ミレニアルズと「未来のスキル」 #04

リムジン女子会の流行が示唆する、
これからの日本にとって大切な3つのこと

  • Tanaka anipla
    田中 彩子
    有限会社Anipla 代表取締役社長
  • Web
    能勢 哲司
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター 事業開発室
  • 14580463 1225228107497344 1248304897 n
    天野 彬
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーション研究部 研究員

「高度情報社会における“スキル”のいまとこれからのかたちをミレニアルズの実践から探っていく」ことを目指す本連載。「2011年度にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に今存在していない職業に就くだろう」(Cathy Davidson, ニューヨーク市立大学教授)と言われるほどに仕事の未来が不透明なこの時代に、新世代のデジタル・ネイティブ世代=「ミレニアルズ」の取り組みから“未来のスキル”のかたちを模索します。

私たちが今回フォーカスするミレニアルズは、アニバーサリープランニングという新しいサービス分野のパイオニアとして活躍する田中彩子さん。有限会社Aniplaを率いる新世代アントレプレナーとして、いま広く注目を集めています。

誕生日、プロポーズ、記念日など特別な日を思い出に残る1日にしたい――近年SNSを通じて記念日の出来事をシェアする作法が広がった若年層の間でそうしたニーズが高まっています。背景には、SNSや画像・動画共有サービスなどで海外を含めて素敵なプロポーズやサプライズを目にすることが多くなり、日本でもそうした需要が高まってきたという点を指摘できるでしょう。田中さんが務める「アニバーサリープランナー」は、そんな記念日を特別なものにしたいという願いをかなえるべく、素敵なサービスを生み出し続けています。

9年前(2006年4月)にそのアイデアを思いついた時、まだ世の中に先行するビジネスは存在していませんでしたが、あっという間にこの分野のビジネス規模は膨れ上がりました。
特別な日のかけがえのない感情を創出すること、それが現代の人々の潜在的なニーズに直結することを体感的に知っていた田中さんの先見性があったのは間違いないでしょう。
小さな一軒家シンデレラハウスを西麻布に構える彼女に、未来のスキルのあり方を尋ねに行ってみました。

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左から、能勢 哲司氏(電通)、田中 彩子氏(Anipla)、天野 彬氏(電通)
 

能勢:まず、田中さんが代表を務めるアニプラですが、具体的にどのようなサービスを提供されているのでしょうか。

田中:中心となる事業は、カップル、特に男性向けのサービスで、彼女の誕生日やプロポーズなどのサプライズ演出です。例えば、0時ちょうどに外国人シンガーがバースデーソングを歌いながらケーキをもってきてくれたり、食事をしている間に自宅やホテルの部屋がバルーンでいっぱいになっていたり、また、私たちの運営しているシンデレラハウス(西麻布)にお越しいただき、サプライズで彼女をお姫様に変身させたりします。このシンデレラハウスには海外から仕入れた可愛いドレスがたくさんあるので、気に入ったドレスを選んでもらって、ヘアメークをしたら、その後はリムジンに乗ってレストランへ行く素敵なプランです。それから、最近では、女性向けの「姫会」の需要も高くなっています。

能勢:姫会? どんな利用のされ方でしょうか?

田中:女子会の時に、パーティードレスを着てみんなでリムジンに乗ったりホームパーティーをしたりするんです。女子会といっても、「お友達の誕生日祝いや結婚祝い、留学行ってらっしゃい会」など、お友達へのサプライズ利用が多いです。もともとアニプラのサービスは男性が彼女に想いを伝え喜んでいただくためのサービスなので、ウェブサイトは男性向けに作っています。むしろ、料金やサプライズが載っているので、できれば、女性には見てもらいたくないくらいです。
ですが、数年前からは女性からの問い合わせが増え、ここ3年くらいで変わってきたので、女性向けにと姫会のウェブサイトを別に立ち上げました。メディアの取材も、以前はクリスマス前は、プロポーズのサプライズについての取材が多かったのですが、去年は、女子会ブームだからか、姫会ネタで取り上げられることが多かったです。

■姫会人気の背景は、女性特有の好奇心と非日常体験

 

能勢:女子会への利用が広まったのは何がきっかけだったのですか?

