ミレニアルズと「未来のスキル」 #08

【最終回】「人工知能の普及によって私たちの仕事がなくなる」は本当なのか問題(第4回)

  •              mg 1040
    安斎 勇樹
    東京大学大学院 情報学環 特任助教
  •             mg 0800
    石山 洸
    リクルート AI研究所 Recruit Institute of Technology推進室 室長
  • Web
    能勢 哲司
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター 事業開発室
  • 14580463 1225228107497344 1248304897 n
    天野 彬
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーション研究部 研究員

全4回にわたってお届けしてきた座談会も最終回を迎えます。東京大学大学院情報学環で特任助教を務められている安斎勇樹さんと、株式会社リクルートホールディングス Recruit Institute of Technology(以下、RITと表記)推進室 室長の石山洸さんの二人のミレニアルズとともに、人工知能が普及することで私たちの仕事やそこで生み出す価値(クリエーティビティー)のかたちがどう変わるのか、ここまでの議論を踏まえながら、人々の創造性のコアにある営みの真価をまなざし、私たちなりの結論を提示します。

左から、能勢 哲司氏(電通)、安斎 勇樹氏(東京大学大学院 特任助教)、石山 洸氏(リクルート)、天野 彬氏(電通)
 

■ワークショップは「哲学的遊戯」。本当の問いに出会うためのプロセス。

 

能勢:安斎さん、ご自身の活動を振り返った強みというと?

安斎:強みというより芸風になるかもしれませんが…。僕にとっての「良いワークショップ」というのは、課題にうまくアプローチできるような、深みのある、ある種の「哲学的な問い」が設定されているワークショップだと考えています。ところが、ワークショップでは必ずしもその問いを参加者に直接問うことをしないんです。最近は僕はワークショップを「哲学的遊戯」と呼んでいます。

能勢:おー、かっこいいですね! その心は?

安斎:哲学的な問いを集団で考え対話するのが「哲学的対話」だとすれば、直接問い掛けるのではなく、みんながその問いを問いたくなるような「遊び」を仕掛けていくんです。良い問いを立て、それを遊びの構造に埋め込む。それがワークショップデザインの大切なところで、自分が得意とするところです。
例えば、あるメーカーのプロダクトデザイナーを対象にワークショップをやったときのことです。問題分析のヒアリングの時点で、デザイナーたちはユーザーのニーズを発見しそれを解決するといういわゆる「人間中心デザイン」の考えにとらわれすぎているのではないかと気づきました。言い換えれば、「ユーザーに役に立つものをつくることだけがデザインなのか?」「ユーザーのニーズの外側にもイノベーションの可能性はあるのではないか?」という問いを立てたのです。
そして当日は、お笑いコンビのサンドウィッチマンのコントの動画を見てもらい、会話の分析をしてもらいました。彼らのコントの基本パターンは、ツッコミの伊達がお客さん役で現れ、それに対して富澤が客の要求から外れた商品やサービスを提案することでボケるというものが多いんです。ワークショップでは、コントを分析した上で、実際に扱っているプロダクトをテーマに「富澤風にボケる」という大喜利のような遊びを行いました。

 

天野:仕組みとしてすごく面白い!ちなみに、なぜサンドイッチマンなんですか?

安斎:単純に僕が好きだからというのもありますが(笑)、富澤の提案はよくよくみてみると、ユーザーにとって新規性が高く、解釈次第では面白い提案をしているんですよね。ユーザーのニーズからデザインを出発するのではなく、その枠の外側にもイノベーションの種があることに気づいてもらうことで、クライアントの課題を解決することがねらいでした。まさに「遊び」を通して、本質的な「問い」を投げかけたのです。

能勢:やはり自分で気づくことで、一層学びが進みますね。体の芯から納得できるというか。

■自分の想像力の外側に出られるひとが未来を生み出す

 

能勢:今後、社会が変わってきたときに、自分のスキルを生かした未来の仕事はどんな仕事になっていると思いますか? またそのとき、自分の仕事は何と呼ばれていると思いますか?

