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ブランド・グロースハック―ビジネスの成長を約束する「マーケティング×IT」新手法−No.5

現状のチーム編成、満足していますか?-これからの広告会社のチーム

2015/10/02

Ⅰ 新しいチームの誕生

米国広告業界の1960年代は、“art & copy”という、アートディレクターとコピーライターが協業して広告の質を高めた「クリエーティブ革命の時代」といわれています。また、Googleは2013年3月7日、新しいブランド広告の姿を追求する実験プロジェクト“Art, Copy & Code”を進めていることを自社ブログで発表しています。このように広告業界では、時代の求めに合わせて最適なチームづくりの試みがなされてきました。そして現在、クライアントの関心は広告のデジタル化だけではなく、マーケティングそのもののデジタル化にも及んできており、広告会社もその関心の高まりに合わせたチームづくりを試みています。マーケティングのデジタル化は、一般消費者や顧客の行動データを入手しやすい環境をつくるので、膨大な顧客行動データを分析し、次の有望顧客を探索する「データサイエンティスト」の需要が広告会社でも今後ますます高まります。また、それ以上に必要とされる人材として、データから顧客獲得/育成課題をあぶり出し、ブランドの成長シナリオを描く「グロースハッカー」が挙げられます。

米国において、グロースハッカーは新しいマーケティング責任者といわれていて、現在データサイエンティストと並んで、シリコンバレーで最もセクシーな仕事とされています。彼らはデータとアイデアを駆使し、製品やサービスの成長をハック(=新たなやり方で加速)します。またユーザー獲得担当エンジニアともいわれることがあり、認知の獲得だけでなく見込顧客を顧客や優良顧客にする施策を考え実行する役割も担っています。実はスタートアップ企業だけでなく、既存企業からも引っ張りだこな状況です。※注1

グロースハッカーには、必ずしもデータサイエンティストほどの高度な分析能力は必要ありませんが、データ結果から「なぜそのような結果になったのか?」(why so?)を理解し、さらに「その結果から次は何をすべきか?」(so what?)を考えられる分析力と構想力が必要です。ブランドのイメージデータだけではなく、本当に人が「動いたのか?」「買ったのか?」といった行動データをベースに考えるのが、これまでのプランナーとの違いです。また一方で、データだけでなく、常にブランドと一般生活者・顧客の本質的課題を捉える姿勢が必要です。さらに、その本質的課題を解決できるクリエーティブな発想が一番重要で、従来のマーケティング手法にとらわれずさまざまな施策を考え、実行し、改善することのできる能力が必要です。

グロースハッカーはマスキャンペーンによる新規顧客の動きだけでなく、見込顧客を顧客にしたり、既存顧客を優良顧客にしたりする360度の顧客状況(下図)を分析・理解し、新規顧客だけでなくどのフェーズで顧客を増やすチャンスもしくは課題(私たちは「カスタマー・グロースポイント」と呼んでいます)があるかを必ず見つけなければなりません。

そしてグロースハッカーは、クライアントのマーケティング全体責任者に対し、新しい顧客の獲得・育成と、そのブランドの成長プロセスを約束します。例えば、CRMデータから、最近伸びている新しい顧客タイプを探し、そのタイプの顧客をさらに獲得するシナリオを設計します。当然どれぐらいの人をどのタイミングで獲得できるか?売上がどれくらいになりそうか?といったシミュレーションもして、売り上げの数字に事前にコミットします。

そして下図の中の2番目のフェーズである「顧客を育てる」、3番目のフェーズである「投資を整える」フェーズで成長シナリオに合わせた施策の実行、PDCAを回し、KPIをチェックし着実に顧客を獲得できているかどうか確認、改善をしていきます。グロースハッカーは、データサイエンティストの分析結果を踏まえ、自身でプランニングやクリエーティブをする人で、いわば新しいタイプのストラテジストであり、統合クリエーティブディレクター的存在なのです。

以上のように、広告も含むマーケティングのデジタル化時代において、広告会社のチームには従来のメンバーに加え「データサイエンティスト&グロースハッカー」が必要になってきます。

