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MOM meets MOM ProjectNo.4

ママたちの声で、未来を変えよう。

2015/11/24

世界では妊娠や出産が原因で命を落とす女性が、なんと1日に約800人もいます。この状況を改善していくために、途上国の女性支援を行う国際協力NGOジョイセフと女性向けコミュニケーションを手掛ける電通ギャルラボは、世界中の妊産婦を守るホワイトリボン運動の一環として、共同で「MOM meets MOMプロジェクト」を立ち上げました。スポンサーとしてサラヤのスキンケアブランド、ラクトフェリンラボが全面的にサポートしています。

世界の妊産婦やママが置かれた状況を日本のママたちにも知ってもらうことで共感しあい、支援の輪を広げていきたい。この連載では、プロジェクトメンバーの筆者・外崎郁美が6月に視察に訪れたタンザニアにおける母子保健の現状を振り返りながら、日本の、そして世界におけるママたちの課題と未来の可能性について考えていきます。

ママたちの声で、未来を変えよう。大崎麻子さん×外崎郁美


前回は、世界各地で女性のエンパワーメントに携わる国際協力・ジェンダー専門家、大崎麻子さんとの対談で、日本のママたちが置かれている状況を他国とも比較しながら振り返りました。今回はMOM meets MOMプロジェクト企画の最終回。大崎さんとの対談で、ママたちが幸せになるための具体的な方法を考えていきたいと思います。(前編からの続きです)

◆このままでは、女性の負担は2倍に!?

外崎:女性が育児と仕事を両立しやすい仕組みが整っているスウェーデンも、ほんの数十年前までは日本と同じような状況だったとは意外です。国の政策は国民の生活に大きく反映されるのですね。

大崎:特に、政府が「女性活躍」と言いだすときは、その国の経済状況を改善するための政策だったりするんです。

外崎:不景気が続いている日本は、この流れでスウェーデンみたいな国になるのでしょうか?

大崎:スウェーデンの場合は女性たちが声を上げて、「私たちが無償で担ってきたケア労働をちゃんと社会で分担できる仕組みづくりをしましょう!」と動かしていった。日本は今、少子高齢化でこれから労働人口も減っていきます。だから政府は、「女性も働いて能力を生かしてもらった方が国際競争力も上がる」という経済成長戦略の文脈で方針を打ち出しました。

でも、そこで重要になるのが、今の日本で女性たちが担っているケア労働を誰がやるか?という議論です。

外崎:誰が議論することになりますか? 民間からの声は大事でしょうか?

大崎:一人一人の声が大事だと思います。その議論をしないと、女性が無償でケア労働を担うという構造は変わらないまま、経済参加して、GDPを上げてください、という話になります。

外崎:女性にとっては負担が増えるだけになってしまう…。今の日本の若い女の子は、自分の親世代やおばあちゃん世代を見ていて、女性がケア労働だけをするのが普通だと考えている人も多いと思います。ある仕事で女子高生にインタビューしたときに、若い女の子で「結婚してからも仕事を続けたい」という人は半分もいなかったです。

大崎:若い人から見たら、ケア労働をお母さんたちがやっているのを見てきたということもあるかもしれないし、ケア労働と、外に出て働く賃金労働を両立させてきた人たちを見ると、超大変そうに見えるのでしょうね。

その超大変そうに見えるワーキングマザーたちは、仕事もやるけど、家のことでも責任者。ケア労働は女性の役割という社会意識はまだまだ根強いし、社会の仕組みもその前提に基づいてできています。

外崎:今の日本の政策は、女性たちにどんな影響があるのですか?

大崎:2年ほど前に「女性活用」を前面に押し出した政策を見たときに、女性に対して「どんどん働いてGDPに貢献し、納税もしてください」というメッセージを感じました。実際、アベノミクスという経済政策の一環として打ち出された政策ですし。日本の国内市場が縮小して世界全体がマーケットになる中で、女性の能力や視点を企業活動に生かした方が国際競争力が上がるから。

一番都合がいいのは、女性が経済に進出してくれて、納税してくれて、企業の発展に参画してくれて、株価や日本市場の価値を上げることに貢献してくれて、なおかつケア労働も今までと同じようにタダでやってくださる…これは理想ですよね。

外崎:仕事が2倍に…!

