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Brand TalksNo.6

BtoBマーケティングの未来:
LinkedInのグローバル・ソリューション
最前線(後編)

2015/10/27

ビジネス利用に特化したSNSであるLinkedIn(リンクトイン)では、全世界に広がる3億8000万ユーザーのユーザー基盤を軸に、グローバルなBtoBマーケティング支援に力を入れています。前編に続き、「BtoBマーケティングの未来」をテーマに、同社の広告事業でBtoB部門を統括するブライアン・バーディック氏と電通の小西圭介氏が語り合いました。

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左から、ブライアン・バーディック氏(LinkedIn)、小西圭介氏(電通)
 

“Dog Fight”にもつれ込む前に、強者になっておくこと

 

小西:前回では、BtoBマーケティングにおける5つのトレンド——モバイルにおけるレレバンス(関連性)の重視、データによるユーザー体験の革新、テクノロジーによるナーチャリングの進化、予測の高精度化、そしてアドテクとマーケティングテクノロジーの融合について伺いました。
私もさまざまなBtoB企業のブランディングやマーケティングをお手伝いしていますが、そこでは幅広いステークホルダーを前提にしたコーポレートコミュニケーション活動と、ターゲットの特化したプロダクトマーケティングやセールスの活動が得てして切り離されがちです。それが、オーディエンスデータを活用して顔の見えるターゲットへ広告やコンテンツを配信することで、ブランディングから実際のセールスへとつながる一貫した流れが実現しつつある点が非常に効果的だと感じます。

ブライアン:ありがとうございます。ひとつ言えるのは、こうした一貫したアプローチが、これからは主流になるだろうということです。少なくとも、企業や商品の認知から始まり、成約をゴールとするフルファネル全体へのアプローチ(下図)に取り組むマーケターは、デジタルマーケティングの進化で急速に増えていると思います。   

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小西:特に、これまでのリード(見込客)獲得至上主義から、もっと広さと的確さを兼ね備えたアプローチで潜在顧客を開拓して、継続的なコミュニケーションで育てようという動きは重要ですね。

ブライアン:そうです。正直、コンバージョン(成約)の最大化というファネルの下部だけに力を入れていても、短期には成果が上がるかもしれませんが、長期的には効率も効果も低下して厳しいですね。
なぜなら、このボトムファネルで展開されるのは、競合とのいわゆる“Dog Fight”、泥仕合です。結果が見えやすいからか、ここにばかりマーケターは投資しがちですが、本来はユーザーが購買を決定する段階に至る前の時点に、自社が最も有力なプレーヤーになっているべきなのです。

小西:インターネットで情報アクセスや比較検討が容易になった今日のBtoBビジネスの購買プロセスでは、商談の前に8〜9割の企業担当者が購買する製品を決めているという話もよく聞きます。つまり、その段階以前に、潜在顧客に対して有益な情報提供などのコンテンツマーケティングを通じて、自社を有力な検討候補に入れてもらう取り組みがより重要になっているということですよね。

ブライアン:Exactly! 複数の調査結果が、ビジネス購買者が営業担当に会う前にほとんど心を決めていることを示しています。まさに、潜在顧客へのアプローチが大事です。
ミッドファネル、アッパーファネルに投資して、自社のプレゼンスを高めること。認知の段階から丁寧にアプローチし、自社や製品への理解を深めてもらって、最終段階ではほぼ成約につながるくらいの関係が出来上がっているのが理想です。営業担当に会う前の、マーケターが発信していく情報の重要性が増しており、小西さんが指摘されたコンテンツマーケティングはBtoBにおいても今や欠かせない取り組みです。

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また、最終的に成約に至るユーザーは、それまでに平均して10件のコンテンツを閲覧するといわれています。こうしたカスタマージャーニーも考慮した方がいいですね。もちろん、ただ10件出せばいいわけではなく、プロセスの各段階において最適な学びがあるべきです。さらには、どんな考え方で購買を決定するべきか、という観点に沿ったアプローチも有効だと思います。

ビジネス上のつながりを描く、「エコノミックグラフ」

 

小西:なるほど。LinkedInのオーディエンスデータを活用することを考えると、そうやって組み立てたコンテンツを、ユーザーが自ら登録し、常に更新される生きたデータに対して発信できることに大きな可能性を感じます。イベントなど、ある時点で獲得した見込み顧客リストは時間とともに価値が低下していくので、全く意味が違ってきますね。
また、LinkedInではユーザーのビジネス上のつながりを可視化する「エコノミックグラフ」という考え方を持っている点を興味深く聞きました。ソーシャル上のつながりを表す「ソーシャルグラフ」や、人の興味を可視化する「インタレストグラフ」などの考え方に対して、経済的なつながりを可視化すれば、さらなるチャンスがどこにあるのかも見つけやすくなると。

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ブライアン:生きたデータという点はたしかに当社の強みですね。ユーザー個人のネットワークに加えて、企業ドメインや教育機関などのつながりを可視化する。会社や仕事の内容、卒業した大学など、当社がグローバルで保有しているデータは非常にパワフルです。これらを精緻に分析すれば、次のチャンスを見出すのにきっと役立つ。
当社はオンラインビデオ学習サイト「リンダドットコム」を買収しましたが、たとえばここで誰がどんなことを学んでいるのかという情報も、エコノミックグラフにおいては重要な要素です。さまざまな経済のダイナミズムが起きてくる中で、今後成長する業界を割り出すようなことも可能ですし、その分野の講義を大学に組み込むこともあるでしょう。

