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「アドテック東京2013」を振り返って~デジタルマーケティングの未来

2013/11/01

デジタルマーケティングに関する国際カンファレンス「アドテック東京2013」が、9月18、19の両日、丸の内の東京国際フォーラムで開催された。電通グループから公式セッションに参加したネクステッジ電通の杉浦友彦社長と、電通データ戦略室の松永久チーフ・アナリストが、アドテックを通して見たデジタルマーケティングの現状と今後について語り合った。

「成熟」に向かうデジタルマーケティング

 

杉浦:今回のアドテックでは「アトリビューション分析がもたらす効果と売り上げ」というセッションに参加しました。アトリビューション(メディア別の購買貢献度)分析は昨年も取り上げられていましたが、これまでは主にテクノロジーの「可能性」についての議論でした。今回もトピックとしての注目度が高いのはもちろんですが、初めて「実効性」にポイントが置かれた、本質的な議論に向かっているという印象を受けました。ソーシャルメディアも「とりあえず」という取り組み方から、最終的に結果を出すにはどうすればいいのかという流れに収れんされてきていると思います。

松永:そうですね。私は「ビッグデータ分析から読み取るコンシューマーニーズとは?」というセッションでしたが、ビッグデータという大くくりなテーマにもかかわらず、結果を出すためにどうすべきかという議論になっている点では、今の話に近い部分がありました。というのは、ビッグデータの領域では先進的といわれている企業でも、ビッグデータの分析が本当に売り上げにつながっているのかということをきちんと証明するのは難しく、予算の獲得に苦労している。一方で、マーケティングツールを提供するベンダーやサポートをする広告会社の立場からは、結局、きちんとしたアウトプットを出せている事例は、まだあまりないのではないかという話がありました。その理由の一つはクライアント側でも課題が何か、何をKPI(重要業績評価指標)とするかがはっきりしていない点です。データを使ってできることは日々増えています。しかし、あくまで手段でしかない。その手段を使ってどのように課題解決につなげるかという本質が見えていない部分があるのでしょう。ツールベンダー側、サポート側にも、ツールを使うことに終始して、ツールの取捨選択までに至っていない部分があるのではないでしょうか。

杉浦:今後、デジタルマーケティングの世界は、新たな技術の登場というより「成熟」に向かっていくのでしょうね。アドテックのセミナーでも「何ができるのか」よりも、使いこなすためのプロセス、組織、人材といったテーマが増えていました。

松永:いわば「箱」が進化するということですね。データをどのようにつなぐのかというマスターデータマネジメントといわれる部分のように、データを活用するためのビジネスレイヤーによる調整が進んでいく。ビジネス拡大に向け、必然的にその部分が進化すると思います。

ワン・ツー・ワン化でマーケッターの腕が試される

 

杉浦:今回、アドテックに参加して、デジタルマーケティングの世界には、やはり夢があると改めて感じました。アトリビューション分析、DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)、O2O(Online to Offline)の向かうところは、データを基にした広告のワン・ツー・ワン化、つまり個人に対して最適な広告を出し分けていくことです。今までのCRM(顧客関係管理)ではそれが個人情報を提供してくれる顧客に対してだけだった。それがマスのスケールでできるようになっていく。ウェブ上で回遊しているあらゆる潜在客の行動履歴、趣味嗜好を把握して、誰に、いつ、どこで、何をメッセージしていくかという設計が、極限まで細かいレベルでできるようになりました。マーケティングをもっと極めたい、進化させたいという好奇心、意欲が高い人にとっては、わくわくするような世界です。腕が問われるというか、知恵次第でもっと緻密にやれる環境になっています。

松永:ビッグデータを取れるという部分では、みんなが同じ環境になってきています。アドテックはベンチャー企業が自分たちのビジョンを示す場でもあるので、「テレビから、ウェブから、CRMから、全部をつなげたDMPというのを自分たちがやりたい、やろうと思っています」と、手を挙げ始めている印象を受けました。

杉浦:テクノロジーの可能性が広がる一方で、それを使いこなせる人材の絶対量が不足しています。クライアント側も広告会社側も、人材という課題に行き着くようになりました。特に広告会社は、これまでの仕事とは性質の違う地道な作業が必要となるので、そこに率先して飛び込んでいこうとするリーダーが少ないという点が課題だと感じています。統計専門の人はそれなりにいるけど、それらを実際にメディアプランニングやクリエーティブに結び付けないと、単なる分析結果のアウトプットで終わってしまう。やはり、実務に隣接したところで、きちんとした示唆を適切なサイクルで出すことが必要です。

松永:同感です。データを扱っているとよく分かるのですが、同じデータを分析しても結果が異なることがある。そこが「人」なんだと思うんです。そのデータの読み解き方が勝負で、それを基にどのような施策に落とし込むかを考えなければいけない。データの分析結果を基にマスメディアを細かくチューニングしたり、逆にマスメディアでの課題をデジタル側で引き取って、ソリューションに落とし込むためには、一つ一つをちゃんと積み上げて設計していく人材が必要です。

マスからデジタルまでつないだ仕組み作りが使命

 

松永:今後は、膨大な分析結果を施策に落とし込む能力がすごく重要になるわけですが、スピードが速いから、「3カ月後に答えが出ても…」ということになったりする。

杉浦:そうですね。キャンペーン、プロモーションでは、従来は「とりあえずキャンペーンをやって、3カ月終わってから調査していきましょう」だったのが、キャンペーン中に毎日データを見ながら、「クリエーティブを差し替えられるでしょう?」というように、クライアントの期待も高まっています。先進的な企業の中では、広告会社に頼らず、自社内にアナリストを抱えてクイックに結果を出す「マーケティングのリアルタイム化」の流れが強くなっており、そういうリアルタイム化に応じる広告会社が選ばれるようになってくるのではないか。今は消費者ニーズが一層多様化し、メディアがフラグメント化しているので、その中での緻密なやり方に知恵を絞らないといけない。

松永:私の場合、マスからデジタルまで、ずっと分析畑なのですが、きちんとデータを分析すると、まだまだテレビを中心としたマスメディアの効果がとても強いという結果が出てくる。しかし、テレビとウェブをバラバラにやっていては売り上げにつながっていかない。これからは、デジタルがマスの予算を奪うという構図ではなく、マスのプランニングの精緻化のためにデジタルを使っていくことを考えるべきだと思います。私たち広告会社としては、これまで蓄積してきたノウハウを生かしつつ、マスからデジタル、店頭というリアルまで、一気通貫したコミュニケーションとツールの最適な活用方法を提案していくことが求められていると捉えています。

杉浦:そうですね。デジタルマーケティングを試しにやってみるというのは結構簡単です。でも、定着化させて、検証と改善を繰り返してバージョンアップしていった先にしか本当の果実はない。そこが一番の勝負どころです。わくわくするような世界が待っている半面、やり切るという覚悟で、これからも取り組んでいくつもりです。