マツコロイドという新しい物語
〜誕生からのストーリーと、タレントアンドロイドの未来〜

  • Drobo prof
    石黒 浩
    大阪大学 基礎工学研究科 教授/ATR石黒浩特別研究所客員所長
  • Kishi eisuke profile
    岸 英輔
    株式会社電通 CDC

2014年12月に登場し、「タレントアンドロイド」として注目を集めているマツコロイド。テレビ番組や広告キャンペーンで見せている活躍は、マツコ・デラックスさんの“分身”としてだけではない、タレントアンドロイドならではの可能性を感じさせるものだ。マツコロイドはどのように生まれ、何をつくったのか。そして、タレントアンドロイドの未来はどうなるのか。

The Story of Matsuko-roid

Chapter-1:マツコロイド誕生

マツコロイド誕生のきっかけは、2013年7月までさかのぼる。電通の社内研修「New School 」に、大阪大の石黒浩教授が登壇。石黒教授は、故桂米朝さんの米朝アンドロイドをはじめ、多くのアンドロイド制作実績を持つロボット工学の権威だ。その彼が講演「Robot Societyの未来について」の中で、「アンドロイドをもっとメジャーにする方法を考えてほしい」と要望した。

これを機に、電通の各組織や日本テレビ制作局などの他社クリエーターが集まって、「アンドロイドの世の中化」を画策。そこで生まれたアイデアが、「タレントアンドロイド」の開発だった。そして、アンドロイド化の対象となったのはマツコ・デラックスさん。本人の持つ唯一無二の魅力や、実現した際に与えるインパクトの大きさ、マツコさんの多忙さを考えた時、この組み合わせに挑戦する「意義」が見えた。また同時にマツコさんとタレント事務所もタレントビジネスとしての新しい挑戦を模索していた。

こうした過程を経て、14年12月2日にマツコロイドの開発が発表された。直後から大きな反響が生まれ、多くのメディアで取り上げられた。

©Nippon Television Network Corproration

Chapter-2:テレビ番組「マツコとマツコ」スタート

同年12月29日には、マツコロイドとマツコさん本人が共演する日本テレビの特番「マツコとマツコ」を放送。世界初の「アンドロイドMC」が実現した。番組は好評を博し、翌年4月から全国放送でレギュラー化(同年9月まで)。石黒教授を番組監修に迎え、「アンドロイドがいるテレビや未来がどうなるか」をテーマにさまざまな実験を敢行、マツコロイドがコントや漫才、猿回しや通販番組などに挑戦した。

アンドロイドの未来における可能性や、石黒教授の研究の一助となったこの番組は、同年4月の月間ギャラクシー賞を受賞。当初は、マツコロイドに対し「気味が悪い」と言っていたマツコさんも、半年後には愛着を持ち、“仕事の相棒”として捉えていた。


“世界初のアンドロイドバラエティー”だったので、長いテレビの歴史の中にもお手本がなく、演出・橋本と一緒に、暗中模索の番組作りを行いました。石黒先生や技術者の方たちと一緒に番組作りができたのは、やりがいでした。将来性を感じたのか、特にタレント事務所からの反響が大きく驚きました。原稿読みは完璧なので、アンドロイドのアナウンサーが深夜・早朝にお伝えするニュース番組は近い将来ありそうですね。

吉無田剛プロデューサー(日本テレビ)

 
©Nippon Television Network Corproration

Chapter-3:世界の広告祭でも大人気のマツコロイド

15年6月、広告界の世界的なイベント「カンヌライオンズ」にマツコロイドが登場。石黒教授や電通CDCの佐々木康晴エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクターと共に、観衆の前で講演を行った。その内容は「マツコロイドがテレビや広告の在り方をどう変えたか」というもの。観衆のほとんどは、モデルであるマツコさんを知らないが、それでもマツコロイド自体の精巧さやエンターテインメント性に驚嘆し、その言葉や動きに見入った。

