「個人の力を高めて会社にも貢献
パラレルキャリアの可能性」石山恒貴

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    石山 恒貴
    法政大学大学院 政策創造研究科 教授

次代の変遷とともに、社会での働き方も変化している。経営の神様といわれるピーター・ドラッガー氏が提言した「パラレルキャリア」を広く捉え、新たな働き方の多様化を推奨する、法政大学大学院政策創造研究科教授の石山恒貴氏に話を聞いた。


働きながらの社会活動は 社会人として得るものが多い

「組織の寿命は30年」といわれています。実際、会社が倒産したり吸収合併されたりすることはよくある話です。一方で、知識労働者は70歳、80歳になっても働ける可能性がある。知識労働者の方が、組織よりも長命になってしまったんですね。そんな時代における一つの生き方として、“経営の神様” といわれるピーター・ドラッカー氏が提言した概念が「パラレルキャリア」です。会社で働くだけでなく、教会や地域の手伝いなどの社会活動を通じて、第二の世界を持つことを勧めています。いわば「働く × 社会活動」なのですが、私はもう少し広く捉えていて、「働く × 働く」「働く × 学ぶ」「働く × 趣味を極める」というパラレルキャリアを考えています。簡単に言えば会社だけが全てというわけではないな、と。「働く × 社会活動」の具体的な例としては、会社で働きながらNPOの活動に参加するといったものです。

こう言うと、必ず決まった反論をされます。一つは「職場でうまくいかないからNPO活動に逃げている」。そして、「仕事で結果を残す人はNPOで働くヒマなどないはず」という声です。いずれも、一つの仕事に注力すべきという考えが根底にあるのですが、働きながら社会活動をすると得るものがとても多いことも知ってほしいですね。

最も大きなメリットは、多様な価値観を持つ人々と出会えるということ。本業と社会活動を両立させるために、時間を効率的に使うようになる人も多い。 他にも、解決すべき目標を設定して達成のために施策を練る作業では、会社ではなかなか携わる機会が少ない新規事業立ち上げのプロセスを体験することになる。また、社会活動は試行錯誤を繰り返しながら前に進むことが許される場合もあるので、それも参加者の成長につながる。これらの経験により成長したビジネスパーソンは、会社での働き方も変わってくるのは容易に想像できるでしょう。

「二枚目の名刺」の活動は大人の部活のような楽しさ

この考え方を実践しているのが「二枚目の名刺」というNPOです。パラレルキャリアを実践したいと思った社会人がいきなり社会活動を始めようとしてもハードルが高い。そこで、二枚目の名刺が、事業の推進を目指すNPOと、その団体の活動に共感するビジネスパーソンを仲介する「中間支援団体」としての役割を担っています。これまでの支援実積は、聴覚に障がいのある生徒が一般高校で学習できる環境づくりを目指したプロジェクトなど、すでに30を超えています。

具体的な流れは、二枚目の名刺に登録しているビジネスパーソンから5人程度のチームを編成。支援先NPOの事業推進を後押しするプロジェクトを立ち上げてサポートするといったもの。このチームが会社と異なるのは、業界、業種、企業、年齢、役職はバラバラで、みんなが同じ立場だということです。上司がいないので、自分の役割を自分で考えなくてはいけません。

また、約3~6カ月と期間を区切っているところもポイントです。社会活動やボランティアに参加すると、なかなか辞められないのではないかと、二の足を踏む人が多い。しかし、期間が決まっていれば、軽い気持ちで参加しやすい。この、「軽い気持ち」は、自らが持つスキルについてもいえます。「特別なスキルを持っていないと役に立たないだろう」と考えるかもしれませんが、一般的なビジネススキルさえあれば誰でも参加できるんです。気軽に参加でき、熱い思いがあることから、僕は二枚目の名刺での活動を「大人の部活」と表現しています。

例えるなら、サードプレースみたいなもの。家庭でも職場でもない、居心地のいい第三の場所という意味ですね。職場が全てだったら、リストラされてしまったり、退職したりすると、自分の世界を失ってしまい、メンタル面で追い込まれてしまいます。しかし、第三の場所を持っていて職場以外の社会活動で働いていれば、自分は必要とされていると感じられて、精神的にも楽になり、タフでいられるはずです。

個人だけではなく、二枚目の名刺を活用する企業も出てきています。金融系のシステムを構築するある企業では、中堅のリーダーを育てるために社員をプロジェクトに参加させて、多様な価値観に触れさせています。常に同じメンバーで、業務内容も決まっているオペレーションだと、ある程度は仕事がこなせてしまうので、自分が持つ本当の強みと弱みが分かりません。しかし、プロジェクトでは、自分の役割を自分で考えながら進めなくてはいけません。そこから、自分の本当の強みが見えてきます。


働き方の多様化といううねりが来ている

パラレルキャリアや二枚目の名刺の話をすると、たまに「パラレルキャリアが普及することで日本型の長期雇用はなくなるんですね」「日本型雇用とは正反対なんですね」といった反応があります。しかし、それは違います。日本は変化しているとはいえ、基本的には長寿企業が多く、大多数の人は長期雇用で安心して働く。これはある意味日本の財産です。それを無理やりなくすのではなく、そうした企業で働きながらパラレルキャリアで経験を積み、得た知見を所属する会社にフィードバックするのもいいし、パラレルキャリアで気が付いた新たな強みをもとに転職してもいい。例えば週2日ずつ両方で働く人もいる、というようにいろいろな形があってよいと思います。今、こうした働き方の選択肢が増え、多様化する時代のうねりを感じています。働き方の多様化とともに、パラレルキャリアの考えは爆発的に広がると思います。その時のために、二枚目の名刺のような組織が増えることが重要だと思っています。

プロフィール

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    石山 恒貴
    法政大学大学院 政策創造研究科 教授

    一橋大学社会学部卒業後、日本電気、ゼネラルエレクトリック、バイオ・ラッドラボラトリーズ執行役員人事総務部長を経て、現職。産業能率大学大学院修士課程修了、法政大学大学院博士後期課程修了。博士(政策学)。近著に『時間と場所を選ばない パラレルキャリアを始めよう!』(ダイヤモンド社)他。

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