ミライカレッジ×地方創生ビジネス #03

「ゆるい」で地域社会を変える!?

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    若新 雄純
    慶應義塾大学特任助教/株式会社NewYouth代表取締役
  • 160112  5609
    逢坂 剛典
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター シニア・プランニング・マネージャー

ツヴァイ×TURNS×電通による共同プロジェクト「ミライカレッジ」。「人と出会う、街と出会う、未来と出会う。」をコンセプトに地方創生に取り組んでいます。多様化するライフスタイルや価値観に呼応した、新しい地域との関係性を模索するミライカレッジが、さらに活動を広げるために必要なものとは? 

今回お迎えしたのは、女子高生がまちづくりを担う「鯖江市役所JK課」や「ゆるい移住」など、数々の実験的プロジェクトを手掛ける若新雄純さん。ミライカレッジのプロジェクトメンバーである電通の逢坂剛典さんが若新流のユニークな活動を聞き、ミライカレッジとのコラボレーションの可能性を探ります。

 
左から電通・逢坂氏、慶應義塾大学特任助教・若新氏

「とまどい」や「ゆらぎ」から創造を生んだ「鯖江市役所JK課」

逢坂:「鯖江市役所JK課」や「ゆるい移住」をはじめとする若新さんの取り組みは、ミライカレッジと多くの共通点があるように感じています。まず、「鯖江市役所JK課」についてお聞かせいただけますか。

若新:2014年の春に福井県鯖江市でスタートした、地元の女子高生(JK)を主役にまちづくりを行う実験的プロジェクトです。まちづくりのことを考えたことのなかった人たちを僕らは「ゆるい市民」って呼んでいるんですけれど、JKがゆるい市民の代表格として、それまで一部の大人や専門家だけで閉鎖的な議論がされていた空間に入っていったときに何が起きるのか。大人側はどう変化することができるのか、という発想ですね。

そもそも、ゆるい市民の感覚というのは、テレビを見ながら「ふざけんなよ」「くだらねぇな」「おもれぇな」とか好き勝手に言っている、日常的な声なわけで。ぼんやりとしたイメージはあるけれど、意見としてのまとまった言葉にはなっていないんですよね。

逢坂:確かに。「ふざけんなよ」なんて、まちづくりの会議の場では言えませんし。優等生的な発言をしてしまいます。

若新:そうなんですよ。だから、「多様な市民を受け入れたい」「まちづくりに対する意見を聞きたい」って、まちづくりに興味ある優等生だけを集めても、市民のリアルな声なんて聞けませんよ。だから、JK課の初期のメンバーは、ツイッターに口コミを流して募集しました。「市役所にJK課っていうのができるらしいよ」「今度、説明会をするらしいよ」「まじ?ウケる!」みたいな。

逢坂:普通の女子高生たちを選抜もせずに。

若新:「考えがまとまっていなくても発言していいんだ」という雰囲気を徹底的に出したかったので。服装やふるまいなど、全て自由。従来、市役所にやって来るのは学校から推薦された高校生ばっかりだったけど、JK課のメンバーたちは、会議中にスマホをいじってるし、お菓子食べてるし、面白くないと途中で帰っちゃうし。でも、大人は注意しません。「この会議は重要だからスマホいじるのはやめよう」って彼女たち自ら思えるようなものをつくっていかないと、意味がないですから。

逢坂:そんな女子高生たちを目の当たりにした大人は、どういう反応を?