大崎:そうなんです。そこで「女性を経済に活用しよう」という姿勢に対し、国内のジェンダーや労働などの政策専門家や、シングルマザーや暴力被害者などの女性支援の現場にいる人たちがこの2年間で政府に対してあらゆる提言をしてきたんです。その一部は少しずつ、政策に反映され始めていると思います。言い方も「女性活用」から「女性活躍」に変わりましたしね。

外崎:そうだったんですね。

大崎:初めに政府が「女性活用」と言ったときは、経済に貢献できる人たちを「女性」と呼んでいる雰囲気があったのですが、「じゃあシングルマザーはどうなるの?」「非正規雇用はどうするの?」という声を受けて、シングルマザーやマタニティーハラスメントの問題も政策議題になりました。日本の女性たちも声を上げ始めていると思うし、それがさらに広がっていくことが大事だと思います。

大崎麻子さん

◆どうしたら、「子育て」が評価されるの?

外崎:私は2006年入社で同期が約200人でしたが、そのうち女性が40人弱。でも今は新入社員の約半分が女性です。学生などの若い女の子からも将来の夢や具体的なキャリアプランの相談を受ける機会も多く、近い未来がとても楽しみですが、キャリアを育む時期に妊娠や出産の適齢期もやって来ます。「子育て」に社会全体が関心を持って分担できないと、両方続けるのは物理的にキツイですよね。

大崎:子育ては、実はジェンダー問題の根幹に関わる話でもあるんです。

大学で講師をしているのですが、学生さんに「あなたのお母さん、働いている?」と聞くと、大体5割くらいの学生さんは「お母さんは働いていない」と答えるんです。そこで、「では、お母さんは一日何をしているの?」と聞くと、「ご飯つくって、洗濯して、買い物に行っているかな」と答える。「アイロンは誰がかけているの?」と聞くと、「お母さん」と。「でも、あなたは今、働いていないと言ったよね。働くってどういうこと?」と。

外崎:たしかに…!

大崎:みんなが「働く」の定義に入れていなかった、お母さんがやってくれていることはすべて、「自分の労力と時間を使って他人にサービスを提供する」という意味で労働お母さんは働いているんですよ。

では「お父さんの労働とお母さんの労働は、何が一番違うのか?」というと、お父さんの労働はお金が支払われている。お母さんの労働はお金が支払われていない。でも、実は同じく労働なんですよね。

外崎:よく考えると、本当にそうですね。

大崎:でも、今の日本社会で主にお父さんがやっている、いわゆる「生産労働」と呼ばれるGDP(国内総生産)に換算される労働を下支えしているのは「ケア労働」なんです。

外崎:生きる源ですもんね。

大崎:ご飯つくって、洗濯して、住まいが整っていて。そういうケア労働があって初めて、生産労働が成り立つのです。それにプラスして育児はさらに重要で、次世代の労働人口を育てるということ。

人を産んで育むというのは、実はものすごく重要な経済的・社会的意味を持つ労働の一つ。それが今「タダ」だから、社会で正当に評価されていない。そこをちゃんと評価するのが、ジェンダー平等の第一歩だと思います。

外崎:なるほど。

大崎:そういう視点を持てるかどうかで、お母さんに対する社会的評価は大きく変わってきます。子育ては個人的なことだと捉えられがちですが、実はそれが集合体になると、次世代の労働人口・納税人口になる。

外崎:子育ては、社会的に大きな意味を持っているということですね。

大崎:今、社会で少子高齢化が問題視されているのは、子どもが減ることが国の経済にとって大きな問題だからです。だから今の政策でも出産適齢期を知らせるなど「産む」に特化したことはやっている。

でも、生まれた後の子どもへの投資は、他の国と比べても日本はまだかなり少ない。子どもが生まれた後のサポートがすごく手薄だということはデータ的にも明らかです。

外崎:国の政策が生活にもろに影響するのですね。

大崎:今、女性活躍推進が言われている中で、特に上の世代からの懸念として出てくるのが「女性が働いたらさらに子どもが少なくなるのでは」という話。でも、産後のサポートにちゃんと国が投資をして社会的なインフラ設備が整ったら、きっと多くの女性が出産に前向きになれるのでは?と思います。

