「マス富裕層」をつかまえろ! #02

富裕層女性の心を動かせ!
~「セレブ」「エレ女」の生みの親が語る【前編】

  •                 2
    十河 ひろ美
    そごう
    ハースト婦人画報社 『ヴァンサンカン』『リシェス』編集長
  • Prof 01
    小山 雅史
    株式会社電通 マーケティングソリューション局 チーフプランナー
  • 20150730 015 2
    石井 香織
    株式会社電通デジタル シニアコンサルタント

富裕層の“マス”化によって生じるビジネスの可能性を探る連載企画。

今回は、富裕層の女性から絶大な支持を受けるファッション誌『25ans(ヴァンサンカン)』『Richesse(リシェス)』の編集長を務めるハースト婦人画報社の十河ひろ美さんを迎え、電通の小山雅史さん、石井香織さんとの鼎談をお送りします。

前回紹介した日本の富裕層女性の意識・消費行動を探る調査の結果を踏まえながら、富裕層女性のココロのつかみ方について語り合いました。

※調査の際に「富裕層」の定義を「世帯資産(住宅ローンなどの借入金分は除く純資産)1億円以上の人たち」または「世帯年収2000万円以上の人たち」としています。

左から、電通・小山さん、ハースト婦人画報社・十河さん、電通・石井さん

 

外商員のように寄り添う信頼関係

小山:調査によると『25ans』は読者のうちの約42%が富裕層、『Richesse』では読者の平均年収が2900万円にも達します。まさしく富裕層向けの誌面づくりをなさっていると言っても過言ではないと思いますが、どのようなことを大切にしているのでしょうか?

十河:まず、創刊から培われてきた世界観に対してぶれないこと。今でこそ、ユーザーファーストという言葉がありますが、『25ans』は創刊時の80年代から「読者の顔が見える雑誌」であり、彼女たちとの信頼関係を築くことを大切にしてきました。

小山:読者が何百万人もいるような雑誌ではないですよね。

十河:そうです。ある意味、オタク雑誌のような側面もあって。だからこそ、その人たちが求めているものと真摯に向き合って、実践していく必要があります。

読者は、キラキラしていながらコンサバであったり、お姫様スタイルで肉食系男子に守られたいという気持ちもあったり。そういうディテールの積み重ねで培った世界観を、時代とともに進化させながらも、根底にある「本物のラグジュアリー」をぶれることなく体現し続ける。それが、読者との信頼関係につながっているのだと思います。

小山:高額な商品を掲載しているからこそ、信頼できる媒体である必要がありますよね。そういう意味では、百貨店の外商員に近い存在なのかもしれませんね。

十河:そうですね。特に地方は東京に比べて情報が限られているので、そういった環境の中で『25ans』を信頼できる情報源として評価していただけるのはありがたいことです。私たちも掲載するものは常に安心できて、最新であるべきだという矜持を持って誌面づくりをしています。

◆「セレブ」「香港マダム」「エレ女」…富裕層フレーズは時代を映す

石井:ちなみに、エレガンスな女性を指す「エレ女」というフレーズも十河さんが生み出したんですよね?

十河:はい。6、7年前に考えました。もともと80年代から「エレガンス派」というフレーズを使っていました。でも言葉として長いし、「◯◯派」という響きがもはや古いですよね。色々な試行錯誤を経て、女性はいつまでも女子でありたいという気持ちを込めて、エレガンス女子。略して「エレ女」に落ち着きました。

小山:浸透しやすいし、『25ans』の読者にふさわしい秀逸なキャッチフレーズですね。

十河:『25ans』は結構現象を捉えて言葉を作ることが多いです。「香港マダム」とか。ちなみに「セレブ」も、うちが考えた言葉なんですよ。

石井:え、そうなんですか! もはや一般的にかなり浸透している言葉ですよね。

十河:90年代にアメリカのファッション誌で、スーパーモデルではなく女優や有名人が表紙を飾るようになって、その人たちを表す言葉として生まれたのが「セレブリティ」。それを略して、98年ごろから『25ans』で使い始めました。

小山:時代の空気感をつかんで、響く言葉を提示するのは大事なことですよね。

十河:そうですね。「エレ女」も時代の流れから生まれた言葉です。一昔前は『25ans』を一言で表すと「ゴージャス」。バブル期の派手でギラギラした感じを的確に表現していますよね。

でも今は、豊かさが洗練されて良い意味で落ち着いているので、派手な雰囲気はあまり好まれません。欧米では、華やいだ美しさを含めて「ゴージャス」という言葉でポジティブに表現しているけれど、日本では、少し揶揄するような言葉意味合いで用いられることがあります。

