アド・スタディーズ 対談 #17

ネットコミュニティから見えるコミュ二ケーションの姿

〜コミュニケーションはネットから再びリアルを志向する〜前編

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    小林 弘人
    株式会社インフォバーン 代表取締役CVO(Chief Visionary Officer) / 株式会社デジモ代表取締役 / ビジネス・ブレークスルー大学教授
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    佐藤 尚之
    株式会社ツナグ コミュニケーション・ディレクター

コミュニティはリアルの世界で以前から存在していたが、インターネットの登場によってバーチャルな場に新たなコミュニティが形成されて、無視できない巨大な存在へと成長してきた。
ネットコミュニティは、企業と消費者のコミュニケーションにどのような変化をもたらすのだろうか。時代の変化を鋭敏に捉える2人の論客に、コミュニティとマーケティングの未来を予測してもらった。

シェア経済はコミュニティがベース

 

佐藤:今日はネットコミュニティがテーマです。まず何から話しましょうか。

小林:最近の話題でいうと、シェアリングエコノミーはどうでしょう。僕は2010年に『シェア〈共有〉からビジネスを生みだす新戦略』(レイチェル・ボッツマン、ルー・ロジャース著、関美和訳、NHK出版)という本を監修しました。出た当時は、よく怒られたんです。シェアしたらモノが売れなくなるとか、人が使ったものなんて使えるかと。ところが3・11以降、そうした声が徐々に減っていきました。というのも、震災後に被災者の方に部屋を提供したり、牡蠣を流された人がクラウドファンディングでもう一度養殖事業をやるなどのシェアの動きが起きたから。あのときからシェアがリアリティを持って語られるようになってきたんですね。
そしていまエアビーアンドビー(Airbnb)やウーバー(Uber)が出てきて、シェアリングエコノミーがより注目を集めるようになった。どうしてシェアが広がったのかというと、やはりコミュニティとの結びつきが強い。例えばエアビーアンドビーは検索するだけでも面白いんですよ。宿を検索すると奥さんの得意料理とか本棚に並ぶ本が写真付きで解説されていたりして、それを見ているだけで楽しい。利用者は、単純に安いからとか、自分で所有しなくて済むといった理由のみではなく、今まで会えなかった人やモノとネットで接合できるから使っています。まさにベースにあるのはコミュニティであって、それを外してシェアを語るとズレますね。

佐藤:若い人は小林さんの本が出た時点で、すでにシェア、シェアと言っていました。彼らは物欲がないわけじゃないけど、強くない。なぜかというと、課題がないからです。不便さや課題を解決するのが商品の役目だとすると、彼らの周りにある課題はあらかた解決されていて、新しい商品を欲しいと思わないのです。
僕はそういう人たちに触れていて、不特定多数に何かを伝える広告という仕事に違和感を抱くようになりました。それよりも関心は特定少数に向いている。ざっくりというと、コミュニケーションからコミュニティへと気持ちが移っています。

