アド・スタディーズ 対談 #18

ネットコミュニティから見えるコミュ二ケーションの姿

〜コミュニケーションはネットから再びリアルを志向する〜後編

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    小林 弘人
    株式会社インフォバーン 代表取締役CVO(Chief Visionary Officer) / 株式会社デジモ代表取締役 / ビジネス・ブレークスルー大学教授
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    佐藤 尚之
    株式会社ツナグ コミュニケーション・ディレクター

コミュニティはリアルの世界で以前から存在していたが、インターネットの登場によってバーチャルな場に新たなコミュニティが形成されて、無視できない巨大な存在へと成長してきた。
ネットコミュニティは、企業と消費者のコミュニケーションにどのような変化をもたらすのだろうか。時代の変化を鋭敏に捉える2人の論客に、コミュニティとマーケティングの未来を予測してもらった。

 

コミュニティの軸は課題解決

小林:リアルが重視されるのは、ネットが便利になったからではなく、逆にテクノロジーの不完全さがバレたからという側面もあるのかも。例えばレストラン情報のレコメンデーションは、すごく不完全でしょう。本当はおいしいのに、点数が低いところがたくさんある。書評ならば本をあまり読んだことがない人が「この本、全然理解できなかった。つまらない」と言うのと同じで、知り合いの本読みに聞いたほうがずっと信用できる。そういうことに疲れてきて、やっぱりリアルだと。

佐藤:それ、わかるなあ。銀座でどこに飲みに行こうかと検索したら、500万件ぐらいヒットする。そんなの探しようがなくて、かえって不便です。それよりも小林さんに「最近、銀座でどこ行きました?」と聞いたほうが早い。教えてもらった店がハズレだとしても、「小林ーっ!あの店何なんだ!」という共感が生まれるから、それはそれでいい(笑)。

小林:ネットの軽さや不便さを理解した上で、最近はWeb系の会社もリアルでハッカソンやアイデアソン(*註)を始めています。流行だからと始めるのではなく、コミュニティを創るという気概が必要。それがないと脆弱なので。

佐藤:うん、ものすごく脆弱ですね。オンラインだけだと何のつながりもないのに等しい。そこがわかっていない企業は、相変わらずオンラインで人を集めれば何か新しいことができると勘違いしていて、やっぱりうまくいってない。

小林:さとなおさんは、企業はどのようなコミュニティを運営すべきだと思いますか。

佐藤:強いのは課題解決を目的としたコミュニティでしょう。『グランズウェル~ソーシャルテクノロジーによる企業戦略』(シャーリーン・リー、ジョシュ・バーノフ著、伊東奈美子訳、翔泳社)という本に、すごく大事なことがさらっと書いてありました。それは、商品をもとにコミュニティはできないということ。大概のクライアント企業は、「こういう商品でコミュニティをつくろう」というのですが、普通は商品そのものに共感は起きません。生活者が困っていることを解決するために商品ができたので、コミュニティをつくるなら課題解決を軸にしないとダメなんです。そういう意味で面白いのが、P&Gの「BeingGirl」かな。商品は生理用品ですが、コミュニティの軸になっているのは「女の子になる」という課題です。課題の設定が押し付けっぽいとマズいと思いますが、まずはそこから考えないと。

BeingGirlは、生理用品を手掛けるP&G社が2001年にアメリカで始めたティーン向けサイト。思春期特有の悩みや関心事に応える充実したコンテンツが大人気。今まで世界30カ国ほどでオープンした
 

小林:女性向け商品をつくっているところは、そのあたりがうまい。トリンプにはブラをみんなでつくるという企画があって、長く続いています。いまではファッションショーを開催するほどのコミュニティになって、ユーザーがモデルになったりしている。MUJIもそのあたりがうまいですね。

佐藤:たぶん最初も、人を集めて共感を持たせようという発想はなかったんじゃないかなあ。かつては新規顧客を取るということがマーケティングの主題でした。しかし、コミュニティ的発想では対象が既存顧客になる。つまりコミュニティはすでにあって、そこに共感も存在している。企業にできるのはそれを支援したり盛り上げたりすることであり、広告会社っぽい発想で、何もないところにコミュニティをつくろう、共感をつくろうとすると失敗します。

小林:だいぶ前の話ですが、マツダは横浜にある工場をユーザーに開放して、日曜日にイベントを開催しました。メインはお父さんたちで、エンジニアの人が公開会見をして、お父さんたちが質問します。横で聞いていたのですが、お父さんたちは目を輝かせながら、水素ロータリーについて専門家顔負けの質問をしていて、とても楽しそうだった。もちろん家族も同伴可で、軽食が出るし、子どもたちが遊べるエリアもある。通常の試乗会と違ってみんなすでにマツダ車のオーナーなわけですが、これはエンゲージが高いなと感じました。

