「求められる“リ・インベンション”
今こそ日本人の構想力を生かすとき」三品和宏氏

  • Mishina kazuhiro profile
    三品 和広
    神戸大大学院 経営学研究科教授
  • Minamitaro profile
    南 太郎
    株式会社電通 電通総研 リサーチ・ディレクター

経営戦略を専門とする、神戸大大学院経営学研究科教授の三品和弘氏に、電通総研ジャパン・スタディーズ・グループの南太郎氏が話を聞きました。


求められる“リ・インベンション”

今こそ日本人の構想力を生かすとき


1割の人のエッジを立たせることが必要

南:三品さんは、事業の長期的収益の要因を、長い時間軸や幅広い業種のデータで検証されていますが、このようなアプローチに至った経緯を教えてください。

三品:直接の契機は、米国留学中、チャンドラーやポーターら、大きな研究をする先生に影響を受けたからです。実務家は、ミクロの変化を機敏に捉え、素早く手を打つのが得意です。一方、マクロの変化は実務から距離を置かなければ見えません。学者の仕事とは骨を折りながら、物事を長期的かつ広域に漏れなく全体で捉えることだと考え、以来地道に続けています。

南:そのような研究から、日本企業は今後どこに活路を見いだしていくべきとお考えですか?

三品:世の中の人には少し考え違いがあるかもしれません。経済の成り立ちとして、必ずしも全員が国際競争力を持って外貨を稼がなくてもよいのです。そういう人は全体の1割でよい。残りの9割の人は、「乗数効果」によって、今まで通り内需で食べていけます。例えば1割の人が仕事を見いだして投資すると、投資された人は材料を調達し、その過程で作業員の服がクリーニングに出される、するとクリーニング店から薬剤が発注される、といった具合に最初の投資が次の誰かの収入につながって、最終的には10倍くらいの経済効果が生まれます。今の日本の問題は、その1割の人のエッジが十分に際立っていないこと。そういう人材を育てるのが日本はうまくありません。全員を平等に扱い、実力を等しく底上げしようとするからです。

日本の強み生きるBtoB領域に活路あり

南:その1割の人は、どのような領域で稼げばよいでしょうか?

三品:これまで日本は、BtoCの量産品で伸びてきました。ただし、量産品は国内に巨大な市場を抱える方が有利です。研究開発、生産工程、マーケティングに大きな投資ができ、量産する経験から改善スピードも速くなるからです。これからは、中国やインドなどの巨大市場圏から量産に習熟する企業が相次いで出てくることを覚悟する必要があります。日本は、EUやNAFTA(北米自由貿易協定)のような経済圏をアジアで築くのは関係性の点から難しいので、そのような形での市場拡大は望みにくいのです。また、もう一つ、見過ごされがちなのは、日本人が思っているほど日本はBtoC商材が得意なわけではないということ。日本は技術者が頑張り過ぎてしまう傾向があります。技術者が思いを果たすためにモノを作る側面が強過ぎ、消費者に響かないことがある。昔の日本製のビデオレコーダーはその典型で、操作が複雑で、博士号を持っていても使えないとアメリカで揶揄(やゆ)された。デザインも、韓国などがデザイン重視でやってくると負けてしまう。

:確かに、日本はアメリカが放棄したマーケットで勝って、勢いづいてきた面はあるかもしれません。

三品:日本の活路は、むしろBtoBにあります。日本のエンジニアの力は部材や装置になると、がぜん強さを発揮します。BtoBは専門家同士の取引になりますから、オタクの粋を利かせた作り込みが評価されます。日本企業は部品から末端の最終製品まで全て自前でやろうとしたので、マーケットが狭かった。末端はやらないと決めれば、部材や装置を世界中のBtoC企業に広くあまねく売っていけ、今よりも大きな商売ができるようになる。自前主義を早く捨てて、比較優位のあるところを伸ばしていく発想に立つべきです。

若者の優れた創造性を新たな資源に位置付ける

南:三品さんは「リ・インベンション」という言葉を近頃使われます。これはBtoC領域における日本の活路のヒントになる考え方ですか?

三品:BtoCにもまだ可能性はあります。日本には「軽薄短小」の成功体験があります。既存製品をより小さくする(smaller)、より薄くする(thinner)といった具合に、決まった開発軸で改善していく比較級「~er」の世界です。多くの技術者が心血を注いできましたが、これが行き詰まっている。今、成功しているもの、例えばアップル製品などを見てみると、評価軸を抜本的に変える、言うなれば「re~」の世界でのアプローチが多い。これを「リ・インベンション」と表しています。

南:過去の発明を最新の技術と発想を使って構想し直せば、新たな評価軸を生み出せると。

三品:そうです。リ・インベンションには、技術力以上に構想力が必要で、これは組織にではなく秀でた個人に宿ります。だからこそ、もっと哲学する人、ものを考える人が前に出ないといけない。日本人には従来からこのようなクリエーティビティーがありますが、優れた人たちをビジネスの本流ではなく一部の制作領域に追いやってきたところがあります。

南:この構想力の点で、日本の今後を担う若い人たちをどう見ていますか?

三品:大いに可能性があると思っています。今の若い人たちは気後れせず、日本人のクリエーティビティーを文化や言語の壁を越えて広める力も持っている。豊かで平和な時代に生きているため、現在は成長中の新興国の人たちと比べて、考えることに没頭する時間の割合が大きく、ものを考えている。日本の新たな資源として位置付けない手はありません。人間の好奇心が最も研ぎ澄まされるのは15歳の頃。その時期に無心で突っ込んでいけるもので飯を食えるところまでいけば、いろいろな分野で世界の一流が生まれて、面白い国になっていくと思います。

プロフィール

  • Mishina kazuhiro profile
    三品 和広
    神戸大大学院 経営学研究科教授

    1959年生まれ。82年一橋大商学部卒業。84年同大大学院商学研究科修士課程修了。89年米ハーバード大文理大学院企業経済学博士課程修了後、同大経営大学院助教授に就任。北陸先端科学技術大学院大助教授などを経て、2004年から現職。専攻は経営戦略・経営者論。

  • Minamitaro profile
    南 太郎
    株式会社電通 電通総研 リサーチ・ディレクター

    1994年電通入社。マーケティング部門および経営企画部門を経て、大手自動車会社へ出向。2014年7月から現職。日本の強みを生かした競争戦略に関する議論の深化、知見の開発に携わる。

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