エアビーアンドビーは、世界190カ国34,000以上の都市のさまざまな空き部屋を紹介。宿泊施設として提供する、人気のコミュニティ・マーケットプレイス
 

小林:さとなおさんはご著書で、情報が多過ぎてコミュニケーションが難しくなったと指摘されてましたね。

佐藤:2010年の時点で、世界に流れる情報量はほぼ1ZB(ゼタバイト、10の21乗バイト)に達しました。1ZBは世界中の砂浜の砂粒の数と同じで、異常な数値ですよ。4年後には40ZB、2030年には60ZBになると予測されていますが、60ZBって、全人類が1年間に目から脳へ送る知覚情報の量に匹敵するそうです。そのぐらいの情報量が流れる時代に、広告で何かを押しつけて好意を持って買ってもらうのは、まず不可能でしょう。
所有欲をくすぐれるものがあるとしたら、トライブ(族)、もしくはコミュニティです。トライブとコミュニティが同一の場合もあれば、幾つかのトライブがコミュニティになる場合もありますが、いずれにしても人は自分が属するトライブから伝わってくる情報しか受け取らないし、共感もしない。そういう時代です。
僕は数日前、イケウチオーガニックという会社のタオルのシェアをしました。ここのオーガニックコットン100%のタオル、すごくいいんですよ。僕と小林さんは髪の毛がないから吸水性はどうでもいいんだけど(笑)、肌触りから軽さから、ちょっと天国にいるみたいでね。
そのことを書いたら、僕のトライブ、つまり僕が普段どういうものを評価するのか知っている人たちに強い情報として伝わって、テレビで紹介されたときより売れたそうです。
イケウチオーガニックの広告を見ても、おそらく何てことないですよ。また、シェアといっても、リツイートやいいね!で不特定多数にシェアしてもピンとこない。友人だったりトライブだったりするから共感が生まれ欲しくなるわけです。

 

小林:シェアリングエコノミーが支持されるのも、モノだけじゃなくコトやマインドセットまでシェアするからです。アメリカにEtsyという会社があります。主婦たちが手作りでつくったものを売買するマーケットプレイスを運営しているのですが、ここで買われているのは、アクセサリーというより共感です。「先日、離婚したばかりだけど、ガレージを改装して娘と一緒に楽しくジュエリーをつくっています」みたいなストーリーがあって、彼女を応援する人たちの顔も見えている。エアビーアンドビーで「そこに泊まる物語」を買うのと同じく、Etsyでもユーザーはコミュニティで共有されている物語を買っている。実際にこうした形でお金が回り始めているのを見ると、共感なしで押し売りできる商品は限られてくるでしょう。広告代理店の方に言うと怒られますが、もうマスで共感の押し売りは無理です。

佐藤:代理店はかれこれ100年以上、アテンションで露出を増やす方向でやってきたから、そのあたりの意識がないんですよ。露出を増やしても単なるノイズにしかならないんだけど、頭が「露出脳」になっているから、無視されていることがわからない。そろそろ、その発想から抜け出さないといけないのですが。
僕はストーリー消費もそろそろ厳しいなと思っています。昔は口がうまい人が広告をうまくつくっていました。ストーリー消費が注目されるようになると、口がうまい人たちが今度はストーリーも上手につくるようになってきた。そうなるとストーリーに嫌みなところが出てきて、共感しにくくなっていく。

小林:確かにクリエーターが頭で考えたストーリーは取ってつけた印象があって、うまくいっていないですね。重要なのは、エンゲージメント。フォルクスワーゲンはみんなから尊敬される企業だったのに、不正問題でそれがズタズタになってしまった。逆にユーザーとの約束を守っている企業であれば、ファンのコミュニティが勝手にストーリーを紡ぎ出してくれるんじゃないかな。

ネットだけでコミュニティは維持できるか

 

――コミュニティ発の消費が存在感を増す時代になると、ネットコミュニティはどう変わっていくのでしょうか。

小林:オンライン上のコミュニティもいろいろあります。Firefoxの開発に携わっている人たちは世界中に散らばっていて、すごいブラウザをつくろうぜという思想でコミュニティをつくっています。どちらかというと緩いコミュニティで、離脱したり、かつ入ってくることも可能です。一方、まずリアルのコミュニティがあって、オンラインを補完的に使っているコミュニティもある。後者は結束が固くて深いんだけど、排他的で新しい人たちが入りにくかったりする。本当にいろいろなので、一概に言えないですね。

 

佐藤:僕はオンラインコミュニティに否定的なところがあって、まずはリアルを優先しています。コミュニケーションじゃなくて、“顔見にケーション”。要するに、会って顔を見ることが大事で、オンラインはその補完という位置づけです。

先ほども言ったように、いまは情報が多過ぎるから、人と情報を交換しても喜びは生まれにくい。じゃストーリーがあればいいのかというと、それも違う。同じものを見ても、僕が感じるストーリーと小林さんが感じるストーリーでは微妙に違うので、ストーリーに対する共感だけでも人はそんなに強く結びつかないのです。結局どこで結びつくのかといえばリアルです。共感というのは感情であり、会わないとわからない感情はたくさんありますから。

