ミレニアルズと「未来のスキル」 #07

「人工知能の普及によって私たちの仕事がなくなる」は本当なのか問題(第3回)

  •              mg 1040
    安斎 勇樹
    東京大学大学院 情報学環 特任助教
  •             mg 0800
    石山 洸
    リクルート AI研究所 Recruit Institute of Technology推進室 室長
  • Web
    能勢 哲司
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター 事業開発室
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    天野 彬
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーション研究部 研究員

前回に引き続き、東京大学大学院情報学環で特任助教を務められている安斎勇樹さんと、株式会社リクルートホールディングス Recruit Institute of Technology(以下、RITと表記)推進室 室長の石山洸さんの二人のミレニアルズとともに、人工知能が普及することで私たちの仕事やそこで生み出す価値(クリエーティビティー)のかたちがどう変わるのか、考察を深めていきます。

全4回連載の第3回目にあたる今回は、私たち一人ひとりがそうした社会の中でどうクリエーティブでいられるのか、一人ひとりのポテンシャルを開花させる方向性でのコンピューターとの「With」の関係性はありうるのか、ディスカッションを重ねました。

左から、能勢 哲司氏(電通)、安斎 勇樹氏(東京大学大学院 特任助教)、石山 洸氏(リクルート)、天野 彬氏(電通)
 

■本当にクリエーティブな教育を情報技術で実現するために

 

安斎:教育における人工知能の応用可能性に関心があるのですが、石山さんもかつては教育について研究していたんですよね。

石山:教育分野は大学のときに研究していました。コンピューターの父と呼ばれるアラン・ケイ博士と、社会心理学者のピアジェ博士の子どもの教育共同研究では、最初にバスケットボールを屋上から落とし、バスケットボールの加速度が分かるように連続撮影した写真を子どもに見せます。ボールの落下によって生じる加速度を視覚として捉えるんですね。次に子どもに豚のレースのプログラムを作らせます。豚のレースをプログラムするときに、加速度の概念を入れないと豚が動かないんです。まず目で加速度を知り、次にアルゴリズムとして自分で実装する。そしてその後に二階微分の概念を教えると、子どもでも理解できるようになるんです。実にクリエーティブな教育ですよね。

ケイ博士はかねてから、人がコンピューターをプログラムするのか、コンピューターが人をプログラムするのかという問いを立てていました。最近は、子ども向けプログラミング教育が盛んですけれども、どっちの教育を提供しているのかなと思います。講座を受けてif文が書けるようになるというゴールは、システムが子どもをプログラムするのに近いですよね。逆に先ほどの事例では、子どもが能動的にプログラムにして、その帰結としてナレッジを獲得しています。人工知能はこういうふうに生かすべきです。

私は社会科学を人工知能に活用するという延長で、文系の人でも簡単に社会科学的なビジネスゲームを作れるプログラミング言語を開発しました。その言語を使えば、消費者、生産者がインタラクションする中で、どういうGDPが得られるかということを簡単に書けます。そのゲームのアルゴリズムに人工知能が入っています。そのことで、インタラクションの中で特定の経済的な予見があったときに、将来を予測できるようになるんです。人が予測すると、人工知能が学習して、そして人も学習してというように。もちろん、株価、人口動態など現実的には予測しにくいものもあるんですが、人工知能を通じてコミュニケーションしながら未来を体感できるので、そこで例えば政策の議論をするなど教育プラットフォームとして活用できるんです。

つまり、人工知能をうまく使えば、社会現象をボトムアップでそのまま再現することができるので、そこに自分が参加して未来を体感することで、いろんな意味でのリテラシーが上がって可能性が増えるということです。

 

天野:シミュレーションによってある事象への理解が個人に密接な切り口で体感できて、将来の予測として有益に使えるようになるということですね。

安斎:なるほど、最近では実際に社会のフィールドに出て問題解決をしながら学ぶプロジェクト型の学習が注目されていますが、そのように人工知能を活用して社会のダイナミクスをシミュレーションできるのは魅力的なアプローチですね。

石山:ええ、人工知能を使った株のゲームで強いアルゴリズムを入れて、大学生が負けて破産するようにして、その後にリスク管理の話をすると、大学生でもすっと頭に入っていくということもあります。

■人間の可能性を拡大するための示唆を人工知能がする未来

 

天野:最近では「一億総活躍社会」というコンセプトが唱えられていますが、それが示唆するように今後は一人ひとりの働く期間も長くなるでしょうし、キャリアも多様化していくと思われます。そうした予測に立ってみると、この変化が激しい時代ですから、個人のキャリアやライフプランをテクノロジーの力も借りながらどう構築していくのかが問われる時代になっていきそうです。