外崎:妊娠の適齢期については女性であれば知っている人も多いですよね。知っていてもどうにもならないから困っているわけで。産んだら大変そうだな、と思うような状況。

大崎:そこで、「何が大変なのか」を言語化しなきゃいけない。若い女性たちも、これからの世代も、今育てている世代も、「これは問題なので、政策課題にしてください。でないと無理!」ということを提示しなければ、状況は変わらないんです。

外崎郁美

◆「子育て」は社会への投資である

外崎:子育てが社会にとっても投資である、と考えると、そこにお金をかけたり子育てを社会全体で応援するのは自然な流れですね。例えば企業の人材育成を考えると、初めは全然お金を稼げない新入社員にもすごく投資しますよね。子育てもそれと同じですね。

大崎:国のお金のかけ方は、社会のありようと連動しています。今、「子育ては、母親の自己責任」的な風潮になっていますが、実際に日本の予算編成を見ると、子育ての分野への支出が圧倒的に少ない。社会の子どもに対するまなざしが分かりますよね。

外崎:自己責任にされると、ママはどんどん追い詰められますよね。子どもに関する事件があると、すべてが親のせいになる。家庭という閉ざされた空間で何が起こっているか分からない…という状況の中に、たくさんの問題が潜んでいるのかもしれないですね。

大崎:そういうことだと思います。子どもが犯罪の被害者となる事件を見てみると、実は裏に貧困の問題があったりします。シングルマザーに対する支援が不十分だったり、その背景には働く女性の大半を占める非正規雇用の問題があったり。

ところが今、家族を養うママたちが不安定な非正規雇用だから、貧困に陥りやすくなってしまう。母子家庭で子どもの貧困が広がっているのはそうした背景があります。

外崎:日本の貧困の問題も、深刻化していますね。

大崎:ひとり親家庭の子どもの半数が相対的な貧困状態にあるといわれています。日本の場合、シングルマザーの就労率は世界でも群を抜いて高く、決して怠けているわけではありません。そもそも雇用は不安定な非正規雇用で、低賃金。しかも一人で子どもを育てています。

最近では非正規雇用の男性も多いですから、父子家庭のお父さんも同じ問題を抱えることになります。例えば子どもが深夜に街に出て事件に巻き込まれてしまうのは、単純に「SNSがあるから」とか「近所の目が薄くなった」ということだけではなく、その背景には貧困や労働の問題もあるわけです。構造的な問題に注目しなければ、根本的な解決にはならないと思います。

外崎:そこまで日本が切羽詰まっているとは…。危機感を感じていない人も多いかもしれません。そういう状況でも、女性の労働力は社会にとって大きな可能性なのですか?

大崎:日本の国際競争力を高めるためには女性の力は確かに必要でしょうね。グローバル化が進むにつれ、農業であれ、製造業であれ、サービス産業であれ、イノベーションを生み出し、多様化するニーズに対応できるかが鍵になります。これからの時代、日本人の男性だけという単一的な企業が生み出せる付加価値には限界があるでしょう。そこで、女性の力が重宝されます。

外崎:女性の力をちゃんと引き出すには、女性にとって働きやすい環境も必要ですよね。

大崎:そうなんです。そこで声を出さないといけなくて、女性たち自身が声を上げることで仕組みも変わっていくし、新しい企業風土や社会意識が醸成されていくはずです。他の国を見ていても、女性たちがつながり、いっしょに声を上げていくことで社会を変えてきたことが分かります。日本も今、そういう時期なのかと。

大崎麻子さん

◆ママの声を集めて、ムーブメントを!

外崎:声を上げるというのは、具体的にはどうやって参加したらいいですか?

大崎:例えば貧困の問題、労働の問題、ケア労働の再分配の問題、DVや性暴力の問題など、国の政策的なところに関しては、専門家の方々や私も含めて一生懸命に提言しています。その声にもっとバックアップが欲しいです。

外崎:例えばどういうバックアップですか?

大崎:どんなに良い提言であっても、専門家がたかだか10人くらいで声を上げても大きな力になりません。ところが、「何十万人の女性たちがこう言っているんです、これを求めているんです」「これがあれば出産に前向きになれるし、働き続けることができると考える女性たちがこれだけいるんです」と言えれば政策への影響力も大きくなります。

外崎:なるほど。何かやりましょう! 声を集めるムーブメント。

大崎:そうなんですよ。声を集めるムーブメントがすごく大事スウェーデンの例も挙げましたが、例えばケニアではエイズ患者やエイズで親を亡くした孤児のケアを地域の女性たちが無償で担っていました。その時にケニアの女性NGOが、草の根でのHIV/エイズ対応にどれだけ女性たちが貢献しているかをデータを使って実証し、ちゃんと公共予算を投じるべきだと政策提言をした。そして国の政策変更が起こったんです!