田中:ウェブサイトを立ち上げた後の最初の1ヵ月、Google Adwordsで広告をかけました。といっても、そんなに広告にお金をかけれないので3万円程度の課金式のものです。その後、2ヶ月もたたないうちに、利用いただいたお客様からの口コミのお蔭で、土日が埋まるようになりました。1年半たった今、予約が取れないことも多くなり、今年10月末にはドレスサロンを増築する予定です。
口コミの発生源はソーシャルメディアです。ドレスで着飾ったお客さまの写真を撮影させていただくと、皆さん、とても喜んでくださり、それをFacebookやInstagramにアップしてくださっているようです。そして、それを見た友達が「私もやりたい!」となって、ご連絡をいただくことが多いようです。

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能勢:写真も田中さんが撮るのですか?

田中:はい、お客さまのスマートフォンで撮影させていただきます。私、撮影うまいんです!「こういうポーズしてくださ~い♪」とか「みなさん、イーといいながら撮影しま~す♪(イーというと笑顔写真が撮れます)」と言ったりして、撮影した写真を見て、皆さん「わー、お姉さん、上手!すごい!」ってなってくださり、いい写真が撮れて喜ばれます。

天野:やはり、姫会の人気が出たのはSNSの影響が大きいのかなと考えていました。

田中:はい、女性特有の「仲良し女子で楽しいことをしたい」「素敵な体験をしたい」「可愛い写真を撮りたい」という願望と、楽しい体験をしたら他のひとに共有したいという今の時代背景がうまくリンクして、自然と口コミで広がっているのだと思います。先日、とても嬉しいことがありました。お越しいただいた50代の方から「娘が姫会やって楽しかったっていう話をしてくれて、私も姫会してみたいって思って友達連れてきたんです」とおっしゃってくださったことです。これは、SNSではなく、まさしく!昔からあるクチコミです。ようは、「誰かに伝えたくなる」ご満足いただけるサービスをご提供することが、何よりも重要なのだと思います。
そして、最近では東京観光の一つとして利用されるお客様も増えています。「京都にきたら舞妓さんになりたい!」というように、「東京に来たらかわいいドレスを着てリムジンに乗りたい」と思ってくださるようです。

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■突然、降りてきた「アニプラ」という言葉と仕事のイメージ

 

能勢:創業したのは大学4年生の時なんですよね。創業のきっかけはビジネスプランコンテストでの優勝だったと聞いています。アニプラはこの時のアイデアをそのまま事業にしているそうですが、そもそもアニバーサリー演出というアイデアはどう生まれたのですか?

田中:本当に偶然なんですけど。友達と池袋を歩いていたら、ポスターに「記念日」って書いてあったんですよ。「記念日って英語でなんていうの?」って友達に聞いたら「Anniversaryだよ」って言われた時「アニバーサリープランナー、略してアニプラ。私はアニプラになるんだ」って思ったんです。
ちょうど大学3年で就職活動を始める直前だったのですが、アニプラを思いついた瞬間!リクナビもマイナビも、その日に退会して、すぐ私はアニプラのことだけを考えました。とある日、ビジネスプランコンテストがあることを知って応募したら、運よく優勝して、その賞金100万円を元手に大学4年の4月に起業しました。

天野:ある日突然思いついたということですが、もともと記念日に思い入れがあるとか、人を喜ばせるのが好きといったことはあったんですか?

田中:すごく意識していたわけではないです。ただ、高校3年生の時のエピソードは今とつながるのかな、と思うことがあります。高校3年の時にはじめてバイトして、初給料を何に使おうかなと思ったんです。それで思いついたのが、11月11日にポッキーをみんなにプレゼントしようというアイディアでした。運よく1時間目が体育の授業で全員教室からいなくなる予定だったので、わざと学校を遅刻して、みんなが授業に行ったあと、1人で教室に入ってみんなの机にポッキーを1箱ずつ置いたんです。みんなすごく喜んでくれて嬉しかったです。ただ、うちのクラスだけだったので、学校に不審者が侵入した可能性があると学校問題になってしまい、先生には怒られました(笑)
あとは、中学生の時に図工の授業で白い箱の中に自分の好きなものを制作しようという授業があったんですけど、その中に、ひな祭り、七夕、クリスマス、お月見、こどもの日など、あらゆる記念日の象徴的なアイテムを入れたことがありました。もしかすると、子供のころから記念日が好きだったのかなと思います。

天野:若い頃の体験がトリガーになって新しいビジネスを創出する起業家も多いと聞きますが、田中さんの中でも「記念日」をめぐる強い体験が関連していたということなのかもしれませんね。

■手探りの起業。初年度売上は1000万超え。しかし粗利は…。

 

能勢:就職をせずに起業するということを誰かに相談しましたか?