小西:それは非常に興味深いエコノミックグラフの活用ですね。こうしたデータを通じて、既存のビジネスだけではない社会的・経済的な貢献も期待できるかもしれません。

ブライアン:当社が持つデータ量が多いほど、このエコノミックグラフは充実し、冒頭で紹介した当社のビジョン「世界中のプロフェッショナルのために経済的な機会を創出すること」の実現にも近づきます。経済機会の創出は、口で言うほど簡単ではないと思ってはいますが、LinkedInならばこうした発展と貢献が可能だと私は自信を持っています。

小西:ビジネスリーダーやプロフェッショナルが個人として、SNSを通してグローバルに「顔の見える発信」ができることも、興味深く思います。最近は世の中全体が情報過多で、プレスリリースなど企業の情報発信もなかなか届きにくくなっている中、CEOなど企業の中の個人がブログやSNS通じた発信をブランディングにつなげる流れが強まっていますが、そのあたりのトレンドや取り組みを教えていただけますか? 

ブライアン:そうですね。情報発信のトレンドとしては2つ挙げられます。ひとつは、企業のCEOなどエグゼクティブによるブログ記事を通した発信です。当社でも2年前から招待制の「インフルエンサープログラム」という仕組みを展開していて、現在グローバルで500人ほどのインフルエンサーがオピニオンを発信しています。例えばバーバリーからアップルに転身したアンジェラ・アーレンツや、ハフィントンポストを立ち上げたアリアナ・ハフィントン、それからゼネラル・エレクトリック社のリーダーを務めたジャック・ウェルチなどのブログが、ビジネスリーダーにとって非常に人気の情報源となっています。
もうひとつは、従業員を通した発信です。例えばIBMのような企業では、個人がプロフェッショナルとして専門分野の情報をブログやアップデードで発信をすることを奨励しています。また当社の「LinkedIn エレベート」というアプリでは、「グリーンエコノミー」や「IoT」といった新規の分野で企業がリーダーシップを取りたい場合、従業員へそのテーマの記事の投稿・シェアを促すことで、従業員を介した企業ブランディングの効果を見込めます。

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LinkedInの今後の戦略と可能性は?

 

小西:では最後に、LinkedInというプラットフォームを今後どのようにされていきたいか、将来の展望を少し伺えればと思います。 個人的にはLinkedInの独自性である、プロフェッショナルを世界規模でつなぐネットワークには、非常に大きな機会があると思っています。私の空想も入りますが、例えば、いろいろな業界のプロのコミュニティーを形成することで、特定の専門能力を提供し、プロフェッショナル個人のビジネスやコラボレーションを支援するプラットフォームを形成できるのではないかとか。あるいは、オープンイノベーション(企業や組織が自社だけではなく、外部のプロフェッショナル、起業家などの持つ技術やアイデアを組み合わせてイノベーションにつなげること)のような、企業が外部の専門家とパートナーシップを結んでコ・クリエーションに取り組むとか。

ブライアン:なるほど、とても興味深いアイデアですね。そういう意味では一つ、まさに今シリコンバレーでパイロット的に行っている「プロ・ファインダー」というプロジェクトがあるんです。特定の能力を提供する、というアイデアに近いと思いますが、例えば法律などの特殊な専門性やスキルを持った人を見つけたり、それを提供し合ったりする機会をつくろうとするものです。ここには先ほどお話しした学習サイトの「リンダドットコム」のプラットフォームも生かせると考えています。

小西:すでに実験中ということですね。他にも、「ビジネスコミュニケーションのコンタクトポイントを統合するプラットフォーム」という見方をすれば、オンラインだけでなくイベントなどのオフラインの場でも、LinkedIn IDを名刺代わりに、シームレスなアプローチができるシステム・サービスの拡張も大きなチャンスがありそうです。

ブライアン:たしかに、顧客とのコンタクトポイントが点在している状態になっているので、点と点をつなげる取り組みはこれから起きてくるでしょうし、当社でも提供していかなくてはと思っています。データを駆使して、あらゆる接点を統合的に見て望ましい情報を提供し、また一貫した印象が実現するような取り組みが必要ですね。   

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小西:最後に、日本市場における今後の取り組みはいかがですか。日本では、終身雇用の慣行が依然として根強いものの、昨今のグローバル化とビジネス環境の激変の中で、企業と社員の契約関係やキャリアに対する意識にも次第に変化が見られつつあります。LinkedInのような、組織を超えたプロフェッショナルとしての自律的なキャリア育成やつながりを支援するプラットフォームの役割は重要になっていくと思います。一方で、転職サイト的なイメージの誤解もあるので、今回ご紹介いただいたような、企業にとってのグローバルなBtoBマーケティングにおける価値を認識してもらうとよいのではないかと感じました。

ブライアン:そうですね。すでにいくつかの先進的な日本企業が、当社のプラットフォームを活用したマーケティングに取り組んで成果を出し始めていますが、LinkedInならではのグローバルなマーケティングソリューションの可能性を、日本のブランド企業にも知っていただきたいと思います。

小西:今日はいろいろと貴重なお話をありがとうございました。