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Brand TalksNo.2

カスタマージャーニーの未来(後編)
~ad:tech tokyo international 2015より~

2015/09/01

2015年7月に東京ミッドタウンホールで開催された、グローバルなデジタル・マーケティング・イベント「アドテック東京インターナショナル2015」。前編に続き、今回はその中から、「カスタマージャーニーの未来」と題したセッションの内容をご紹介します。

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加藤:デジタル化がもたらす、カスタマージャーニーの本質的な変化やその要因について伺いました。それでは続いて、こうした変化に対応しているブランドの先進的な取り組み事例について紹介・議論していきたいと思います。

小西:先に述べたように、今日ではメディア起点よりもいかに顧客起点で、購買やブランドとのつながりを生む決定的なタイミングをつかみ、場合によっては接点を創造し、「ブランド化」された体験を提供するかが成功の鍵になっています。
たとえばJALやANAのような航空会社は、飛行機に乗る前に運航情報提供やスマートなチェックインを行う(アップルウォッチなどの)カウントダウン・アプリを提供することで、旅の期待感が最も高まる搭乗直前のブランド体験を効果的に演出しようとしています。またスバルは、ユーザーがクルマを買う前だけでなく、買った後のユーザーコミュニティーを強化し、スポーツやアウトドアのアクティビティーとライフスタイルを提案するという、独自のブランド体験でロイヤルティーを高めようとしています。あるいは、皆さんよくご存じのコカ・コーラは、「モーメント・オブ・ハピネス」(幸せの瞬間)をブランドの真実の瞬間にすべく、モバイル・ソーシャルメディア、スポーツや音楽などのコンテンツマーケティングを活用しながら生活時間に入り込み、ユニークなブランド体験を提案しています。これらに共通するのは、メディア接点にとどまらず、顧客の生活や使用シーンをつかまえ、「ブランデッド・モーメント」(ブランド化された時間)をいかに創り出すかという視点です。

鈴木:顧客の真実の瞬間を捉える、という観点からは、私はニューバランスが協賛した「ソーシャル・マラソン in 湘南国際マラソン」のプログラムを事例として紹介したいと思います。ここでニューバランスは単なる協賛にとどまらず、参加したランナーの通過タイムをSNSに自動投稿するサービスに加え、一人一人のランナーの走行タイム、湘南の風景、SNSの友人からの声援などを詰め込んだ自分だけの映像がつくれる「MY RACE MOVIE」を提供しました。これはランナーのマラソン体験をよりソーシャルに、豊かなものにしてもらい、自分だけの忘れられない思い出として共有することで、ブランドとのエモーショナルなつながりをつくることを狙ったもので、好評を博しました。

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田端:私からはLINEというプラットフォームを通じて、ユーザーとブランドの新しい接点とジャーニー体験を生み出した事例を紹介したいと思います。一つは、ラグジュアリーブランドのバーバリーとのグローバルパートナーとしての取り組みで、LINE公式アカウントのリアルタイム動画配信機能「LIVE CAST」を通じて、ロンドンで開催されたバーバリーのファッションショーの生中継を実施し、LINEキャラクターのコラボスタンプの提供も行いました。デジタルを活用してラグジュアリーブランドの「民主化」を進めるバーバリーが、LINEのマス規模のメディアリーチを生かして、クローズドなファッションショーを多くの人に展開することができました。

もう一つ例を挙げると、リクルートのフロムエーナビがLINEビジネスコネクトを活用して、公式アカウントで展開した「パン田一郎」があります。これはリクルートテクノロジーズの自然言語処理を利用して、CMに登場するキャラクターとパーソナルなチャットができて、質問しながらバイト探しもできるのですが、その会話の受け答えが面白くて非常に話題になり、すでに友だち数が1400万人を超えました。まさに今までにないカスタマージャーニーを生み出しているのですが、興味深いのは、まとめサイト等に公開された実際の会話事例を見ると仕事の悩みなどのプライベートな相談が多いという点です。ブランドが個人的な会話を通じて人格を形成しているとともに、ユーザーとのエンゲージメント(絆)をつくることに成功している。

加藤:「パン田一郎」の事例は、テクノロジーによってマスレベルで個人化されたコミュニケーションを実現するだけでなく、消費者にとってエモーショナルなブランド体験を生み出している点が注目されます。
こうした事例が示唆するように、今日モバイルやソーシャルメディア・プラットフォームを通じて従来とは異なるジャーニーが拡大し、ブランドにとっても大きな機会が生まれているといえるでしょう。さて、それでは、ブランドはこうしたカスタマージャーニーの変化にどのように対応すべきか、どのような戦略を持つべきなのでしょうか。

小西:実際に、今日われわれが行っているコミュニケーション戦略の大半は、いわゆる定型的なメディア・プランニングではなく、カスタマージャーニー・プランニングの過程をたどっています。それはターゲットにリーチするメディア枠ではなく、一人一人の顧客とつながれるタイミングを「発見」することから始まり、ジャーニーを駆動する独自の顧客接点を「設計」する、そして広告だけでなく、ブランドが顧客と直接つながるためのストーリーやアクションを「創造」し、最終的にプラットフォームを通じて、継続的な「関係」を生みだしていく。
大事なのは短期的な接触の積み重ねだけでは効率が悪く、もはやジャーニーを誘導するには不十分だということです。外部のソーシャル・ネットワークなども活用しながら、直接的な関係のプラットフォームをつくること。最近は検索やソーシャルメディアでもダイレクトな「購買」ボタンが付き始めています。ブランドがいったん顧客との「信頼の砦」を築くことができれば、需要が起こったときに購買プロセスを即時化することも可能となります。

鈴木:カスタマージャーニーを考える際には、顧客と接触する全ての体験を可視化すること、その上でブランドにとって顧客の真実の瞬間をいかに発見し、捉えるかがもっとも大事だと思います。ニューバランスでは、スポーツやランニングといったブランドのコアとなる使用体験やシーンに特にフォーカスし、ユーザーの情緒的なインサイトに基づく体験を生み出していくことを重視しています。

田端:最も強調すべき点は、メディアや枠からプランニングを始めるのではなく、常に顧客からスタートする、ということではないでしょうか。そして、議論にもありましたが、ブランドにとって購買は必ずしもゴールではない、むしろスタートであること。ブランド体験を起点にジャーニーの戦略を考えていくことが、かつてないほど重要になっていると思います。

加藤:ここまで、カスタマージャーニーの定義とその変化、先進的な取り組み事例について、そしてブランドはいかにこの変化に対応していくかを議論してきました。最後に、本セッションのテーマでもある、「カスタマージャーニーの未来」について、簡単にポイントをまとめてみましょう。

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第一に、デジタルテクノロジーがリアル接点に拡大することでさらに、いつでもどこでもジャーニーが起こるようになること。スマホはもちろん、ウエアラブル、クルマや家電・テレビといったIoTデバイスの拡大も、こうしたジャーニーの起点となる接触機会を広げるでしょう。
第二に、テクノロジーとカスタマイゼーション技術の進化により、より個客に応じた「文脈的な経験」が可能になること。すなわち、時間や場所、顧客の一連の行動文脈にそって最適化されたブランド体験が、カスタマージャーニーを効果的に誘導できるようになっていく。
第三に、ブランデッド・コンテンツから、ブランデッド・モーメント(ブランド化された時間)が焦点になること。事例にもあったように、ブランドが顧客の生活シーンや時間にアクセスし占有することが、コンテンツ以上に重要になってくるでしょう。

ということで、「カスタマージャーニーの未来」に関するセッションを締めくくらせていただきます。ご静聴ありがとうございました。