ミレニアルズと「未来のスキル」 #05

「人工知能の普及によって私たちの仕事がなくなる」は本当なのか問題(第1回)

  •              mg 1040
    安斎 勇樹
    東京大学大学院 情報学環 特任助教
  •             mg 0800
    石山 洸
    リクルート AI研究所 Recruit Institute of Technology推進室 室長
  • Web
    能勢 哲司
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター 事業開発室
  • 14580463 1225228107497344 1248304897 n
    天野 彬
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーション研究部 研究員

「高度情報社会における“スキル”のいまとこれからのかたちをミレニアルズの実践から探っていく」ことを目指す本連載。「2011年度にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に今存在していない職業に就くだろう」(Cathy Davidson)と言われるほどに仕事の未来が不透明なこの時代に、新世代のデジタル・ネイティブ世代=「ミレニアルズ」の取り組みから“未来のスキル”のかたちを模索します。

私たちが今回フォーカスするミレニアルズは、東京大学大学院情報学環で特任助教を務められている安斎勇樹さんと、株式会社リクルートホールディングス Recruit Institute of Technology(以下、RITと表記)推進室 室長の石山洸さんのお二方。
お二人の取り組みを紐解きながら、これからの時代に必要とされる〈創造性〉のあり方を考察したいと思います。安齋さんは、人と人がコミュニケーションを通じてどう創造性を高められるのかという問題意識を、ワークショップデザインという領域から突き詰め探究されている若手筆頭の研究者/実践者。設計されたコミュニケーションの仕組みの中からクリエーティビティーを創発させていく手法は、経営課題や社会問題の解決にクリエーティビティーを発揮していくことが求められる今日的な状況に強く合致したものだと思います。
一方、石山さんは学生時代も人工知能関連の研究を進め、現在はRIT推進室室長として発展著しいこの分野の先導を取って仕事をされています。人工知能を、どうユーザーにとってメリットのある形で使用していくのか(つまり良いサービスに昇華していくのか)についての専門的な知見をお持ちです。

お二方の知見を重ね合わせながら、人はコミュニケーションを通じていかに自分の創造性を開拓していけるのか、そしてコミュニケーションテクノロジーの発展――それは必然的に人工知能を包含します――はどのようにしてそこに寄与するのか。人間と人工知能との間の、VersusだけにとらわられないWithの可能性を見据えながら、創造性に関する未来のスキルについて考えを深めていきたいと思います。

前半(第1回・第2回)ではそれがビジネスにどんな影響をもたらすのか、その可能性について議論します。後半(第3回第4回)ではその話を引き継ぎながら、私たち自身のクリエーティビティーのあり方がどう変化していくのか、考えを深めていきます。

左から、能勢 哲司氏(電通)、安斎 勇樹氏(東京大学大学院 特任助教)、石山 洸氏(リクルート)、天野 彬氏(電通)
 

天野:今回は、昨年後半ごろから社会一般にも盛り上がりを見せてきた「人工知能」という題材にフォーカスしながら、本連載のテーマである未来の仕事や技能についてそれがどんな影響を与えうるのかを議論していきたいと考えています。人工知能をめぐっては待望論・脅威論を含めて、まさに喧々諤々の状況ですが、20-30代の私たちにとって切実な問いはそれとどう共存していくのかということだと考えています。
人間と人工知能を対比させるVSではなく、どんな協働のかたちがありうるのかというWithの発想でどう現状から未来を捉えることができるのか、今回のディスカッションで深めていければと思います。
象徴的な最近の事例としては、IBMが開発した「シェフ・ワトソン」が人間には思い付かないような組み合わせでおいしい料理のレシピを提案するというように、人工知能とのコミュニケーションを通して私たちが新しいクリエーティブを得るという事例も出てきていますね。

能勢:安斎さんは、ワークショップデザインを研究されていて、コミュニケーションを通じて創造性を高めるという視点が今回のテーマにマッチします。一方、石山さんは、人工知能、ビッグデータの研究、さらに外部の人を招いたオープンイノベーションの取り組みをされています。まずは、初顔合わせということもありますので、自己紹介を兼ねてそれぞれ現在取り組んでいること、バックグラウンドを教えてください。

■固定観念を壊すワークショップで新しいひらめきに出会える

 

石山:2015年4月から、リクルートの人工知能の研究所である、Recruit Institute of Technology推進室で室長を務めています。リクルートへの入社は10年前で、最初は雑誌やフリーペーパーの紙メディアをデジタルメディアに移行する業務を担当していました。その後、社内の新規事業提案制度を使って起業し、3年でバイアウトしました。大学院修士の時には論文を18本書いており、そのアカデミックなバックグラウンドとビジネスの経験を積んだことを生かして、現在リクルートの人工知能の責任者になりました。

安斎:修士で論文18本という時点ですでに僕の18倍です(笑)

天野:恐るべき生産性ですね…!