 

石山:大学の先生が「おまえはこういう職業だ」と任命してくれた肩書があります。それが「ワーキングソーシャルサイエンティスト」、つまり働く社会学者です。研究室に残らず就職することを決めたときに言われました。
論文の中だけで考えるのは限界があるので、アカデミックなナレッジも含めて研究の内容を自分が働いて世の中に広めていくことで、社会を変えていきたいですね。

ワーキングソーシャルサイエンティストは、グローバルで見るとたくさんいて、研究所のアドバイザーのひとりにOren Etzioniという研究者がいますが、彼は7回起業して全部バイアウトしています。自分でビジネスを起こしながら社会を変えるそういう働き方ができればと思います。

 

能勢:今のテーマは20年後、30年後は変わるということもあり得ますよね。

石山:2045年くらいまではAIが研究テーマになるといわれていますが、スピードが早まっているので良いテーマなのは2030年くらいまでだと思います。

安斎:スタイルとしては、大学の研究者としての活動を軸足にしながらも、価値のある実践活動を絶えず展開していきたいですね。学習と創造性をキーワードにしながら、実践的研究者として専門性を蓄積していきたいです。
さきほどワークショップは「哲学的遊戯」だといいましたが、こういうことを考えるようになったのは父から受けた影響が強いかもしれません。昔、父親が蛍光灯の中で死んでいる虫を指して「あの虫は幸せだと思うか、不幸だと思うか」と問うんです。僕は狭い世界に入りこんでしまった虫は愚かだと考えたのですが、父は「もしかすると僕らも巨大な蛍光灯の中にいて、ある日突然空が裂けて、フタがパカっと外れるかもよ」と言ったんです。それが今でも印象に残っています。自分の想像の外側に出るというのは、創造性にとっても重要なプロセスで、ワークショップは”蛍光灯の外側の世界”に気付くための遊びだと考えています。
自分の仕事に名前をつけるのは難しいですが、社会を塞いでいる”フタを外す”実践を繰り返しながら、その方法論を突き詰めていきたいですね。

天野:最後に安斎さんに伺いますが、いまの時代って「クリエーティブ」という言葉が氾濫している状況だなとも思うんです。みんな言い過ぎていて言葉自体がインフレを起こしている。功罪あれどとりあえず「クリエーティブ」ブームな状況の社会において、クリエーティブを生むことを求められていろいろ

 

安斎:ワークショップは、振ればアウトプットが飛び出す魔法の杖ではなく、本質的に学びの場であり、言い換えれば実験と調査の場です。試しにこの角度から蛍光灯に穴を開けてみたら、どんな風景が見えるだろうか?と試行し、そこでみえた洞察を学び取って次のアウトプットにつなげていくためのものです。
何が生まれるか分からないその実験性に価値があるのにもかかわらず、企画書にワークショップで生まれるアウトプットイメージを明示してほしい、といわれることもあり、もどかしい思いをすることもあります。逆にいえば、創造のブレークスルーには学習の機会が必要であることを理解してくださる企業とは、事業開発のプロジェクトもうまく進めることができます。

天野:クリエーティビティーとはどういった知的営為の能力なのか、理解が深まるお話をありがとうございます。本日はアカデミックな問いと社会的な実践とをそれぞれ別の方向からつないでいくお二人の活動から多くの刺激を頂きました。ありがとうございました!


【取材後記】変わるクリエーティビティーのかたちと変わらない作法

「シェフ・ワトソン」の活躍に象徴されるように、これまで人間が特権的に担うと思われていた創造的な領域においても、人工知能(IBM Watsonの場合はコグニティブ・コンピューティング)とコミュニケーションを重ねることでこれまでに想像もしなかったようなクリエーティビティーを人々が開花させていく――そんな社会の到来を予感させるような事例への驚きが、今回のディスカッションには通奏低音として流れています。

