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LGBT JAPAN 2020〜レインボーカンパニーへの道〜No.2

LUSHジャパンのLGBT支援:もし、あなたが誰かを愛することが犯罪だとしたら?

2015/10/09

LGBTとは、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーの頭文字をとったセクシュアルマイノリティー(性的少数者)の総称の一つ。

最近、メディアをはじめ、いろいろなところで「LGBT」の話題を耳にすることが多くなった。ダイバーシティに関する企業向け研修や講演、具体的な事例のケーパビリティーや、施策やアイデアなどソリューションを提供している電通ダイバーシティ・ラボ(DDL)へも、問い合わせが急増している。

DDLのジェンダーチームLGBTユニットは2012年に活動を開始し、この課題に向き合い続けてきた。当連載「LGBT JAPAN 2020〜レインボーカンパニーへの道〜」では、企業がLGBTに向き合うとはどういうことなのかに迫る。

第2回は天然成分の化粧品、バス用品などを製造・販売する英国発の企業ラッシュジャパン(LUSH)のLGBT支援事例を紹介する。

LUSH渋谷駅前店の様子
LUSH渋谷駅前店の様子。世界中の店舗でセクシュアルマイノリティーの人権を守るキャンペーンが行われた

ありのままのセクシュアリティーで働きたい

「LUSHさんのキャンペーンを見ていて、店員さんもLGBTに対してフレンドリーだなと感じますし、自分のありのままのセクシュアリティーで働ける職場があるんだなと思いました。今、私は転職活動をしているんです」

店頭に訪れていた、トランスジェンダーMtF(※)の女性がこう話してくれた。

※MtF:「Male to Female(男性から女性へ)」の略称。「生まれた時の身体の性別」が男性で、「心の性別(自分は男だ、女だという性自認)」が女性である人。
 

彼女は今、職場ではカミングアウトをしていない。その日はウィッグをつけてメークをし、ピンクのスカートを身にまとっていた彼女だが、普段は男性の姿で仕事をしているのだという。最近、職場での飲み会の会計で、男性と女性の精算金額に傾斜がつけられることがあったが、そのときも彼女は「男性」として扱われた。

「ありのままのセクシュアリティーで生活していないということは、そういったささいな場面で、少しだけ寂しい気持ちになることもあるんです」

もし、自分のありのままのセクシュアリティーで生きることができるとしたら。
そんな思いを抱く中で、LGBT当事者も生き生きと働くLUSHの様子は、転職を決意する一つの後押しになったそうだ。

限定ソープ「愛する権利」とハッシュタグ「#GAYISOK」でLGBT支援

LUSHでは2015年6月25日~7月5日、世界42カ国、825の店舗で「#GAYISOKキャンペーン」を実施した。目的は、セクシュアルマイノリティーの人権を守り、誰もが平等に愛する権利を得られる社会を目指すこと。

期間中に販売した限定ソープ「愛する権利」には「#GAYISOK」(“GAY IS OK”の意)のハッシュタグをデザインし、ゴールドカラーでプラスチックフリーのラメを入れた。

店舗では「もし、あなたが誰かを愛することが犯罪だとしたら?」という問いをお客さまに投げかけた。そして、なぜ人を愛することが、誰もが持つべき平等な権利であると思うのか自分の考えと一緒に、限定ソープ「愛する権利」を手にして写真を撮影し、ハッシュタグ「#GAYISOK」をつけてTwitterやInstagramなどのSNSに投稿することを呼び掛けた。

「#GAYISOK」の限定ソープ
「#GAYISOK」の限定ソープ。「GAY(ゲイ)」は日本では男性同性愛者を指すが、英語では女性同性愛者を含めることも多いそうだ
筆者(左)もキャンペーンに参加した

筆者(左)もキャンペーンに参加した

“WHAT IF YOUR LOVE WAS ILLEGAL?”
店頭にも“WHAT IF YOUR LOVE WAS ILLEGAL?”の問いかけが

2015年に入ってから、日本でも渋谷区で同性パートナーシップ証明書条例が可決され、アメリカの最高裁判所では全米で同性婚を合法とする判決が下されるなど、世界的にセクシュアルマイノリティーを受容しようとする動きが加速している。

その一方で、75もの国では同性愛を禁じる刑法を施行しており、終身刑を含む禁固刑や死刑を科す国もある。

また同性婚などが合法化された国であっても、異性間婚姻者が法の下に与えられる権利や保障と同等の真の意味での平等な権利を、全てのセクシュアルマイノリティーが受けられる国はいまだ世界に存在していない。

社会課題に対してアクションを起こすキャンペーンカンパニーを掲げるLUSHでは、これらの現状をキャンペーンを通じて世界に発信することで、誰もが平等に人を愛し自分らしく暮らせる社会の実現を目指している。

ラッシュジャパンのチャリティ・キャンペーンマネージャー高橋麻帆さんによると、ソープという商品カテゴリー上、ラメ入りのものは売れにくい傾向があるのだそうだ。

それにもかかわらず、「愛する権利」はLUSH人気ソープ「みつばちマーチ」「ボヘミアン」に次ぐ販売個数の日もあり、お客さまからのLGBTを応援するポジティブな反響を感じたそうだ。

