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eコマース・ブランディングNo.2

Eコマース業界が抱える課題と、その未来|ECキュレーションメディアの仕掛け人 尼口友厚氏インタビュー

2016/01/15

インターネットを介して決済や売買を行う取引形態を指すEコマース。その現状とこれからを、先端を行く人へのインタビューで解き明かしていく本連載。第2回は、電通のEC&システムソリューション部の三橋良平氏が、Eコマースのキュレーションメディア、CART(カート)を運営するネットコンシェルジェの尼口友厚氏を訪ね、Eコマースの未来が抱える課題について話を聞いた。

※この対談の模様は、ECの未来を考えるメディア「New Commerce Hub」でも詳しく紹介いたします。

 

(左から)電通・三橋氏、ネットコンシェルジェ・尼口氏

EC業界に身を投じたきっかけは、クライアントの「おかげさまでよく売れました」

三橋:ネットコンシェルジェの代表取締役として、過去10年間で140以上のEコマースサイトをプロデュースしてきた尼口さんですが、ご自身がEコマースと関わるようになったきっかけは何だったのでしょうか?

尼口:僕は元からウェブ業界の人間で、初めはウェブデザイナーとして仕事をしていました。当時はアーティストの方のウェブサイト制作などをお手伝いしていたのですが、正直あまり手応えが感じられませんでした。クライアントからのフィードバックが来なかったのでデザイナーとして自分の仕事がどう評価されているのか知るすべがなかったんですね。そんな中で、とあるEコマースサイトのデザインを担当したときに、クライアントが「おかげさまですごく売れました」と連絡をくれたことがありました。その経験がとても気持ち良くて、「Eコマースサイトは自分がやったことがきちんと評価されるから面白いな」と興味が湧いてきたんです。

三橋:ウェブデザイナーから転身されたということですが、元は制作会社に所属されていたのでしょうか?

尼口:そうです。とは言っても勤めていたのはCMの制作会社で、運送業大手などのCMを作ったりしていました。社内での花形はもっぱらCM制作部門だったのですが、ウェブデザインの依頼も来ていたんです。でも実際のところ、Eコマースにおいてはデザインの出来よりも、仕組みやマーケティングの要素が売り上げに大きく影響するということがだんだん分かってきて、より役立つ技術を身につけていこうと考えるようになりました。そこからは、さらに実務的なエンジニアやマーケターとしてのキャリアを積んできて今に至ります。

これからのEコマースサイトが抱える課題は“他との差別化”

三橋:尼口さんが代表取締役を務めるネットコンシェルジェとは業務連携しています。私も何度か尼口さんと仕事でご一緒する中で、この方はコンバージョンレートなどの数字だけにとらわれずその先を見据えている方だな、と感じていました。

尼口:三橋さんに初めてお会いした当時は、ちょうど業界自体が変革期を迎え、Eコマースサイトの数が大幅に増加してきていたんです。そんな状況の中で「いま、Eコマース業界が抱える課題とは何か」を考えていくと、やはり数字だけではなく差別化が重要なポイントになってくる。いかに他サイトと差別化して集客していくのか。そして、いかにお客さまとの関係を維持して、他サイトに奪われないようにするか。僕はこの2つの課題をどうやってクリアするか、ということをずっと考えてきました。

三橋:過去に尼口さんとお話した中でとても印象に残っているのが「コンバージョンレートやCPAを上げるのも大事だけれど、それは誰でもできること」という言葉です。

尼口:商品をショッピングカートに入れてもらってからの購買率をどうやって高めるかという部分は、実は外部の業者さんにも任せられることなんですよね。実際そこを請け負ってくれる会社も多いので。でも、サイトの世界観を定義することやそのサイトなりのホスピタリティの出し方など、差別化の施策は正解がないため、外部には任せにくい部分だと思います。だからこそ、自社の労力はそこに割くべきだと思っています。

三橋:実際、他社との差別化はネットに限らずあらゆる業界の課題でもありますが、尼口さんはクライアントとどういったコミュニケーションを取っているのでしょうか?

尼口:先ほども申し上げた課題である、他のサイトとの差別化やお客さんとの関係維持も、結局はブランディング活動の一環だと思います。なので、ブランディング活動をクライアントに促すようなコミュニケーションを心がけることで、これらの課題はクリアできると考えていますね。

Eコマースの“認知の壁”を越えるためのサービス

三橋:尼口さんは「Cart」というネットショッピングメディアを運営されていますね。こちらのメディアは、そういったEコマースサイトの認知拡大とブランディングをサポートする一環のように思えます。

尼口:Cartは、140~150名ほどのキュレーターそれぞれが、自分の気になっている商品を紹介するネットショッピングマガジンのようなサービスです。キュレーターには、VERY専属モデルの滝沢眞規子さんや、湘南乃風の若旦那さんや、RIP SLYMEのILMARIさんといった著名人の方々にご参加いただいています。「Eコマースでいかにブランディングをしていくか」と突き詰めて考えていくと、「認知」という壁に直面します。それだけ消費者に商品を知ってもらうのはとても難しいことなのです。そこで、「商品を知ってもらえるきっかけを作ってあげれば、差別化したコミュニケーションが回りだすのではないか」と考えてCartを作ることにしたのです。Eコマース事業者にとってCartは認知を得るためのプラットフォームです。第三者の信頼できる人に推薦されることで「この人が良いと言うからには良い商品なんだな」という好意的な受け取り方ができますよね。Cartには、そういった流れを作る狙いがあります。

三橋:Cartのキュレーターの方々がセレクションした商品には、どれもその人らしさが出ているように思います。フォロワーは、そもそもがキュレーターのファンである場合もあるでしょうし、より自分好みの商品と出会える機会も多くなるのではないでしょうか。これまでは消費者が商品を見つけ出す手段といえばネットで検索するか、偶然出合うくらいしかなかったと思うのですが、Cartはその偶然を必然に変えてくれるサービスとも言えますよね。

尼口:ありがとうございます。この先のEコマースを考えると、探す、見つける、比較する、といった行為はあまり生産的ではありませんし、今後なくなっていくと思うのです。おそらく、それらの行為は自動化され、提案という形にリプレースされていくんじゃないかな…。今はその提案をレコメンドエンジンが請け負っていますが、ただ商品の写真が表示されたりするだけで結構無愛想だったりするので、Cartではそこに雑誌的なコンテンツの要素を足して実現していきたいと思っています。

三橋:今後はCartでもさまざまな部分が自動化されていくかと思いますが、現状ではキュレーターが選んだ商品の掲載順序などは自動化されているのでしょうか?

尼口:今のところ、自分がフォローしたキュレーターのレコメンド商品が時間軸で表示されるだけなのですが、もう間もなくガラッと変わります。メンズファッションやライフスタイルといったカテゴリーに分類して、自分がフォローしていない情報も閲覧できるようにしていく予定です。

例えば30代の女性ユーザーだとしたら、統計を基にこういうものを求めているんじゃないかと提案をしながらリーチさせていく。渋谷区の主婦にギャル雑誌をぶつけてもウケないと思うので、その辺はチューニングしながらアルゴリズムを作って導入していきたいと思っています。その意味では今のCartは、まだ僕らが考えているビジョンの10%も実現できていないんです。


ネットコンシェルジェ・尼口氏へのインタビュー全編は、ECの未来を考えるメディア「New Commerce Hub」でお読みいただけます。