AIがもたらす未来 #01

「シンギュラリティ」という壮大な仮説 真の脅威はその「検証力」にあり

  • Nittou pr
    日塔 史
    株式会社電通 イベント&スペース・デザイン局 エクスペリエンス・テクノロジー部 シニア・マネージャー

「2045」という数字に反応する人は、2年前ならばどれくらいただろうか? しかし、ここ1年ほどで急速にその割合は増えているだろう。

今回テーマとなっている「シンギュラリティ」とは「特異点」のことで、もともとは物理学や数学の用語である。「通常の範囲を逸脱した地点」を意味していて、例えばブラックホールの中心には見かけの体積がゼロなのに質量が無限大となる特異点があるとされる。

しかし近年ブームとなっているのは「技術的特異点」と呼ばれるもので、数学者でSF作家のヴァーナー・ヴィンジや、ロボット工学者のハンス・モラベック、発明家で未来学者のレイ・カーツワイルが広めたとされる。

その世界観の根本原理は、カーツワイルが提唱した「収穫加速の法則」(The Law of Accelerating Returns)に代表されるように「技術は直線的(Linear)ではなく、指数関数的(Exponential)に進化する」というものである。

よく知られている「ムーアの法則」がゲノム解析、通信速度など集積回路以外のテクノロジー全般に見られることを、カーツワイルは定量的に検証し続けているのだ。

指数関数的な進化は、初めは緩やかで変化が感じられないが、ある点(つまり特異点)を迎えると、一気に人知の及ばないところに行ってしまう【図】。カーツワイルは光の速度をボトルネックとしつつも、それを克服することも示唆している。

カーツワイルは様々な技術進化のスピードを詳細に検証した結果、現実世界が技術的特異点を迎える時期を「2045年」と予測している。

GNR(G=遺伝学Genetics、N=ナノテクノロジー Nanotechnology、R=ロボット工学Robotics)の3つのテクノロジーが融合することにより、人間が死や老化を克服することや、人間と機械が融合すること、最後には宇宙全体が知性を持つことなどを予想しており、2005年にこれらの考え方を著書『The Singularity Is Near』(邦題:シンギュラリティは近い)で公表した際には賛否を巻き起こした。

なお、カーツワイルはGNRの「Robotics」を、いわゆる「強いAI」(AIで自己意識など人間の脳がもつ心的機能が全て実現できるという考え方)とほぼ同義に使用している。

このような考え方は、人間の尊厳や宗教観などに触れる領域であるため嫌悪感を示す人も多かったはずだが、次第にシリコンバレーを中心とした未来志向の起業家たちに幅広く受け入れられることとなった。

例えば、PayPal創業者のピーター・ティールは2009年のTEDxSiliconValleyで「All We Need is a Singularity」というプレゼンを行い、Googleはカーツワイルを2012年に雇い入れ、カーツワイルが創設したシンギュラリティ・ユニバーシティーには創立企業スポンサーとしてGoogleやCisco、Nokiaなどが名を連ねている。

シンギュラリティの概念は、日本でも研究者や技術者、シリコンバレーの事情通などの間では細々と話題にはなってはいた(目立つ例としては、2010年発表のソフトバンク「新30年ビジョン」にはこの考え方が色濃く反映されていた)が、昨今急速に知名度を増しており、「第3次AIブーム」の様相を呈している。

このような未来予測に対して脅威を感じたり、逆に、カルト的だとして退けたくなる向きもあるだろう。

ただ、産業的な観点から見て決して見過ごすことができない脅威があるとしたら、それは「本当にシンギュラリティが起るかどうか」や、「人間を超える人工知能が生まれるかどうか」などではないのではないのかもしれない。

これらは、あくまで未来の話であり実際にどうなるかは分からず、またそれを良しとするかどうかの価値判断は個人個人によって異なるからである。

産業的な観点から見た本当の脅威は、「シンギュラリティ」という人知を超えた一点を見詰めて、世界で最も優秀な頭脳が集結し、カーツワイルが明確に提示した壮大な「仮説」を一心不乱に巨額な投資を投じて「検証」していることではないだろうか。

科学技術は、18世紀の産業革命以前から見れば「魔法」としか思えないほどの発展を遂げてきたが、それらは様々な仮説検証の繰り返しによって実現されてきた。

現在、シリコンバレーでは基礎研究がもとになって巨大なIT産業が生まれている。インターネットやGPS、Siriの音声技術、自動運転技術の起源は、DARPA(米国国防高等研究計画局)など産学官一体となって開発された基礎技術が民間に転用されたものだという。

そして今、産業界と基礎研究との連携はAI研究者の争奪戦に見られるように、利益に直結する距離感やスパンが、かつてないほどに短くなっている。

次回は、以上のことをふまえながら、雑誌『WIRED』日本版(コンデナスト・ジャパン)が9月29日、東京・虎ノ門ヒルズで開催した、人工知能(AI)をテーマにした「WIRED A.I. 2015 ~TOKYOシンギュラリティ・サミット #1」のイベントから内容をいくつかピックアップして周辺情報も交えながらレポートする。

 

プロフィール

  • Nittou pr
    日塔 史
    株式会社電通 イベント&スペース・デザイン局 エクスペリエンス・テクノロジー部 シニア・マネージャー

    「体験価値マーケティング」をテーマにしたソリューション開発を行う。
    日本広告業協会懸賞論文「論文の部」金賞連続受賞(2014年度、2015年度)。

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