「クリエーティブ」と呼ばれる人間の知的営為は、こうした潮流の中で昔と変わらぬかたちをとり続けるのか、広告業界に身を置く人間の一人としてぜひ知りたいと思いました。

「人工知能の普及によって私たちの仕事がなくなる」は本当なのか問題というタイトルに対して現時点での答えを与えるならば、それはNoであるというのがディスカッションを経た私たちからの回答となるでしょう。むしろ、「職業がなくなる(人工知能によって代替される、奪われる)」という認知バイアスを客観視することで、より良いWithの関係性を探ることこそが求められています。
より巨視的に見るならば、Information Technologyは情報処理や知的活動にかかる負荷を減らしダウンコスト化することで新しい職業を生むための下地を準備してきたという流れの中で、次のステップでそれを推し進めるのが「人工知能」というラベルで総称される技術群であり、withの視点からそれらとの協働のプロセスを生み出していくことこそが、ミレニアルズに求められる未来のスキルであると結論付けたいと思います。

情報の並列化と産業の高度化が進みという高度成熟情報社会において私たちのクリエーティビティーがますます問われるようになってきている中で、変わらず求められることは、「問いを持つこと」であり、それは遊びの中から発見をつむげる人間にしかできないことでもあるという指摘がありました。私たちはいかにして自分自身の想像力の外部へアクセスできるのか。そのための手段として位置付け、活用する余地を探っていかなければならないという点ではワークショップも人工知能技術も実は同列にあるという今回の見立ては、ある程度成功したと言えるのではないでしょうか。

安斎さんが述べていた「哲学的遊戯」というコンセプトは、まさにそうしたものへの一つのアンサーであると言えそうです。問いを立てて遊べるということは、未来においても必要とされるスキルであるということ。「ホモ・ルーデンス」(遊ぶ人)、そして「ホモ・ファーベル」(つくる人)という言葉があるように、人間の特性を遊ぶことと創造することに求められるのだとすれば、私たちはいかに遊戯していくのかという視点を重ねながら、次代の創造性についての議論を深められたことの意義は非常に大きいと考えます。

研究活動によって「問い」を見つけ出し、実践によって「答え」を世の中に定着させていく――その循環こそを生んでいく鍵が、「ワーキングソーシャルサイエンティスト」、「研究的実践者」というお二方がそれぞれの言葉で名指していた一つの社会との向き合い方にあるのは間違いなさそうです。

プロフィール

  •              mg 1040
    安斎 勇樹
    東京大学大学院 情報学環 特任助教

    1985年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。現在は東京大学大学院情報学環で特任助教を務める。研究テーマは創造性を引き出すワークショップデザイン。研究活動だけでなく、子ども向けから企業向けまで、ワークショップをはじめとする様々な学びと創造の場作りを実践。共著に『恊創の場のデザイン – ワークショップで企業と地域が変わる』(2014年)、『ワークショップデザイン論 – 創ることで学ぶ』(2013年)など。

  •             mg 0800
    石山 洸
    リクルート AI研究所 Recruit Institute of Technology推進室 室長

    大学院在学中に修士2年間で18本の論文を書き、アラン・ケイの前でプレゼン。博士課程を飛び越して大学から助教のポジションをオファーされるも、リクルートに入社。雑誌・フリーペーパーから、デジタルメディアへのパラダイムシフトを牽引。リクルートとエンジェル投資家から支援を受け、資本金500万円で会社設立。同社を成長させ、3年間でバイアウト。その後、メディアテクノロジーラボの責任者を経て現職。

  • Web
    能勢 哲司
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター 事業開発室

    中国上海市出身。電通で上海万博プロジェクト、自動車メーカー担当営業を経てクリエーティブブティックへ出向。その後、現在の事業開発領域ビジネスに従事。デジタルファブリケーション分野のビジネス開発からスタートアップ企業との協業、異業種とのネットワーキングに注力している。

  • 14580463 1225228107497344 1248304897 n
    天野 彬
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーション研究部 研究員

    1986年生まれ。東京都出身。東京大学大学院・学際情報学府修士課程修了。
    2012年電通入社後、マーケティング部門、新規事業開発部門を経て、2014年から現職。
    スマートフォンのユーザーリサーチを中心に、現在のメディア環境やオーディエンスインサイトを分析している。
    著書に『二十年先の未来はいま作られている』(2012年、日本経済新聞出版社、共著)、『情報メディア白書2016』(2016年、ダイヤモンド社、共著)。その他レポート執筆やセミナー講師など経験多数。

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