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DMCラボ・セレクション ~次を考える一冊~No.46

「広告」は「売る」ことにどこまで応えていけるのか。

2015/12/25

「出版不況で、本が売れません。もっと本が売れる企画を考えてください」

 そんなお題が投げかけられたら、皆さんならこのお題に対して、どんな解決策を考えますか?
今回はそのヒントになるであろう、石原篤著『これからの「売れるしくみ」のつくり方 SP出身の僕が訪ねた、つくり手と売り手と買い手がつながる現場』(グラフィック社)を取り上げます。

 本書では、この、どの企業もが抱える「モノを売る」という最重要課題に対して、これから「広告」がどう応えるていけるか、ケーススタディーや、「モノを売る」ことに携わるさまざまな立場の方たちとの対談などから、明らかにされています。

「広告」は「売る」ことにどこまで応えていけるのか。

「本屋大賞」 から学ぶ「売れるしくみ」

さて。冒頭皆さんに質問した「出版不況下で、本を売る」というお題。
「本を読もう!」のキーメッセージを中心に、著名人を起用し、マスや店頭、ウェブコンテンツなどで展開をしていく。といったのがこれまでの一般的な広告のやり方だったかと思います。

本書では、このお題に対し、これまでとは違う切り口から応え、まさに継続的な「売れるしくみ」をつくり上げた「本屋大賞」を取り上げ、その成功のカギをひもといています。「売る」ことを目的としたとき、どうしてもその直前にいる「消費者」に対してどうアプローチをすべきか、ということに終始しがちですよね。でも、情報があふれ、モノがあふれている今、それだけではモノは売れない。

消費者だけでなく、消費者が店頭で商品を手にして購入するまでに介在する、さまざまなプレーヤーの存在を知り、彼らの事情や思惑、思いをくみ取り、巻き込んでいくシナリオを描けることが、これからの「売れるしくみ」をつくる重要なカギになるということが、「本屋大賞」の事例を通して、非常に分かりやすく説明されています。

「球体発想」と「多面体発想」

最近、わたし自身、企画やプランニングをする際に意識していることではあるのですが、その商品やプロモーションがどんな風に世の中で話題になるか(どうつぶやかれるか、どの媒体にどんなタイトルで記事が取り上げられるか、どうやってキュレーションでまとめられるか、どんなシーンでどういう文脈で友人にシェアされるか)などを、事前に細かく設定し、企画、プランニングを行っています。

これまでだと、このプロモーションをどうPRするか、という企画ありきでPRを考えていたのに対して、今はその逆、PR起点で企画を考える流れができてきています。

まさに、本書でもそのことが、「球体発想」と「多面体発想」という2つの発想法として語られています。

球体は内に向いた矢印でひとつのメッセージに集約していく考え方で、言わば「広告的発想」。多面体は外に向く矢印で複数のコミュニケーションを拡散していく考え方で、「PR発想」。(P.53)

「忍者女子高生」のヒットの秘密

著者の石原さんの代表作のひとつに「忍者女子高生」というバイラルムービーがあります。私も、SNSで流れてきた記事でこの動画の存在を知りましたが、非常に話題になったムービーです。

以前、この「忍者女子高生」のヒットについて、石原さんのお話を聞く機会があったのですが、この企画のヒットは、まさにこの「球体発想」と「多面的発想」にもとづいて、綿密にシナリオが設計されたものであったがゆえだと実感しています。

この映像がどんな切り口でどういう媒体で取り上げられ、話題になっていくかを想定した上で拡散要素を盛り込んでいき、それを、「忍者女子高生」という強い(それでいて突っ込みどころがある)ひと言に集約する。

もちろん、コンテンツがはやるかどうかは予測できない部分が多く、「広告なしで確実に100万回YouTubeで再生される動画をつくります!」なんてことは絶対に約束できませんが、この「球体発想」と「多面体発想」の両刀使いで、コンテンツ制作を行うことで、ヒット確率を上げることはできると思います。

このように、本書ではさまざまな「売れるしくみ」が惜しげもなく、紹介されています(ホントにこんなに紹介しちゃっていいんですか?笑)。

この「売るしくみ」を理解し、それを実現させることで、「広告」は人を動かし、モノを売ることに応えていける、という可能性を強く感じました。