生体信号が拓くコミュニケーションの未来 #04

「周波数の組み合わせが重要なんじゃないか」というところに注目しました

  • Kamiya
    神谷 俊隆
    株式会社電通サイエンスジャム
  • Mitsukura
    満倉 靖恵
    慶應義塾大学 理工学部システムデザイン工学科

今回は、慶応義塾大学の満倉靖恵准教授と、電通サイエンスジャム神谷俊隆さんの対談をお送りします。脳波の周波数から企業との共同研究、度が合ってない眼鏡の危険さにまで話は及びます。

簡易型脳波計測機ができるまで

神谷: 満倉先生は、脳波や心電・筋電などの生体信号の研究をされていますが、これまでの脳波の研究とはどこが違うのでしょうか。

満倉: これまでは、例えばアルファ波帯域が高ければ集中していると定義していましたが、われわれは脳波の周波数を細かく分析し、周波数の組み合わせに注目しているので、観点が全然違います。

神谷: 周波数の組み合わせというのは、どのように計測するんですか?

満倉: 集中を計測するのであれば、まず人が集中している状態を作るんです。例えば箸で小豆を移動させるという行為をしてもらい、そのときの脳波を採ります。同じように集中状態で採っていても、人によってデータはバラバラですが、解析をしていくと実は規則性がある。そこで「このヘルツと、このヘルツの組み合わせが高いと集中ができている」と定義付けを行い、それらをパターン化していきます。集中度のほかにも、興味度やストレス度などの定義付けを行っています。

神谷: 計測機をつけた人に、小豆を移動してもらうと。

満倉: はい。ずっとひたすら小豆を箸で移動してもらいます。

神谷: 計測するときは、どんな計測機を付けるんですか?

満倉: 脳波計ってすごく大きなものを想像されると思うんですが、本当にシンプルなものを使っています。ちょうどnecomimiみたいな。

神谷: 先生は、こういった研究はいつごろからされているんですか?

満倉: もう15年ほど経ちますね。

神谷: そうすると、当初は研究の内容や機材が全く違っていたんじゃないですか?

満倉: そうですね、脳波の研究というと「オカルトじゃないか」なんて言われた時代もありました。研究を始めた頃は、脳波を計測するのに大きな装置を頭部に付けていて、その装置を付けるのにもだいたい40分くらいかかっていました。

神谷: 40分!?

満倉: まず髪をかき分けペーストを頭部地肌にぬって、一つひとつセンサーを取り付けて固定するという作業が必要で。準備に40分もかけてたら集中なんかできないですよね。さらに小豆を箸で移動させて…。

神谷: それだけで不愉快になっちゃいそうですね(笑)。

満倉: ストレス度が上がってしまいますね。あるとき私の上司に当たる先生から、「この装置を簡易化したらどうだ?」と言われたんです。それで文献を調べていると、心や気分は前頭葉に関連していると定義付けられていることが分かったので、前頭葉だけ採れる簡易型の装置を作ろうということになりました。

神谷: 自分たちで作ってしまおうと。

満倉: はい。でも脳波を取ろうとするとどんな装置でもノイズがたくさん入るんですよ。例えばまばたきをすると、全然違う脳波が出てきてたり。でも信号処理によって、まばたきの信号が定義できたので、その信号を除くことで、より正確な脳波が採れるようになった。そこからどんどん研究を進めて、ようやく小さなセンサーができました。

神谷: それは何年頃ですか?

満倉: 簡易型脳波計測機のヘッドセット1号機ができたのが2005年です。

周波数の組み合わせが重要!

神谷: 先生が行う工学的なアプローチと、医療や心理学との違いについて、簡単に教えてください。

満倉: 医療の場合は疾患部分を検査することが目的で、MRIなど大きな装置で脳のどこに疾患があるかというような研究をします。心理学では、脳の瞬間瞬間を見るわけではなく、例えば生理学信号として、血中酸素濃度の移り変わりから定義付けを行います。ただ、血中酸素濃度の変化には時間がかかるんですよね。例えばハッとした瞬間に酸素濃度が変わるわけじゃなくて、ハッとした1分後くらいに酸素濃度が上がるような感じです。瞬間瞬間のことは、やっぱり脳波じゃないと採れない。それと、やはり私たちはアルファ波やベータ波に注目していないところが、他とは全然違うところですね。

神谷: アルファ波とかベータ波について、分かりやすく教えてもらえますか。

満倉: まず、1秒間に脳波の波が何回来るかというのが周波数です。で、1回から3回くらい波が来る状態をシータ波と呼びます。とてもゆっくりしているので、シータ波が多いと寝ている状態と定義付けられています。

次に4回から12回がアルファ波と呼ばれ、集中やリラックスしている状態。1秒間に13回から22回あたりがベータ波と呼ばれ、ストレスが多いと定義付けられています。そういうカテゴリー分けをしていましたが、みんなに当てはまるわけではないんです。どうしたら確度が上がるのか考え、「周波数の組み合わせが重要なんじゃないか」というところに注目しました。

神谷: そこはユニークですね。いつぐらいのことですか?