石井:確かにバブルのギラギラした感じは、今の時代に合わない気がします。

十河:女性の「いつまでもすてきでありたい」という気持ちは変わらないけれど、その時代にそぐうすてきさがあると思います。今はギラギラよりも、濁点を取った「キラキラ」のほうが女性にとって美しい言葉。そうやって、時代の空気感をうまく形にしていくことも大事ですね。

小山:まさに、「雑誌は時代を映す鏡」という言葉が当てはまりますね。

内面のキーワードは「成熟」「上品」「真面目さ」

小山:先ほど「内面の豊かさ」という言葉がありましたが、「成熟すること」や「上品さ」は、富裕層とのコミュニケーションにおいて重要なキーワードだと思います。

十河:外見的には成熟したくないけれど、内面を成熟させたいという気持ちは強いですよね。『25ans』でも創刊時から染織研究家の木村孝先生にお悩み相談や格言を紹介するコーナーを担当していただいているのですが、いまだに根強い人気があるのは、内面をもっと磨きたい、上品な女性になりたいと思っていることの表れではないでしょうか。

「上品と思われたい」という意識があるからこそ、そこに市場があるのだと思います。

小山:表面的なラグジュアリーさだけでなく、読者が抱いている理想の生き方や上品さにまできちんとフォーカスを当てることが大事ですよね。

十河:私の先輩である美容ジャーナリストの齋藤薫さんや、作家になった光野桃さんら、『25ans』創刊時のそうそうたるメンバーがこの雑誌で追求したのは、グローバルな価値観における成熟した、本物のラグジュアリー。

それを体現するためには、はやりの情報だけを捉えるのではなく、こうありたいという女性像や精神論が必要です。この編集方針は何代目になっても変わることなく受け継がれていますね。

石井:富裕層に限らず、女性は誰しもが内面的にすてきでありたいと思うものですが、読者と接する中で富裕層ならではの特徴を感じることはありますか?

十河:読者は女性として真面目なんですよ。自分を磨くための努力を惜しまない。単にお金を使いたいのではなく、理想の自分に近づくために全力投球するからお金がかかるのです。『25ans』に対しても、ざっと読むのではなく全ページを精読される方が多いですね。

小山:アーカイブしておく人もいるのですか?

十河:そういう方も多いです。バックナンバーに掲載した商品に関する問い合わせも多いので。

小山:それだけ熱心に接してもらえると、つくる側もきちんと応えなければという気持ちになりますよね。

十河:本当にそうです。弊社のラグジュアリー雑誌は読者との信頼関係で成り立っているので、それを崩すようなことはできません。人間関係と同じで、裏切られたという気持ちにさせてしまったら終わりなのです。

「読者なんかこんなもんでいいだろ」という意識でつくったら、それは絶対に読者に伝わってしまうでしょう。読者と同じ熱量で、真摯にコンテンツをつくり続けることが何よりも大切です。

◆幸せへの努力は体育会系!

小山:富裕層女性の真面目さや、求める理想像にきちんと向き合って、それにふさわしい情報を提供し続けてきたことが、熱烈な支持を受ける理由なのでしょうね。

ところで『25ans』はドッグショーや着物で美術鑑賞をする会など、イベントも実にバラエティーに富んでいますよね。その発想はどこからくるのですか?

十河:それも読者の幅広いライフスタイルに寄り添った結果です。社交的な方が多いので。

小山:富裕層の方は社交が大好きなイメージがあります。ママ友などのお付き合いがずっとあって、しかも一部の方はそのコミュニティーの中で戦っているというイメージ(笑)。

十河:服装や身の回りのことに構わず、家でぐうたら、過ごすようなライフスタイルとは真逆ですよね。外に出て行くにはすてきな服が必要だし、内面も磨かなきゃいけない。もちろん、コミュニティー内での競争心もあると思います。

ある意味、体育会系ですよ。負けたくないという気持ちや向上心が、プラスの循環に働いている。

石井:今回の調査で「わが人生に一点の曇りなし」と答える方がいて、曇りなしって言い切れるのがすごいなぁと(笑)。

十河:曇っていたとしてもそれをかき分ける勢いがあるのです。「自分が幸せだと思う?」という質問にYesと答えた人が98%なのも、バイタリティーの表れですよね。迷いなくYesと言えるように自分をしむけ、日々努力をしているのです。