田中:当時、起業が流行っていたこともあって就職せずに会社を作るというのはそれほど特別ではなかったように思います。お金がなかったので、法人登記もすべて自分でやりました。法務局のおじさんに書類の作り方を聞いて、銀行でも教えてもらって。大学生だったこともあって親切にしてもらいました。みんなに助けてもらって会社を作りました。

能勢:ビジネスプランコンテストに参加する人たちは起業する人も多いので、起業という選択肢が珍しいことではなかったのかもしれませんね。会社を立ち上げて最初はどういうことから始めたのですか。

田中:女子として何をされたらうれしいかを考えた時、最初に考えたのがリムジンでした。リムジンの会社に電話して代理店になりサービスを開始しました。その時は、大学のゼミ室を借りてそこを拠点としていました。最初の1年で売り上げが1000万円を超えました。だけど、会計士の先生から粗利は50万円と言われてしまって(笑)利益率という言葉を知ったのが最初の1年目です。

能勢:あはは。それでよく続けられましたね。

田中:学生だったせいか、アホだったのか(笑)給料や経費のことなんか全く考えていませんでした。最初の数年は利益をいただくことに大変苦労したのですが、お客様が増えていったのでリムジン会社さんが原価をすごく落としてくれることになり、いつの間にか、他のリムジン会社さんよりもリーズナブルな価格でお客様にサービスを提供できるようになりました。

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■「夢をくれてありがとう」1通の手紙が会社を次のステップへ

 

能勢:創業してから今までの間で、転機になった出来事はありますか?

田中:3年くらい前に「未来シアター」(日本テレビ)に出演したことです。それまでは、会社を大きくしたいという願望はなく、大変な時は家族や友達に手伝ってもらって、あとは1人で細々とやっていました。会社設立といっても「経営者」というより、「職人」という感じです。今思えば人を増やす勇気、経営する覚悟もなかったんだと思います。
そして、未来シアターに出演した後、100件以上の反響のメールや電話を頂きました。その中で中学生の女の子から「自分はこれまで夢がありませんでした。田中さんの姿を見て、アニプラになりたいという夢を初めて持てました。夢をくれてありがとうございます。」と書かれていて。私、すっごく、すごく感激しちゃって大泣きしました。
それまではお客さまへたくさんのサプライズをご提供することが私の使命だと思っていたんですけれど、この言葉をもらったときに、自分が先駆者となり、記念日文化を開拓し、アニバーサリープランナーになりたいひとが働ける場所を作りたいと強く思ったんです。

能勢:それがきっかけで人材の採用をするようになったんですね。

田中:はい。そして、大きい会社になればもっと大きいことができるので、結果的にはお客さまのためにもなる、と考えるようになりました。

■未来のスキルは本能的なバランス感覚に基づいた親近感の演出

 

能勢:今また起業ブームですが、今後アニプラを大きくするための具体的な方法論などは考えていますか?

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田中:すべて製造・制作から行うというのは会社を大きくするポイントだと思っています。今も、バルーンやオリジナルDVD、オリジナルラベルワインなど自分たちで制作しているため、個人のお客様のほかに有名ホテルさんやレストランさんなどたくさんのご注文をいただいています。なんでもすぐ作れる、なんでもすぐ叶えられる、そんな記念日演出の根本にいる会社になりたいです。そして、製造・制作を自分たちですべて行うことが、より良いプランニングをする最も重要なことだと思っています。当たり前ですが、お客様によりご満足いただけるサービスを一生懸命考える、それが一番の方法論だと思います。

能勢:これから、10年後、20年後の展望を教えてください。

田中:今はプロポーズやお誕生日をメインとしていますが、自分たちの成長と共に会社でできることが増えればいいなと思っています。子どもが生まれたら子どもの誕生日会、60歳になったら還暦のビジネスなど、自分たちの世代に合わせて事業拡大していきたいと思っています。すべてのプランナーが自分の年齢に合わせて、サプライズの幅を広げステップアップでき、お婆ちゃんになっても仕事が出来る組織になりたいです。

能勢:自分が持っている未来のスキルはどんなことがありますか。

田中:大切にしていることは、お客さまが友達に頼んでいるような気持ちになれるような親近感ですね。感情ビジネスですから、かしこまっている、しっかりしているというよりも、感情が伝わる接客を大切にしています。お客様とのメールのやり取りも、より気持ちが伝わるように、1通のうち1度だけ、文章の最後に^^という顔文字を使用しています。例えば、「当日、素敵なひと時をお過ごしいただきたく思っております。ご質問・ご要望等ございましたらお気軽にお申し付けください^^」のほうが、温かい感じがすると思っています。

