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デジタル活用で成果を出すにはNo.4

CRMまで広がるFacebook広告の可能性

2015/10/06

#3に続き、「Facebook広告」を配信する場合の動画広告や顧客管理システムとの連携、効果検証の方法、そして、実際の運用事例などについてネクステッジ電通の園田まりこさん、電通の波田野雄平さんに話を聞きました。将来のFacebookプラットフォームが目指すであろう「未来」についても語ってもらいます。
※株式会社ネクステッジ電通は、2016年7月1日付で「株式会社電通デジタル」となりました。
ネクステッジ電通の園田まりこさん、電通の波田野雄平さん
 

■Facebookで動画が盛り上がっている理由とは?

--Facebookでは、動画広告を頻繁に目にするようになりました。動画広告にはどのような効果が見込めますか。

波田野:ちょっと話は飛びますが、創業者のマーク・ザッカーバーグ氏はあまりパソコンを使わないらしいんですよ。ほとんどスマホ。「ユーザーがスマホ使っているんだから、仕事もスマホでやろう」という発想だと聞きました。この発想と同じで、ザッカーバーグ氏は、「動画に興味があるユーザーがいるんだから動画にも力を入れていこう」という考えということです。

重要なのは、ユーザーが求めるものに応えることを目的に、静止画のみでなく動画という掲載手法も提供されているということです。無理やり全員に動画を押し付けようとしているわけではなく、動画に反応する人には動画を多く露出させ、静止画に反応する人には静止画を多く露出させる。あるいは、特定コンテンツであれば静止画でも動画でも反応する人には、そのコンテンツを静止画、動画両方で露出させる。

これは広告もニュースフィード上の記事も同じです。興味があるものなら、動画を長く見ることは苦にならないじゃないですか。Facebookは個人情報にひも付いて、高い精度で興味がある記事や広告を提供できる。静止画やテキストと比べた場合、動画の方が情報量も多いし、インパクトがありますから、興味のある人に対しては、動画広告は有効な手段になると言えます。

園田:動画広告は、リーチや認知を高めるためのテレビCMの補完メディアとしての位置づけです。例えば、テレビCMを実施しない時期の定常的なコミュニケーションや、CM用15秒素材で訴求しきれない長尺動画の配信などですね。

Facebookは個人情報にひも付いて、高い精度で興味がある広告を提供できる
 

■カスタムオーディエンスの活用で休眠顧客を活性化

--Facebookには、企業が持つFacebook外の顧客データをアップロードすると、その中でFacebookを利用しているユーザーに広告を配信する「カスタムオーディエンス」という仕組みがありますが、どのような使い方が効果的ですか。

園田:「カスタムオーディエンス」の使い方は大きく二つあると考えています。

一つは、より効率の良い見込み顧客の獲得です。まず、自社ウェブサイトの訪問履歴をもとに「カスタムオーディエンス」用のターゲットリストを作成します。このリストを作成する際、「申し込みフォームにアクセスしたけれどもコンバージョンしていない人」など、到達地点別にターゲティングすることで、より個人によった広告を配信することができます。過去に申し込みフォームにアクセスしている人は、興味があるということなので、適切な広告を提供できればコンバージョンの可能性も高いはずです。

もう一つは、クライアントがメッセージを届けられていない休眠顧客を高い精度で活性化できることです。休眠顧客のメールアドレスや電話番号などのデータをもとに、ターゲットリストを作成して広告を配信します。

例えば、オンラインショッピングサイトには登録しているけれど、メルマガには登録していないユーザーは珍しくありません。あるファッション系通販サイトでは、1000万人のオンラインサイト会員に対して、メルマガ会員は200万~300万人でした。

一方で、企業からのメルマガの開封率は、一般的に10%~20%と、年々低下傾向にあります。コミュニケーションの手段がメルマガからFacebookやLINE等にシフトしている影響も大きいでしょう。カスタムオーディエンスのメールアドレスマッチング率は、BtoCクライアントの場合、一般的に20~30%といわれています。「カスタムオーディエンス」をうまく利用すれば、メルマガ会員に送るのと同じように、サイトに登録しているだけの休眠顧客にセール情報などをFacebookのニュースフィード上に届けることができます。

また、「類似オーディエンス」という配信手法も有効です。Facebookが保有する膨大なデータをベースに、自社の保有するデータに類似したユーザーに広告を配信できる機能です。例えば、化粧品の広告を配信するとき、自社で所有する購入者のリストを基に「類似拡張」を行なうことで、似た属性・興味関心を持つ人や、過去に同じような商品に反応した人をターゲティングして広告配信できます。

他には、スマホアプリの利用状況をもとにターゲットリストを作成すれば、インストール後にあまり使っていないユーザーに向けて広告を配信して利用を喚起することも可能です。

--個人情報に関して神経質になっている企業も多いと思いますが、情報の管理はどのようになっているのでしょうか。

波田野:個人情報は顧客パソコン上、つまりFacebook側に情報を渡す前の段階でハッシュ化(不可逆な暗号化)を行います。同様にハッシュ化されたFacebook上の個人情報と照合されるため、セキュリティー面の配慮はされています。おっしゃる通り、個人情報アップすることを心配しているクライアントは多いので、しっかりと説明をしています。

この施策の実現に当たり、実際、個人情報管理の説明に苦労するケースは多いのですが、Facebookのカスタムオーディエンスは、世界的な監査法人であるプライスウォーターハウスクーパースから情報管理安全性上の認可も受けています。それもあってか、海外はもちろん、日本でも最もセキュリティーが厳しいであろう、銀行などの金融クライアントの活用事例も増えてきています。

