新明解「戦略PR」 #26

会えない時間は愛(=PR)育てるのか? ~PRのレギュラー契約ってなんのためなのか考えてみた~

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    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

唐突ではありますが、…愛って儚(はかな)いですね。夏の燃えるような感情も、秋が近づくにつれ、だんだんとしぼんでいくようで、切なさを隠せない今日この頃、みなさまいかがお過ごしですか? この年になったんだから、私もそんなに激しくなくても、もっと落ち着いた深い愛を追い求めたいとも思うのですが…。そう、細くてもいい、長〜く愛してほしいから…。

なんつってね。これ前振りなんで、ここからは読み飛ばさないように! 実は今回のお題は、PRでよく聞く「リテナー契約」。日本では「レギュラー契約」なんて呼び方もされていますが、「年間契約でクライアントのさまざまなPR的要望に応える」というもの。最近、この「リテナー契約」についての意味合いが、各所で誤解されているんじゃないかな、と強く思ったので主張させていただきまーす!

「リテナー」ってのはさ、バトラーサービスに似てるわけよ

「リテナー」ってのは英語で言うところの「retain」から派生していて、すなわち「保持する」「維持する」という意味。契約でいえば「雇用し続ける」ってことですね。PRのリテナーといえば、あるPRパーソンないしは、そのチームを自社のためにキープし、コンサルティングやPR的実務をお願いするという形の契約。場合により半年のトライアル期間で、なんてこともあるけれど、大抵は年間契約で、クライアント業務について業界事情を理解しながら併走していく、ということになります。そりゃ、どんなPRパーソンだってよほどの業界通でなければ短期でクライアントのために何かをなすことは難しいのです。

広告のメッセージングや、プロモーションの手法提案といったことではなく、PRは、その企業におけるビジネスの本質について、いかに知見を持ち、業界全体さらには社会全体との関係性を把握しながら、あらゆるステークホルダーに対するコミュニケーション設計を立案できるかが勝負どころ。なので、業界知識を積み重ねつつ、その世界のインフルエンサーとのリレーションを維持・構築し続ける人材こそが重宝されるわけです。

欧米では、「俺はこの業界を担当してからもう30年なんだよ」とか、「クライアントのB社の社長は創業から全員俺がトレーニングしてるんだ」みたいなことが自慢と共に語られ、またこの長期の信頼関係という実績が彼らの知見を評価するひとつの基準にもなっているのです。クライアント側も、業界に通じている有能なPRパーソンを競合他社に取られたくないと考え、「retainする」というのが、契約の基本となるわけです。「競合に取られるくらいなら、俺らは倍額払っちゃる!」という競り落としすら、見かけることもあるのです。

長い付き合いだからこそ分かることがある

コミュニケーション業界において、新しい手法や技術は日進月歩。「ミレニアルズ」「ジェンZ」などの新しいターゲット論が提唱されたり、新技術で新しい表現手法が生まれたり、新しい行動様式の解析ができたり…。

もちろん、企業が生活者とよりよいコミュニケーションを図る上では、新しい手法やチャレンジは欠かせません。しかし、やみくもに飛びつけばいいというものでもありません。新しさにばかり目がいっては、生活者に企業イメージをかえってバラバラに感じさせてしまうこともあるでしょう。そこで、企業のコミュニケーション手法やメッセージングのお目付け役が、長期にわたりクライアントの横にいるPRパーソンなんじゃないかなって思うんです。

経営のそばに寄り添うのがPRパーソンの理想

そういえば、広告を中心とした短期キャンペーンをすべて競合コンペで決める、というクライアントも増えていますよね。広告とPRが融合して、統合的なコミュニケーション設計・実施が増えてきたというのは喜ばしいことなのですが、ここのPRがあまりに短期的すぎると、それは問題なのではないでしょうか。

