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「届く表現」の舞台裏No.6

林口砂里氏に聞く「サイエンスにクリエーティブを掛け合わせて生まれてくるもの」

2015/12/25

届く表現」の舞台裏
各界の「成功している表現活動の推進者」の方々にフォーカスしてお話を聞きます。


エピファニーワークス代表 林口砂里氏に聞く

「サイエンスにクリエーティブを掛け合わせて生まれてくるもの」

ALMA MUSIC BOX展示室で
ALMA MUSIC BOX展示室で(金沢21世紀美術館「われらの時代:ポスト工業化社会の美術」)


クリエーティブの力で科学の世界を広げるプロジェクト「ALMA MUSIC BOX」を展開しています。テーマは、アルマ望遠鏡。世界21の国と地域が共同運用する超高性能・世界最大規模の電波望遠鏡です。標高5000メートル、チリのアタカマ砂漠にある山手線の内側ぐらいの広大な平地に66台のパラボラアンテナが設置され、2013年に観測を開始。銀河誕生の謎から生命の“材料”となる物質の探索まで、私たちの宇宙観や世界観、常識をひっくり返すような発見が期待されています。

この望遠鏡の存在を知ったとき、私たちのすぐそばで今こんなにすごいことが行われているのに知らないのはもったいない、もっと多くの方に知らせたいと思ったのです。でも電波望遠鏡なので、光学式のハッブル宇宙望遠鏡などのように美しい写真がなく、伝えるのが難しい。そこで、この望遠鏡の研究成果であるデータを使って、アートやデザイン、クリエーティブの力で作品を作れないだろうかと考えて、国立天文台の平松正顕博士に“自主プレ”を仕掛けたのが発端でした。

アルマ望遠鏡のパラボナアンテナ群
アルマ望遠鏡のパラボナアンテナ群 ©ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)


制作をお願いしたのはPARTYニューヨークの川村真司さん。川村さんからの最終的な提案は、データを視覚化した電波写真の電波の濃いところに丸を打って、そのままオルゴールディスクにするという、誰も思い付かないようなアイデアでした。「ちょうこくしつ座R星」という、寿命を迎えようとしている星からの噴出ガスが渦巻く状態の電波写真をアルゴリズムで丸ごと自動変換して生まれた70枚のディスク。驚いたのは、実際にそれをオルゴールプレーヤーにかけて聴いてみると、まるで死にゆく星が奏でているかのような美しいメロディーが偶然にも現れた。本当に不思議です。

このオルゴールディスクからは、予想もしなかった新たなコラボレーションが続々と生まれています。展示作品としては、ディスクにバーコードを付けて、パソコンで読み込むと対応する映像が出るという、音と映像のインスタレーション。これに注目してくれた金沢21世紀美術館では、11月中旬まで展示させていただきました。

また、宇宙からの音と11組のミュージシャンとのコラボレーションを企画。クラウドファンディングでCDを制作し、9月末に発売しました。ミュージシャンの方には 、死にゆく星から届いたメロディーに対してどう向き合うかという回路で挑んでいただいたためか 、本当に死にゆく星とのコラボレーションで作ったという感じがしました。こちらの想像をいい意味で裏切る、多様な曲が生まれました。来年9月には、このCDの曲を京都市交響楽団と一緒に演奏するコンサートを予定しています。コミック「宇宙兄弟」とのコラボレーションも展開中です。コミックのシーンとCDの音楽を組み合わせた、ミュージックビデオを4本制作して随時発表しています。

このプロジェクトには、いろいろな方々の創造を生む余地があるようです。「宇宙」「アルマ望遠鏡」「死にゆく星」など、想像力をかき立てる要素も多いので。なかなか完結しなくて私たちもびっくりしています。

このような「サイエンス × クリエーティブ」など、違う分野をつなぐプロジェクトを今まで多く手掛けてきました。異なる言語の間に入る翻訳者のように。簡単なことは一回もありませんでしたが、すごく苦労をして間をつないで、今まで全く縁のなかった分野の方たちが出会ったときに、こちらの予想をはるかに超えるものが生まれたりするんですよね。それこそイノベーションだなと。ジャンルを超えたコ・クリエーションには、大きな可能性を感じます。今後も、これまで気付かなかった視点や世の中が良い方向に進むような新しい価値観をさまざまなジャンルの人たちと共に生み出す活動を追求していきたいと思っています。