Experience Driven Showcase #29

インバウンドに「おもてなし」を!

三越伊勢丹グループの戦略とは?

  • 瓦林 恭子
    株式会社三越伊勢丹ホールディングス 営業本部マーケティング戦略部
  • Yamamoto akino pr
    山本 暁野
    株式会社電通 第14営業局 シニア・アカウント・マネージャー
  • 飯塚 陽子
    株式会社電通 第10営業局

9月13日、伊勢丹新宿店地下2階の「ビューティアポセカリー」のカフェで、三越伊勢丹グループのインバウンド施策の試みとして、在日中国人女子を対象とした体験イベントが行われました。すてきな「おもてなし」で好評を博したこのイベントの概要について、三越伊勢丹ホールディングスの瓦林恭子氏に、企画・実施を担当した電通の山本暁野氏、飯塚陽子氏がインタビューしました。

 

取材構成:金原亜紀 電通イベント&スペース・デザイン局
(左から)山本暁野氏、瓦林恭子氏、飯塚陽子氏

 

三越伊勢丹グループのインバウンド施策とは

飯塚:三越伊勢丹は、日本の百貨店のトップリーダーとして、インバウンド施策の最先端を走られていると思うのですが、今日は具体的にお伺いしていきます。

瓦林:訪日の外国人の方たちが急速に増加していく中で、「インバウンド」という言葉が一人歩きしているような部分があると思います。三越伊勢丹グループでは、訪日の方も在住の方も含めて「外国人顧客」と捉えています。やはり在住の外国人の方に好まれないお店には訪日の方もいらっしゃらないですし、いろいろなデータでも、口コミなど在住の方たちの発信した内容をもとに訪日の方も旅を楽しんでいらっしゃるという形が明らかに見てとれます。

山本:中国から友達が来ると、日本に着いてから、あなたはふだん何を買っているのかと結構聞かれます。私は2001年に日本に来て、もう14年間たっていますので、本当にいいものを紹介してあげたいなと思い、日々資料と格闘しています。

瓦林:ただ、残念なことに、在住外国人の皆さまの関心事や嗜好を明確に示したデータは多くありません。当社も今まで在住外国人向けの情報発信をされている企業にご協力いただき、メールマガジン読者対象のネットアンケートを行うなどして、情報源や行動範囲、好きな小売店などのデータを把握し、アプローチ方法を模索してきました。

山本:在住外国人といってもプロフィールはバラバラで、一概には調査は難しいですね。

瓦林:三越伊勢丹としては、外国人向けの商品というのはないのです。提供する商品、サービス、環境を、日本のお客さまが楽しんでくださるのと同じように、外国のお客さまも楽しんでいただきたい。そのためには、外国人顧客の特性を理解した上でインフラ面での対応をスピードアップし、快適なお買物環境をつくること、また、私どもが日本のモノ作り、もてなしの気持ち、新しい暮らし方を提案し、心を動かしていただくことが重要だと常々考えています。

山本:私も、友達が来るとき、中国人特別扱いのところではなく、普通の日本人がいいと思っているものをおすすめしたいです。

 

「ビューティアポセカリー」におけるイベントの成果

瓦林:今回の取り組みの舞台となったビューティアポセカリーは、まさに日本ならではのきめ細やかな感性を生かした伊勢丹新宿店の自主編集フロアです。ここでは、美と健康をサポートする世界中の優れた商品とサービスを提供していますが、いわゆる知る人ぞ知るメーカーの商品が多く、既に海外のお客さまに認知されている大手ブランドの化粧品コーナーとは、一線を画した外国人顧客戦略が必要だと感じていました。

ビューティアポセカリーフロア(伊勢丹新宿店本館地下2階)
イベント会場 HATAKE CAFÉ(伊勢丹新宿店本館地下2階)

 

飯塚:現在の来日のお客さまは一極集中型で、多くの人が同じものを求めていらっしゃいますからね。

瓦林:そこで、今回は山本さんにお願いして、30人の中国出身のキャリアウーマンの皆さんに、ビューティアポセカリーのイベントに参加していただきました。目的は、まず皆さまの関心を知ること、そしてもう一つは生の声での情報発信です。

山本:終わった後、皆さん、レジの前で長蛇の列でしたね。

瓦林:担当のバイヤーも、終わった後の気付きが多かったようです。今後、具体的な施策に反映できると思っています。

飯塚:実際やってみて、30人の反響がすばらしくて。質疑応答でも、あんなに手が挙がることってまれですよね。

山本:質問が多過ぎて申し訳ないくらいでした(笑)。次から次へと商品への具体的な質問がきて、商品への関心の高さを感じました。

瓦林:私も、あれほど深い内容の質問をされるとは思っていなかったのですが、特に健康についてや素材、クオリティーについての質問がとても多かったのに驚きました。質問をしながら、本当に自分がいいなと思うものを選ぼうとしていらっしゃる。今回はずばりそういった方たちに来ていただけたのでうれしかったです。

山本:50~60人か、30人か、いろいろ議論があったんですけれども、日本人の方がふだん受けているような1対1の丁寧な説明をまず体験してもらって、この人たちが三越伊勢丹のファンになりビューティアポセカリーのファンになってから、よりリアルな口コミとして広がっていくほうが強いと思ったんです。

イベントの様子 丁寧な商品説明や、クイズを交えて賑やかに開催
イベントの様子 熱心に資料を読む参加者

 