石山:自分の中にも認知バイアスがあって、それを人工知能を通じて発見できるときがあります。人工知能が一方的に「あなたはこうです」というのではなく、Googleの検索ではないですが、特定のクエリーをインタラクティブに表示しながら、こういう未来もある、キャリアもあるというように、能動的な発見ができるといいですよね。

人工知能が働く人の空間を理解することで、今までできていなかった企業と働く人のマッチング機会を提供していければいいと思います。

うちの研究所に東大のロボット工学の出身で、ゼクシィの営業を2年やった人がいるんですが、このバックグラウンドから偶然にも「ビジネス開発ができてロボット工学が分かる研究者」になっているんです。では、どういうふうに職務記述を書けば、そういう人材を獲得できるかというと難しい。その人の背景をデータとして、潜在的なニーズも含めて人工知能で理解が深まり、人材のマッチングができるといいと思います。

 

安斎:マッチングについては教育でもいろいろな可能性があります。最近ではMOOC(大規模オープンオンライン講座)が世界的に普及し、僕も日本の大学の授業を無料で配信するgacco(http://gacco.org/)というサービスの開発に関わっていますが、非常に多様な受講生がさまざまな講座で学習しています。そこには膨大な個人の学習ログが蓄積されているはずですが、これがまだ活用しきれていないんです。うまく活用できれば、キャリアを思わぬ方向に拡げてくれる可能性のある新たな講座のリコメンドや、受講生同士のマッチングなど、さまざまな支援の可能性があります。

 

天野:人工知能を使うことで学びのサポートができるということですね。

石山:学習効率を上げる、学習領域の幅を広げるなどいろいろな活用ができそうですね。

■社会が変わる質的変化の兆しをデータ流通量の視点から捉える

 

能勢:そもそも石山さんが人工知能に興味を持ったきっかけはどういったものだったのですか?

石山:もともと大学は文系だったんですが、大学2年のときに9・11がありました。そのときに今アメリカはどうなっているんだろう、現状を見てみたいと思ったんですが、お金が無くて渡米できなかったんです。たまたまプログラミングコンテンストがあって、予選を通過すると、無料でアメリカに行けるチャンスがあることを知りまして。そのときの自分はパソコンでダブルクリックするのがやっと。でも2週間でプログラミングを覚えてコンテストに参加しました。そこには人工知能も少し入っていました。

能勢:2週間でプログラミングを覚えて予選を通過したということですよね!

石山:パソコンは誰でも使えるコンピューターということですし、オブジェクト指向言語はそれと同時に生まれた概念だから、誰でもできるように設計されていて、やれば誰でもできるんですよ。機械学習も同じでやれば意外に簡単です。
そのとき行ったカーネギー・メロン大学でいろいろな人との出会いがあり、その中に理系の先生ですが、理学と経済学の両方の博士号を持っている方がいて、その先生の研究室に行けば両方学べるし、人工知能はその間をつなぐものだと思って、研究しようと思ったんです。

修士が終わった後、リクルートを選んだのは、社会課題を事業で解決しており、大学の研究室ではできないことができるからです。実は、国立大学の助教授のポストもあったのですが、研究資金、データ量などからリクルートを選びました。
アラン・ケイ博士は、グーテンベルクの活版印刷というテクノロジーの発明で、データ量が爆発し人のリテラシーを向上させ、レボリューションを起こしたと言っていますが、テクノロジー、メディア、リテラシー、レボリューション/イノベーションが一体化しているのがリクルートだったんです。

天野:活版印刷によって書物がそれまでとは比べ物にならないほど安価かつオープンに人々の手に渡り、人々の持つデータ量が飛躍的に向上したことで、近代市民社会への大きな質的転換が促された。情報メディア研究の分野でも盛んに指摘されるポイントです。テクノロジーがいかに社会を変えるか(レボリューションを起こすか)というのはどんな時代にあっても考えうる問いですが、それを普及するデータ量の観点から説明するというのは面白いですね。現代も同様にデータ量が爆発的に増えている時代ですが、それはいかなる質的転換(レボリューション)を起こすのでしょうか?

