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「マス富裕層」をつかまえろ!No.2

富裕層女性の心を動かせ!
~「セレブ」「エレ女」の生みの親が語る

2015/09/02

富裕層の“マス”化によって生じるビジネスの可能性を探る連載企画。

今回は、富裕層の女性から絶大な支持を受けるファッション誌『25ans(ヴァンサンカン)』『Richesse(リシェス)』の編集長を務めるハースト婦人画報社の十河ひろ美さんを迎え、電通の小山雅史さん、石井香織さんとの鼎談をお送りします。

前回紹介した日本の富裕層女性の意識・消費行動を探る調査の結果を踏まえながら、富裕層女性のココロのつかみ方について語り合いました。

※調査の際に「富裕層」の定義を「世帯資産(住宅ローンなどの借入金分は除く純資産)1億円以上の人たち」または「世帯年収2000万円以上の人たち」としています。

左から、電通・小山さん、ハースト婦人画報社・十河さん、電通・石井さん

 

外商員のように寄り添う信頼関係

小山:調査によると『25ans』は読者のうちの約42%が富裕層、『Richesse』では読者の平均年収が2900万円にも達します。まさしく富裕層向けの誌面づくりをなさっていると言っても過言ではないと思いますが、どのようなことを大切にしているのでしょうか?

十河:まず、創刊から培われてきた世界観に対してぶれないこと。今でこそ、ユーザーファーストという言葉がありますが、『25ans』は創刊時の80年代から「読者の顔が見える雑誌」であり、彼女たちとの信頼関係を築くことを大切にしてきました。

小山:読者が何百万人もいるような雑誌ではないですよね。

十河:そうです。ある意味、オタク雑誌のような側面もあって。だからこそ、その人たちが求めているものと真摯に向き合って、実践していく必要があります。

読者は、キラキラしていながらコンサバであったり、お姫様スタイルで肉食系男子に守られたいという気持ちもあったり。そういうディテールの積み重ねで培った世界観を、時代とともに進化させながらも、根底にある「本物のラグジュアリー」をぶれることなく体現し続ける。それが、読者との信頼関係につながっているのだと思います。

小山:高額な商品を掲載しているからこそ、信頼できる媒体である必要がありますよね。そういう意味では、百貨店の外商員に近い存在なのかもしれませんね。

十河:そうですね。特に地方は東京に比べて情報が限られているので、そういった環境の中で『25ans』を信頼できる情報源として評価していただけるのはありがたいことです。私たちも掲載するものは常に安心できて、最新であるべきだという矜持を持って誌面づくりをしています。

◆「セレブ」「香港マダム」「エレ女」…富裕層フレーズは時代を映す

石井:ちなみに、エレガンスな女性を指す「エレ女」というフレーズも十河さんが生み出したんですよね?

十河:はい。6、7年前に考えました。もともと80年代から「エレガンス派」というフレーズを使っていました。でも言葉として長いし、「◯◯派」という響きがもはや古いですよね。色々な試行錯誤を経て、女性はいつまでも女子でありたいという気持ちを込めて、エレガンス女子。略して「エレ女」に落ち着きました。

小山:浸透しやすいし、『25ans』の読者にふさわしい秀逸なキャッチフレーズですね。

十河:『25ans』は結構現象を捉えて言葉を作ることが多いです。「香港マダム」とか。ちなみに「セレブ」も、うちが考えた言葉なんですよ。

石井:え、そうなんですか! もはや一般的にかなり浸透している言葉ですよね。

十河:90年代にアメリカのファッション誌で、スーパーモデルではなく女優や有名人が表紙を飾るようになって、その人たちを表す言葉として生まれたのが「セレブリティ」。それを略して、98年ごろから『25ans』で使い始めました。

小山:時代の空気感をつかんで、響く言葉を提示するのは大事なことですよね。

十河:そうですね。「エレ女」も時代の流れから生まれた言葉です。一昔前は『25ans』を一言で表すと「ゴージャス」。バブル期の派手でギラギラした感じを的確に表現していますよね。

でも今は、豊かさが洗練されて良い意味で落ち着いているので、派手な雰囲気はあまり好まれません。欧米では、華やいだ美しさを含めて「ゴージャス」という言葉でポジティブに表現しているけれど、日本では、少し揶揄するような言葉意味合いで用いられることがあります。

