ミレニアルズと「未来のスキル」 #06

「人工知能の普及によって私たちの仕事がなくなる」は本当なのか問題(第2回)

  •              mg 1040
    安斎 勇樹
    東京大学大学院 情報学環 特任助教
  •             mg 0800
    石山 洸
    リクルート AI研究所 Recruit Institute of Technology推進室 室長
  • Web
    能勢 哲司
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター 事業開発室
  • 14580463 1225228107497344 1248304897 n
    天野 彬
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーション研究部 研究員

前回に引き続き、東京大学大学院情報学環で特任助教を務められている安斎勇樹さんと、株式会社リクルートホールディングス Recruit Institute of Technology(以下、RITと表記)推進室 室長の石山洸さんの二人のミレニアルズとともに、人工知能が普及することで私たちの仕事やそこで生み出す価値(クリエーティビティー)のかたちがどう変わるのか、考察を深めていきます。
全4回連載の第2回目にあたる今回は、タイトルにも掲げた問いへの核心に迫ります。

左から、能勢 哲司氏(電通)、安斎 勇樹氏(東京大学大学院 特任助教)、石山 洸氏(リクルート)、天野 彬氏(電通)
 

■人工知能は人の仕事を奪う、という認知バイアスを超えて

 

能勢:お話を聞いていると人工知能とワークショップは相乗効果を生めそうですね。

安斎:人工知能はワークショップをどのように変えるのか、という問いは面白いですね。すでに学習科学の領域ではロボットが協調学習をファシリテートするという研究がなされています。といっても、現段階では人間が裏で言動を操作しているロボットなのですが、それでも権威を持った教師が介入するのと、ロボットがそれを代替するのとでは、グループのコミュニケーションが変化することが明らかになっています。今後の技術発展と使い方によっては、人工知能がワークショップの学びと創発を刺激するという可能性もあるでしょう。

 

石山:近い事例だと、技術伝承に人工知能が使われることがありますね。特に暗黙知の技術を伝えるのは難しいので、いったん技術を持っている人をいろいろな方法でセンシングして、その結果を人工知能にして、人工知能が他の人に伝えることで、技術伝承ができるという話があります。

天野:職人の技術を人工知能で伝えるということですね。少々極論ですが、芸能や工芸などの分野で秀でた人をセンシングして、機械がそうした作業を代替していけるのではという議論もあります。暗黙知をコピーするというのは一種の語義矛盾のようにも思えるのですが、今後可能性が見込まれる分野でもあると。

石山:サービスを受ける人がいいというなら、需要はありますよね。現実問題でいうと、例えば在宅介護を考えたとき、介護ロボットを家庭で購入するのか、それとも技術を知っているロボットから学んで、自分で在宅介護ができるようにした方がいいのか。コストの観点、人の温かさといった情緒的な観点の両方が含まれている領域は多く、すべてが人工知能にリプレースするには難しいことがあります。

安斎:知人のトレーナーが、マッサージの技術はまだまだロボットは人間のプロの技には及ばないと話していたのを思い出しました。ワークショップデザインにおいても、上流の問題設定の作業や、即時的なファシリテーションのスキルすべてを人工知能で代替するということはまだまだ想像がつきません。さきほどの話と繰り返しになりますが、「人間の仕事を人工知能が奪う」と考えるのではなく、「人間の仕事を部分的に担当するエージェント」として人工知能をとらえる必要があると思います。

■人工知能とのビジネスに向けて、私たちは自らのクリエーティビティーを発揮できるか

 

天野:オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授などが今後10年で「消える職業なくなる仕事」というレポートを発表して話題になりましたが、人と人とのフィジカルな接触がある仕事や対面でコミュニケーションをする必要がある仕事などは残るのではないかといわれていますね。

石山:このレポートが書かれる前に安斎さんのワークショップを受けてもらったとしたら、書かれている内容も変わっているかもしれないですよね。そもそも「消える職業なくなる仕事」という軸の設定が一面的だと思うところもあります。普通に考えたら、なくなる、残る、新しく生まれるという軸になりますから。というのも、人工知能というテーマそのものに対する認知バイアスがあるんですよね。フラットに考えるためにも、ワークショップなどを通じて人工知能の認知のデザインをきちんとやって、バイアスを解く必要があります。

 

能勢:石山さんの研究所でも、人工知能のイメージを変えよう、世の中を変えようという活動もされているんですか?