 

石山:1つは研究所のキーワードにもしていますが、夢がかないやすくなる社会です。人材領域と教育をセットで、認知バイアスを解きながらやりたい職業を見つける、あるいは自分のスキルと将来なりたい自分の姿にギャップがあるときに、それをどう補完するかということを人工知能がレコメンドできる可能性があります。人工知能が夢をかなえるエンジンになればと思います。

安斎:MOOCなどのサービスが充実し、学習意欲さえあればお金をかけなくとも自身の学習を加速できる、とてもいい社会になってきています。これまでの教育はコンテンツを伝授することが主な役割でしたが、コンテンツは自力で学べてしまいますから、これからは自律的に学び続ける石山さんのような学習者をどう育てるか、というのが課題になるかもしれません。学ぶべき知識量が圧倒的に増え、専門も細分化され、学校だけで全ての知識を教えるのは不可能ですから、卒業して社会に出た後も学び続けられる人を育てていかないといけない。大学でそれらをどう支援するかは教員としては考えないといけないですね。

■ピボット、トラベリングを恐れずにチャンスをつかむ

 

天野:学びのモチベーションこそが重要になるというご指摘、激しく同意します。勝手に学ぶ人をどう作れるか?という問いを、石山さんはなぜ能動的に学び続けられるのかという視点で伺ってみたいです。

石山:弱者にこそクリエーティブが生まれます。私は中学のとき野球部でセカンドだったんですが、部員は16人くらいしかいないのに、セカンドだけ6人もいてレッドオーシャン。セカンドではレギュラーになれないので、最初はコーチャーをやっていました。あるとき練習で塁審をやったら、その才能があって塁審専門になりました。その時、全体の支援をする方が向いているのかなと思って、3年のときは生徒会長になりました。挫折をしてもピボットする、ピボットするために学習するをセットにするといいのではないでしょうか。

能勢:こういう人がそばにいるといいですよね。

石山:高校のときは陸上をやっていたんですが、速度が出なくて挫折。陸上ではダメだと思って競歩に転向したら、競技人口が少ないので市の大会はあっさりクリア、でも県大会では勝てませんでした。そこで陸上で鍛えた体を使って、市民合唱団のオーディションを受けました。その時の課題曲の音程がすごく高かったのですが、筋肉を鍛えていたから高い声が出てテノール歌手になりました。私の人生は敗走の人生かもしれませんね。

能勢:テノール歌手! ピボットというよりもトラベリングですよね。お二方に伺いますが、これまでの経験で一貫した自分の強み、スキルを言葉にすると?

 

石山:最近は冗談で「NARUTO」のうちは一族の出身です、と言っています。コピー忍者のカカシのように、相手のスキル、ナレッジをすぐに学習できる。だから写輪眼を持っているのが私の強みです!(笑)他にもHEROESのサイラー(能力を奪う能力を持つ)など、他人の能力を盗むというところです。

(最終回、第4回に続く)

プロフィール

  •              mg 1040
    安斎 勇樹
    東京大学大学院 情報学環 特任助教

    1985年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。現在は東京大学大学院情報学環で特任助教を務める。研究テーマは創造性を引き出すワークショップデザイン。研究活動だけでなく、子ども向けから企業向けまで、ワークショップをはじめとする様々な学びと創造の場作りを実践。共著に『恊創の場のデザイン – ワークショップで企業と地域が変わる』(2014年)、『ワークショップデザイン論 – 創ることで学ぶ』(2013年)など。

  •             mg 0800
    石山 洸
    リクルート AI研究所 Recruit Institute of Technology推進室 室長

    大学院在学中に修士2年間で18本の論文を書き、アラン・ケイの前でプレゼン。博士課程を飛び越して大学から助教のポジションをオファーされるも、リクルートに入社。雑誌・フリーペーパーから、デジタルメディアへのパラダイムシフトを牽引。リクルートとエンジェル投資家から支援を受け、資本金500万円で会社設立。同社を成長させ、3年間でバイアウト。その後、メディアテクノロジーラボの責任者を経て現職。

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    能勢 哲司
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター 事業開発室

    中国上海市出身。電通で上海万博プロジェクト、自動車メーカー担当営業を経てクリエーティブブティックへ出向。その後、現在の事業開発領域ビジネスに従事。デジタルファブリケーション分野のビジネス開発からスタートアップ企業との協業、異業種とのネットワーキングに注力している。

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    天野 彬
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーション研究部 研究員

    1986年生まれ。東京都出身。東京大学大学院・学際情報学府修士課程修了。
    2012年電通入社後、マーケティング部門、新規事業開発部門を経て、2014年から現職。
    スマートフォンのユーザーリサーチを中心に、現在のメディア環境やオーディエンスインサイトを分析している。
    著書に『二十年先の未来はいま作られている』(2012年、日本経済新聞出版社、共著)、『情報メディア白書2016』(2016年、ダイヤモンド社、共著)。その他レポート執筆やセミナー講師など経験多数。

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