石井:確かにバブルのギラギラした感じは、今の時代に合わない気がします。

十河:女性の「いつまでもすてきでありたい」という気持ちは変わらないけれど、その時代にそぐうすてきさがあると思います。今はギラギラよりも、濁点を取った「キラキラ」のほうが女性にとって美しい言葉。そうやって、時代の空気感をうまく形にしていくことも大事ですね。

小山:まさに、「雑誌は時代を映す鏡」という言葉が当てはまりますね。

内面のキーワードは「成熟」「上品」「真面目さ」

小山:先ほど「内面の豊かさ」という言葉がありましたが、「成熟すること」や「上品さ」は、富裕層とのコミュニケーションにおいて重要なキーワードだと思います。

十河:外見的には成熟したくないけれど、内面を成熟させたいという気持ちは強いですよね。『25ans』でも創刊時から染織研究家の木村孝先生にお悩み相談や格言を紹介するコーナーを担当していただいているのですが、いまだに根強い人気があるのは、内面をもっと磨きたい、上品な女性になりたいと思っていることの表れではないでしょうか。

「上品と思われたい」という意識があるからこそ、そこに市場があるのだと思います。

小山:表面的なラグジュアリーさだけでなく、読者が抱いている理想の生き方や上品さにまできちんとフォーカスを当てることが大事ですよね。

十河:私の先輩である美容ジャーナリストの齋藤薫さんや、作家になった光野桃さんら、『25ans』創刊時のそうそうたるメンバーがこの雑誌で追求したのは、グローバルな価値観における成熟した、本物のラグジュアリー。

それを体現するためには、はやりの情報だけを捉えるのではなく、こうありたいという女性像や精神論が必要です。この編集方針は何代目になっても変わることなく受け継がれていますね。

石井:富裕層に限らず、女性は誰しもが内面的にすてきでありたいと思うものですが、読者と接する中で富裕層ならではの特徴を感じることはありますか?

十河:読者は女性として真面目なんですよ。自分を磨くための努力を惜しまない。単にお金を使いたいのではなく、理想の自分に近づくために全力投球するからお金がかかるのです。『25ans』に対しても、ざっと読むのではなく全ページを精読される方が多いですね。

小山:アーカイブしておく人もいるのですか?

十河:そういう方も多いです。バックナンバーに掲載した商品に関する問い合わせも多いので。

小山:それだけ熱心に接してもらえると、つくる側もきちんと応えなければという気持ちになりますよね。

十河:本当にそうです。弊社のラグジュアリー雑誌は読者との信頼関係で成り立っているので、それを崩すようなことはできません。人間関係と同じで、裏切られたという気持ちにさせてしまったら終わりなのです。

「読者なんかこんなもんでいいだろ」という意識でつくったら、それは絶対に読者に伝わってしまうでしょう。読者と同じ熱量で、真摯にコンテンツをつくり続けることが何よりも大切です。

◆幸せへの努力は体育会系!

小山:富裕層女性の真面目さや、求める理想像にきちんと向き合って、それにふさわしい情報を提供し続けてきたことが、熱烈な支持を受ける理由なのでしょうね。

ところで『25ans』はドッグショーや着物で美術鑑賞をする会など、イベントも実にバラエティーに富んでいますよね。その発想はどこからくるのですか?

十河:それも読者の幅広いライフスタイルに寄り添った結果です。社交的な方が多いので。

小山:富裕層の方は社交が大好きなイメージがあります。ママ友などのお付き合いがずっとあって、しかも一部の方はそのコミュニティーの中で戦っているというイメージ(笑)。

十河:服装や身の回りのことに構わず、家でぐうたら、過ごすようなライフスタイルとは真逆ですよね。外に出て行くにはすてきな服が必要だし、内面も磨かなきゃいけない。もちろん、コミュニティー内での競争心もあると思います。

ある意味、体育会系ですよ。負けたくないという気持ちや向上心が、プラスの循環に働いている。

石井:今回の調査で「わが人生に一点の曇りなし」と答える方がいて、曇りなしって言い切れるのがすごいなぁと(笑)。

十河:曇っていたとしてもそれをかき分ける勢いがあるのです。「自分が幸せだと思う?」という質問にYesと答えた人が98%なのも、バイタリティーの表れですよね。迷いなくYesと言えるように自分をしむけ、日々努力をしているのです。

石井:競争心があってバイタリティーに満ちているからこそ、輝くことができるのかもしれません。

十河:コミュニティーの中で負けたくないという気持ちも、マイナスではなくプラスのものとして働く分には必要ですよね。世間と関わることは大事だし、ここで輝きたいと思うのはいいことだと思います。やり過ぎると怖いけれど(笑)。

小山:だから、切磋琢磨している彼女たちに対して、『25ans』のイベントのように輝ける場を提供することは、非常に有効なコミュニケーションの一つですよね。

内向きな時代だからこそ、富裕層を盛り上げたい

小山:近年はアベノミクスの影響などで富裕層が“マス”化しているという話があります。十河さんは長年富裕層の方々と接している中で、どのような変化を感じていますか?