外崎:すごい! ケニアの女性も活動家なんですね。

大崎:タンザニアもそうですが、途上国にもすごい女性たちがたくさんいるんです。問題を可視化して大きなムーブメントにすることで、政策は変わるんですよ。

外崎:大崎さんの女性のエンパワーメントのお仕事も、このようなムーブメントを起こすためのお手伝いをされているんですよね。

大崎:例えばUNDP(国連開発計画)ではそのような支援をするのが仕事だったので、必要な情報を提供したり、人材育成をしたり、ネットワークづくりを行っていました。

外崎:声がないと政府が動かないんですね。

大崎:そうなんです。日本に帰国してちょっとびっくりしたのは、女性の問題がなかなか大きな声にならないこと。フェミニストの活動家はいるし、女性問題の研究者もたくさんいます。

でも、「アドボカシー」がうまくいっていない。アドボカシーとは政策変更を促すことです。成功させるには、データや分析に基づいた具体的な「提言」と、それを後押しする人々の「声」です。世界の例を見ても、どちらかだけじゃ難しい。そのためには研究者、女性団体や活動家、メディア、当事者である女性たちがタッグを組む必要があります。

外崎:一つのテーマについて、様々な分野の方たちが横串でつながるといいのですね。今、みなさんが個々で動いていることをガッとまとめられたら、一気に動きそうな予感。

大崎:そうですね。そういうつながり、結びつきをつくった上で、具体的かつ政策的な言語で女性たちのニーズを伝えていくことが必要。そうしたら、これから本当に変わっていくと思う。逆に変わらないと、少子化傾向は続いていくのでは?

外崎:今こそ変わるチャンスですね。例えば企業でも女性活用を進めたり、子育て中のママも活躍しやすいステージをつくるためには、組織の考え方や評価の仕方もイノベーションしていかないといけないと思うのですが、時間がかかりそうな気配もあります。

新しい仕組みを導入したときに、短期的に成果が数値に表れるわけではないし、むしろ初めは下がることもあると思う。長期的な視点が必要ですよね。

大崎:おっしゃる通りで、それをコストと捉えるか、投資と捉えるかだと思うんです。新しい仕組みをつくるために投資と捉えてチャレンジできないと、今後は生き残れないのではとも思います。

外崎:先進的な企業が成功事例をつくると、他の企業も導入しやすいのでしょうか。

大崎:そうですね。でも、大企業と中小企業では財政基盤が違うので、まず大企業が変わっていくのはすごく重要だと思います。戦略的な視点を持っている経営者の方は、グローバル化の進展を見据えた経営戦略の中にダイバーシティや女性の項目を入れています。これから重要な市場になっていくであろうアジア、中東、アフリカの女性たちの嗜好や傾向も、マーケティングには重要になります。

外崎:より一層、グローバル化が進みますね。

大崎:世界を見ると、日本より女性が政治に参画している国はたくさんあります。この先、日本の企業が国内のロジックや慣習をそのまま海外に持ち込んで、女性の働き方などに配慮がなかったりすると、大きな問題を抱える心配もあります。

外崎:今、日本の企業で普通だと思っている価値観が、先進的な国に行くと通用しないということも増えてくるかもしれないですね。

外崎郁美

◆さあ今こそ、変革のとき!

外崎:世の中は変わり始めている…というか、変わらないとまずい状況ですね。今まさに、保育園探しなどで悩んでいるママたちにとっても、世の中が変わるまでもうひと踏ん張りなのでしょうか…。

大崎:ただ、私も経験ありますが、子育て中のお母さんって本当に忙しいので、アドボカシーなどやっている暇はないと思うんです。だけど、そこでママたち自身が政策提言する必要はない。

女性の労働環境や保育環境の改善、マタニティーハラスメント対策、シングルマザー支援の拡充、DVや性暴力対策など、私も含めジェンダーや女性政策の専門家たちが、一生懸命に声を上げて提言をしています。

外崎:そうなんですよね。でも意外と、それが全然一般的には知られていないかも。

大崎:若い人からも、「フェミニストって怖そう」とか「あんなふうにはなりたくない」という声を聞きますが、今、一生懸命にロビーイングや政策提言をしている人たちを応援してほしいと思うんです。

いい提言でも、後ろを振り向いて誰もいなかったら状況は変わらない。今、困っているママたちやその予備軍である人たちにとって、「ぜひ実現してほしい!」という声を可視化できるようになったらいいと思う。

外崎:具体的に、一般の人が声を上げる方法はありますか?