石山:世の中を特定の目的を持って啓発ということはありませんが、新しい価値を作るというリクルート経営理念と向き合ったときに我々の活動を発表して、コミュニケーションする必要があります。
人工知能は、現場でデータを取得して、仕組み、アルゴリズム、ユーザーエクスペリエンス、ビジネスモデルを含めて日々改善を積み重ね、高速でPDCAを回すのが重要なので、大きなビジョンを持ってウォータフォールで進めていくには危険なものがありますね。

能勢:確かに、自然とWithではなくVSの方向性で考えてしまうバイアスが私たちの中にあるような気もしています。リクルートとして、人工知能研究のゴールはどこに設けているのでしょうか。

 

石山:リクルートとして一つの目指す姿として、2020年に人材領域でグローバルでナンバーワン、2030年に販促領域でグローバルでナンバーワンを掲げているので、それまでの間にグローバルでトップレベルので技術を獲得しつつ、既存のビジネスモデルの効率化だけでなく、新しいビジネスモデルを作るということを背景に、研究所は設立されています。
グローバルでトップレベルの技術を獲得するという話は、テクノロジーに関するものですが、新しいビジネスモデルを人工知能を使って創造することを考えると、もう一段上のクリエーティブが必要になります。ですから人材領域×人工知能はどういうビジネスモデルが必要か、どういうアルゴリズムでどんなサービスが可能かというのは日々議論しています。

天野:人が発想するプロセスの中で人工知能をどう使うかをデザインするのが、まさに「未来のスキル」として重要になるということですね。人工知能が人間のできることやスキルをうまく増幅できるような、プロセスをデザインすること。それがこれからの社会で求められるスキルになっていくという視点であると。

安斎:新規事業の開発プロセスを人工知能で支援するという可能性もあるのでしょうか?

石山:一部は可能ですが、全ては無理ですよね。例えば、リサーチをするときに、人工知能がAという質問をしたときと、人間がAという質問をしたときでは、同じ答えは返ってこないことがあるはずです。リサーチの手法を含めて人間ができること、人工知能ができることには差があって、そこをどう考えるかが重要です。

■人と人とのコミュニケーションが孕む「ズレ」を通じて新しいアイデアが生まれる

 

安斎:創造性研究では「イノベーションはコミュニケーションから生まれる」と言われていますが、実際にワークショップにおける創造的な発話プロセスを精緻に分析していくと、そのメカニズムがよくわかります。面白いのは、新しいアイデアが生まれている場面では、Aさんが言ったことを必ずしもBさんが100%理解しておらず、むしろ微妙に誤解しているケースが多いんです。少しずつ異なる角度から解釈が加わって、意味のあるズレが蓄積することで、個々人の固定観念の外側にあるアイデアが創発しているのです。

天野:なるほど、非常に興味深いです。そうした、「意味のあるズレ」を意図的に起こすための設計というのは可能なんですか?

安斎:多様な解釈を誘発するテーマを設定したり、異なるパースペクティブを持った異分野の人材をあえてアサインしたりするなどの手法があります。このような「ズレ」を生み出す仕掛けとして、人工知能をはじめとするテクノロジーにできることがたくさんあるかもしれません。

石山:従来、ワークショップでカードを使っていたところをデジタル化するとか。いい面と悪い面がありますよね。カードは身体性があるので、そこからの気付きがありますがデジタルでは失われてしまう。一方で、デジタル化することでログがためられるようになってそこからPDCAを回せるという両方の側面があると思います。
人か人工知能かというVSの関係ではなく、プロセスの管理をアルゴリズムで考えるのが人工知能の役割ですよね。
一方で、主観のズレという点で、おいしいという評価を同列で評価できるのかという疑問があります。一列に並ばない評価をするときに、Aさんに合わせた人工知能、Bさんに合わせた人工知能というように、人に寄り添った人工知能というところまでできれば、Withの関係ができるのではないでしょうか。

天野:人工知能のパーソナライゼーションが重要になってくるという面もありそうですね。

■人工知能は私たちの創業ハードルを下げ、新しい仕事を生み出す

 

