新明解「戦略PR」 #29

「PR、使い倒せていますか?」の巻/その3:インフルエンサーを使い倒してみた

  • 10
    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

好評連載「使い倒してみた!」シリーズ第3弾、今回は「インフルエンサーを使い倒してみた」です。これまで記者発表会報道用基礎資料など、基本的なPRの手法やツールを広く活用しようというご提案をしてまいりましたが、今回はちょっと違って、外部協力者の方を使い倒しちゃおうってわけ。んー、協力者の方を使い倒すなんて、ちょっと言葉が悪いんじゃないか?ってなご批判もいただきそうですが、実はこれ、ご協力いただく皆さまにも悪い話じゃないんですよね。そんな視点で見てくださいませー。

インフルエンサーを使い倒してみた

インフルエンサーってどんな人?

よくわれわれがご協力いただくのは、アカデミック・マーケティングにおける研究者の方々。具体的には、大学の教授やお医者さんなどで、すなわち研究データなんかを持っていらっしゃる方々ということですね。もしくは一緒にそのようなデータを導き出してくれる人ということ。

もちろん、商品開発や商品素材の研究などは、各企業の研究所の方々が誠実にやっているわけなのですが、企業内の研究者だけのデータだと「なんか手前ミソなんじゃねーの?」みたいな、あらぬ疑惑の目を向けられることがあるかもしれません。いやいや、通常そんなことあるわけないんですが、このご時世、1ミリたりともそんな疑いを持たれたくないものです。そこで第三者機関などに依頼して客観的データとしての裏取りをお願いしたり、部分的に再度実証実験してもらってから、そのデータを発表するなんてことが多くあるんですね。

分野によってインフルエンサーはさまざまいるのよね

さて、かなり多業種にわたるクライアントのお仕事をさせていただいておりますと、その中でお付き合いする識者の方々も、そのバックグラウンドは幅広いわけです。アカデミック・マーケティングといいつつも、例えば「食」一つとっても、そこには健康効能や味・香り、また珍しいレシピや外国での食べ方などさまざまな視点が存在します。クルマだって通信キャリアだって電化製品だってゲームだって、掘り下げていけばさまざまな視点があるはずですよね。そこをメーカーの視点から離れて、より生活者の関心に近い形で解説してあげるのがアカデミック・マーケティングなのではないでしょうか。「ほほー、なるほどね!」みたいな気付きがあると生活者の納得感も増しますし、また人にも語りたくなるというもの。そういう情報を識者(=インフルエンサー)に語ってもらうというのが今回の趣旨なのです。

識者の知恵をいただくだけでなく、スターにしてあげたい!

さてそんな方々のご協力をいただきながら、われわれは情報を整備して発信していくわけです。時にパブリシティー露出を獲得するため、またある時はソーシャルメディア上での口コミ拡散を図るため、はたまたメーカーの営業担当が流通に対してのセールスを仕掛けていくため。これは第2回の「報道用基礎資料を使い倒してみた」にあるような、ツールとしての多面性を持たせるという狙いと連携するわけですね。はい、読んでない人は早速ここから戻って読み返してくださいね!(リンク) 

で、せっかく知り合った識者とキャンペーン期間だけ短期的にお付き合いをしてさよならするのはモッタイナイんじゃないかと思うんです。もちろん、データとかを導き出していただいた時点でそもそもの契約は終わるのかもしれませんが、せっかくならそのデータを語ってもらえば、より信頼性が上がるじゃないですか。私が最近感じるのは、生鮮食品だけでなく、すべてのモノ・コトに対して「顔」を見せることが大事だということ。「顔」を見せるということは、情報に対して「責任を取るぞ」というその人の覚悟が背景にはあると思うのです。それを見て、生活者も「ならば信じよう!」と思うのではないかと。企業の社長、生鮮品の生産者、そしてデータの抽出者も「顔」を見せるべきではないかと思うのです。

識者が有名になれば相乗効果が!