大崎:今はSNSがあります。そのポテンシャルはすごく高い。

外崎:誰でも簡単に参加できますね。匿名のものは荒れているものも多い印象がありますが、ちゃんと自分の名前が出るものは安心ですね。

大崎:Change.orgのようなオンライン署名やフェイスブックなど。専門家グループや女性団体も、政策提言をする際には声を集める手段としてこうしたSNSを活用する例が増えてきました。

自分で一から政策提言をするのはハードルが高いかもしれませんが、これは賛同できると思う提言に対して賛同の意思を表明したり、オンライン署名をすることでアドボカシー活動に参加できるわけです。

外崎:政治に詳しくないと、どういう政策があると自分たちが助かるのかが分からないと思いますが、具体的な声の上げ方として、自分が困っていることを伝えられるといいのでしょうか?

大崎:それもあると思うし、例えば内閣府は、女性活躍推進法や男女共同参画基本計画などの重要法案や政策についてはパブリックコメント(一般からの意見)を集めています。オンラインで書き込めますので、そこに書くのもいいですね。

ただ、こうした制度について知っている人や、どう活用すればよいか、どんなふうにコメントすればよいかを熟知している人は少ないですよね。知識やノウハウを持っている専門家と、当事者として問題提起をしたり声を上げたりしたいママや女性たちとをつなぎたいです。

外崎:たしかに、お話を聞いて、私も全然理解していないことに気づきました。実際にママたちの現場では何が問題視されているのかを可視化したいですね。

大崎:実際に政治家が動くきっかけになるのが世論なので、その可視化は非常に重要です。これまでは世論を形成し、発信する媒体が新聞やテレビなどのマスメディアしかなくて、マスメディア自体が男性中心だったので、女性に関する問題は取り上げられなかった部分も多くあったかと思います。

ところがここ最近では、例えば都議会で少子化対策が議論されたときに女性議員に対して飛ばされたヤジについては、当初は新聞やテレビは報道しませんでしたが、ツイッターで炎上し、Change.orgでは1週間で10万筆におよぶ署名が集まりました。それをマスメディアが取り上げ、問題として可視化された。SNSからマスメディアという新しいサイクルが出てきましたね。

外崎:SNSには、一般の声を世論にする役目もあるんですね。

大崎:例えばメディアの人たちが問題だと思っていなかったことも、誰かがブログやツイッター、フェイスブックに書くことで拡散して話題になって、これまで世論になりづらかったことが世論になって政策に反映されたり。SNSは、問題を可視化させる装置として期待できます。

大崎麻子さん

◆ママが幸せになるために

外崎:この対談では、ママたちが抱えている課題を解決する方法を具体的に深掘りしていきましたが、今回のテーマでもある「ママの幸せ」ってどういうことだと思いますか? 

大崎:まずは、一人の人間として精神的に自立し、自由であることがすごく重要だと思います。それから、「ママ」としては、安全な環境で子育てできる幸せにも気づてほしいですね。

外崎:というのは?

大崎:例えば、かつて大虐殺のあったルワンダから日本に来たあるお母さんがおっしゃっていたのは、日本に来てから、初めて子どもと安心して眠りについたと。寝ている間に誰かが襲撃しに来ないか、子どもをさらいに来ないか、殺されないか…そういう心配をしなくていいと。世界レベルで考えると、命の危険を感じずに、安心して子どもを育てていけるというのがまず「幸せ」の最低限の条件かなと。

外崎:なるほど。たしかにそうですね。

大崎:それからもう少し進むと、様々な途上国のお母さんたちからよく聞くのは、「子どもが病気になったときに、連れていける病院がない」という話。子どもに何かあったときに医療サービスや保険があるというのは子どもを育てる上ですごく大事なことです。子どもの健康と命を守るための基本的な環境が整っているという点では、幸せだと思います。