石井:競争心があってバイタリティーに満ちているからこそ、輝くことができるのかもしれません。

十河:コミュニティーの中で負けたくないという気持ちも、マイナスではなくプラスのものとして働く分には必要ですよね。世間と関わることは大事だし、ここで輝きたいと思うのはいいことだと思います。やり過ぎると怖いけれど(笑)。

小山:だから、切磋琢磨している彼女たちに対して、『25ans』のイベントのように輝ける場を提供することは、非常に有効なコミュニケーションの一つですよね。

内向きな時代だからこそ、富裕層を盛り上げたい

小山:近年はアベノミクスの影響などで富裕層が“マス”化しているという話があります。十河さんは長年富裕層の方々と接している中で、どのような変化を感じていますか?

十河:昔は『25ans』でも世界の貴族やゴージャスな人たちの特集を毎月のようにやっていました。でも、今はやり過ぎると読者が引いてしまいます。エリア特集も、昔は果てしなく遠い国のことまでやっていたけれど、最近はハワイやシンガポールなど、近距離になりつつあります。

小山:近距離かつ、保守的な場所ですよね。

十河:だんだんと内向きに、地味になりつつありますよね。私は海外の華やかなイベントにプレスとして招待されることが多いのですが、そこから日本に帰ってくると独特の静けさを感じます。

小山:成熟とは違う変化ですか?

十河:成熟している部分もあるけれど、おとなしいですよね。原因の一つには高齢化があると思います。日本では年をとって派手なファッションをしていると、年甲斐もないと思われる風潮があるので、控えめになりますよね。

それから、ファストファッションの普及もあると思います。昔はそれなりの値段を出さないと良いものが買えなかったけれど、今はそこそこのものが安く手に入るので、ファッションにあまり力まなくなったのかもしれません。

昔は銀座に行くとなればすてきな服装じゃないと恥ずかしかったけれど、今はそんなことないですし、並んでいる商品も無個性化しつつある。

小山:構えなくなった部分はありますね。

十河:そういう内向きな時代だからこそ、余裕がある人たちには、ファッションや生活を楽しんでほしいし、その人たちのために『25ans』の役割があるのだと思います。

楽しむことは、経済への影響だけではなく、日本の国力にもつながります。美しい人、きれいな国というのは、豊かさの指標ともいえます。

時代は振り子のように揺り戻すので、これからもっと景気が良くなれば、今まで服装にこだわらなかった人が少しおしゃれをしてみようと思うかもしれない。最近は、若年層に華やかさが戻ってきて、「エレ女」らしい服装も増えてきている気がします。

(後編は9月10日掲載予定です)

プロフィール

  •                 2
    十河 ひろ美
    そごう
    ハースト婦人画報社 『ヴァンサンカン』『リシェス』編集長

    1986年、婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に入社、
    ヴァンサンカン編集部に配属。
    1995年mcシスター編集長、97年ヴァンサンカン編集長を経て
    1999年日経コンデナスト(現コンデナスト・ジャパン)に移り、
    ヴォーグ創刊編集長に就任。
    2001年世界文化社にてミス編集長を務めたのち、
    2006年ハースト婦人画報社に再入社し、2度目のヴァンサンカン編集長に。
    2012年ハイエンド季刊誌リシェスを創刊し、
    現在はヴァンサンカン&リシェス両編集長を務める。

  • Prof 01
    小山 雅史
    株式会社電通 マーケティングソリューション局 チーフプランナー

    1995年電通入社。イベント、PR、マーケティング部署などを経て、
    2010年から3年間リージョナルプランニングディレクターとしてシンガポール駐在。
    2013年に日本に戻り、食品、金融、飲料、化粧品、家電、薬品などの事業開発、
    グローバルマーケティングプランなどうを担当。
    現在、慶応義塾大学非常勤講師も務める。

    「富裕層」を絶賛深掘り中。
    海外の桁違いの富裕層が気になる今日この頃。

  • 20150730 015 2
    石井 香織
    株式会社電通デジタル シニアコンサルタント

    2002年電通入社。衛星メディア局でBSデジタル放送・CS放送の担当を経て、2009年マーケティング部門へ。飲料、酒類、食品、ファッションなどのメーカーから官公庁まで、国内外の様々な業種のプランニングを担当。
    「ジセダイ育成委員会」「ママラボ」プロジェクトメンバー。加えて、富裕層を絶賛研究中。
    母として、女性として、一個人としての感性を大切に、日々精進しています。

バックナンバー

関連記事

続きを見る
ページ先頭へ