安斎:僕は昨年度より東京大学大学院情報学環の特任助教を務めており、ワークショップデザインの研究をしています。コラボレーションをしながら何かを創りだしたり学んだりするワークショップにおいて、創造的なアイデアやコミュニケーションを生みだすための場作りの方法論について研究しています。
学部は工学部だったのですが、その頃から教育に問題意識があり、大学2年のときに子ども向けの教育系のスタートアップを起業しました。その活動の一貫で子ども向けのワークショップをやった際に、ワークショップはよい学びの場としてだけでなく、企画者が思いもつかないようなアイデアが創発する場としても可能性があることに気がつきました。以降、ワークショップのメカニズムと方法論に興味を抱き、大学院は文系寄りの学際領域に転向しました。
ここ最近は子ども向けに限らず、企業の新規事業開発や組織開発、まちづくりなど、課題解決のためのワークショップの依頼が増えています。普段考えないようなテーマを設定したり、ユーザーや異分野の人材を参加者にアサインしてワークショップを実施することで、従来のインタビュー調査などでは得られないインサイトが生まれ、課題解決を前進させる手段になります。

 

天野:オープンイノベーションに通じるものがありそうですね。安斎さんがファシリテーターとして場に入ることでプロセスが変わるのですか?

安斎:「模造紙と付箋紙を使えばワークショップ」というようなイメージがあるかもしれませんが、ワークショップには100年を超える実践の歴史があり、理論的にも奥深い手法です。その場を上手に仕切ることに意味があるのではなく、課題解決のためにクライアントがとらわれている固定観念をどう叩けば揺さぶれるのか、つまりどういう「問い」を設定すればブレークスルーが得られるか、その上流のプロセスを含めてワークショップのデザインなのです。

■「シェフ・ワトソン」を生み出すクリエーティビティー

 

天野:シェフ・ワトソンからは、例えば「パーティ用アサツキのチャツネ」(焼いたブドウにはちみつ、エシャロット、米酢、アサツキを加える料理)といった新規なレシピが提案されるのですが、つくって食べてみると意外においしいのだとか。そこで驚かされるのは、人間は気付かないうちにどれだけ固定観念にとらわれているかということです。食材の組み合わせや作り方に無意識な制限をかけていると。もちろんバイアスなき視点というものは困難ですが、そこを乗り越えなければ創造的な仕事はできないというジレンマを多くの人が抱えていると感じます。高度なコンピューティング技術は私たちのバイアスを乗り越えるヒントを与えてくれるものなのでしょうか。

 

石山:修士の時の18本の論文は全て人工知能がテーマです。私は安斎さんと逆で、学部が文系でマスターが理系で、人工知能を社会科学に応用する研究をしていました。人工知能の前にコンピューターの歴史を振り返ると、コンピューターはスーパーコンピューターだけでなく、パーソナルコンピューターとしても発達しました。そしてパーソナルコンピューターになったことで、教育と切っても切れない関係になりました。かつてコンピューターサイエンティストのアラン・ケイ博士と社会心理学のピアジェ博士も共同研究をしています。そもそもケイ博士は、自習できるためのインタラクティブなコンピューターを作ろうということで、ダイナブックを作りました。コンピューターは、受動的なエデュケーションではなく、自発的なラーニングができるというのが背景にあるんです。

天野:僕は修士論文でスマートフォンのユーザー行動に関するテーマを分析していたのですが、スマートフォンまでに至るコンピューティングの歴史を学ぶと、その発展においてコンピューター自身をどう自立的で完全な存在に近づけていくのかというAI(Artificial Intelligence:人工知能)的な流れと、人間をサポートするためにどうコンピューター技術を発展させていくのかというIA(Intelligence amplification:知能増幅)的な流れの二つがせめぎ合っていることが分かります。

石山:人工知能はパソコンのように人間に歩み寄るのか、それともスーパーコンピューターのように遠い存在になるのか、という2つの方向性がありますよね。
もう一つ、シェフ・ワトソンが出す料理のアウトプットも面白いですが、そもそもそのアウトプットを出すシェフ・ワトソンを作るというクリエーティビティーが面白いですよね。シェフ・ワトソンのレシピは人工知能が作りだすものですが、シェフ・ワトソンを作るクリエーティビティーは人間にしかないものだとも言える。そうしたクリエーティビティーを発揮していくためにも、オープンイノベーションなどの手法が重要になっていくのでは。

 

安斎:今までにない料理を作るというのは人工知能が得意な領域かもしれませんが、「料理を作るのは誰なのか」を問い直せるのはいまのところ人間だけです。人工知能は与えられた問いを解くことはできるけれど、解くべき価値のある問いを立てることは、やはり人間の役割ではないでしょうか。
ワークショップデザインにおいても、プログラムの作り方やファシリテーションの方法論などはある程度ロジカルに説明ができるのですが、どのような問いを立て、どのようなアプローチで揺さぶりをかければ固定観念が壊せるのか、という部分は言語化しにくいです。これは方法論の研究者としても課題だと感じています。

■ディープラーニングはアルゴリズム。その先のユーザーエクスペリエンスを実現する際に人のアイデアが宿る

 