このように、識者の方々を今度はわれわれが取材先として活用することも数多くあります。もちろんデータを導き出したご本人ですから、自信をもって語れるはず。またその自信が生活者の信頼を厚くするわけです。しかし、ここで私がご提案したいのは、だったらもっともっとその識者の先生方を有名にしてあげなさい、それこそスターにしてあげなさいということなんですね。みなさんもご覧になっているように、たとえばテレビなどではさまざまなジャンルのニュースを伝えるために、スタジオにコメンテーターがいますよね。そういう立場に育て上げちゃいなさいということなんです。

ある分野で、生活者が関心を持ちそうなコトに対してしっかりとコメントできる存在というのは、メディアが常に求めている価値の高いコンテンツなんです。一度メディアに取材され、しっかりしたコメントと、ちょっとした機転、あるいはにこやかな笑顔があれば、それはもうメディアが欲しがるコンテンツそのもの。いわば情報系タレントとでもいいましょうか。そういう存在に育て上げることができれば、大本のPRにも大いに寄与することとなるはずです。

だってその先生方が関わった情報は、ことあるごとにその口をついて出てくるはずだから。そう、自然とその話題に触れられる機会がどんどん増えていくというわけなんです。これは先生方もご自身のポジショニングがメディアを通じて向上していくわけで、決していやではないはずです。すなわちここにWIN−WINの関係性が生まれるわけですね。これは非常に大事です。共に育っていくという環境づくりなわけで、これをきっかけにもっともっと良い関係性が築けるはずです。

だったら本も書いてもらえばいい

私の経験で、そういった先生方を起用した記者発表会をしたところ、そのデータから導き出したある種の仮説が非常に生活者にとっても関心の高いものである、というメディアの評価をいただき、新聞の健康面での大型企画記事、そして週刊誌の特集と露出が続き、この週刊誌の編集部から書籍にしてみないかとのオファーがありました。さらに同時期にその他の出版社からも2件ほど同じようなオファーが続いたのです。早速ご本人に相談し、結果2冊の書籍が出版されることとなりました。もちろんその先生はすでに何冊も本を出版されているので、そんなオファーは常日頃からあるのかもしれません。

しかし、大本のPR活動を展開しながら、インフルエンサーご自身の本が出版されるなら、そのPR活動が、本の売れ行きにも寄与するはずです。われわれが協力オファーしたPRが書籍化のきっかけづくり、あるいは書籍セールスのバックアップになるのであれば、それは大きなWIN−WINといえるのではないでしょうか。

契約を超えて書籍PRも

われわれはPR活動から副次的に生まれてきた新たなコンテンツもうまく活用していくわけですが、このような場合、次にこの書籍のPRを仕掛けることもあります。これは先生に対する恩返しを無償で、ということではなく、書籍が売れる、注目されることで、さらなるPR的なフィードバック効果が得られると信じているからなのです。書籍があれば、それはまた位相の異なるコンテンツとなります。通常仕掛ける露出先とも異なり、書籍欄などでの話題化も図れますよね。

そしてうれしいのは、書店の店頭も情報接触の場として使えること。書籍が平積みになり、POPなども準備されれば、メディアで見るだけでなくリアルに起こっている現象として認識されやすくなります。さらに検索からアマゾンなどのネット書店の書評との接触が生まれる可能性もありますね。こういったマスメディアに限らない露出先の拡大ってのは非常に有用なので、ぜひベーシックPRプラスアルファとして、常に頭の片隅で考えておきたいことです。

副次的効果が続々と

国内外のPRのアワードなどでも、計画して行った業務にプラスして、自然発生的に巻き起こった付加的価値というものは非常に評価されます。それは自然発生といいながらも、実はそこに結び付くさまざまなコンテンツやフックがキャンペーンに盛り込まれているからこそなんです。もちろんそこは、予想や約束ができるものではありません。ただし、そういった妄想を持ちながら、日々の業務を真摯にやっていけば、きっとそのきっかけをつかむことができるはずです。

