新明解「戦略PR」 #30

「PR、使い倒せていますか?」の巻/その4:情報発信機会を使い倒してみた

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    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

とうとう年の瀬ですね。このコラムも2年半も続いているようで、飽きやすい私にも少しは粘る力があったのだなぁと感じています。それもこれも、コラム継続を容認(黙認?)してくれている関係者の皆さまのおかげ。ほんとに感謝感謝です。そして今回は、そんな「ネバリ力」をベースに、シリーズ物の最長を達成する「使い倒してみた」シリーズの第4弾、「情報発信機会を使い倒してみた」をお送りいたします。

情報発信機会を使い倒してみた

PRは時期的必然性が必須

広告的な情報発信は、新商品の発売など何かしらのタイミングを計るのが常とは思いますが、メディアバイイングという手段によって、自らの意思でタイミングを調整することも可能となるわけです。しかしながらPRの場合、勝手に物言いしても誰も聞いてくれません。それは、特にメディアを通じたパブリシティーなどの情報発信を目指したときに顕著です。メディアは社会や生活者が、今本当にこの情報を欲しているのかを勘案し、報道・記事化を検討するわけで、勝手に「いやー、こんな情報あるんすけど、ニュースになりますかね?」っていうアプローチはできません。

われわれPRパーソンがそのような情報をもってメディアにアプローチするとき、一番気をつけるのがこの「時期的必然性」なんですね。ほぼ100%、メディアの方々は「それ、なぜ今なの?」と聞いてきます。ここでもちろん「クライアントの都合でして…」などとは口が裂けても言えません。だって彼らは「社会や生活者のニーズにひも付いてるんだよね?? 当然そうだよね?」という目線でこれを聞いてきているからです。なので「なぜ今、この企業がこのような製品を出すのか? このような活動をするのか?」というロジックを、きっちりと事前に整理していかねばなりません。

ただし、これは勝手に作文するということではありません。そういう目線で見ていくと、全ての事象に何かしらの背景が見えてくるものなのです。

「生活者の嗜好が多岐にわたり、今や当社の主力製品もそのラインアップを拡充していかねばならない時代になった」

「これまで開発を進めていた技術が花開き、生活者の求める価格帯で製品の大幅なバージョンアップが可能となった」

「円安を背景に原材料高騰のあおりを受け、パッケージや内容量の変更を余儀なくされた」

「生活者のライフスタイルが変わり、これまで変化のなかった当該製品のデザインを大幅にリバイズした」

などなど。

上記のように、社会環境や生活者の嗜好の変化に合わせて、自社の製品・サービスを細かくフィットさせていく努力、また新たな技術の実現による新市場創造など、ポジネガ含めてさまざまな背景があるはずなんです。ただ通常はそれを本気で掘り下げず、「なんとなく」の感覚で情報発信しようとしていて、その姿勢に問題があるのではないでしょうか。その根幹にあるところを聞き出し、社会文脈に乗せていくのがわれわれPRパーソンのスキルです。その意味で、我々はメディアの編集者やライターに近い目線を持っているとも言えるでしょう。

ちなみに余談ですが、「PRの人と話してると、身の上話含めて根掘り葉掘り聞かれてたまらんわ」とよく言われます。メディアの記者もそうだと思いますが、われわれはなんでもかんでも聞いておかないと安心できないんですよね。それぞれの話のパーツがどこにつながるか分からない状態でも、なるべくクライアントと同レベルの、さらには気にしていなかったことまで思い出してもらい共有するということをやります。そりゃ、企業の代理としてさまざま取材のお願いをしたりする立場ですから、私たちが「あ、それまた聞いておきますねー」なんて子どものお使いみたいなことやってられませんからね。

マーケティング領域の情報発信時に企業の思いも乗せていく

話がそれましたので元に戻しましょう。「情報発信機会を使い倒す」です。企業にとって対外的な情報発信をする機会は実はそんなに多くありません。コンビニエンスストアや外食チェーンなど、主力の商品やメニューが頻繁に入れ替わるような業界は1カ月で数十本というニュースリリースを出すところもありますが、通常の企業ではそこまでの機会はなかなかないと思います。さらに、製品やサービスといったマーケティング領域の情報発信はまだしも、人事や業績、経営指針といった企業情報について発信する機会は極端に少なくなります。もちろん意識して「企業の動きを社会に見せていこう」というところもありますが、まだまだまれな存在ではないでしょうか。

そこで提案したいのが、これらマーケティング・コミュニケーションの情報発信機会に、企業情報すなわちコーポレート・コミュニケーションのための情報も盛り込んでいったらどうか、ということなのです。

現在、双方の情報発信を上手に融合・連動できている企業はそれほど多くありません。しかしこのやり方は、マーケティング・コミュニケーション、コーポレート・コミュニケーション双方にとって連携メリットが非常に大きいはずです。たとえば、情報発信の幅や機会が限定されるコーポレート・コミュニケーションにおいて、先の商品・サービス中心のマーケティング・コミュニケーション機会に乗じて、企業目線の情報を絡めていくことが可能です。それは「トップの言葉」であったり「昨今の製品開発のスタンス」であったり、はたまた「企業内での若手社員の活用方法」であったり。これらを情報にまぶしていくことで、常に製品・サービスの背景にある企業の顔を生活者に想像させることができるわけです。