若新:カッコよくいうなら、「とまどい」と「ゆらぎ」ですね。女子高生がリラックスして好き勝手におしゃべりできるムードというのは、当然大人は最初とまどいます。でも、その中で彼女たちがぽろっと言ったことにヒントを得て、今までになかった「新しい何か」をつくる、というプロセスを大事にしたいんで。

大人と対等な関係で意見を創発しながら、どんなにしょぼくても――もちろん、しょぼくない方がいいけれど、新しい何かを一個でも多くつくろうと。

地元のお菓子職人たちとコラボしてつくった「JK課オリジナルスイーツ」も活動の一つ。最初、職人の方たちは市から依頼されて渋々関わってたのに、JKたちが描いてくる絵を商品化するのがだんだん楽しくなってきて、その後、「バレンタインに何か企画しないですか?」って、職人の方から言ってくるようになったんですよね。

新しいものをつくることに、みんなが夢中。JK課は交通費もバイト代も出ないけど、その充実感が、お金や報酬に代わる新しい価値になってるんじゃないかと。

ゆるいコミュニケーションがカギとなった「ゆるい移住」

逢坂:鯖江市のもう一つのプロジェクト「ゆるい移住」も同じ構造ですね。

若新:発想は全く一緒です。半年間、希望者にとりあえず鯖江市に住んでもらって、鯖江市民とゆるく関わり合いながら、田舎の生活をゆるく楽しんでもらう。共同生活だけど、家賃はタダ。仕事をする必要はないし、正式に移住するかどうかは半年後に決めればいい。

でも、「ゆるい」というのは、いいかげんという意味ではなくて、来た人が自分たちで生活をゼロからつくれる余地を残すということです。あらかじめ準備してあるものを与えられるだけだったら、田舎になんて魅力を感じません。

消費文化を考えれば都会>田舎、でも、創造文化を考えたときは都会<田舎。小さくても、田舎で「創造」できるという体験の価値はハンパなく高い。だから、かっこいい言い方をすると「創作意欲の高い人」が来るだろう、と。

逢坂:実際、いろんなジャンルの人が集まったと伺いました。

若新:東大卒のエリート、元パティシエ、元プロ野球選手、IT会社の社長、それにニートもいる。実に幅広いですね。

JK課と同じく、ゆるい移住も一切選考はしていませんし、応募資格もありません。「このまちは、何者かも分からない自分たちを受け入れてくれた」という信頼関係があるからこそ、逆にこのまちで何か活動をしたいという意欲が生まれる。これが、まちの圧倒的な魅力ですよね。

「統一規格」からはみ出した人たちがグラデーションをつくる

逢坂:ミライカレッジでも移住体験プログラムを展開しています。移住するかしないか、いきなり白黒はっきり決めるのではなく、その前に自分のライフデザインを考えることが重要だと感じています。移住の他にも、二拠点住居、観光、地域のファンになるなど、地域との関係性を深める手段はたくさんありますし。若新さんが近著『創造的脱力』の中でも提唱している「グラデーションをつくる」というコンセプトは、まさにミライカレッジが目指している方向でもあります。

若新:意外にも、僕が接している若者の多くは、白黒がはっきり決まった「統一規格」が好きなんですよね。というよりも、それがあると安心する。試験とか研修とか、全部点数があって、学校も社会も規格化されている。でも、規格通りにやって生活が日々豊かになるかといえば、現代はもうそうでもなくて。それで、「自分なりのスタイルを持ちたい」とか言ってみるんだけど、やっぱり不安で、なかなかはみ出せない。

だから、僕が注目したのは、最初から統一規格からはみ出している人。彼らにどんどん解放的な環境を楽しんでもらえば、白か黒かだけでない「グラデーション」がうっすらとでも見えてくるのではないかと。

逢坂:でも、いざはみ出すとなると勇気がいりますよね。

若新:本番の前に練習すればいい。いざ本番というと怖いけれど、メーンストリームじゃないところで実験的に体験する場が何回かあれば、1回ぐらいは思い切りはみ出してもいいと思うかもしれません。

JK課もゆるい移住も、範囲や期間が限定された「プロジェクト」ですからね。大人も一緒になった、実験的で真剣な遊びです。例えば、「100億かけてビルを建てよう。そうしたら若者がたくさん来るぞ!」みたいなハード投資したら失敗できないけれど、ソフトでゆるく実験するのであれば、失敗してもある程度は取り返せますから。