石山:2045年にコンピューターが人類の能力を超えるシンギュラリティーが訪れるといわれていますが、シンギュラリティーというコンセプトのバックボーンの1つがムーアの法則です。ムーアの法則と職業との関係をひもとくと面白いものがあります。ムーアの法則では、コンピューターの機能が発達すると、コストが下がって性能が上がるといっていますが、事実それでエンジニアが起業できるようになりました。すでにプラットフォームになるような大きなサービスもありますよね。
そしてエンジニアが起業できるようになると、エンジニアリングだけでは差別化できないので、次にデザイナーの起業が増えてInstagramやPinterestが生まれ、また差別化できなくなってグロースハッカーの起業が増え、Snapchatなどのサービスが生まれています。
xに導かれながら、人の働き方のfが変わることで、連鎖的にyとしての新しい職業が生まれています。例に挙げたのは氷山の一角で、この下にすごくたくさんの職業が埋まっていて、これから登場してくるでしょう。
安斎さんの話で、最初はワークショップを教育の目的でスタートして、次にビジネスでも利用されるようになったという話がありましたが、段階的ではありますが機械学習はB2Bの現場からダウンサイジングして普及していくでしょう。すでに機械学習のクラウドサービスはたくさんあって、Machine Learning as a Serviceという言葉もあります。
今までは機械学習の専門家だけだったのが、周辺の人も使える時代が来ていて、B2BだけでなくB2Cでも簡単にできるようになるでしょう。例えばスマホアプリでデータをためておけば、自分で未来予測ができるようになる、という時代が来るでしょうし、そうなれば新しい職業がたくさん生まれるでしょう。

天野:私たちがこうしたテーマについて考えるときに陥りやすい思考バイアスのご指摘は非常に本質的だと思いました。「人間VS人工知能」で捉えてしまいがちなところですが、そこを「人間With人工知能」の立場から捉えなおすことで新たな価値へのチャレンジができるようになるという視点は、まさに本連載の主旨に合致するメッセージだと考えます。
人工知能によって、人間の可能性が膨らみ新しい職業が増えていくという未来図がをどう打ち出していくのか、私たち自身の課題だと感じます。 

 

(第3回に続く)

プロフィール

  •              mg 1040
    安斎 勇樹
    東京大学大学院 情報学環 特任助教

    1985年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。現在は東京大学大学院情報学環で特任助教を務める。研究テーマは創造性を引き出すワークショップデザイン。研究活動だけでなく、子ども向けから企業向けまで、ワークショップをはじめとする様々な学びと創造の場作りを実践。共著に『恊創の場のデザイン – ワークショップで企業と地域が変わる』(2014年)、『ワークショップデザイン論 – 創ることで学ぶ』(2013年)など。

  •             mg 0800
    石山 洸
    リクルート AI研究所 Recruit Institute of Technology推進室 室長

    大学院在学中に修士2年間で18本の論文を書き、アラン・ケイの前でプレゼン。博士課程を飛び越して大学から助教のポジションをオファーされるも、リクルートに入社。雑誌・フリーペーパーから、デジタルメディアへのパラダイムシフトを牽引。リクルートとエンジェル投資家から支援を受け、資本金500万円で会社設立。同社を成長させ、3年間でバイアウト。その後、メディアテクノロジーラボの責任者を経て現職。

  • Web
    能勢 哲司
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター 事業開発室

    中国上海市出身。電通で上海万博プロジェクト、自動車メーカー担当営業を経てクリエーティブブティックへ出向。その後、現在の事業開発領域ビジネスに従事。デジタルファブリケーション分野のビジネス開発からスタートアップ企業との協業、異業種とのネットワーキングに注力している。

  • 14580463 1225228107497344 1248304897 n
    天野 彬
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーション研究部 研究員

    1986年生まれ。東京都出身。東京大学大学院・学際情報学府修士課程修了。
    2012年電通入社後、マーケティング部門、新規事業開発部門を経て、2014年から現職。
    スマートフォンのユーザーリサーチを中心に、現在のメディア環境やオーディエンスインサイトを分析している。
    著書に『二十年先の未来はいま作られている』(2012年、日本経済新聞出版社、共著)、『情報メディア白書2016』(2016年、ダイヤモンド社、共著)。その他レポート執筆やセミナー講師など経験多数。

バックナンバー

関連記事

続きを見る
ページ先頭へ