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Experience Driven ShowcaseNo.23

【ミラノ万博】「ジャパンサローネ」での

食文化の発信(後編)

2015/09/16

5月1日から10月31日まで、ミラノ国際博覧会(ミラノ万博)が開催されています。ミラノ市内でも6月25日から7月13日までの19日間、日本政府とともに日本館への協賛企業や団体などが参画し、「ジャパンサローネ」が行われました。この取り組みを企画した農林水産省の山口靖氏、プロデューサーの福井昌平氏、電通の作田賢一氏、矢野高行氏がその成果について語り合いました。

取材・編集構成:金原亜紀 電通イベント&スペース・デザイン局
(左から)矢野氏、福井氏、山口氏、作田氏

 

国と企業の新しい座組みで、価値共創やブランドをつくる

山口:今回のジャパンサローネを足場に、価値共創的な仕掛けをもうちょっと電通で磨いていってもらえると、今後の発信が上手くできていくと思います。民間企業だけでやるのは限界があるし、国はその時々の担当者の思いだけでやってもビジネスにはつながらないから。

福井:私は今回、4Kインターネット・クラウド(※)の情報発信事業を山口さんと一緒に構築してきて、実感したのが日本館のイベント広場に登場した地方の知事さんや市長さん達の頑張り。プレゼンテーションの仕方、熱の入れ方が半端でなかったですね。皆さん、相当の役者ですよ。
素晴らしいパフォーマンスで、しかも非常に良くリーダーシップを発揮されていますね。

矢野:4Kインターネット・クラウドの成果はどうでしょうか。

福井:総合プロデュースの計画段階では、日本への情報インバウンドの仕組みを作ろうと頑張っていたけど、急激な円安と先行する建築や展示の資金確保でこの方面の事業予算が細くなってしまいました。どうすればよいのだろうと考えた結果、2005年の愛・地球博でチャレンジしたインターネット活用のアイデアが浮かびました。新しい技術的な活躍の場を提供できるなら、民間の力で協働するスキームができると考えて、4Kインターネット・クラウドの仕組み作りに挑戦しました。

「4Kインターネット」がつくる情報のインバウンド

福井:山口さんと一緒に総務省に行って、4Kインターネット・クラウドの仕組みは「放送と通信の融合」を目指した画期的なプロジェクトになりますよと訴え掛けました。総務省も民間ベースで4Kテレビの活用プロジェクトを推進していましたが、インターネット・クラウドの技術革新分野についてはまだまだといった雰囲気でした。民間が、システムアップに応えてくれたところが今回は画期的でしたね。

山口:日本中にミラノ万博のことを知ってもらうためには、地方に住んでいて、地方紙やテレビの情報を大事にしている農家の皆さんに向け、どうやって配信するかも大事になる。だから情報を流してくれる人たちをちゃんとつくり、提供する仕組みもつくらなきゃいけない。
そういうシステムを福井さんがつくられるというので、それはぜひやってみましょうと。
このおかげで、地方に行けば行くほど、「ミラノ万博って盛り上がっているんですよね」と知っているんですよ。

福井:4Kインターネット・クラウドのチームと共同通信と地方紙の組み合わせが、大きな反響を呼んでいますね。各県知事のミラノでの活躍を伝えるのは、何といっても地方紙ですね。

共同通信のミラノ現地記者の記事配信が4Kインターネット・クラウドの動画とコラボとなり、的確な地方への情報インバウンドを実現しました。各県の随行員が撮った写真や動画は、帰国後の作業となりますから、やっぱり遅れます。記録や報告書には良いのですが。知事のプレゼンテーションをその日のうちにシームレスに素早く送るに当たり、この仕組みは大貢献しました。

作田:ミラノ万博は、フレンドリーなイタリア人の、あの独特の人柄というのも良かったですね。そんなにスノッブでもないし、フレンドリーで非常に褒めてくれるし、日本を好きですし。そういう意味では、いろいろなトライアル、第一歩として非常にいい場でしたね。

福井:味の素は、ジャパンサローネ会場で、日本とイタリアのシェフがコラボで開発した冷凍食品活用メニューのプレゼンテーションをやりました。味の素の冷凍食品を素材に、おつまみにしたり、お弁当にしたりして4タイプほどの試食パーティーをやりましたが、これが大変な人気。

この活動も4Kインターネット・クラウドで上げて、日本での広報素材に使ったり内部コミュニケーションに流したり、多いに活用されていました。出展者がそれぞれ特徴を競っている姿が、今でも見られますよ。

作田:クリエーティブが最も生きる世界じゃないですかね、食べ物の世界って。

山口:それぞれの企業のクリエーティビティーもあるんだけど、やっぱり組み合わせですよね。一企業だけでやるというのではなくて、その脇に他の企業もあって、違うことをやっているんだけど同じ方向を向いていることによって、統一感や深みが出せる。

作田:価値が際立ちますものね。比較や、相対的に見ることで。

福井:電通は、今回のジャパンサローネでさまざまなチャレンジをしたと思います。私の知っている電通のビジネス開発チームは、これをもう一回発展させて、もっと魅力的で効果的なシステムやプロジェクトに磨き上げましょうという心意気があり、多くの実績も作ってきています。

