エゾシカの資源的活用がグランプリ~生物多様性 日本アワード授賞式開催
2015/10/27
イオン環境財団は10月20日、東京・渋谷の国際連合大学ウ・タント国際会議場で第4回「生物多様性 日本アワード」の授賞式を開催。生物多様性の保全、持続可能な利用に顕著な貢献が認められる5つの活動を優秀賞として顕彰した。また優秀賞の中からグランプリにエゾシカ協会の「エゾシカの先進的な資源的活用促進事業」を選出した。
授賞式ではまず、同アワード審査委員長を務めたイオン環境財団の岡田卓也理事長が主催者代表としてあいさつに立った。年々応募数が増え、今年は全国各地から126件が集まり同アワードが社会に定着したと強調。「今回受賞した取り組みはいずれも国際的に通用するもの。環境問題に国境は無い。生物多様性問題をはじめ環境改善と社会の持続的発展は国家の壁を越えて取り組む必要がある」と、今後の環境社会貢献活動への決意と協力を呼び掛けた。
続いて優秀賞の5つの活動を表彰。エゾシカ協会「エゾシカの先進的な資源的活用促進事業」ほか、伊藤園「『お茶で琵琶湖を美しく・お茶で日本を美しく』プロジェクトを通じた生物多様性保全の取り組み」、九州の川の応援団/九州大学島谷研究室「水辺環境の保全・再生の実践と地域活性化」、グラウンドワーク三島「市民力を結集してドブ川を多様な生き物がすむ『ふるさとの川』に再生・復活」、気仙沼市立大谷中学校「大谷ハチドリ計画(Ohya Hummingbird Project)」の各代表が登壇し、岡田理事長から表彰楯と副賞、記念品を受け取った。
グランプリにも選ばれたエゾシカ協会会長の北海道大学大学院農学研究院・近藤誠司教授は檀上で受賞の喜びを語り活動内容を紹介した。
北海道では明治初頭の乱獲と大雪で100年ほど絶滅に近い状態だったエゾシカ。エゾシカ肉を利用する文化も消えてしまったという。ところが1990年代から突然、エゾシカが増え始める。エサとなる植物とのバランスを保って持続的に維持できる適正数は20万頭とされるが、同協会の活動でやっと50万頭を切った段階だという。
近藤教授は「1つの種が増え過ぎると生物多様性は崩壊していってしまう。当協会、道庁、道民そろって人間の力で20万頭程度まで管理したい。個体数を減らすだけではなく、自給飼料で育つエゾシカの肉を食卓に乗せ、さらに皮、骨、角まで活用して命を大事にしていきたい」と理念を語った。
次に審査委員のユニバーサルデザイン総合研究所長・赤池学氏が、今回の受賞活動は、「Working Together」(協働)と「生物多様性プラス」の2つのキーワードで評価できると講評。各団体が、生物多様性の保全修復・生物の資源活用のために市民や行政、生産者、教育施設、NPOなど多様なステークホルダーを巻き込んで成果を挙げていること、地域に産業振興などプラスアルファの付加価値をもたらしていることを高く評価した。
続いて環境省自然環境局長の奥主喜美氏が登壇。祝辞に添えて「COP10で採択された愛知目標の達成に向けてあらゆる自治体が危機感を共有し、連携して取り組みを強化する必要がある。環境省としても生物多様性の主流化を推進し、同財団としっかりと連携していきたい」と抱負を述べた。
受賞者のプレゼンテーションでは、入賞した5つの団体が各活動を解説。優秀賞の「大谷ハチドリ計画」では気仙沼市立大谷中学校の生徒2人が登壇した。
同活動では2011年3月11日の東日本大震災で被災しても、大谷の自然の復興を目指して根気強く松林の育成やワカメの養殖、冬期の水田に水を張り地力を再生させる「ふゆみずたんぼ」を継続。大きな山火事に水をひとしずく落とすハチドリの物語のように、皆ができることから始めれば大きな力になると呼び掛け、会場から大きな拍手が沸き起こった。
授賞式後には、東京農業大学農学部の長島孝行教授が「生物多様性に学ぶものづくり インセクトテクノロジー」のテーマで講演を行った。カイコガなどの昆虫が作る糸状のタンパク質「シルク」の研究など全動物の80~90%を占める昆虫を社会に持続的に活用するテクノロジーを紹介し、地球環境保全と経済の両立によって自然に生物多様性が持続できることを強調した。
今年25周年を迎える同財団は国際生物多様性年の2010年に日本で開催された「生物多様性条約第10回締約国会議」(COP10)を契機に、生物多様性の保全と持続可能な利用の推進を目的とする2つのアワードを創設。
その一つが国内賞の同アワードで、もう一つは国際賞「The MIDORI Prize for Biodiversity」(生物多様性みどり賞)。前者は優れたプロジェクトを、後者は顕著な貢献のある個人を、隔年で交互に顕彰している。