小林:同感です。フェイス・トゥ・フェイスだと、テキストベースの情報だけでなく、言語化できない情報が交換されます。例えば表情を見て、「こいつ、うそをついているな」とかね。そういったやりとりを重ねてコミュニティは深くなっていくものなので、きっかけがネットだったとしても、どこかでリアルを含めたほうがいい。
Webを使うのは、もはや電話を使うのと同じです。ツールとしてはクリティカルマス(臨界量)を超えたので、それはもう当たり前のものとして使って、リアルの力をどのように拡張したり補完していくのかということに焦点を当てるべきでしょう。
そこをはき違えてネットだけでやろうとすると、歪みが生じます。最近、気軽にメールだけで仕事を依頼してきたりする人って多くないですか。定型文で名前のところだけ変えました、みたいな。

佐藤:ヘッダーの名前は書きかえたけど、文章中は直してなくて他の人の名前になっていたりとかね(笑)。

小林:そう、そう。べつに定型文で効率的にやるのはいいのですが、飛んでくるのが軽い球だと、やはりこちらも軽く流してしまう。それだと関係が深まってコミュニティをつくるというところまではいかないですよね。

佐藤:もちろん、オンラインでも深いコミュニケーションが不可能というわけではないと思います。共感は本当に感情なので、ポジショントークをされても響かないし、コピペしたものを見せられても何も伝わってこない。相手のリアルな体験というか、相手の個の気持ちが入って初めて共感は起こります。例えば「今日は寒い」という情報だけでは共感は起きづらいけど、「俺は昨日までハワイにいたから、今日は寒い」と言われると、個の気持ちが入っているから「そりゃつらい。風邪ひかないようにね」と共感する。
やろうと思えば、これはネット上でもできます。ただ、やっぱり会って顔を見たほうがお互いの個が見えやすくなる。端的なのはお酒を飲んだときでね。昔から組織で飲みニケーションが重宝されるのも、あながち間違いじゃない。

※全文は吉田秀雄記念事業財団のサイトよりご覧いただけます。

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    公益財団法人 吉田秀雄記念事業財団では、研究広報誌「AD STUDIES」を年4回発行しています。毎号、広告・コミュニケーションおよびマーケティングに関する特集を組んでいます。当財団ホームでは創刊号から最新号までのバックナンバーをご覧いただけます。

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    小林 弘人
    株式会社インフォバーン 代表取締役CVO(Chief Visionary Officer) / 株式会社デジモ代表取締役 / ビジネス・ブレークスルー大学教授

    1965年長野県生まれ。株式会社インフォバーン代表取締役CVO。株式会社デジモ代表取締役。ビジネス・ブレークスルー大学教授 。「ワイアード」「ギズモード・ジャパン」など、紙とWebの両分野で多くの媒体を創刊。98年にインフォバーンを設立。企業メディアの立ち上げから運営とコンテンツ・マーケティングを支援。主な著書に、『新世紀メディア論─新聞・雑誌が死ぬ前に』(バジリコ)、『メディア化する企業はなぜ強いのか?』(技術評論社)、『インターネットが普及したら、ぼくたちが原始人に戻っちゃったわけ』 (共著、晶文社)など。

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    佐藤 尚之
    株式会社ツナグ コミュニケーション・ディレクター

    1961年東京都生まれ。85年電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・プランナーを経て、クリエーティブ・ディレクターに。2011年3月に電通を退社。株式会社ツナグを立ち上げ、コミュニケーション・ディレクターとして広告の枠にはまらないキャンペーンのプランニングを展開。さらに株式会社4th代表を務め、コミュニティ運営にも当たっている。主な著書に『明日の広告』『明日のコミュニケーション』(ともにアスキー新書)、『明日のプランニング』(講談社現代新書)。

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