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鍛えよ、危機管理力。No.6

2016年のリスクを「予見」する!

2016/01/19

■危機管理の高度化に貢献
「危機管理力調査」が「PRアワード」の部門最優秀賞に

先日、日本パブリックリレーションズ協会が主催する2015年度「PRアワードグランプリ」で、本連載で解説してきた「危機管理力調査」がイノベーション/スキル部門の最優秀賞に輝きました。

表彰式で左から、日本PR協会理事長・近見竹彦氏、企業広報戦略研究所上席研究員・北見幸一氏、同研究所主任研究員・長濱憲氏

まず、この受賞は、調査にご協力いただいた企業の皆さまのおかげであり、回答企業各位にこの場を借りて感謝申し上げます。危機管理において、経験や勘でしかマネジメントができていないところを、データによって企業の危機管理の強み・弱みを「見える化」できるようにしたことが評価されました。危機発生時におけるコミュニケーションの果たす役割が大きくなっている昨今、PR業界のイノベーション/スキルとして認められたことを大変うれしく思います。日頃、危機管理に悩まれているリスクマネジメント部門および広報部門の皆さまに少しでもお役に立つことができれば大変ありがたいと考えています。

先日の「PRアワードグランプリ」最終審査会の中でも、日本企業の予見力の向上が課題となっていることを指摘させていただきました。本連載の#4「『予見力』が、危機管理力の決め手! 」でも、「予見力」の重要性を指摘している。本連載も2016年に入った初めての寄稿なので、これから2016年に起こりそうなリスクの予見を試みます。2016年に予定されている法制度の変化、社会・政治・経済動向の変化などを参考に、2016年のリスクを考えてみました。

■予見するべきリスクは「テロ」問題

まずは、最も警戒しなければならないリスクは「テロ」です。年末に懇談したメディア記者は、最も気を付けるべきリスクに「テロ」を第1に挙げました。フランス・パリで昨年の11月に発生した痛ましい同時多発テロは記憶に新しく、イスラム国の動きも活発化しているといいます。「テロ」は、遠い国の話で、日本には関係ないというのではなく、もっと自分ごと化されなければなりません。

ご存じの通り、日本では今年の5月26日~27日に、主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)が開催されることになっており、世界からの注目が集まります。もちろん、世界中のメディアが、サミットを取材するために、日本を訪れます。サミットの取材・編集拠点である国際メディアセンター(IMC)は、伊勢市朝熊町の三重県営サンアリーナに設置され、世界中のメディア約5000人が集結するといいます。伊勢志摩サミットは、まさにテロリストから見ると自分たちのテロ行為を世界中に情報発信するには絶好の機会です。

当然ながら、伊勢志摩周辺では厳重な警備がなされるでしょう。しかし、テロリストにとって目的が、自分たちのテロ行為が世界に情報発信されることなのであれば、テロは日本であればどこだってよい。東京や大阪といった大都市でテロが起こる可能性は否定できません。2013年アルジェリア人質拘束事件のように、企業が何らかの「テロ」に巻き込まれるケースも十分に考えられます。われわれが行った危機管理力調査では、企業よりもメディアが注目する危機事象の上位に「テロ」が入っていました。「テロ」に対するメディアの関心は非常に高いのです。また、「テロ」は爆発や銃乱射のようなものばかりとは限りません。市民生活を脅かすような「テロ」はいくらでも起こり得ます。特に安定的供給が求められるインフラ系企業では、最新の注意が必要であり、何か有事が起こったことを想定して、準備をしておく必要があります。

■注目すべき社会動向とリスク

次に、リスクを予見する上で社会動向は非常に重要です。リスクの予見に役立つ社会の動きにも着目しましょう。

1月:「マイナンバー」制度・本格運用
1月から順次、社会保障、税、災害対策の行政手続きでマイナンバーが必要となります。民間企業でも、さまざまな場面でマイナンバー情報を収集することになる。マイナンバーは個人情報なので、その情報を大量保有する場合には、漏えいするリスクを検討しておかなければなりません。仮に情報漏えいが、制度導入後初めての案件となった場合は、社会の批判が通常以上に集まるので注意が必要です。

4月:「女性活躍推進法」行動計画届け出
女性が、職業生活において、その希望に応じて十分に能力を発揮し、活躍できる環境を整備する「女性活躍推進法」が制定されました。労働者301人以上の大企業は、女性の活躍推進に向けた行動計画の策定、自社の女性活用に関する情報の公表が新たに義務づけられます。これにより、さまざまな企業で、女性の活躍に関する情報が公表されますが、女性が活躍できていない職場を急激に変更するのは容易ではありません。何も情報を出してないと、企業ブランドが毀損する可能性があります。まずは、女性活用の現状について把握し、女性活躍推進の在り方について検討すべきです。

4月:電力小売り全面自由化
「電力小売り全面自由化」は、地域独占などの規制を緩和し、地域電力会社以外の参入を促進することにより、消費者に選択肢を提供する改革です。さまざまな企業が参入を表明し、例えば、セット割などのサービスも多様化しています。こうしたセット割にはどのようなメリットがあるのかについて、宣伝などの表示を分かりやすくし、消費者の理解促進を強化する必要があります。消費者にとって分かりにくい場合には、クレームの急増などにつながる可能性が高くなります。

6月ごろ:株主総会(コーポレート・ガバナンス・コード導入後の初総会)
昨年から、コーポレート・ガバナンス・コードが導入されており、企業と株主の対話がこれまで以上に求められることとなりました。昨今、不正会計などが大きな社会問題となり、社会的にも株主との対話に注目が集まっています。コーポレート・ガバナンス・コードの導入によって、企業と株主の関係はどう変わったのか。社会からの注目も高いだけに、その対応に注意する必要があります。

6月末~7月:参議院議員通常選挙(初の18歳選挙)
初夏に参議院選挙が予定されています。年末に懇親したメディア記者からは、「衆参ダブル選挙」になるとの声もあります。もし、そうなれば世の中的には選挙ムード一色になるでしょう。加えて、この参院選から、初めての「18歳選挙」が実施されます。初めてのことなので、混乱が生じる可能性は否定できません。例えば、「18歳に対して選挙通知が正確に届かない。」「若者が公職選挙法を知らずに、電子メールを利用した選挙運動を行う」などのトラブルが想定されます。いずれにせよ、18歳以上の若者に注目が集まることになり、今後の動向に注意する必要があります。

11月:アメリカ大統領選挙
誰が大統領になるか分かりませんが、その結果次第では、経済的側面、安全保障的な側面からも、日本は大きな影響を受けることになります。米国の動向に注視しつつ、その対応を検討する必要があります。

このほかにも2016年の社会動向の変化に伴うリスクは数多くあるでしょう。リスクを予見し、有事への備えができるよう、危機管理能力を高めることに、少しでもお役に立てれば幸いです。