Ⅱ これからのクリエーティブの1方向

特に、私たちが提供している電通ブランド・グロースハックでは、「育てる」フェーズで顧客獲得・育成の課題に応じて多種多様な手段を用います。必ずしもマス広告に限らない、360度の一般消費者と顧客を動かし、増やすためのPOEM(ペイドメディア、オウンドメディア、アーンドメディア)施策と、それを効率よく支えるデジタルマーケティングツールを導入します。また、ブランド体験デザインやサービス開発、ブランドコンテンツ編集にはデータベース構築やマーケティングオートメーションを導入し、これらの施策の効率化を図ります。ここで大事なのは、個々の施策の効果効率だけでなくそのブランド価値を高める一貫したデザインやメッセージのディレクション、ブランドグロースをもたらすシナリオに沿った統合的なブランドコミュニケーションの設計です。特に日本のような成熟市場では、モノの余剰が前提で、ブランドの存在意義と価値が改めて問われており、そのブランドと一般生活者や顧客が、今後どのような関係で継続的にエンゲージメントするかという本質的なブランド存在意義・価値の明確化が大事になります。

それを踏まえて、個々のセグメントされたターゲットごとにデジタルPR、オウンドメディア制作・編集、SNS活用、プロトタイプ制作(アプリその他)、デジタルプロモーションなどを考え、さらに全体を統合するディレクションが必要です。グロースハッカーは、ブランドエクスペリエンスデザイナーであり、ブランドコンテンツ編集長であり、ブランドプロトタイプ製作者でもあります。

Ⅲ 更に、ラーニングクリエーティブの時代

さらに、今この「育てる」フェーズでは、データ結果から学んで制作する「ラーニングクリエーティブ」という手法が出てきています。例えば「動画の編集時に、被験者に動画を見せ、その表情の分析結果をベースにさらに編集を加える」「サイトに訪れた人に対し、事前の顧客情報をもとにしたone to oneのクリエーティブを用意する」など、データを活用したクリエーティブ制作が行われており、クリエーティブの領域にまでデータが影響してくる時代となっています。一方、ブランドのコンテンツを運ぶメディアの方はデジタル化の影響で、最終的には全て機械が取って代わる可能性が高くなっています。そんな近い未来で「人間は何をするか?」が問われたとき結局マーケティングのデジタル化時代、データ、デジタル、システムを突き詰めていくと、人間に残された領域は、データからはなかなか導き出せない、常識の範囲を超える、人をあっと驚かすアイデアだったりクリエーティブ制作だったりするのではないかと思います。「データを突き詰めた先は、クリエーティブだった」ということです。

Ⅳ 最後に‐これからのグロースとは?

ここまで5回にわたり、マーケティングのデジタル化時代に次の有望顧客を獲得・育成し、ブランドを育てていく手法である電通ブランド・グロースハックをご紹介してきましたが、最後に「グロースハック」、つまり成長の定義も今後変わるというお話ができればと思います。

成熟した日本市場では、今後も右肩上がりの成長が難しい状況です。そんな中、それでも右肩上がりを目指すというよりも、市場の飽和や少子高齢化などの課題先進国として、世界に先駆けて現代社会の課題を解決することが大事です。テクノロジーで生活はますます便利になり、ブランドのマーケティングの仕方も変わってきました。今後はそこでのブランドとの出合いが、果たして人々の充実した生活や幸福の実現に結びついているのかが問われます。ハック(=新たなやり方で加速すること)も大事ですが、「これからのグロースとは何か?」を考え実践することの方がもっと大事になります。そういった意味で電通ブランド・グロースハックも、「グロース」の定義も「ハック」の仕方も未来の環境変化に合わせて進化し続けるメソッドを目指しています。

5回にわたり、お付き合いいただきありがとうございました。連載はひとまずここで終わりますが、今後も機会がありましたら事例紹介や、進化したグロースハック手法をご紹介できればと思っています。ありがとうございました。