一方で、各製品担当の事業部が主導するマーケティング・コミュニケーションでのバラバラな情報発信を、企業の目指すドメインに寄せていくことで統一感を持たせていくことが可能です。それぞれの製品・サービスが生まれた背景には、企業のこういった意思や姿勢があるのだと接点を持たせることで、それらの情報を企業の目指す方向に収れんさせていくのです。またこの取り組みを通じて、個々の従業員も企業の目指す方向に目を向けざるを得なくなるというインターナルな成果も期待できます。すなわち、おざなりにされがちな企業ビジョンやスローガンといったものを常日頃から強く意識することになり、本当の意味での企業内意思統一につながってもいくというわけです。今まさに、このような取り組みに本気で乗り出そうとしている企業が多く見受けられます。

発信手法にもさまざまな機会を見つけていきたい

前述のように、情報発信の機会を「社会的関心と連動して、納得感ある情報として再加工していく」とか、「マーケティング・コミュニケーションにおける情報発信機会に、コーポレート・コミュニケーション情報もまぶしていく」という方法に加え、一つの情報でも発信の仕方をさまざま持っておくというのも、使い倒しのノウハウと言えましょう。

たとえばニュースリリースにより、メディアを通じて社会に情報発信していくというこれまでのやり方に加え、昨今はより分かりやすい形で自社ウェブサイトに情報掲載している企業が増えてきています。これはメディアを経由した情報拡散のみに頼らず、オウンドメディアを活用して言いたいことをしっかりとダイレクトに生活者に発信していこうという潮流で、欧米企業において加速度的に広まっています。

欧米ではメディアに対する不信感増加などの背景もあり、「客観的に情報を検証し、自ら責任を持つ形で発信していく」という方針が台頭してきているわけです。一方、日本ではそこまでの状況にはありませんが、やはりソーシャルメディアを含めて生活者とダイレクトにつながることで、この機会をより積極的に活用していこうとしている企業が増えているのは確かです。PESOメディア(Paid, Earned, Shared, Owned)それぞれの特性において、一つのコンテンツをより適正な形で活用していくというのが今後の潮流となるでしょう。

特に企業の期待が高いオウンドメディア活用に関して言えば、ニュースリリースをそのまま掲示しておくだけでなく、それらをより分かりやすくインフォグラフィックスや動画に加工して掲載する、などの工夫がなされるようになりました。これまでは難しい調査結果も、報告書をメディアに渡せばうまい具合に図式化してくれ、生活者に提示してくれていたんですね。その意味でメディアというのはありがたい存在だったわけです。しかし今、そういったプロセスを企業自らがやらねばならない時代になったということです。常に生活者を正面に見ながら、どう伝えれば分かりやすいのかを、情報経路ごとに検討しなければならないのです。

ちなみに、米PR Newswireの調査によると、テキストだけの情報接触よりも画像が付いていることにより、その情報に関するエンゲージメント率が14%向上、さらに動画と併せ見ると200%、音声データ付きだと350%になるとのこと。ちょっと一手間増えたとしても、効果を期待できるなら頑張ってみたいものですよね。

企業にとって、情報発信できる機会があるのは非常に喜ぶべきことです。それをいかに大切に活用していくか、これを機に一つ一つの情報発信をより活用できるような工夫にチャレンジしていただきたいところです。きっとこれまでと違った成果を体験できると思いますよ!

プロフィール

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    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

    1990年電通PRセンター(現電通パブリックリレーションズ)入社。コミュニケーションデザインを手掛けるチーフPRプランナー。
     
    企業のコーポレートコミュニケーションから、製品・サービスの戦略PR、動画コンテンツを活用したバイラル施策や自治体広報まで、幅広く手掛ける。最近では、熊本県の赤い特産物をアピールするため仕掛けた「くまモンほっぺ紛失事件」のPRプランを手掛け、世界的なPR業界紙「Holmes Report」が主催するアワードで「世界のPRプロジェクト50選」に選出された他、多数の口コミを起こしたキャンペーンとして、世界的な口コミアワードである「WOMMY AWARD」を日本で初めて受賞。Holmes Report「The Innovator 25 Asia-Pacific 2016」(アジア太平洋地域のイノベーター)選出。
    その他「Cannes Lions」「Spikes Asia」PR部門、「SABRE AWARDS ASIA PACIFIC」「PRWeek Awards Asia」「ヤングカンヌPR部門日本代表選考」審査員。2013年6月に「戦略PRの本質~実践のための5つの視点~」(朝日新聞出版)を上梓。自治体PR事例をまとめた「成功17事例で学ぶ自治体PR戦略」(共著:時事通信社)も好評発売中。

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