かい離しているケースです。

 しかし、マーケティングのデジタル化時代の今、この効果検証調査でも「実行動ベース」で行うことが多くなってきました。「テレビCMを見た人が、実際にキャンペーンサイトに訪れたのか?その割合はどれくらいだったのか?」「テレビCMとデジタル広告の双方に接触した人の方が、テレビCMだけを見た人よりもサイト訪問率や申込率が高かったのかどうか?」などを、実際の行動をもとに把握できるようになりました。サンプル数の関係で、例えばテレビCMとデジタル広告に接触した上でサイトを訪れた人が実際にそのブランドを購入したかどうかは、ブランドによって把握できたりできなかったりが現状ですが、いずれにしてもテレビCMやデジタル広告、サイト来訪などの実行動データは、以前よりもだいぶ活用可能になりました。また、そのような実行動データ調査(特にデジタル広告の接触調査)では、追加で「ブランドへの印象」などの意識項目を聴取できたりするので、意識データと行動データの両方を見ながら何がうまくいって、何が悪かったのかを明らかにすることができます。購入意向が高かったにもかかわらず、実際に申込などのアクションをしている人が少ない場合には、そこのギャップにこそ次のチャンスがあり、更なる分析でそこを深掘りしていくことができます。

Ⅱ 逆算からのKPI設定

実行動データによる効果検証調査の実施で、KPI(key performance indicator;重要業績評価指標)の設定方法や、次期のマーケティング投資額の算出法も変わってきています。これまではアスキング調査で、テレビCMの認知、ブランドの好意、購入意向など意識ベースのKPI設定と、その達成度合いを評価していました。しかし、実行動データの効果検証調査ではテレビCM認知、デジタル広告接触、サイト来訪、(サンプルが確保されれば)購入実績が分かるようになったので、KPIの設定も、ビジネスのゴールであるサイト来訪数、申込数、購買数などから逆算して、それに必要なデジタル出稿量や効率指数(Imp、 CTR、 CVRなど)、テレビ出稿量(GRPなど)を設定できるようになってきました。最終ゴールのKGI(Key Goal Indicator;重要目標達成指標)である、申し込みや購入というアクションから逆算して、KPIを設定し、さらにそれを達成するための最適投資額を算出します。

Ⅲ マス広告とデジタル広告の最適化

このように実行動ベースでKPIを設定できるようになったので、マス広告とデジタル広告の投資配分も、KPIをベースにして精緻に設定できるようになってきました。「広告費の半分が金の無駄遣いに終わっていることは分かっている。分からないのはどっちの半分が無駄なのかだ」といった広告業界に対して昔から言われていた指摘がだいぶ解消されてきたように思います。テレビCM、デジタル広告、その他マーケティング活動のデータを3年分用意すれば、MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)という統計手法で、売上目標に対する最適投資配分額を算定することもできます。ビッグデータ分析ツール、統計解析手法が進化したこともあり、10年前に比べてかなり安価かつ短時間でできるようになったので実施する企業も増えています。またデジタル広告内のプランの最適化も、アトリビューション分析という手法で可能になっていますし、最近ではオフラインとオンラインをミックスしたプランの最適化が可能かどうかが盛んに検討されています。

そうとは言えここで一つ留意しておかなければならないのは、まだまだこれらの最適化分析が万能ではないということです。大事なのは、最適化の計算をする前に「このテレビCMとデジタル施策で、本当に人々は反応してくれるのか?」といった気持ちやモチベーションの設計で、まずは行動を喚起させる手段として、メディアの機能や役割を設計しないといけません。手段間の最適化の前に、何を伝えるか、どんな体験をしてもらうかを先に考えるべきで、いわば“気持ちの設計”こそが大事なのです。ターゲットに対してどんなに効率的な手段であっても、伝える中身が相手にとって有益なものや、興味をそそるものでないと迷惑以外のなにものでもありません。アドテクを駆使して効率化を追求する姿勢も大切です。しかし、当たり前のことですが「そもそも従来通りのバナー広告で、ブランド体験はつくれるのか?人はそのブランドを好きになってくれるのか?」「わざわざ購入してくれるのか?」といったことをまずは真剣に考えないといけません。