最終的にこの限定ソープは、日本を含め多くの国で完売。全世界でのソープの売上総額(製造原価と消費税を除く)27万5955ポンド(約4950万円)は全額、LGBTの人権・権利侵害に対してアクションを起こす団体へ寄付される。

当初グローバルで想定していたSNS上での拡散数1000万リーチという目標は、キャンペーン開始3日で実現した。ソープを持ったセルフィー写真や賛同を表す言葉が3000万人にリーチしたことに加え、米国最高裁判所による同性婚を認める判決により、ハッシュタグ「#GAYISOK」はさらに4000万人にリーチした。

店舗がコミュニティーになる

高橋さんは「店舗は最大のメディア」と語る。
「キャンペーンを知って、勇気を出して店舗に足を運び、泣きながらカミングアウトしてくださった方もいらっしゃいました。ほかにも、当事者としての悩みを打ち明けてくださったり、周りで話を聞いていたお客さまが一緒に入って参加してくださるといったことも。キャンペーンを掲げたことで、LUSHの店舗が、LGBTについて安心して共有できる空間になれたことをうれしく思います」

キャンペーン最終日の渋谷では、日本初の「オープンリーゲイ議員」(※)で現豊島区議会議員の石川大我さんを迎え、LGBT若年層の自殺予防を目的とした応援メッセージサイト「ハートをつなごう学校」とのコラボレーションイベントを開催。店舗ウインドーに大きく描かれたハートの中に、通りすがる人や、キャンペーンに賛同する人々に手形を押してもらった。

※オープンリーゲイ議員:同性愛者であることを公表している議員
 
石川大我氏(中央)と渋谷駅前店スタッフ
石川大我氏(中央)と渋谷駅前店スタッフ
恩田夏絵さんと室井舞花さんも参加
国際NGOピースボートのメンバーで同性婚カップル、恩田夏絵さんと室井舞花さんも参加

まず社内からLGBTフレンドリーな企業へ

石川大我さんにお話を伺った。

阿佐見企業がLGBTを支援するキャンペーンに取り組むときのポイントは何だと思いますか?

石川キャンペーンでLGBTフレンドリーを表に出す前に、まず社内をしっかりすることが大事だと思います。
社内にも当然LGBTがいるわけで、外向けのLGBTフレンドリーでも実はLGBTの社員に対してフレンドリーではないというのは、順番が逆になってしまいます。

LUSHさんにはLGBT当事者やカミングアウトしているスタッフも多いですよね。

社内の規定などをLGBTフレンドリーに変えることによってみんなの意識が変化し、自然と会社内でLGBTフレンドリーな雰囲気ができて、それをどう出していくかという流れができていく。

店員一人一人がLGBTについて語れる企業

阿佐見LUSHさんは、内側からLGBTフレンドリーな企業だと感じられるということですね。

石川日本でもLGBTフレンドリーをLUSHさんから感じていましたし、ソウルのLUSH明洞(ミョンドン)店にも行きましたが、全く同じように接してくれて、世界的な取り組みであることを感じます。

明洞店では、店員さんに文句を言う人もいるそうです。そういう人たちに対して、店員さんはきちんと対応ができるし、話ができる。

反対派から意見を言われたときにそれに対してきちんと反論ができるくらいに、勉強をしているのは非常に心強いと思いました。
LGBTフレンドリーな意識でいるということは、店舗にいるときだけではなくて、家に帰った後も、友達と一緒にいる時もずっとそうであるということだと思います。

LGBTフレンドリーを意思表示できる場を

阿佐見石川さんは、ソウル・クィア・パレード2015(※)にも参加されていましたが、韓国でのパレードで感じた、日本との違いはありますか?

※ソウル・クィア・パレード2015:ソウルで行われたプライドパレード。「プライドパレード」は、LGBT文化をたたえ、また社会運動の場として世界中で行われているイベント。
 

石川韓国では国民の3割がキリスト教徒で、一部の人たちが分かりやすい形でLGBTに抗議をする。それに対して、当事者も負けじと、きちんと表現をしていく。

日本はどちらかというと文句を言ってくるというよりも、嫌と感じたものに近づかなくなってしまうようなところがあると思います。
やっぱり同じアジアでも日本と韓国は全く違うのかなと思いました。どちらが良い、悪いということではありません。

日本では、応援する気持ちを持っていても、なんとなく言葉や行動で表せずにいる人が多い。
なので日本こそ、LUSHさんのキャンペーンのように、分かりやすい行動として表現できる場を用意することに意味があるのではないかと感じています。

日本人は特にものを言わない国民だと思うので、黙って手形を押していくとか、メッセージを残せるとか、「#GAYISOK」のソープを買っていくとか、目に見える形でLGBTフレンドリーな活動をすることに価値があると思います。

