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「まずは見て、感じてほしい~車椅子バスケットボールというスポーツの魅力」

2015/10/22

京谷和幸氏

リオデジャネイロパラリンピック出場権を獲得した車椅子バスケットボール男子日本代表。そのアシスタントコーチとして、選手たちと一緒に戦った京谷和幸氏。Jリーガーだった22歳のとき、交通事故で脊髄損傷、その後車椅子バスケ選手として、2000年のシドニーから4度のパラリンピック出場を果たした。京谷氏に、車椅子バスケを観戦する際のポイントや魅力などについて伺った。


選手らの緻密な会話、「これはスポーツだ」

僕はもともと、プロのサッカー選手でした。Jリーグ開幕から5カ月がたった1993年の秋、交通事故で脊髄を損傷し、選手の道を降りて車椅子の生活になりました。車椅子バスケットボールに出会ったのは、僕が後に所属するチーム「千葉ホークス」の選手で浦安市役所の職員でもあった方が、スカウトに来られたことがきっかけです。でも、最初はあまり乗り気じゃなかった。プロでスポーツをやっていた自分からすれば、大したレベルではないだろうと高をくくっていました。それが、千葉ホークスのプレーを見て一転。そのレベルの高さに驚かされます。そして、選手不足から半ば強制的に参加させられた名古屋の国体でトップクラスの選手の試合に圧倒されました。試合中の迫力もそうですが、それ以上に、タイムアウトのときの選手とコーチのレベルの高い緻密な会話。タイムアウト明けのワンプレー目で、今話し合ったことがもうできている。「これはスポーツだ」と、全く認識が変わった。同時に、志半ばで失ったスポーツの輝き、栄光みたいなものを、もう一度つかみにいけるんじゃないかと思った瞬間でした。

千葉ホークスでプレーするようになり、サッカーとの共通点も見つけました。例えばサッカーは手を使えませんが、車椅子バスケも手でこいでいるので、後ろにパスがずれると受け取れません。前に前にボールを運ぶ、というふうに。両方ともチームスポーツで、ボールがあって、攻撃法があって、守備があって、これはサッカーだと思ってから、僕の思考はどんどん発展していきました。サッカーでは僕は司令塔のような役割だったので、ゲームをコントロールすることを意識してパスを出したらすごくうまくいったんです。その後は車椅子バスケにのめり込んで、2012年のロンドン大会後に引退するまで4度パラリンピックに出場しました。現在は、大学のサッカー部のコーチや車椅子バスケ男子日本代表アシスタントコーチなど後進の指導に努めています。

三菱電機2015 IWBFアジアオセアニアチャンピオンシップ千葉 日本-タイ(10月10日)

車椅子バスケならではの「クラス分け」とチーム内の役割

車椅子バスケを初めて見る方に、特に知ってほしいのは「クラス分け」です。車椅子バスケはルールやコートの広さ、バスケットの高さなどは一般のバスケとほぼ同じですが、クラス分けは車椅子バスケならではのものです。個々の選手は障がいの重い順に1.0から4.5までの持ち点があり、試合中の5人の合計点が14点を超えてはいけないと決まっています。チーム間の公平性を保ち、障がいの重い選手も出場できるようにするための仕組みです。僕の持ち点は1.0。腹筋と背筋の機能がなく体幹を回せない。体を支えるために車椅子の重心が低く、背もたれから離れられないので持ち点の高い選手のようには動けません。

でも、チームの中ではそれぞれの選手に役割があります。比較的高い運動機能を持つ選手はハイポインターと呼ばれ、点を取ったりボールを素早く回したりします。一方、ローポインターの選手には、ゴール下に相手の選手を行かせないように車椅子で押さえ込むという役割。ボール争いとは違う激しい攻防があるんです。初めて見る方には、ハイポインターの選手ではなく、逆にローポインターの選手を見てもらったら面白いのでは。この人がこういう動きをするから、この人が点を取れるんだと視点をちょっと変えてみると、車椅子バスケならではの動きが分かりやすいかもしれません。

戦術でも特有のものがあります。車椅子バスケでは、相手の車椅子の動きを止めてしまったら相手は動けません。それはどこのゾーンでやってもいいんです。極端な話ですがボールを運んで来たらゴール下には二人しかいないということもありますし、逆に攻めるときは相手の中心的なハイポインターを抑えて、あとは楽に4対4で攻めるとか、車椅子の特性を生かしたさまざまな戦術・戦略も分かってくると一層面白く見てもらえると思います。

成長させてくれたスポーツの力、まず見ることから

僕の周りには、子どものころから常にスポーツがあって、スポーツをするのが当たり前の環境でした。今振り返れば、サッカーと車椅子バスケから得たものはものすごく多い。京谷和幸の性格のベースをつくったのは、サッカーだと思います。負けず嫌いとか、俺が一番だとか(笑)。事故というきっかけによって、それが崩れ、自分を見直すようになって、車椅子バスケに出会い、人のために動くことを知りました。自分が動けないんだから、あいつを前に行かさなきゃいけない。いいプレーをしたメンバーを褒めたら、今度は自分を褒めてくれた。うれしい、じゃあまた褒めようと。スポーツが、そういう人間へと成長させてくれたのだと思います。

スポーツは、見る人にも力を与えてくれる。僕自身、普段はそれほど見ない野球も甲子園の高校野球で熱くなったり、バレーボール日本代表が注目されれば見てみて「うわっ、すごいな」と思ったりします。ベタな言い方ですが、感動や勇気を与えてくれるというのはまさにその通りです。

やはり、まず見ることから始まると思います。車椅子バスケはまだまだ認知度も低く、見たことのない人が大半だと思いますが、見てもいない状況で判断せずに、まずは見てみてほしい。そこで何を感じるか、感じたものを素直に持ち帰ったときに心がどう反応するのかは僕らには分かりませんが、まず感じてもらいたい。
選手の育成に力を尽くしながら、多くの人に車椅子バスケというスポーツを知り、楽しんでもらえるよう活動していきたいと思っています。