短期キャンペーンになればなるほど、PRといえば、パブリシティー中心。いわゆるメディアでの露出を図ることが主目的になりがちです。

話題化のためなら企業ビジョンやブランドメッセージなんて置き去りでもいい、的な姿勢も目に付きます。「この施策は社長メッセージと相反するんじゃねーの?」と思うようなことですら、話題化のためにやっちゃうってなこともあるわけです。クライアント内で部署連携できているならいいんですが、こういうときに限って「あ―、広報部はうるせーから事後報告にしよ」などとおっしゃる方も中にはいらっしゃるわけです…。企業のコミュニケーション活動を一つの共通意識の下で行っていきたい広報部や経営企画部などの立場からすれば、「まーた、ばらばらな情報発信しちまった。生活者意識に残りにくいわー、こりゃ」と嘆く場面と相成るわけです。

一に「共有」、二に「相談」、三四がなくて五に「連携」

私は著書でも「クライアントオーダーに対して、まずはエージェンシーチームがワンテーブルに着き、成果を達成するための全体最適のコミュニケーション設計をすべし」と常々声を上げていますが、一方で「オリエンをするクライアント側の目的も、社内各署で共有すべし」と考えています。手柄の取り合いでも仕事の押し付け合いでもない、組織の各部署が連携してこそ、初めて企業そのものが目指すゴールに向けて全員が意識を合わせることができると思うのです(節分の日に、全員で恵方巻を恵方に向けて食べる、そんな感じでしょうか…?)。そして、リテナー契約しているPRパーソンが各コミュニケーション施策にアサインし、情報の全体設計を図るのがその一番の早道だと考えています。

なぜならPRパーソンは経営の横に常に寄り添い、その短期・中長期のゴールを見据えながら、目の前の各施策をうまく一つの方向性に集約させるための助言ができると思うからです。これにより、個別最適で走ってきた各種のコミュニケーション施策が中長期レンジでも、ステップを重ねるごとに目指すべき方向へ進み、生活者の意識の中に強く残るのです。施策の方向性を変えていこうということではなく、その一部を大樹の根幹に結び付けておくという、ちょっとした工夫だけで、バラバラ感はかなり解消されていくはずです。

このような「全体コンダクター」としてPRパーソンを使い倒すというのも、企業にとっては一興ではないですか? PRのレギュラー契約を単なるアウトソーシングとしてしか使っていないあなた、今こそ彼らの本当の力を根こそぎ使い切るタイミングです。もっと重たい相談してみてくださいよ。意外にスラスラと答えるはずですよ。えっ? こないだ相談したけど全然だった?? そんなときこそ、「ワタシに電話してくださーい!」。落ち着いた深い愛でお答えしまーす!

プロフィール

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    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

    1990年電通PRセンター(現電通パブリックリレーションズ)入社。コミュニケーションデザインを手掛けるチーフPRプランナー。
     
    企業のコーポレートコミュニケーションから、製品・サービスの戦略PR、動画コンテンツを活用したバイラル施策や自治体広報まで、幅広く手掛ける。最近では、熊本県の赤い特産物をアピールするため仕掛けた「くまモンほっぺ紛失事件」のPRプランを手掛け、世界的なPR業界紙「Holmes Report」が主催するアワードで「世界のPRプロジェクト50選」に選出された他、多数の口コミを起こしたキャンペーンとして、世界的な口コミアワードである「WOMMY AWARD」を日本で初めて受賞。Holmes Report「The Innovator 25 Asia-Pacific 2016」(アジア太平洋地域のイノベーター)選出。
    その他「Cannes Lions」「Spikes Asia」PR部門、「SABRE AWARDS ASIA PACIFIC」「PRWeek Awards Asia」「ヤングカンヌPR部門日本代表選考」審査員。2013年6月に「戦略PRの本質~実践のための5つの視点~」(朝日新聞出版)を上梓。自治体PR事例をまとめた「成功17事例で学ぶ自治体PR戦略」(共著:時事通信社)も好評発売中。

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