汐留メディアリサーチャー時評 #05

クルマの中は複合的メディア空間に

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    立木 学之
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーション研究部 主任研究員(2015年末時点)

電通総研メディアイノベーション研究部は、メディアや情報通信環境の変化、そしてオーディエンスの動向を探ることをミッションとするシンクタンクです。

ウェブ電通報でもリサーチプロジェクトの知見をお伝えする「インサイトメモ」を連載していますが、この「汐留メディアリサーチャー時評」では、当部ならではのナレッジをベースに、現代のメディア環境に関するトレンドをピックアップし分析と考察を進めていきます。

第5回のテーマは「クルマの中は複合的メディア空間に」です。

2015年10月から11月にかけて「第44回東京モータ-ショー2015」と「SMART MOBILITY CITY 2015」が開催されました。各社のブースではコンセプトカーの他、運転支援や自動運転、Connected Car(直訳すれば「接続されたクルマ」ということになるでしょうか)といったテクノロジー展示が多く見受けられました。今回はその中でも「Connected Car」のコンセプトについて取り上げたいと思います。

Connected Carでは、クルマが高度なセンシング技術を備えたり、またネットワークとつながることで、様々なベネフィットを提供することが期待されています。

第一義的には安全性の向上です。たとえばITS(高度道路交通システム)専用の電波周波数を使って、安全な交通に関わる信号を路車間(クルマと道路の間)および車車間(クルマ同士)で通信してドライバーに運転支援情報を伝えるシステムの導入が進められています。業界全体で交通事故を減らす取り組みが活発化してきました。そこには、更にその先にある自動運転を見据えた技術開発の一端も垣間見ることができるでしょう。

他方、Connected Carの考え方をより広く捉えると、もう一つの方向性として、情報通信を利用することでクルマに乗っている人が必要とする情報や車内空間を快適にする情報を提供する方向も見えてきています。

既に一部のメーカーではLTEなどの高速モバイル通信を標準搭載する車種を発売しており、車内のネット利用環境を便利にする試みが始まっています。更にその先には、かつてなかったエンターテインメントを車内環境に提供する新しいカーライフが登場する兆しが感じられます。

こうした動きを見ていると自動車市場を巡る環境がこれから大きく変わろうとする胎動のようなものを感じます。

それでは、今の日本人はクルマの中でどのようなメディア環境に囲まれているのでしょうか? そこで、電通総研メディアイノベーション研究部では、日常的にクルマを運転する習慣のある全国の男女4400人に対して、2015年9月に独自調査を実施しました。

そこから見えてきた現在のクルマ内メディア環境のトレンドについて、インターネット系サービスの利用に軸足を置く形でご紹介します。


①配信サービスを利用して音楽を楽しむユーザーが多数出現

近年、音楽を聴く手段が多様化していますが、自動車内も例外ではありません。今回実施した調査からは、ラジオやCDなどの物理的なメディアやスマートフォンに保存された音源だけでなく、音楽配信サービスの楽曲を利用するユーザーが全体の10.2%と、最近開始したサービスにしては、もう既に利用率が10%を超えてきていることが確認できました。

音楽配信サービスを利用するためには、スマートフォンと車載オーディオをBluetoothやFMトランスミッター(任意のFMの周波数帯に変換してラジオチューナーで拾う装置)など無線でつなぐ方法と、スマートフォンと車載オーディオをケーブルなどの有線でつなぐ方法があります。また、動画共有サービスで、好きなアーティストのプロモーションビデオを流してその音声を聴くユーザーも多いことが分かりました。

②スマートフォンの画面をカーナビに表示

スマートフォンのナビアプリを利用するユーザーが増えていることが分かりました。ただし、自動車内では、画面サイズの制約で使いにくいというユーザーの声も大きくなっています(「スマートフォンの道案内・ナビゲーションは画面が小さくて使いにくいと思いますか」に対して「とてもそう思う」と「ややそう思う」と回答した割合の合計が全体の46.5%)。そこで、スマートフォンの画面をカーナビ画面に映し出して、より大きな画面で道案内サービスを享受するという使い方も見られるようになりました。

③行動変容を起こす屋外広告

クルマの中のメディア環境を広義に捉えるならば、屋外広告の存在も忘れることはできません。「イライラが募る渋滞中に何の気なしに目に入った広告に引かれた」といった経験はクルマを運転したことのある人なら誰しも感じたことがあるでしょう。屋外広告を見たのがきっかけで、気になった商品の情報について停車中や降車後にスマートフォンからネット検索して調べるといった行動を取る人が多い(「屋外の広告物を見て、商品を調べたことがある」で「非常にあてはまる」と「ややあてはまる」と回答した割合の合計が全体の18.3%)ことも、調査から浮かび上がりました。

このように、Connected Car時代の本格到来を前にして、クルマの中は、放送、通信、物理的メディアの情報が飛び交う「複合的なメディア空間」へと変貌しつつあるといえます。

今後も、「Android Auto」や「CarPlay」などの自動車向け情報サービス規格の普及や、2016年3月から開始予定の自動車向けラジオ放送(V-Low帯を使ったマルチメディア放送)などの登場が見込まれています。

将来に向けたメディア空間としてのクルマの進化が、ますます注目されます。

 

プロフィール

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    立木 学之
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーション研究部 主任研究員(2015年末時点)

    入社以来、世代研究や男性消費トレンド研究のほか話題注目商品プロジェクトなどを担当。営業局にて大手自動車会社を担当した後、電通総研にて中国市場とインド市場のインサイト開発に従事。2012年1月より「電通日本の広告費」「世界の広告費」「情報メディア白書」の制作をはじめ、各種オーディエンスインサイト構築を手がける。2016年からインターネット広告のセールスを手掛けるセクションへ異動。

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