企業の未来のためにできること #04

広告のサプライヤーから経営のパートナーへ

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    朝岡 崇史
    株式会社電通デジタル エグゼクティブ・コンサルティング・ディレクター

STEP1 企業価値を高めるために、ご一緒にわくわくしましょう

第4回 広告のサプライヤーから経営のパートナーへ

 

顧客のブランド体験は「旅」(ジャーニー)のようなもの

 

ソーシャルメディアが普及したことで、ブランドについての情報は購入時だけでなく、購入前や購入後に感じたことも、簡単にシェアされるようになっています。以前は、購入前の人たちに大量の広告を打ち出して完結していましたが、現代は、購入して、実際に使ってみた印象、アフターサービスについて感じたことなどもワンクリックで共有され、ものすごいスピード・規模で拡散されていく時代です。

顧客とブランドの接点は、購入前・購入時・購入後の3段階でとらえる必要があり、さらにスマートデバイスの普及によってブランドとの接点の数が増加する傾向もあります。顧客とブランドとの接点を連続する「流れ」としてとらえ、うまくマネージすることが、ブランド価値を高めるために欠かせません。

これが「ブランドとの接点をトータルでデザインする」という考え方の出発点であり、顧客のブランド体験を旅にたとえて「カスタマー・ジャーニー」と呼ばれています。そして「カスタマー・ジャーニー」は日常的な消費財だけでなく、ホテルや病院や銀行のように、ブランドがモノとして可視化できないサービス領域全般にもあてはまります。

例えば、ある顧客が新築マンションを購入するために銀行から住宅ローンを借りるというケースで考えてみましょう。計画を立てるところから、無事にマンションを購入して住宅ローンの借り入れという人生の一大イベントを振り返るまで、ざっと考えるだけでも、顧客と銀行との接点は10以上あることがお分かりになると思います。(右図参照)。ちなみに通常のコンサルティングでは、クライアントのタスクフォースチーム、電通のコンサルティング室のスタッフでパワーセッションを行い、顧客視点から銀行で住宅ローンを借りるためのブランド体験を洗い出す、ということをします。

顧客とブランドとの接点探しやそれぞれの接点での顧客のインサイトを抽出するのに有効なのが「ペルソナ分析」と呼ばれる手法です。ペルソナとは「仮面」という意味で、一種のロールプレイのような仮想体験です。銀行から住宅ローンを借りる体験でも、結婚して人生で初めて銀行から融資を受ける若いサラリーマンと、3回目の住み替えで、金融リテラシーも高い50代の部長クラスの人では、銀行とのそれぞれのブランド接点での感じ方は違って当然です。営業課の若手で体育会出身の渡辺君、営業企画部でMBAホルダーの岡田部長など、プロジェクトのメンバーが分担してそれぞれの人格になりきり、実際に一連のブランド体験をしてみる。そして顧客目線でそのブランド(銀行)に対する期待と現実のギャップがどこにあったのかを洗い出していく、といようなステップを踏みます。

銀行のウェブサイトやパンフレットを読み込んでどう感じたか。住宅ローン審査の待合室では快適に過ごせたか。過ごせなかったとしたら、原因は何だったのか。審査窓口のサービスには何点をつけるか。窓口に誘導してくれた行員の対応は等々。顧客に気持ちのいい時間を提供し、マンションを購入した後にあの銀行でローンを組んで良かったと思ってもらえるためには、それぞれの接点でどんなブランド体験をデザインすればいいかが、少しずつ見えてくるわけです。

ブランドにふさわしいカスタマー・ジャーニーの理想像、あるべき姿を明確にして、バックキャスト(逆算方式)でそこに近づけていく。クライアントの社員が、顧客の立場でロールプレイすることで、自社のブランド価値はどこにあるのかを客観的に考えることにもなる。また、自分ゴト化という意味では、インターナル・ブランディングの側面もあると思います。

こうしたコンサルティングは、左脳型の理詰めの発想だけではなかなか生まれないはずです。右脳も使ったアイデアの突破力から生まれるものであり、クライアントも、そして私たち自身もわくわくする。そんな提案を行っていきたいと思っています。

 

戦略・戦術を練り上げれば、必ず勝てるという信念があります

 

最後に、少しだけ個人的なお話を。私が戦略・戦術の世界に目覚めるきっかけは大学時代にさかのぼります。東大の野球部に在籍していましたが、プロ予備軍を集めた他校と戦うためには、独自のチーム戦略・戦術が必要でした。

試合の終盤までは、2対4、1対3といった相手を刺激しない程度のスコアで負けておき、その相手が勝利を確信して緊張感が途切れた終盤、機動力をからめた数少ないチャンスで試合を逆転、「東大に負けたら一大事だ」と焦る相手の心理を逆手にとって逃げ切る。典型的な弱者の戦い方です。私はチーフマネージャーをしていて、相手チームのデータ分析をかなり綿密にやっていたので、自分たちのプランがはまり、注文通りに勝ったときのよろこびは格別でした。

東京六大学野球には90年近い歴史があり、東大は244勝(1,530敗)しています。勝率にすればわずか15%以下で、年に2回勝てれば御の字なのですが、私が在籍していた期間では、なんと24勝もさせてもらいました。戦力的には明らかに劣るチームでも、戦略・戦術を練り上げれば勝てる。神宮での東京六大学野球が、今に続く私の原点なのです。

戦略というのは、分析と方針と行動の3つが一致してはじめて、好ましい結果をともなうものです。いい分析をすれば、いい方針が描け、何をすればいいのかが明確になる。この基本原則は、野球もブランド戦略でも同じだと思います。電通のコンサルティング室も、陣容がますます充実してきました。従来の「広告のサプライヤー」としての立場を超え、さまざまな経営課題にお応えする、One & Onlyの「経営のパートナー」として力を発揮していきます。

プロフィール

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    朝岡 崇史
    株式会社電通デジタル エグゼクティブ・コンサルティング・ディレクター

    エクスペリエンス・デザインを専門とするコンサルタント。
    大学生時代は東大野球部で選手・主務として活躍。
    1985年、電通入社。クライアント企業の経営層と向き合い、電通らしい右脳型のアイデアを武器に事業やブランドのコンサルティングを提供するソリューション型サービスを実践。ブランドコンサルティングを行うコンサルティング室長を経て現職。日本マーケティング協会(JMA)のマーケティング・マスターコース・マイスター(2011年~)。
    著書に「拝啓 総理大臣殿 これが日本を元気にする処方箋です」(東洋経済新報社 共著 2008年)「エクスペリエンス・ドリブン・マーケティング」(ファーストプレス 2014年)、「IoT時代のエクスペリエンス・デザイン」(ファーストプレス 2016年)がある。

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