汐留メディアリサーチャー時評 #04

スマホで動画、あなたはタテ派? ヨコ派?

  • 奥 律哉
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーションラボ統括責任者

電通総研メディアイノベーション研究部は、メディアや情報通信環境の変化、そしてオーディエンスの動向を探ることをミッションとするシンクタンクです。

ウェブ電通報でもリサーチプロジェクトの知見をお伝えする「インサイトメモ」を連載していますが、この「汐留メディアリサーチャー時評」では、当部ならではのナレッジをベースに、現代のメディア環境に関するトレンドをピックアップし分析と考察を進めていきます。

第4回はスマホで動画を見るときの「向き」から、いまどきのネット動画の見られ方に潜むインサイトへとアプローチします。スマホで動画を見る普段のシーンを想起してみてください―あなたはタテ派でしょうか、それともヨコ派でしょうか?

汐留メディアリサーチャー時評4
 

通信環境の整備やスマートデバイスの普及によって、テキストから画像へ、そして映像へとコミュニケーションの比重が変化し続けており、いまやネット動画と私たちの距離はかつてないほどに縮まりつつあるようです。そうした状況を踏まえ、当部でも例えば通勤通学中の動画視聴実態についてのリサーチ結果を公表しています。

ネット動画と一口で言っても、その内実は動画配信サービスから、いわゆるCGM的な動画共有サービス、そして最近ではSNSやニュースサイト上にエンベッドされた(埋め込まれた)動画など、種類も量もますます増加し続けています。

そして今年は、各社の動画配信サービスの充実や、10月26日にローンチされる「TVer」などテレビ番組のキャッチアップサービスがラインアップとしてそろった点も、このテーマを考える上で特筆すべき視点です。

ぱっと見るものから、じっくり見るものまで、ネット動画の選択肢は広がり続けています。

この記事を読む方の多くも日常的に動画をスマホ上で見ていると推察しますが、ここで問題になるのは、そのときあなたのスマホは縦向きなのか、それとも横向きなのか?―ということなのです。ここに、スマホ動画のこれからを考えるヒントが隠れています。

結論から述べると、最近ではスマホを縦にして動画を見るユーザーが若年層を中心として顕著に増えています。そしてそうした現象と表裏一体のかたちで、縦で見られることを当初から想定した動画配信の縦型サービスも増加しているのです。

それでは、縦で見ることと横で見ることの差はどこにあるのでしょうか?
当部の調査結果から読み解いていきましょう。

10代~20代半ばの男女で、スマートフォンで画像や動画アプリを非常に頻繁に使うヘビーユーザーを対象に、グループインタビューを実施した結果を表の形式でまとめたのが図1です。

表頭には「接触モード」「コンテンツの性質」「尺の長さ」という尺度を置き、動画のタテ視聴とヨコ視聴でどんな差があるのかを整理しています。

主な傾向として、ヨコ視聴ではじっくりと腰を据えて見るようなエンターテインメント寄りの長尺動画が見られ、タテ視聴では短尺の動画がよく見られ、それもコミュニケーション寄りのものが多いということができそうです。

動画のタテ視聴/ヨコ視聴による場合分け
 
ではなぜこう場合分けできるのか、その根拠となるユーザーの具体的な生声を拾ってみましょう。

●「普段はスマホでも縦で見ることが多いが、音楽ライブや見逃したドラマなどじっくり見たい長尺のものについては横にして見ている」

●「スマホは縦でロック(向きが変わらないよう固定)している。重要度が低い動画はそのまま縦で見る。見たい動画については、むしろパソコンからアクセスしてテレビ同様ワイドで見る」