ネクステッジ電通の園田まりこさん、電通の波田野雄平さん
 

■Facebook広告とセールスフォースの組み合わせ

--「カスタムオーディエンス」は、CRMにもつながるような印象を受けます。

波田野:われわれのチームではアクイジション(新規顧客獲得)とCRMを一気通貫して携わっていることもあり、最近はFacebookへの広告出稿と併せて、「セールスフォース」やMarketoなどのクラウド型の顧客管理アプリケーションの導入・設計をセットで提案するケースが増えてきています。

「Facebookは単なる広告媒体ではない」という話とも関連するのですが、Facebookにはマーケティングパートナーという取り組みがあります。「セールスフォース」などのサービスはこの座組みに入っているため、APIでいつでも情報を渡せる環境が整っているんです。この座組みをうまく活用することで、効率的で優秀なCRM施策を打つことができます。先ほどの話に出てきた、ファッション系通販サイトの顧客を例にとって話しましょう。

サイトに登録しているユーザーでも、今日登録した人と1週間前に登録した人、1カ月前に登録した人とでは、購入に対するモチベーションが違いますよね。それに、1カ月前に登録した人であっても、1週間毎に定期的に購入するユーザーなのか、全然買ってないユーザーなのかでもモチベーションが異なる。

「セールスフォース」の顧客管理アプリケーションを使えば、こういった顧客情報をカテゴライズして管理できるので、そのカテゴリーごとにFacebookにデータを渡せば、的確な広告配信を簡単に実施することができるんです。

Facebookとセールスフォースの組み合わせは、効率的で優秀なCRMと言えます
 

■Facebook広告の効果検証

--Facebookの新しい配信方法「oCPM配信」と、その効果検証について教えてください。

園田:「oCPM配信」は、設定した広告の目的に対して最適なユーザーに自動的に配信されるものです。効果検証は、設定したターゲットに複数パターンの広告を配信する「広告セット」と制作された「クリエーティブ」、それぞれの粒度を見直すことが主なポイントです。

最初に広告セットを配信するときの範囲と露出量ですが、Facebookは、「機械学習に任せて配信を最適化しいき、反応したユーザーこそがターゲット」と考えるため、初期設計ではターゲットを決め込み過ぎず、配信範囲を広めにします。露出量に関しては、Facebookは一人に対して広告が露出される回数に上限を設けているため、配信範囲と予算設定で露出量がおのずと決まってきます。

まずは広い配信範囲と決められた露出量で、1~2週間ほど広告を配信して効果検証を行います。

購入や申し込みなどを追っているクライアントの場合は、コンバージョン率やCPAの成果をもとに広告セットの内容を見直します。予算設定に関しては、CPAをもとに獲得効率が良い広告に予算を寄せます。その際、性別や年齢などのデモグラフィック情報やPC・スマホのどちらからのアクセスが多いかなどのデバイス実績なども参考にしています。

クリエーティブに関しては、インプレッション(表示回数)とリーチ(見た人の数)を指標にして効果検証をしています。例えば、広告セット1・2・3があった場合、それぞれにクリエーティブA・B・Cを設定します。

Facebookは機械が表示する広告を選ぶので、表示される広告にも大きな差が出るんです。広告セット1はAの効果が出ている。広告セット2はCだけ効果が出ない、とか。週1くらいのスパンで、続けるクリエーティブと止めるクリエーティブを見極めています。加えて、飽きられないようにシーズナリティーを意識したクリエーティブを新たに追加したりしていますね。

ネクステッジ電通の園田まりこさん、電通の波田野雄平さん
 

■一般社会の生活基盤となる可能性を秘めるFacebook

--最後に、これからのFacebook広告の可能性についてお聞かせください。

波田野:これだけ膨大な個人データを持っているプラットフォームはありません。使用するにはログインしなければならないということもあり、クロスデバイスでの計測においても、Googleと並んでおそらくトップランナーになり続けるでしょう。

さらに、Facebookは「Instagram」や仮想現実(VR)ヘッドセット「Oculus Rift」を手がける「Oculus VR」、アプリのメッセージ配信の基盤ツール「Parse」や自然言語解析のオープンソースのプラットフォーム「wit.ai」なども所有しているのが強みです。

例えば、「Instagram」とFacebookがより本格的にデータ連携した場合、Facebook利用ユーザーと異なる嗜好のユーザーを取り込める可能性はあります。さらに、「Oculus Rift」の技術を活用し、静止画・動画に続き、仮想現実の体験がニュースフィード上に現れるかもしれません。そしてなにより可能性を感じているのが、「Wit.ai」を使った言語分析。これを利用すれば、ネット上だけの行動でなく、現実世界の行動も網羅することになるんです。

いずれは、単なるインターネット上のコミュニケーションプラットフォームや広告媒体の枠を超えて、一般消費者の生活基盤となっていく可能性があるのではないでしょうか。そうなれば、インターネット上だけでなく、オフラインでの行動まで含め、より個人にひも付く膨大な量のデータを保持するようになるため、オムニチャネルマーケティングの観点からもしっかり押さえておく必要があります。

これからのマーケティングは、「テクノロジー×アイデア」で行う時代になるでしょう。テクノロジーの部分だけ見れば、やはりアメリカやイギリスが一歩先を行っていますが、われわれはイギリスに本拠地を置くイージス・グループを買収して立ち上げた海外本社「電通イージス・ネットワーク」を持っているので、キャッチアップが日本のどの広告会社よりも速くできる環境にあります。また、逆にわれわれの知見を海外に渡すことで、さらに先の知見をグローバル規模で共同開拓することもできる。

そして何より、このようにして得た情報や知見をクライアントのデジタル広告だけでなく、マーケティング全体にどのように生かしていくのかまで考える力、アイデアの力を持っている。この双方を提供できることが私たち独自の強みだと考えています。