外崎:現時点は大丈夫ですね。将来は心配ですが…。

大崎:まず、そういう基本的な部分の幸せが日本にはあることを、知っていただくことは大事だなと思います。

外崎:そうですね。世界を見ると本当にそう思います。

大崎:ただ、ママに課せられたケア労働が大変なのは事実です。でも日本には、それを声に出す自由があるんです。民主主義社会なので、女性は有権者として政治家を選べるし、声を発しても罰せられないですよね。

外崎:言論の自由があるということですね。

大崎:はい。何か問題があったらそれを声に上げて、解決できる、そういう権利と自由がお母さん一人一人にあるということを知っていただきたいです。

外崎:それは抜けていた観点ですね。忘れていたけど、意見を言っていいはずですよね。そこに制約がある国もある中で、日本は自由なんですね。

大崎:そうですね。日本のお母さんたちが今感じている不満は正当なんです。社会の仕組みや古くから根付いてきた固定観念、政策・制度のあり方が、お母さんが自己責任で子育てしなければならないシステムになっているから、不満を持つのは当然のこと。

でも、それを解決する手段も今の日本にはあるはずなので、ポジティブに解決していけたらいいなと思います。

外崎:そうですね、これから解決できたらどんどん生きやすくなりますね。

大崎:自分のことや自分の子どものことだけではなく、社会をより良い方向に変えていこうと努力されているお母さんにもたくさんお会いします。身近なママ友で出会えなかったとしても、広い視野を持っているママたち同士が例えばツイッターなどでつながれたら、さらに視野が広がって、自分にとっても子どもにとっても幸せにつながると思います。

外崎:公園で出会えなくても、SNSなどで出会える可能性があるのはいいですね。昔はできなかったこと。きっと、どうしていいか分からないという方も多いと思うので、「もっとつながっていい」「もっと声を上げていい」という発想は、実はものすごく新しいことな気がします。

大崎:今のお母さんたちが子育てについて自己責任だと思ってしまう要因のひとつに、「人に迷惑をかけちゃいけない」と言われて育ってきたという背景もあります。だけど、助けを求めていいんですよ。行政やNPOの助けだって実はいっぱいあるんです。

困ったときは誰に、どこに相談したらいいのか。そういった生きるためのリテラシーは、例えば男性と女性がお互いを尊重しあう、女性は自分の性や体のことは自己決定すべしというところから始まる性教育と同じように、若いうちから教育しておく必要があると思います。ママとしても知っておきたいことですよね。

外崎:小中学校から、そういう教育が必要ですね。

大崎:そうですね。特に思春期は大事です。女の子はあまり意見を言わない方がいいとか、Noと言わない方がいいとか刷り込まれるのは危険です。男性と対等なパートナーシップを育めるようになること、嫌なことにはノーと言えるようになることが大人になってからの生き方に大きな影響をもたらします。DV被害者の支援の現場を見て痛感することです。

外崎:空気読む、みたいな風潮にも言えることですね。

大崎:私が最近、若い女の子のエンパワーメントに力を入れているのは、若い段階でちゃんとエンパワーメントしてあげることが、その後の人生をいかに自由に生きられるかにつながってくるからです。

外崎:そう考えると、今のママたちもそうですが、未来のママたちにとっても生きやすい社会をつくるために、私たちにできることはたくさんあるのかもしれないです。ぜひ、ご協力させてください!

大崎:もちろんです。これからが勝負ですね。がんばりましょう!

外崎郁美

【第3回(後篇)考察】
MOM meets MOM プロジェクト連載も最終回。大崎さんとの対談を通して、政治と国民の生活がいかに直結しているかがよく理解できました。そしてその政治・政策は、私たちの声によって変えることはできる。さらに今、私たちは変革期にいて、私たち次第で近い未来が大きく左右されることに気づかされました。「ママ」というキーワードには、今の日本が抱えるたくさんの課題が潜んでいます。「少子高齢化」と聞いてもいまいちぴんときませんでしたが、これからの国を生きる子どもたちのことを思うと、既婚か未婚か、子どもがいるかいないかにかかわらず、「子育て」は「未来育て」だと感じます。そんな「子育て」に社会がどう向き合えるか。自分にできることは何か、引き続き考えたいと思います。