●「画像含め、動画もどれを見るかスクロールするから縦の方が早いし面倒くさくない。サムネイルで選んでそのまま動画を見る」

●「動画を縦で見る方がアクションが1つ少ないので(横に画面を倒さなくていい)、楽に視聴することができる」

●「Vine動画はTwitterで流れてきたものをそのまま縦で見る。方向を変えている間に終わるくらい短いので、縦がよい」

注目すべきは、「音楽ライブや見逃したドラマなどじっくり見たい長尺のものについては横にして見ている」という一方で、縦型スクリーン視聴が増えるのは、「横にして見るのはアクションが増えるので面倒」「本当にこだわりがある動画以外はそれで十分」「縦型じゃないとスクロールできない(他のコンテンツにすぐスイッチできない)」などといった要因が背景にあるということです。

したがって、「これは見たい!」という意志を持って見られるような長尺でエンターテインメント色の強いコンテンツは横で見られ、それ以外は縦で見ようという選択がなされる可能性が高いことを意味します。

もちろん、冒頭で触れたように今後そうしたじっくり見せるタイプの動画を配信するサービスのオプションが増えてくることは念頭に置きつつ、ユーザー側の動画コンテンツの消費スタイルが変わっているということは押さえておくべきトレンドです。

そしてもう一点、調査結果から分かる特筆事項があります。それは、SNSやニュースサイトから動画コンテンツへつながる導線が一般化し、動画を見ることがネット上の情報行動にシームレスに接続されるようになっているということです。こうしたサイトやアプリの設計の変化が、動画のタテ視聴というトレンドに大きく関係しているのは間違いないように感じられます。

ネット動画がネット動画単体だけで完結していないようなコンテンツの生態系が生まれており、いわばネット動画を「専念視聴」しづらいという情報環境が、そのタテ視聴を促しているのです。

映像は「ヨコ」=ワイド比率で見ることに慣れた世代からすると少々抵抗感があることかもしれませんが、思えばこれまでにも、テレビはリーンバック(ゆったりと後ろにもたれかかりながら画面に向かい合う姿勢)で見るが、パソコンディスプレーはリーンフォワード(身を乗り出し気味に、前に向かって画面に接する姿勢)で見るといった明確な差異が存在していました。

つまり、「ユーザーはコンテンツごとに最適な見方を設定している」という示唆をここから引き出すとすれば、表でも整理したように、スマホが若年層を中心にコミュニケーションツールとして存在感を増しているという知見とも適合的なかたちで、スマホユーザーにとって動画を「タテ」で見ることが最適な見方になりつつあるというシフトを描き出せるでしょう。

そしてさらに踏み込むための事例をここで参照するならば、アメリカでミレニアルズ(アメリカの若年層を呼称するための世代ラベル)を中心に巨大なユーザー数と圧倒的なDAU(Daily Active Users:1日当たりのサービス利用者数)を誇るメッセンジャーアプリのSnapchatは、縦型フルスクリーンでの動画広告クリエーティブを進めています。

なぜならば、その方が圧倒的に「見てもらえる」からです(7倍よく見られるというデータもあるそうです)。

今見てきたように、スマホユーザーたちの間でスマホのタテ視聴が一般化し始めており、そうした動きと呼応するかのように縦型動画サービスも今後ますますの注目を集めていくでしょう。そしてそれはまだじっくり見せるだけの動画が不足している(あるいはアプローチできていない)ことの裏返しでもあるのかもしれません。

「縦」か「横」かという切り口は、単なるスマホの向きの話にとどまらず、これからの動画コンテンツのあり方の方向性を示唆する重要な視点として、チェックし続けていかなければならないのではないでしょうか。


電通総研メディアイノベーション研究部「ビジュアルコミュニケーションに関するグループインタビュー調査」調査概要
■調査対象者
首都圏在住の男女18~25歳(大学生ないし社会人)/N=10
■調査方法
1グループ5人でのグループインタビュー調査
■調査日時
2015年9月6日(日)

プロフィール

  • 奥 律哉
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーションラボ統括責任者

    1982年電通入社。主に情報通信分野について、ビジネス・オーディエンス・テクノロジー視点から研究開発を行う。著書に『ネオ・デジタルネイティブの誕生~日本独自の進化を遂げるネット世代~』(共著、ダイヤモンド社)、『情報メディア白書2016』(共著、同)などがある。

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