天野:シェフ・ワトソン自身を作り出すクリエーティビティーは人が能力を発揮するべき領域だという指摘がありました。一方で昨今話題になっているディープラーニングのように、コンピューター自身が学びを拡張していくような技術のトレンドがあります。それはこの分野のブレークスルーになるのでしょうか。

石山:ディープラーニングによって学習領域を拡張することはできますが、アルゴリズムにすぎません。最後にユーザー、カスタマーにサービスが届くときに納品されるものは、エクスペリエンスです。企業目線でどうビジネス化するかというのは、ディープラーニングの外側にあり、現実的に取り組むときにはそこは分けて考えるべきで、人間のクリエーティビティーは外せません。
例えば、人工知能×料理をテーマにワークショップをした時に、シェフ・ワトソンのアイデアもあれば違うものもたくさん生まれるはずです。その空間にこそクリエーティビティーがあります。
ある才能を持ったタレントをプロデュースすることを考えた時に、どうプロデュースすれば人気が出るか考えるにはクリエーティビティーが必要ですよね。つまり、人工知能がディープラーニングという才能を持っているとき、その人工知能そのものをプロデュースする領域は残っているんです。どちらかというと、どのようにプロデュースするかを人類が本気で考えるかどうかで、未来が変わります。
人工知能は非常に汎用性の高い技術なので、あらゆる産業で使えます。だからこそ、人工知能をどう活用するかという点にクリエーティブが求められるのです。

天野:ここにWithの視点が大きく関わりますね。そうしたアイデアはどうすれば生まれていくと思いますか?

石山:以前、ゼクシィにからむプロジェクトで、MITメディアラボで助教も務める現代アーティストのSputniko!さんと神戸芸術工科大学の学生とともに、2050年の結婚を考えるというワークショップをやったことがあります。ワークショップ手法としてはクリティカルデザインの考え方に則りながら、既存のウエディングに囚われないようなアイデアを出し合いました。
出てきたアイデアでは、生まれた瞬間に遺伝子とビッグデータ解析で結婚相手が決定されるというような話がありました。でもそういう社会は面白くないから、こういうふうに人工知能をプロデュースしないといい時代にならないよね、というところまで議論できたんですね。

安斎:ワークショップは現実的なアウトプットを出すための場というよりも、遊び心を持った思考実験による学習の場としての意味合いも強いですから、そういうテーマ設定は面白いですね。

 

石山:例えば、f(x)=yという関数を想定します。関数fはここでのワークショップや人工知能というものにあたり、xはリソース、yは導出される価値をあらわします。つまり、人工知能にできることは、アルゴリズムをどう改良していくかという課題はもちろんですが、そもそもの問題としてxの中に閉じた世界でもあるということ。それをどう解釈するかは人間に委ねられていて、結果どんなyが生まれるかも私たち次第です。したがってxをどう活用するかというアイデアを生み出すならば、fにあてはまる「ワークショップ」をどう改良していくかということも非常に重要です。

(第2回に続く)

プロフィール

  •              mg 1040
    安斎 勇樹
    東京大学大学院 情報学環 特任助教

    1985年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。現在は東京大学大学院情報学環で特任助教を務める。研究テーマは創造性を引き出すワークショップデザイン。研究活動だけでなく、子ども向けから企業向けまで、ワークショップをはじめとする様々な学びと創造の場作りを実践。共著に『恊創の場のデザイン – ワークショップで企業と地域が変わる』(2014年)、『ワークショップデザイン論 – 創ることで学ぶ』(2013年)など。

  •             mg 0800
    石山 洸
    リクルート AI研究所 Recruit Institute of Technology推進室 室長

    大学院在学中に修士2年間で18本の論文を書き、アラン・ケイの前でプレゼン。博士課程を飛び越して大学から助教のポジションをオファーされるも、リクルートに入社。雑誌・フリーペーパーから、デジタルメディアへのパラダイムシフトを牽引。リクルートとエンジェル投資家から支援を受け、資本金500万円で会社設立。同社を成長させ、3年間でバイアウト。その後、メディアテクノロジーラボの責任者を経て現職。

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    能勢 哲司
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター 事業開発室

    中国上海市出身。電通で上海万博プロジェクト、自動車メーカー担当営業を経てクリエーティブブティックへ出向。その後、現在の事業開発領域ビジネスに従事。デジタルファブリケーション分野のビジネス開発からスタートアップ企業との協業、異業種とのネットワーキングに注力している。

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    天野 彬
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーション研究部 研究員

    1986年生まれ。東京都出身。東京大学大学院・学際情報学府修士課程修了。
    2012年電通入社後、マーケティング部門、新規事業開発部門を経て、2014年から現職。
    スマートフォンのユーザーリサーチを中心に、現在のメディア環境やオーディエンスインサイトを分析している。
    著書に『二十年先の未来はいま作られている』(2012年、日本経済新聞出版社、共著)、『情報メディア白書2016』(2016年、ダイヤモンド社、共著)。その他レポート執筆やセミナー講師など経験多数。

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