キャンペーンに仕組まれたLGBTのことを語り合うきっかけ

阿佐見今回のキャンペーンで印象に残っていることを教えてください。

石川池袋・新宿・渋谷と3店舗回らせていただきましたが、店員さんが非常にフレンドリーだということが印象に残りました。

また限定ソープが数時間のうちに5~10個も売れている話を聞いたりし、反応が良かったこと。ソープを通じてLGBTのことをお客さんと「話す」ことがすごくいいですね。

今日の手形のイベントでも、インクを落とすために手を洗う時に店員さんと話すきっかけがありますし、「話す」ことにつながる色々な仕掛けが面白いなと思います。

店員さんが知識を持ってお客さんにさりげなく話しかけ理解を得ていこうとしている。すごいなと思うし、それができるようになるには、やっぱり社内でのきちんとした勉強が大切なのではないかと考えます。

誤解にもとづいた偏見も、語り合うことで解決できる

阿佐見なかなか言葉や行動で示せない日本人だからこそ「話す」機会をつくることに価値がありますね。

石川もの言わぬ支持者、もの言わぬ支援者というのがすごく実は日本には多いのではないかと思っています。

今年、渋谷の同性パートナー条例が話題になっていたころに、毎日新聞社で「同性婚」に賛成か反対かを問う全国世論調査があり、44%が賛成で、39%が反対、17%が無回答という結果が発表されました。

「条例」ではなく、国の全体の法律として同性の結婚を認めようということに対して、賛成が44%という数字はかなり多いと思っています。アメリカは、もっと低い段階からひっくり返していったんです。

阿佐見電通ダイバーシティ・ラボの研究でも、日本ではLGBTに対する抵抗層はそれほど多くないことが分かりました。それよりも、誤解しているだけという人が多いようです。同性婚に反対する人の中でも、本人はLGBTに差別・偏見を持っていないつもりで、知識と理解不足による何らかの誤解が原因で反対しているだけの人もいます。

石川若い人は話してみれば理解がある人が多い一方で、ある大学で講演をしたときに、「同性婚を認めない方がよい」と言う大学生がいたことを思い出しました。

彼は「自分にはゲイの友達もレズビアンの友達もいて偏見もないですし、自分はLGBTフレンドリーです。だけど同性婚だけは少子化が進むので認めない方がいいと思います」と言うんです。

同性婚を認めても少子化にはつながらないので、それは誤解ですよね。誤解にもとづいた差別や偏見のある人が意外と多くいるのだと思います。

これは、もったいないことだと思います。ちょっとした誤解によって、LGBTフレンドリーじゃないことを考えている人たちは、話すことで変わるかもしれない。だから、そこにはアプローチしていきたいですね。

社会的に評価されるようになった企業のLGBT支援

阿佐見LGBTフレンドリーな人も増えていますよね。電通ダイバーシティ・ラボの今年の調査でも、LGBT層をサポートする企業の商品・サービスを、一般層でも過半数の53%が支持しているというデータが出ています。

石川日本も「ああこんなにLGBTフレンドリーな人は多いんだ。だったらLGBTを表に出しても大丈夫なんだ」という雰囲気になりつつあることを、最近は感じています。

10年くらい前は、LGBTフレンドリーを企業で打ち出すとお客さまが離れるのではないかと思われることがよくありました。ある有名企業から協賛をいただいたときに、「協賛していると名前を出さないでくれ」と言われたこともあります。

そんな状況から徐々に変わってきています。企業のイメージのために支援していることを表に出したくない、という時代は終わって、支援している企業がきちんと社会的な評価を得られる時代に、変わってきていると思います。

日本でも同性カップルを当たり前のように目にする時代へ

阿佐見アメリカで同性婚が認められたことにより、日本へはどんな影響があると思いますか。

石川日本とアメリカは密接な関係がありますし、アメリカで、しかも全米で認められるということは、良かれあしかれ影響が大きいと思うので、ヨーロッパのときと比べて、今後変化があるのではないでしょうか。

同性カップルが全米で100万組いるといわれています。その人たちが結婚をし、夫婦で日本との関係性を持つ。今後、私たち日本人が同性カップルを当たり前のように目にする機会が増えてくるでしょう。

アメリカの最高裁の判決が出た後に、当事者が、これからは「同性婚」という言葉がなくなりただの「結婚」になるんだと言っているのを聞いて、「ああ、なるほどな」と思いました。時代は同性婚・異性婚、ではなくてただの結婚に変わっていくのではないかと思います。

筆者(左)と石川氏
筆者(左)と石川氏


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愛することは誰もが持つ権利 #GAYISOK


石川 大我(いしかわ たいが)
豊島区議会議員2期目。1974年、東京都豊島区生まれ。明治学院大学法学部法律学科卒業。若者支援のためのNPO法人代表理事、衣料ショップ経営、参議院議員福島みずほ秘書などを経て、2011年初当選。日本において初めて公職に選出されたオープンゲイの議員として知られる。英字紙ジャパンタイムズ社説に「社会的弱者の声を国政/地方自治に反映させる政治家」と紹介される。著書に「ボクの彼氏はどこにいる?」(講談社)他。

石川大我さん

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