瓦林:9月には、日本橋三越本店から、毎年開催している「日本伝統工芸展」を外国人のお客さまにも伝えたいとの要望がありました。いきなり海外からお呼びするのは難しいため、今回は日本在住の外国人の方々が読まれているジャパンタイムズやメトロポリスに記事を載せていただきました。一方で、会場内のほとんどの解説は日本語という状態です。

そこで、今回初めて、期間中の2日間に限り英語でのギャラリーツアーを実施し、12人のお客さまにご予約をいただきました。それでガイドツアーを今回始めて、2日間だけだったのですが12人の方の予約が入りました。ビューティアポセカリーもまずは少数から。地道ではありますが、この様な取リ組みを、ファッションやアートだけでなく、食や住生活の分野でも広げていけたらと思います。

ジャパンタイムズの記事

 

三越伊勢丹グループのミッションと、インバウンドマーケティング

飯塚:瓦林さんのお話で印象に残っているのが、「爆買い」という言葉を使いたくないと。お客さまにきちんと商品を理解をしていただいて、ファンになっていただいて、長いスパンでお客さまを受けとめていくというのは、本当に百貨店らしいサービスですね。

瓦林:そう思っていただけたら幸いです。ターゲット顧客についても冷静に捉えなくてはなりません。現在、免税売上の半分以上を占めている中国からのお客さまを大切にしつつ、ほかの国々にもアプローチしていくことが大切だと思います。

実データに基づきセグメントを行い、ターゲットを明確にする。そして、カスタマージャーニーと顧客心理に沿った施策を実行し結果検証する。この一連のマーケティングをスピードを持って行うことが、私のミッションだと考えています。

山本:来ていただくためのインフラ整備が追いつかないところが多いのです。中国人であろうが他の外国人であろうが、知らない国へ行く不安とか、いろいろ調べるのは多分みんな同じだなと思うのです。インバウンドは日本に興味を持つ時点からスタートしているというか。

瓦林:本当におっしゃる通りですね。

山本:基本的に私たちがクライアントに提案するときには、ここの売り場やサービスは、正直どこまで受け入れられているのか、インフラ整備はどうか、どこまでの目標を設定するのか、予算に合わせて最適なPDCAはどう回せばいいのかは毎回ご相談させていただいています。

瓦林:重要ですね。検証ができないことは継続しないと思っています。とにかく、今はテストトライがしやすい環境にあると思います。こういった追い風といいますか比較的取り組みやすい時期に、外国人のお客様に本当の意味でのファンになっていただく為のトライを重ねることが大切です。

飯塚:まさに、「this is japan.」の取り組みですね。

三越伊勢丹グループを通して、「日本の魅力」も伝える

三越伊勢丹ホールディングス 企業ポスター「this is japan.」

瓦林:2015年の年頭に、三越伊勢丹グループは「this is japan.」という企業メッセージを世界に向けて発信しました。これは日本で育まれる五感を働かせた、モノ作り、品ぞろえ、もてなしを意味しています。世界中のお客さまを最高の笑顔でお迎えするためには、私どもが五感一つひとつに磨きをかけ、新たに発見し、創造していくことが重要です。
これは、日本人のお客さまにも外国人のお客さまにも共通して発信したいメッセージです。

飯塚:最後に、長いスパンで捉えたときに、どういう施策を2020年およびその先に向けて打ち出していかれますか。

瓦林:百貨店はもともと、購買代理業です。お客さまが欲しいものを、欲しいときに欲しいだけ購入していただく。お客さまがいま欲しているモノ・コトだけでなく、この先に何を望まれるかを常に察して提案して行かねばなりません。

インバウンドに関しては、私共が専任部署を設置したのは昨年です。今年、免税売上は店によっては全体の売上の10%、20%を越えてきました。明らかに戦略顧客の一つになってきたのです。

先ほどもお話ししましたが、インバウンドに関しては、お客さまを誘引することと、受け入れ体制を整えることを同時に進化させねばなりません。顧客ターゲットについてもそうですが、バランスを見ながら迅速に判断を下し、施策を実践することが必須といえるでしょう。

9月から銀座三越の情報を中心に、中国向けSNS「微信」の発信を開始しました。首都圏の基幹店ではウェブサイトの外国語ページも10月から順次刷新していきます。また、海外の旅行博や商談会にも積極的に出向き、出店していない地域についても三越伊勢丹グループの知名度を上げると同時に、日本の百貨店の楽しさや、伝統と革新が融合した日本独自のモノづくりなど、本当の日本の魅力を伝えて参ります。

 

プロフィール

  • 瓦林 恭子
    株式会社三越伊勢丹ホールディングス 営業本部マーケティング戦略部

    1992年伊勢丹(現 三越伊勢丹)入社。
    広報担当、伊勢丹新宿店 婦人服部門のセールスマネージャー、バイヤーなどを経て、2009年から顧客政策を担当。
    2015年4月から現職。

  • Yamamoto akino pr
    山本 暁野
    株式会社電通 第14営業局 シニア・アカウント・マネージャー

    中国生まれ中国育ち。大学卒業後、来日。
    電通入社後、マーケティングプランナー、プロモーションプランナーとして、日本国内外のクライアント作業の他に、台湾認知度90%のオリジナルキャラクターの開発制作や、電通を代表して中国でプロモーションセミナーの講師を担当するなど、日中間の文化差異分析からビジネスチャンスを創造することを専門としている。

  • 飯塚 陽子
    株式会社電通 第10営業局

    2005年電通入社。2012年から三越伊勢丹を担当。

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