十河:昔は『25ans』でも世界の貴族やゴージャスな人たちの特集を毎月のようにやっていました。でも、今はやり過ぎると読者が引いてしまいます。エリア特集も、昔は果てしなく遠い国のことまでやっていたけれど、最近はハワイやシンガポールなど、近距離になりつつあります。

小山:近距離かつ、保守的な場所ですよね。

十河:だんだんと内向きに、地味になりつつありますよね。私は海外の華やかなイベントにプレスとして招待されることが多いのですが、そこから日本に帰ってくると独特の静けさを感じます。

小山:成熟とは違う変化ですか?

十河:成熟している部分もあるけれど、おとなしいですよね。原因の一つには高齢化があると思います。日本では年をとって派手なファッションをしていると、年甲斐もないと思われる風潮があるので、控えめになりますよね。

それから、ファストファッションの普及もあると思います。昔はそれなりの値段を出さないと良いものが買えなかったけれど、今はそこそこのものが安く手に入るので、ファッションにあまり力まなくなったのかもしれません。

昔は銀座に行くとなればすてきな服装じゃないと恥ずかしかったけれど、今はそんなことないですし、並んでいる商品も無個性化しつつある。

小山:構えなくなった部分はありますね。

十河:そういう内向きな時代だからこそ、余裕がある人たちには、ファッションや生活を楽しんでほしいし、その人たちのために『25ans』の役割があるのだと思います。

楽しむことは、経済への影響だけではなく、日本の国力にもつながります。美しい人、きれいな国というのは、豊かさの指標ともいえます。

時代は振り子のように揺り戻すので、これからもっと景気が良くなれば、今まで服装にこだわらなかった人が少しおしゃれをしてみようと思うかもしれない。最近は、若年層に華やかさが戻ってきて、「エレ女」らしい服装も増えてきている気がします。

 
     

消費の鍵を握るのは「しっとり・大和撫子タイプ」

小山:今回の調査では、富裕層女性を5つのクラスターに分けて紹介しています。十河さんが気になるクラスターはどれですか?

十河:クラスター1の「しっとり・大和撫子タイプ」が気になりますね。おしゃれが好きというより、代々受け継がれてきた着物や、資産価値として後世に残せるダイヤを所有していたり。

クラスター1:しっとり・大和撫子タイプ

石井:クラスター1はファッションよりも、旅行に興味を持つ傾向にあります。

十河:海外のイベントに招待されるとビジネスクラスに乗ることがあるのですが、乗り合わせた高齢の方を観察してみると、登山スタイルみたいな服装の方もいて、旅先ではおしゃれよりも、動きやすさや機能性を重視しているのかもしれません。

小山:もし、彼らが動くと消費も動きますよね。

十河:はい。かなり動くと思います。潜在力がありますから。

小山:どのようなコミュニケーションが考えられますか。

十河:きっかけを作ることが重要ですね。特に女性は、きっかけがあればいくつになっても目覚めます。

実際、クラスター1のような知り合いの女性から、「役員になったので服装に気を使いたいが、どうしていいか分からない」という相談を受けたことがありました。

そこで、プロのスタイリストにコーディネートを指南してもらったところ、後日メールが来て「朝着ていくものに迷わなくなって、新しい自分が発見できた」と喜んでくれました。

小山:絶対に自信になりますよね。

十河:そう思います。女性は服装で気分も変わるし、自信にもつながる。クラスター1は目覚めていないだけで、ポテンシャルは高いと思いますよ。

小山:気付きを提供することが大事ですよね。具体的には、どのようなきっかけが響きそうですかね。

十河:時間に余裕があって、内面磨きにも興味があるわけですよね。セミナーやイベントに招待するのはどうでしょうか。

宝石に興味があるけれど服装には興味がない人や、でもメークは少し変えたい人など、色々なタイプがあると思うので、その人たちに合わせた企画の会を開くとか。

石井:美容や健康に気を使っている人は比較的多いクラスターなので、それをさらに一歩すてきにする提案とか。マイナスをゼロではなく、ゼロからプラスにしてく提案は響きそうですね。