佐藤:僕も事例を一つ紹介しますね。ネスカフェ アンバサダーです。ユーザーが参加するキャンプに行ったことがあるのですが、素晴らしいと思ったのは、ネスレの人たちが「これは僕らの趣味です」と言っていたことです。彼らは本気で楽しんでますよ。スペシャルライブがあると聞いて、僕はみんなで手づくりのライブでもやるのかと思ってました。ところが、ステージに出てきたのは、米米CLUBの石井竜也だった。参加者100人ぐらいのキャンプですから、普通ならありえないですよ。彼らはユーザーと一緒の時間を過ごすことが本当に好きで、その思いが伝わってきた。あれはコミュニティが活性化すると思う。

小林:ライブ、よくやりましたね。普通の会社なら「100人に1,000万円使うのか」「それでいくら売れるんだ」という話になるけど、ネスレはコミュニティが費用対効果で測れないことを知っていたのでしょうか。

佐藤:そうそう。いままでの露出で広告効果を測る発想だとできなかったでしょうね。

小林:企業からよく「オウンド・メディアをやりたい」と相談を受けますが、短期に広告効果を出すことばかり先に考えるのはよくないですね。もちろん最終的には売ることにつなげるべきで、そう考えること自体は当然ですが、メディアは読者に必要な情報を真摯に渡していくという作業が求められます。その繰り返しで受け手との信頼関係ができて、その後に利益がついてくる。そもそもユーザーとの間で絆が作れないような企業にオウンド・メディアは向いていない。

 

必要なのはモデレーション能力

――コミュニケーションからコミュニティの時代になるとしたら、マーケターに求められる能力も変わるのでしょうか。

佐藤:まず間違えてはいけないのが、世の中にはネットを使わない人が大勢いるということです。2014年の段階で、インターネットサービスを使わない人が(PCベースで)日本に7,500万人います。また、ネットを使っているといっても、LINEとソーシャルゲームぐらいしかやっていない人もいる。それを差し引けば、ネットをちゃんと使っているのはおそらく3,000万、4,000万人くらいですよ。港区や中央区で話していると、世の中はネットを使っている人ばかりのように感じるけど、まったくそうじゃない。むしろ使わない人が多数派です。

小林:世代の問題じゃないんですよね。若い人でも使いこなせていない人がけっこういる。僕は大学で教えていますが、学生に課題を与えると、「その情報はどこのサイトで取れるんですか」と聞かれたりする。彼らはネットを使っているはずなのですが、検索すら満足に使いこなせていない。自称ネットユーザーだからといって、ネットを使える人だと思わないほうがいいですね。

佐藤:重要なのは、ネットを使っていない7,000~8,000万の人たちには、物欲があるし、テレビや新聞の露出も効くということです。そこは分けて考えないといけない。いま、ネット民にもウケるテレビCMをつくろうという流れがあるでしょう。何かSNSでバズりそうなことをテレビで仕掛けてみたりだとか。あれは意味ないですよ。テレビばかり見ている人はSNSをやらないし、SNSを空気みたいに使いこなしている人はテレビから発せられる情報に共感しない。だから混ぜても無駄です。ネットを使っていない人たちに対しては、僕はもっとプリミティブなマスコミュニケーションでいいと思う。

小林:一方、ネットを使っている人たちに対しては、コミュニティベースで共感アプローチをしていくと。

佐藤:はい。ただ、コミュニティに共感アプローチするといっても、誰かを囲い込むという話じゃなく、コミュニティがあるところにこちらがお邪魔するというアプローチですね。コミュニティデザインという人もいるけど、デザインというと、上から目線なので少し違う。あえて言えば、モデレーションかな。マーケターは、コミュニティのモデレーターになるためのリテラシーを磨かないといけない。

小林:その話に近いですが、僕はマーケターにアクセラレーターになってほしい。スタートアップの世界では企業や起業家をジョイントさせて一緒にプロジェクトを起こす支援者をアクセラレーターと言います。アクセラレーターは全体を見て、適時適切な人をアサインし、ある期間内にビジネスを形づくるのですが、マーケターがコミュニティを考えるときに求められるものも、まさに似た活動ではないでしょうか。
優れたアクセラレーターになるには、本人がコミュニティに対してリアリティを持つことが大切です。裏を返せば、SNSでこんな発信をしたらどんな反応が返ってくるとか、コミュニティはどう動くのかということについて、リアリティを獲得していないマーケターが散見される。コミュニティって、決して華やかな話ではなく、やっていくのはむしろしんどいはずなんです。でも、そこを避けている限り何もできない。