私自身も日々の業務を続けながら、たとえば情報が広がった後で、生活者の具体的存在をグループとしてくくって提示してみたらおもしろいのではないか、売れ行きが上がったならその成果を発表することで、この商品の勢いが表現されるのではないか、などと考え、提案を続けるように心がけています。

以前「広辞苑」のPRを担当させていただいたとき、「一家に一冊、広辞苑」のスローガンのもと、「東大生を輩出した家庭には広辞苑がある」なんてなるといいなぁ、と妄想していたところ、発売1年を迎える頃、東大・京大の生協での書籍の売れ行きランキングにおいて、両大学で広辞苑がTOP10に入ったとの情報を得ました。いやー、願ったりかなったり。すでにPRのキャンペーンは終わっていましたが、どうしてもこれを露出させたくて、クライアントにお願いしてメディアプロモートをしたものです。ある意味、自分の中で完結したような気がして気持ちよかったですね。もちろん、クライアントも喜んでくれました。

コーポレートコミュニケーションをかませていくことも大切

これまでシリーズで述べてきたように、イベントにしろ、ツールにしろ、ヒトにしろ、常に情報発信機会をいかに使い倒すかを考えるべきだと思うのです。それは企業にとっての正当な情報発信機会というものが、非常に貴重だからです。BtoC企業なら新商品や新サービス開始のタイミングで記者発表会やキャンペーンを実施することは頻繁にあるのかもしれません。そういった機会を、もっともっとレバレッジの効いた形で展開できるよう考えていくことも大切ですし、そこにコーポレートコミュニケーションをかませていくことも大切だと思います。

つまり、機会を捉えて企業の意思や姿勢を見せていくということ。そこには企業のトップである社長が出てきてあいさつすることも有効です。だって多数のメディアに直接社長が語りかけられるチャンスなんですよ、それをモノにしない手はありません。これらの発言はトップに近ければ近いほどメディアに取り上げられるので、発言の内容はしっかりと整えておくべきでしょう。なにせ通常であれば社長交代だったり、決算報告だったり、他社の買収をしたり、大きく企業体制を変えたりなんてことでもなければ、コーポレートコミュニケーションの機会は非常に少ないのですから。そういうマーケティングコミュニケ―ションの機会を、シームレスにコーポレートコミュニケーションに結び付けていくことを、立体的に設計したいものです。

次号以降、コーポレートコミュニケーションの変遷と、昨今の先進的取り組みについて触れてみたいと思います。

プロフィール

  • 10
    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

    1990年電通PRセンター(現電通パブリックリレーションズ)入社。コミュニケーションデザインを手掛けるチーフPRプランナー。
     
    企業のコーポレートコミュニケーションから、製品・サービスの戦略PR、動画コンテンツを活用したバイラル施策や自治体広報まで、幅広く手掛ける。最近では、熊本県の赤い特産物をアピールするため仕掛けた「くまモンほっぺ紛失事件」のPRプランを手掛け、世界的なPR業界紙「Holmes Report」が主催するアワードで「世界のPRプロジェクト50選」に選出された他、多数の口コミを起こしたキャンペーンとして、世界的な口コミアワードである「WOMMY AWARD」を日本で初めて受賞。Holmes Report「The Innovator 25 Asia-Pacific 2016」(アジア太平洋地域のイノベーター)選出。
    その他「Cannes Lions」「Spikes Asia」PR部門、「SABRE AWARDS ASIA PACIFIC」「PRWeek Awards Asia」「ヤングカンヌPR部門日本代表選考」審査員。2013年6月に「戦略PRの本質~実践のための5つの視点~」(朝日新聞出版)を上梓。自治体PR事例をまとめた「成功17事例で学ぶ自治体PR戦略」(共著:時事通信社)も好評発売中。

バックナンバー

関連記事

続きを見る
ページ先頭へ