十河:やっぱり人生のクオリティーにはこだわっていると思います。でも華美で派手なものはきっと好きじゃない。ファッションであれば、上質で年齢にふさわしい地に足のついたシックなものに触れていただく。値段は高いけれど、鏡の前で絶対に違いが出ますからね。

小山:いいものが1点あると、今度はそれにどう合わせていくかというふうに展開もできますよね。

十河:そうなんです。全てがつながっているので、気付きを与えることができたら、そこから色んな分野に展開するチャンスがありますよね。

◆外見も武器に。「全力投球・人生謳歌タイプ」

小山:クラスター2の「全力投球・人生謳歌タイプ」はいかがでしょう。先ほど話にあった、戦っている人たちですかね。

石井:共働きで、仕事にもファッションにも社会貢献にも全力投球。教育や資産運用にも積極的です。

クラスター2:全力投球・人生謳歌タイプ

十河:働く女性はこれからもっと増えるし、それに応じて女性のキャリアも増えていきますよね。男性ばかりの役員会にぽつりといるときはまだしも、そういう場に女性が増えていくと、きっと互いに外見を意識し合うようになると思います。

小山:競争心が生まれるわけですね。

十河:もちろん、そういう場では中身が大切だけれど、外見の印象も武器になりますよね。服装に気を使うキャリア女性はもっと増えていくと思います。

小山:少し話がそれますが、東南アジアで「あなたにとっての美しさは?」と聞いたところ、「成功のパスポートだ」という答えが多かったんです。すごく正直ですよね(笑)。

十河:思っていたとしても言葉にしないのが日本人ですよね。正直に言うことは下品と思われる文化。そういう点では、コミュニケーションもガツガツやり過ぎると引かれてしまうので、加減は必要だと思います。

◆「無自覚・隠れタイプ」の心を動かせ!

小山:実は5つのクラスターの中でいちばん動かすのが難しいのは、クラスター5の「無自覚・隠れタイプ」だと思っています。

石井:本人に富裕層という自覚がない方です。経営者のお嬢さんにこのタイプが多いですね。                                              

クラスター5:無自覚・隠れタイプ 

十河:社長令嬢だけれど、キラキラした感じは好まないのですね。

石井:ご自身にお金持ちの自覚がなくて、所持しているカードが外商カードであることも知らないという。自分で購入するものは至って普通です。高価なものは親やおばあさんからもらっている。ここの消費を動かすのは大変そうですよね。

十河:自立するタイミングがないですからね。でも、親が死んだらどうしようという不安は抱えていると思います。

小山:自信をつけるためのコーチングとの相性はよさそうですね。

十河:娘の将来が心配な親に集まってもらって、コーチングを紹介するとか。

小山:このままいくと世間知らずのまま、悪い男にだまされるかもしれない。だから、意識を変えていきましょうと。

◆「ふんわり・守られ」「キラキラ・ミーハー」は男っぽさを消す演出?

石井:クラスター3の「ふんわり・守られタイプ」、クラスター4の「キラキラ・ミーハータイプ」はまさに『25ans』の読者という感じでしょうか。キラキラしていて、お姫様スタイルで、かわいらしい感 じ。                                                                          

クラスター3:ふんわり・守られタイプ

                

                                            

クラスター4:キラキラ・ミーハータイプ

十河:実は、クラスター3、クラスター4の人たちの方が性格は男っぽいですよ。サバサバしているからこそ、服装で甘さを演出したり、髪を巻いて、男っぽさを消しているんです。

石井:だからこそ、肉食男子に守られたいという気持ちがあるんですかね。

十河:自分を姫として扱ってくれるような頼れるタイプは好きでしょうね。見た目は肉食系だけれど、常に妻を優先する人。キラキラしている人を受け止めるには、懐の広さが必要だと思います。

石井:草食系は合わない?

十河:キラキラしている人には合わないと思います。クラスター2のキャリア系なら、年下の草食系が合うかもしれません。女子会にもすっと参加できて、酔っぱらった妻をそっと支えてくれるような人。

小山:いずれにせよ、懐の広さが男性には必要ですね(笑)。

お金持ちになる人は数字に強い

小山:十河さんは数多くの富裕層の方々と接してきたと思うのですが、彼らの消費行動について何か気付いたことはありますか?