佐藤:おっしゃるとおりです。コミュニティは、すごく非効率です。だから、効率よく拡声器を使ってマスコミュニケーションしていた広告人には、あんまり向いていない。そこに踏み込めるかどうかでしょうね。

小林:さとなおさんは、実際にコミュニティを運営していていかがですか。

佐藤:family、friends、workmatesの次にくる4番目のコミュニティとして、4th(フォース)というコミュニティの会社をつくりました。きっかけは、僕のラボ。ラボに集まった人間たちは各所に帰っていくわけですが、みんながばらけてしまうのがもったいなくて、みんなが集まれるリアルな場所をつくりました。週に1~2回、セミナー的なラボをやったり、ワインや日本酒を飲む会をやったりしています。 
正直に言って、試行錯誤ですよ。みんなが喜んでくれると思ってやったことが、実はやり過ぎで逆効果だったりね。まだ自分の中でもわかっていない部分があるので、まずは実践。やっていくうちに見えてくるものがあるんじゃないですか。

小林:その先にあるのは何だろう。ビジネスですか。

佐藤:いや、コミュニティで稼ごうなんて思ったら、全部見透かされます。もちろん生きていけるだけの稼ぎは必要ですが、トントンでいい。それよりもまた大きな災害が起きて何かやろうとしたときに、コミュニティがコアとなってちゃんと動けるかとか、そういったことが大事なわけで。
この前、パリで同時多発テロが起こりましたよね。僕はマスコミュニケーションが第3次世界大戦を止められるかといったら、難しいと考えてます。芸術なら止められるのかというと、それも厳しい。「イマジン」を歌ってもブッシュの戦争は止められなかったわけですから。ならば僕たちに何ができるのかというと、小さいトライブでいいから発信して、連鎖させていくことしかないんじゃないかと。最後は大それた話になったけど、そういうことを10年くらいかけてちゃんとやっていきたいですね。

小林:トライブがつながったコミュニティは、それだけの可能性を秘めているのかもしれません。今日はどうもありがとうございました。

*註:ハッカソンは、ハック(Hack)とマラソン(Marathon)を組み合わせた造語。もともとはIT関連の技術者などが集い、特定のテーマについて集中的にチームで開発を行う共創型イベント。またアイデアソンはアイデア(Idea)とマラソン(Marathon)を組み合わせた造語で、最近では、新規事業開発などハッカソンより幅広いジャンルでも活用されている同様のワークショップ型イベント。
 

※全文は吉田秀雄記念事業財団のサイトよりご覧いただけます。

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    公益財団法人 吉田秀雄記念事業財団では、研究広報誌「AD STUDIES」を年4回発行しています。毎号、広告・コミュニケーションおよびマーケティングに関する特集を組んでいます。当財団ホームでは創刊号から最新号までのバックナンバーをご覧いただけます。

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    小林 弘人
    株式会社インフォバーン 代表取締役CVO(Chief Visionary Officer) / 株式会社デジモ代表取締役 / ビジネス・ブレークスルー大学教授

    1965年長野県生まれ。株式会社インフォバーン代表取締役CVO。株式会社デジモ代表取締役。ビジネス・ブレークスルー大学教授 。「ワイアード」「ギズモード・ジャパン」など、紙とWebの両分野で多くの媒体を創刊。98年にインフォバーンを設立。企業メディアの立ち上げから運営とコンテンツ・マーケティングを支援。主な著書に、『新世紀メディア論─新聞・雑誌が死ぬ前に』(バジリコ)、『メディア化する企業はなぜ強いのか?』(技術評論社)、『インターネットが普及したら、ぼくたちが原始人に戻っちゃったわけ』 (共著、晶文社)など。

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    佐藤 尚之
    株式会社ツナグ コミュニケーション・ディレクター

    1961年東京都生まれ。85年電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・プランナーを経て、クリエーティブ・ディレクターに。2011年3月に電通を退社。株式会社ツナグを立ち上げ、コミュニケーション・ディレクターとして広告の枠にはまらないキャンペーンのプランニングを展開。さらに株式会社4th代表を務め、コミュニティ運営にも当たっている。主な著書に『明日の広告』『明日のコミュニケーション』(ともにアスキー新書)、『明日のプランニング』(講談社現代新書)。

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