満倉: たしか、その新しい脳波計が来る前なので、もう10年以上前ですね。

神谷: 周波数の組み合わせからは、どんなことが分かるようになったんですか?

満倉: 例えば「ストレスがあるときの組み合わせ」を見つけることによって、その組み合わせからストレス度が分かる、というようになりました。

神谷: 今分かることが「集中」「興味」「好き嫌い」「ストレス」「リラックス」「眠気」とのことですが、それ以外に何かありますか?

満倉: 味の評価があります。人によって味の感覚や好きな食べ物は全然違っていますが、美味しいと感じたときに出る脳波は一緒ということが分かってきました。そうすると、食べているときに美味しいと感じているかどうかが分かるようになる。

神谷: それは面白いですね(笑)。

合ってない眼鏡で物忘れがひどくなる!?

神谷: 満倉先生はいろいろな企業と共同研究をされていますが、その内容を少し教えていただけますか?

満倉: たくさんあるのですが、例えば自動車メーカーとタイヤメーカーと共同で、「タイヤを替えることで、どれだけ乗り心地が変わるか」という研究を行いました。

神谷: タイヤで、乗り心地ってそんなに変わるんですか?

満倉: まずは差異を検出できるのか、というところから調べました。結果は、タイヤが違うと同じ道路を走行しても脳波が全然違いました。あとは路面で脳波が変わることに注目し、バンク路やわだち路があるような道路を走行して脳波を計測するという研究も行いました。

神谷: その研究結果は、製品開発に落とし込まれているわけですね。

満倉: そうですね。そのタイヤメーカーさんとは「爽快な自転車って何だ?」をテーマに、言葉と脳波をタグ付けするということもやりました。爽快というのはこういう脳波のときで、といったタグ付けですね。

神谷: 印刷会社さんとのCM評価もありますよね。

満倉: はい。印刷会社さんでは、脳波を使ったCMの評価をやりました。アンケートには出てこない評価ということで、脳波を計測したんですね。あとは子どもが嬉しいと思うポイントはどこなのか、1日のどの時間帯にあるのか、読書していて興味があるのは本のどの部分なのかを探って、子どもが何に興味を持つかを抽出するという研究も行いました。

神谷: 結構たくさんあるんですね。

満倉: もう50社近くやっていますので、説明すると、きりがないんですけど。

神谷: 企業との研究というのは、いつ頃からやっているんですか?

満倉: 2005年以降、断然増えてきましたね。最近ですと五感の研究もあって、例えばスピーカーって良い悪いを決める定量評価がないらしいんです。アンケートで、スピーカーAを「いい」と言った人に、同じスピーカーと言わずにスピーカーAの音を聞かせると「悪い」と評価するようなブレがある。でも脳波で評価していけばブレがなくなるので、客観評価装置となります。あとは眼科との共同開発研究も行っていて、合ってない眼鏡をしていると、脳波に影響が出てくるというものです。

神谷: ストレスがかかる?

満倉: テクノストレスですね。それが最終的には認知症につながると。

神谷: そうなんですか!? 認知症?

満倉: はい。つながるんです。目の情報って脳波に大きな影響を与えるので、合ってない眼鏡をするのは危険なんですが、日本は免許がなくても眼鏡を売れるので、インターネットで眼鏡が買えてしまう。

神谷: 他の国は違うんですか?

満倉: 例えばアメリカやヨーロッパでは、眼鏡を売るための免許があるんです。でも日本は誰でも眼鏡屋さんになれる。去年から使ってる度数と同じ眼鏡を買うことができると、全然合ってない眼鏡を毎日付けて、それが1年や2年続くわけですよね。その状態はすごく脳に負担がかかっていて、健忘症につながるという結果が出ています。

神谷: 眼鏡には気を付けないといけないですね。

次回に続く 〕

取材場所:電通サイエンスジャム

プロフィール

  • Kamiya
    神谷 俊隆
    株式会社電通サイエンスジャム

    電通コミュニケーション・デザイン・センター(CDC) 次世代コミュニケーション開発部にて、neurowearブランドを立ち上げ、脳波コミュニケーションツール「necomimi」や「mico」のプロデュース及び事業開発を担当。2013年8月に(株)電通サイエンスジャムを設立し、科学者の知性や最先端技術に、電通ならではのアイデアを加えることで、新しい事業開発の可能性に挑戦している。

  • Mitsukura
    満倉 靖恵
    慶應義塾大学 理工学部システムデザイン工学科

    1999年より徳島大学工学部知能情報工学科助手、岡山大学専任講師、東京農工大学准教授を経て、現在慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科准教授。2013年8月より電通サイエンスジャム最高技術責任者を兼任。

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