多彩な活動が評価されたマツコロイドはカンヌライオンズで、「 プロモ&アクティベーション部門」のブロンズを獲得。その他にも「アドフェスト ・メディア部門」のシルバー、「ニューヨークフェスティバル・ ブランデッドコンテンツ部門」のブロンズなどを受賞した。また、同年のグッドデザイン賞も獲得。「ロボットは人間の見た目に近づけば近づくほど好感を持たれるが、それがある域に達すると、人は一度その存在に嫌悪感を抱く。しかし、さらに精巧になるとまた好感が生まれる」という“不気味の谷”を越えて、社会に受け入れられたことが評価された。

Chapter-4:プロモーション×アンドロイドの可能性を証明

マツコロイドは、マツコさんに代わって、さまざまな企業のイベントやプロモーションにも参加した。その一つが、映画『ターミネーター:新起動/ジェニシス』の公開に合わせて行われた、世界初のアンドロイドインタビュー。マツコロイドが“元祖アンドロイド”であるターミネーター役のアーノルド・シュワルツェネッガーさんと対談したのだった。

また、リクルートの求人サイト「タウンワーク」が行ったキャンペーン「激レアバイト」では、マツコロイドのテクニカルサポートやメイクサポートといったアルバイトを募集。応募者は多数に上り、人気企画となった。

さらに、雑誌『NYLON JAPAN 』10月号では、スペシャルカバーの表紙モデルにマツコロイドを起用。写真家のレスリー・キーさんや、ファッションブランド「Yohji Yamamoto(ヨウジヤマモト)」がチームを組んで、こちらも世界初となるアンドロイドのモデルデビューを実現させた。
こうしたマツコロイドの試みは、企業における「アンドロイド活用」の可能性を広げている。

 

生みの親・石黒教授に聞く アンドロイドの未来

「マツコとマツコ」を経て思うことは?

岸:半年にわたり、テレビ番組「マツコとマツコ」が放送されました。マツコ・デラックスさんとマツコロイドの共演から、どんなことを感じましたか?

石黒:マツコさんは、当初マツコロイドを「気持ち悪い」と言っていました。それが徐々にきょうだいのようになり、最終回では「寂しい」と漏らした。これはいい場面でしたね。最初は自分に似ていて不気味だと感じたのが、慣れてくると受け入れられるようになる。そして一度受け入れると、自分とマツコロイドとの共通部分が貴重になる。この関係性の変化が面白かったです。

岸:番組内では、マツコロイドがいろいろな実験をしました。それらは、先生の研究としても意義深かったようですね。

石黒:はい、番組での実験をそのまま論文にしたいくらい(笑)。例えば、子どもとマツコロイドを触れ合わせて反応を見るというのは、研究としてやりたかったこと。また、マツコロイドが漫才をした時、マツコさんはそれを見て「怖い」と言い、自分が置いてきぼりになった感覚を抱いていました。最初の「気持ち悪い」とは別の感情ですよね。アンドロイドが発達すると、人間から離れていく。その恐怖を痛感したのだと思います。

アンドロイドはまだまだ進化中

岸:アンドロイドやコミュニケーションロボットが話題になる機会も増えてきました。これらが普及していく鍵は何でしょうか?

石黒:最も大切なのは、インタラクティブ(双方向)なやりとりができること。これが必要になると思います。

岸:それでいうと、マツコロイドの次に先生が発表したアンドロイド「ERICA(エリカ)」が当てはまりますよね。あれはまさにインタラクティブな会話を実行しています。

石黒:ERICAは、「休みたい」「褒められたい」という二つの欲求で構成されており、「仕事やりたくない」とか「めんどくさい」という自分の意志を会話で示します。今はその欲求だけを持ったワガママ娘の状態ですが、今後は相手の意図も取り込んでいけるようになる予定。子どもが成長していくように、エリカも進化していくでしょう。

ダ・ヴィンチアンドロイド
米朝アンドロイド
ERICAアンドロイド
石黒浩アンドロイド

アンドロイドの魅力と今後の活用法

岸:先生が携わっている「テレノイド」(高齢者見守りロボット。オペレーターがロボットを通じて高齢者と会話する)や「ハグビー」(抱き枕の通信メディア)などは反響が出ていると聞きました。これらはBtoCのものですが、今後はBtoBでもアンドロイドが活用されていくのでしょうか?