十河:『Richesse』の読者寄りの話なのですが、富裕層のマインドは2桁引いて考えると理解しやすいということ。

たとえば、富裕層の方が1000万円のジュエリーを買うとき、私たちにとっては1桁差し引いて100万円にしても高額な買い物じゃないですか。でも、2桁引いて10万円だと考えたら、即決できなくもない。それだけに、気に入らなければ1000万円でも買わないし、本当に気に入れば1億円でも買います。

小山:富裕層の方々にインタビューをしていて驚いたのは、お金持ちの人たちは購入したものの金額をきちんと覚えているということ。

十河:お金持ちになる人は数字に強いですよね。何が得で何が損かをしっかりと勘定できるから、裕福であり続けられるのだと思います。

それに、余裕のある範囲内でおしゃれやぜいたくをして、元本は絶対に減らさない。お金持ちゆえの不安もあると思うし、色んな人が近寄ってきますからね。

ホームパーティーに招待されたとき、残った食べ物をラップに包んで保存していました。そういう日々の生活の堅実さがないと続かないですよね。

小山:浪費家ではないですよね。

十河:特に富裕層女性は、ほとんど浪費しませんね。自分にプラスになることや納得がいくものにはお金は惜しまない。

小山:どんなビジネスにも言えることですけれど、やっぱり彼女らの求める理想像や価値に見合うものを提供することが重要ですね。

十河:ひと口に富裕層と言っても、そのライフスタイルはさまざまなので、ビジネスの幅はたくさんあると思います。

小山:それこそ教育だったり社会貢献だったり、旅行もそうですよね。高齢化しているということは、逆に言えばシルバー市場における富裕層ビジネスの可能性も広がるということですよね。

十河:間違いなくあると思います。特にクラスター1のようなまだ磨かれていない人に対して、潜在的に求めているものを提供するチャンスはいくらでもあるのではないでしょうか。

少し話はそれますが、今はハイジュエリー業界が盛んで、あるブランドが催しものをしたとき、ご高齢の婦人が数億円のダイヤを買ったそうです。これは、資産を現金以外の形で後世に残していくための買い物ですよね。

今後、相続税などの法律が変われば、ジュエリー業界はさらに資産運用目的のお客さまが増えるでしょう。

小山:一部の富裕層に対しては、そういうコミュニケーションも可能性があるでしょうね。

マス富裕層を動かすのは、「あなたは特別」という気持ち

小山:一方、今回の調査でマス富裕層には、「自分たちをちゃんと見てほしい」「マスとして扱って欲しくない」という意識が見られました。

十河:それはけっこう重要なポイントだと思います。「あなたは特別です」と言われることは、誰だってうれしいですし、向上心のある富裕層女性ならばなおさらのこと。

先ほどの話にもありましたが、コミュニティーの中で輝きたいという意識は少なからずあると思います。勉強会やお稽古、スポーツクラブに通うのも、主目的の裏側にお友達づくりがあります。

石井:ペットにもそういう側面がありますよね。散歩をしながら飼い主同士であいさつを交わして、コミュニティーが生まれる。

小山:欧米のクラス・コミュニティーに近いのかもしれませんね。クラスという概念自体が日本だとあまり意識しにくいですけれど。

十河:一般的にはクラスは意識しにくいですけれど、実は多くの女性がそういう意識を持っています。だからこそ、自分が一番に見られているということは、とってもうれしいことです。

小山:そこを刺激することですよね。

十河:外商さんとの関係は、その最たる例ですよね。洋服だけでなく、食事の予約も取るし、人によっては人生相談にも乗ってくれる。そのくらい、自分を一番に見てくれていること、気を使ってくれることが、信頼関係にもつながっているのだと思います。

逆に若い世代の人は、ガツガツ来られる外商さんは苦手だったりする。対面が苦手な人も多いですからね。

小山:コミュニケーションの方法は変わってきているのかもしれないですね。

十河:それこそ、若い世代にはネットやSNSを使ったコミュニケーションの可能性も大いにあるでしょう。

小山:間違いなくあるでしょうね。今後はそのあたりの調査も進めて、富裕層ビジネスのあらゆる可能性を探っていきたいと思います。