先ほど山口さんが発言されていたように、農水省だけでなく内閣府が進めている海外での大型イベントでのジャパンプレゼンテーション事業にも十分生かせます。国の事業だけれども、そこに民間企業を巻き込んで、先端的なBtoBのサロンを作っていくということを提案し続けるのも必要ですよね。さらに価値共創的、民間巻き込み型のアプローチで頑張ってもらいたいです。

矢野:明らかにミラノ万博のジャパンサローネは、一つのノウハウ、電通の武器の一つになったと思います。

官民の「健医食農連携」で、日本の地域創生と活力創造を

山口:繰り返しになりますが、結局今後やろうとしていることは、官民で価値共創をやりましょうというのが基本的な発想。そういう意味で企業とは連合だし、農水省だけじゃなくて、なるべく他の省庁と一緒にやるということを基本にやっていきたいと考えています。

その文脈でいうと、ポストミラノでは、私たちとしては三つぐらい考えていて、まずミラノに参加した企業を中心に、輸出やインバウンドに取り組んでいくコンソーシアムをつくっていきたい。

あとは、やはり観光ですね。本当にうれしかったのは、イタリア現地の全国紙コリエーレの人気投票で「万博後に行ってみたい国はどこですか」の1位がずっと日本になっているんですよね。それはもともと日本に行きたい人がいっぱいいるのもあるんだけど、それを汚すことなく伸ばしたと思うんです。

さらに「見応えがあるパビリオンはどこですか」というのも日本館になっている。そういう成果を生かしてインバウンドを、自治体や観光庁と一緒にやっていきたいと思います。

あとは、民間企業と意見交換をしながら進めていく枠組み自体の仕掛けづくりですよね。そこは国としても磨くべきところはいっぱいあると思うし、そういう提案を電通が総括してもらえると、今後の進め方が変わってくると思います。

福井:ミラノ万博日本政府出展コンセプトとして農水省のイニシアチブで作った「生命のピラミッド」があるじゃないですか。

ミラノ万博日本館出展コンセプト 生命のピラミッド

 

そこにあるようにこれから持続可能な食の共生社会を築く上で、自然環境との共生から始まって、その上に持続可能な農林水産業があり、さらに先進的な食品加工業があり、そして多様な食文化が花咲いている日本が、「食と農」で新しい活力創造をどのように展開するのか。地域創生の面からも、産業振興の面からも大切ですね。

持続可能な食の共生社会を目指す上で出てきたキーワードに「健医食農連携」がありますね。従来の「食と農」というくくりでなく、健康と医療と食農の連携が、これからの日本の食文化の特徴であり強みであることをコンセプトとして表現していますね。これからの日本の活力創造に絶対欠かせない視点だと思います。

それが磨かれれば磨かれるほど、海外の人たちは日本を目指してやって来てくれる。あるいは、日本で作られた農産品や食品が、必ず世界の人々に求められる。ここの磨き上げの大切さを、今回のミラノ万博に参加していただいた地方自治体のトップや企業経営者には感じていただけたと思いますよ。

そこを掘り起こして、それをバックアップして、新しい地域創生と産業的活力創生のリーダーシップが農水省から生まれますね。
大体そもそも、「食と農」で博覧会ができるのですか?と多くの人々が疑問に思っていたのですから。ミラノ万博でそれを実現させた農水省には、「健医食農連携」による地域創生と活力創造に向けた新ムーブメントを、他の省庁との連携で推進していただきたいですね。期待しています。

矢野:「日本食は未来食」というコンセプトを世界に広げていくということですね。

福井:未来食、世界食をね!

山口:了解しました!

 
(※)4Kインターネット・クラウドの解説
日本と7時間の時差があるミラノ万博会場。
各社が個別に現地取材チームを編成し、衛星通信回線を使用すると高額の経費が発生するため、現地の映像情報が日本にインバウンドされないという大きな問題を抱えていた。
そこで現地専属取材チームが各社の要請に応じ撮影を行う仕組みを構築。最新の4Kカメラで撮った映像データを、最先端の圧縮技術とインターネット送信技術でクラウドに上げ、依頼主は日本に居ながらにして送られてきた映像データをパソコンで編集して、シームレスに必要な映像仕様基準でダウンロードできるという画期的なプロジェクトとなった。
例えば、お昼前後に撮影された映像情報は、荒編集のままクラウドに上げられるので、日本側はそれを必要な情報に編集し、最短では夜7時のニュース、遅くとも夜9時前後の報道番組に取り入れることが可能になる。番組では、「今日、ミラノ万博日本館で、山口県知事が先頭に立って、山口県の素晴らしい食文化をプ レゼンテーションし、イタリアの皆さんとの直接の対話と交流を重ねた」といった動画報道が可能となる。
この画期的なシステム構築は、農水省のイニシアチブで始まり、IBMをはじめとする先端企業の特別コンソーシアムで構築された。テレビ朝日が事務局機能を担い、朝日新聞や共同通信などのメディア、JAやキッコーマンなどの協賛企業・団体、それに自治体が会員となってミラノ万博メディア情報配信実行委員会を構成。開幕以来、日本館を拠点に活躍中だ。
勿論、電通が担当した自治体催事でも大きな効果を得られた。