ミライカレッジ×若新雄純氏のコラボレーションの可能性

若新:従来の移住政策だと、まず職探しから入ると思うんですね。ところが、「ゆるい移住」で来ている人たちのほとんどは、まだ固定の仕事には就いていません。

労働もある意味、貨幣に近い統一規格。いろいろな概念に縛られますよね。せっかく見知らぬ田舎に来たんだから、むしろ最初の半年間くらいは仕事を手放してみる。そして、地域のいろいろな人たちと関わって、イベントを手伝ったり、地域活動を一緒にやったりして信頼関係を積み上げていくことが大事だと思うんです。

逢坂:無職がいいなんて、都会ではあり得ませんね。

若新:自由な時間ができたことで、彼らはいろいろな取り組みを創り出しています。最近では、「オープン団地」というのを運営し始めました。「楽しそうだから、自分も(移住者が住む)団地に行ってみたい」という市民が増えてきたんです。そこで、インターネット上に「今の時間は団地に○○がいます」という情報を随時公開して、部屋を開放することを始めて。差し入れを持っていけば誰でも入れるというシステムなので、彼らの移住部屋は食べ物であふれている。

逢坂:すごい!まさに、ゆるいコミュニケーションの醍醐味ですね。ミライカレッジでは20~30代女性の参加者が多いのですが、この層へのアプローチ法は?

若新:移住メンバーにも、東京でのパティシエ勤めを辞めてきた20代女性がいます。今、彼女はめちゃくちゃ忙しそうなんですよ。何をやっているかといえば、「ゆるい移住」のブログを毎日更新している。あと、「近々、ついにコミュニティーFMの番組が持てそう」って。仕事としては、収入0円アップなんですけどね。「都会にいたときは貯金が趣味だったのに。いよいよ減りそうです!」って、うれしそうに話してますよ。

逢坂:すごい価値観の変化ですね。

若新:お金もそうですが、住む場所、仕事、結婚、生き方…あらゆる価値観の激変が起こります。田舎のすごいところは、都会では絶対だと思っていた価値観を簡単に相対化できてしまうところ。だからいろいろな選択肢が見えてくるんだと思います。

逢坂:では、都会とは別の価値観があること、地域にはその選択肢があること。さらにその価値観を応援するムーブメントがあることを、都会の人に気付かせてあげるには?

若新:「気付かせてあげる」というのがよくないのかもしれません。地方に行った人が、都会では手に入らない圧倒的に魅力的なものをつくり出していること知ったら、都会の人も絶対に欲しくなりますよ。そのためには、移住生活を満喫している先住民が、都会にない豊かさやとんでもない「新しい何か」を生み出す可能性を秘めた選択肢―そんなライフデザイン的視点を、都会の人に「気付かせてあげる」というどこか他者貢献的なものではなく、自己満足的に「見せつける」くらいがいいと思います。それを見て心を動かされた人は、自然と興味を持つはずですし。

逢坂:地方から、新しい価値観を見せつける!いいですね。

 

プロフィール

  • 160112  5575
    若新 雄純
    慶應義塾大学特任助教/株式会社NewYouth代表取締役

    専門は産業・組織心理学とコミュニケーション論。人と組織、地域社会などのコミュニケーションを扱う研究者・プロデューサーとして、全員がニートで取締役の「NEET株式会社」や女子高生がまちづくりを担う福井県鯖江市の「鯖江市役所JK課」、同じく鯖江市の若者が家賃無料で半年間体験移住できる「ゆるい移住」など、実験的なプロジェクトを多数企画・実施。さまざまな企業の人材・組織開発コンサルティングなども行う。
    慶應義塾大学大学院修了、修士(政策・メディア)。
    若新ワールド:http://wakashin.com/

  • 160112  5609
    逢坂 剛典
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター シニア・プランニング・マネージャー

    2000年電通入社。マーケティング部門を経て、営業部門に従事し、クライアントのマーケティング戦略、メディアプランニング、広告制作からイベント運営・実施、戦略PRなどに携わり、2015年から現職。
    パブリックテーマを取り扱うパブリック・プロジェクト室で主に地域創生や防災・レジリエンス領域における電通ならではのプロジェクト、事業開発に携わる。

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