Ⅳ KPIは「広さ、効率」から「深さ、拡散」へ

購買というビジネス上のゴールから逆算し、デジタル広告のImp、 CTR、CVR、さらにそのために必要なマス広告のGRPなどを設定できるようになりましたが、そもそも「テレビCM→サイト来訪→購入」という購買プロセス自体が機能しなくなっている可能性もあります。そのため、最近では「どれだけブランドのファン層、優良セグメントを増やせるのか?」「新しいブランド体験でファン層の好意を上げられるか?」「人に話したくなる体験をつくれているのか?」といったことを指標化したNPS(ネット・プロモーター・スコア)などの、深さや拡散に関係するKPIが重要になってきています。

またこれらのKPI、効果検証調査データ、売り上げ、SNSのデータは今、マーケティング・ダッシュボードと呼ばれる、データ一覧システムで簡単に見られるようになっています。クライアントも広告会社も、同じデータベースでリアルタイムに状況を把握でき、何か問題が生じれば瞬時に対応できるようになりました。ここでも留意しないといけないのは、日々のデジタル施策の効率アップを目的としたスモールなPDCAと、もう少し中期視点でブランドや顧客構造、ファンの育成を考えるビッグなPDCAの2つの視点が大事だということです。数値としてすぐに可視化される日々の効率だけを追っているとブランドの本来の方向性を見失いがちになりますし、逆に中期的なブランド評価の動向だけ見ていても、日々の売り上げ改善に直結せず悠長なことを言っていられなくなります。したがって、両方の視点をバランスよく持つことが必要なのです。

Ⅴ データとアイデアの関係

今回はブランド・グロースハックの「見つける」「育てる」「整える」のプロセスのうち、「整える」フェーズの実態をご紹介しました。

少し話は変わりますが、データを使ったPDCAでいつも思うことがあります。それは「データはアイデアを邪魔するのか?」ということです。調査結果のデータをベースに次の戦略、施策を考えると「調査を受けた消費者は常識の範囲内でしか答えないので、新しいことを考える際はあまり参考にならない」という人もいますが、本当にそうでしょうか。アイデアは制約があった方が、色々と頭を駆使してブレークスルーできますし、全く何もないところからプランナー、クリエーターの勘と経験だけでプランニング、制作するよりも消費者の今の状況、行動をしっかり踏まえた上で、その想像の範囲を超えることを考えた方が人々は反応するかと思います。ありそうでなかった半歩先のブランドやサービスを考えるために、日々の精緻なPDCAで消費者の常識の範囲、想像の範囲を把握することは大事だと思います。そして、実施したことをやりっぱなしにせず、良くも悪くもその結果を真摯に受け止め、クライアントと一緒になって次の改善、まだ世の中にない半歩先のサービスを検討していく姿勢が大事です。

ここまで3回にわたって、ブランド・グロースハックの「見つける」「育てる」「整える」の3つのプロセスをご紹介してきましたが、次回は、このブランド・グロースハックをクライアントと実現する、広告会社の理想のチーム体制のお話を紹介します。お楽しみに。

プロフィール

  • Profile tanizawa
    谷澤 正文
    株式会社電通デジタル データアナリティクス事業部長/マーケティングディレクター

    2002年電通入社。以来、さまざまなクライアントの社長プロジェクト、CMOプロジェクトに参画し、広告領域にとどまらず、経営・事業戦略やブランドのコンサルティング、最先端のデータベースマーケティングから、統合キャンペーンプランニングまで、戦略から実施の両輪をこなすコンサルタント&グロースハッカー。商学修士。
    プランニングモットーは「緻密に計算し、大胆に実行!」。

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