天野:本日お話を聞いてきて、田中さんが取り組まれている事業としての「感情ビジネス」というキーワードが、「未来のスキル」を考える上でヒントになるのかなと思いました。
というのも、ここ日本においてこそ、感情ビジネスの重要性は増していくのではないか?と思ったからなんです。日本は経済的には豊かである反面、実はあまり幸福度は高くないという社会的課題があります(国連による世界幸福度報告書2013によれば、主に北欧諸国が上位を占める中で日本は43位)。つまり、日本は経済成長よりも幸福度成長にこそ大きな伸び代を持つ国だと言えるように思います。経済は低成長であっても、幸福度は高度成長をする余地があるし、むしろそれを志向するべきであるとも感じます。そういう社会的な環境の中で、一人ひとりのアニバーサリーをかけがえのないものにしていく田中さんの事業や、今後様々な世代の方に提供されていく感情ビジネスというものの可能性や意義があるのではないかと考えています。

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【取材後記】リムジン女子会の流行が示唆する、これからの日本にとって大切な3つのこと

インタビューでも触れたように、現代においてアニバーサリーの重要性は高まっていますが、この取材を通じて、「お祝い」もまた人から人へ想いを伝えるコミュニケーションであること、そしてそうであるがゆえにSNSなど今日のコミュニケーション環境の変化に影響を受けることを改めて認識しました。
ミレニアルズ世代は、既に出来事だけでなく感情そのものをSNS上でシェアすることに慣れ親しんでいます。そしてそれによって、その場にいなかった人々にもそうした出来事がより豊かな記憶となって共有されていくということ――それはつながりあう高度情報社会のポジティブな一面だと思われます。
更に田中さんのアニバーサリープランニングという仕事がミレニアルズ的だと思ったのは、アニバーサリーはもともと「周年」「年祭」という原義を持っていて、ある時間的周期の中で定期的に祝われる出来事を含意していますが、これはまさにインターネット上にログを残し続ける私たちの日々のあり方に適合的だからです。
そして、最後にタイトルで掲げた問いに回帰するならば、リムジン女子会の流行が示唆するこれからの日本にとって大切な3つのこととは何かが見えてきます。それは、端的に言えば、

①今後ますますアニバーサーリーを祝うことなどを含めた「感情ビジネス」が重要になっていくこと

②それは日本社会特有の課題を解決するのに資する活動となること

③そしていまではそれが海外の人々をも惹きつける魅力を持つこと
(外国の方々が東京観光の新たな名所としてアニプラのリムジン観光を利用するといったことなど)

という点ではないでしょうか。
この取材を通じて、アニバーサリーという生活者の感情を真正面からとらえた事業に携わるからこそ見えてくる、未来に向けた大きなヒントをもらうことができました。

プロフィール

  • Tanaka anipla
    田中 彩子
    有限会社Anipla 代表取締役社長

    1984年生まれ。有限会社Anipla代表として、“Anniversary Planning”事業を手掛ける。誕生日やプロポーズなど人生でかけがえのない瞬間をサプライズでより豊かにするためのアイデアプランニングを実施。SNSで思い出が共有される現代的なニーズに対応したビジネスを実施している。

  • Web
    能勢 哲司
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター 事業開発室

    中国上海市出身。電通で上海万博プロジェクト、自動車メーカー担当営業を経てクリエーティブブティックへ出向。その後、現在の事業開発領域ビジネスに従事。デジタルファブリケーション分野のビジネス開発からスタートアップ企業との協業、異業種とのネットワーキングに注力している。

  • 14580463 1225228107497344 1248304897 n
    天野 彬
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーション研究部 研究員

    1986年生まれ。東京都出身。東京大学大学院・学際情報学府修士課程修了。
    2012年電通入社後、マーケティング部門、新規事業開発部門を経て、2014年から現職。
    スマートフォンのユーザーリサーチを中心に、現在のメディア環境やオーディエンスインサイトを分析している。
    著書に『二十年先の未来はいま作られている』(2012年、日本経済新聞出版社、共著)、『情報メディア白書2016』(2016年、ダイヤモンド社、共著)。その他レポート執筆やセミナー講師など経験多数。

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