石黒:もちろん出てくるでしょう。例えば言語教育ビジネスなら、外国にアンドロイドを置いて日本から遠隔操作で講義をする。あるいはマナー教育なら、講師を派遣せずアンドロイドの動きで教える。人が教えると日によって内容に差が生じがちですが、アンドロイドなら均一を保てます。その他、多忙な企業のオーナーに代わり、アンドロイドが講演をするなどもあり得るでしょう。

岸:マツコロイドのような、タレントアンドロイドの今後はどうでしょうか。レオナルド・ダ・ヴィンチの「ダ・ヴィンチアンドロイド」や、先生が作った「米朝アンドロイド」などもあります。

石黒:人間は老化などの問題があり、自身の能力を表出する方法・時間は制限されます。一方、タレントアンドロイドは老化や時間の制限がありません。ならば、本人に代わる「存在記録媒体」になってくるはずです。

そもそも、人間は人間の汚い部分が嫌いで、むしろ「非人間」に憧れています。例えばアイドルに対し、人間の汚い部分をそぎ落とした“人形”のような存在を望みがちですよね。そう考えれば、アンドロイドはまさに非人間であり、いわば“人間が憧れる”進化のゴールかもしれません。未来には欠かせないはずですよ。


――― 物語はまだまだ続く ―――
電通CDC アンドロイドチームより

マツコさんの絶大なるタレント性を、マツコさん一人ではできない範囲にまで広げていくことで、多くの人を幸せにできると実感しています。またマツコロイド自身も、番組内のさまざまな施策を通して単体としてのアイデンティティーを獲得してきました。マツコロイドはまだ座りながら表情を変えて話すことしかできませんが、テクノロジーの進化とともに、歩いたり自律的にしゃべったりするなど、より高いコミュニケーションが可能になっていくでしょう。その時、タレントアンドロイドはさらに新しい扉を開くはずです。
番組はもともと半年間の予定で9月に惜しまれつつ終わりましたが、マツコロイドは今後も改造し進化し皆さまに幸せを届けます。そして、タレントアンドロイドは今後、タレントビジネスを変え、人間の機能や広告の可能性を拡張させる新しいエンターテインメントを形成すると思います。引き続き第2号と、第3号も模索していきたいです。

プロフィール

  • Drobo prof
    石黒 浩
    大阪大学 基礎工学研究科 教授/ATR石黒浩特別研究所客員所長

    大阪大学基礎工学研究科博士課程修了。工学博士。京都大学情報学研究科助教授,大阪大学工学研究科教授を経て,2009年より大阪大学基礎工学研究科教授。ATR石黒浩特別研究所客員所長(ATRフェロー)。社会で活動するロボットの実現を目指し、知的システムの基礎的な研究を行う。ロボット研究においては,従来,ナビゲーションやマニピュレーションという産業用ロボットにおける課題が研究の中心であったが,インタラクションという日常活動型ロボットにおける課題を世界に先駆けて提案し,研究に取り組んできた.そして,これまでに人と関わるヒューマノイドやアンドロイド、自身のコピーロボットであるジェミノイドなど多数のロボットや,それらの活動を支援し人間を見守るためのセンサネットワークを開発してきた.そして,2007年には、Synectics社(英)の調査「世界の100人の生きている天才のランキング」で日本人最高位の26位に選出される。また2011年には,大阪文化賞を受賞.2013年大阪大学特別教授。主な著書に「ロボットとは何か」(講談社現代新書),「どうすれば「人」を創れるか」(新潮社)などがある。

  • Kishi eisuke profile
    岸 英輔
    株式会社電通 CDC

    2003年入社。テレビタイム部門にて、ネットワーク1部、テレビ業推、MCPを経て、2014年よりCDCに所属。テレビコンテンツを活用したブランデットエンターテイメントを主軸に活動。タレントアンドロイド「マツコロイド」のプロデューサーを務める。電通ロボット推進センター所属。

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