Experience Driven Showcase #51

「物質」がコミュニケーションをつくる、真のマルチメディア世界:落合陽一(後編)

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    落合 陽一
    筑波大学助教/メディアアーティスト
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    藤田 卓也
    株式会社電通 イベント&スペース・デザイン局 プランナー

「会いたい人に、会いに行く!」第2弾は、メディアアーティストとして活躍され、さまざまなテクノロジーを研究する筑波大学助教の落合陽一氏に、電通イベント&スペース・デザイン局の藤田卓也氏が会いました。近著『魔法の世紀』では、人々がメディアの中の現実を共有する「映像の世紀」から、メディアが環境そのものに溶け込んだ「魔法の世紀」がやってくるといいます。現代の魔法使いといわれる落合氏の見る未来のビジョンとは?

取材・編集構成:金原亜紀 電通イベント&スペース・デザイン局
(左より)落合氏、藤田氏

 

すべてをデジタルデータに換算してみたら?

落合:アルスエレクトロニカセンターに、この前8Kのプロジェクションシステムが入って、8Kの画面で遠くを見ると、もう完全に「窓」ですね。

藤田:「どこでもドア」みたいな(笑)。

落合:最近はバイオに興味を持っているんです。HIVウイルスって9.6キロバイトぐらいなんです、データ量として。9.6キロバイトで人間が死ぬのは、ある意味相当すごい。ウイルスは極めてデータ量が軽くて、容量としてはせいぜい1メガ。フロッピーディスク1枚分ぐらいしかない。人間もせいぜい3.2ギガしかないですけれど、植物はたまに150ギガもあるやつがいる。

藤田:植物? それは、生きている年数みたいなところですか。

落合:年数よりは、種が生きていた年数が結構関係していて、無駄なノイズみたいなものがどんどん増えていくんです。変なウイルスにかかったとか。

藤田:人間のデータ量は3.2ギガか。寂しくなりますね(笑)。

落合:でも最近思うのは、人間が脳みそに抱えているデータ量と、遺伝子に持っているデータ量の差です。人間は脳みその中の方がデータ量が多くなってきたんだなと思うんです。印刷技術の発明や産業革命以降のコミュニケーションの広がり、映像の発明、そしてコンピューターが出てきたから。つまり今、自分の人生がDVD一枚で納まるかと言われたら、もうそろそろ納まらなくなってきた。そうすると出生率が減るのも当然だなと思います。だって本能的に、自分の脳みその中にあるものをどうやって外に出すかの方が、自分の遺伝子を残すかより重要だから。

「女の子×ディプラーニング」の世界

落合:この前ネット上にリリースされた、二次元絵の女の子×ディープラーニングのプログラミングがなかなか良くて、ニューラルネットワークの画像処理が結構面白い。これは全部ディープラーニングした機械が描いたんですよ。拡大してみると確かに変で、顔がひずんでいたりとか、目の両側が逆向きについていたりするんだけど、二次元画像を入力しまくっておいたら絵を描くんですよ。

藤田:すごい!いよいよ人工知能の未来だなあ。

落合:この速度は、かなりすごい。二次元の女の子って、髪、目、顔、輪郭、髪色、服ぐらいしか要素がなくて、ストロークで描く量は結構小さいんですよ。それで領域をある程度形で塗り分ければ描けちゃうんですね。びっくりした。

藤田:コンピュータでできることと、人間でしかできないことでいえば、もう「こことここをつなげるとありそう」みたいなことの判断しか、人間に残されていなさそうな気がする。

落合:そうそう。人間ってどこまで考えているのか、実はあまり考えてないんじゃないのかと仮定したときに、感情をサンプリングするための機械はどうやってつくれるのか考えてみると、ライフログをコンピューターに突っ込んだら今日の感情もコンピューターの方が分かる未来というのは、結構すぐに来ると思うんですね。

藤田:感情が、いろんな環境要因の入力によって決まってくる。

落合:決まっているとしか思えないですね。だって人間の脳みその機能自体は特別な個別性はないし、感情とかもあまり複雑な反応をしているわけでもなくて、記憶全体の容量もそんなにあるわけでもなくて、数ギガぐらいだと思う。それを考えると大したことないよなと。

だって人間が使える語彙って5000語ぐらいですよね。5000語って辞書にしたらせいぜい、いろいろ足しても120メガバイトぐらいですよ。視覚のデータも、会ったことは覚えているけど、それを精細に描けといわれてもほぼ描けないので。ということは、ちゃんとは覚えていないんです。文字情報とか、言葉で表現できる情報のつながりって、せいぜい数メガバイト、本一冊と同じぐらいのデータ量しかないから。

人間は二次元で思考するようにはできていなくて、本質的には三次元で思考するようにできている。われわれは、工業化の都合と重力の都合によって、机を使ったり壁や紙に絵を描いているだけ。本質的には三次元のものをうまく扱いながら社会の中で生きていきたいけど、それを再発明するには二次元だったものを三次元化することです。机って、重力がないと発生しないじゃないですか。宇宙飛行士が机を囲んで会議しているところは見たことないですよね。だって、座れないから。われわれは本質的には三次元的な世界に行きたいんだけどまだ行けていない。

チームラボの猪子寿之さんとしゃべっていたときに「質量があるものはダサい」と言っていた。確かにプロジェクターの反射映像を見ていると、プロジェクターのことは意識しないですね、光だけを見ているから。そういうような状態にあらゆる道具を変えていったら、どうなるんだろうという考え方で、「全部ホログラムでつくってみよう!」というのをずっとやっているんです。触覚も、視覚も、音も。

 

人間は「物質」でコミュニケーションを取るようになる

藤田:多分2020年ぐらいまでは、VRとかプリンターとかであらゆるものをつくっていくけど、その先はバーチャルだったものの質量を、どうやってフィジカルに持ってくるかになっていくのではないでしょう か。デジタルがどんどん接近してくるというか、人間の能力の拡張みたいなことをよく聞きますが、本当に拡張していると思いますか。

落合:退化していますよね、明らかに。それでもこの世界からコンピューターが消滅しなければ多分大丈夫で、全部要らない機能はコンピューター側に任せちゃって、その分人間は外を走り回っているほうが健康ですよね、きっと。だから、「健康」はキーワードですよ。

人間は地図を読めなくてもよくて、おいしい店を覚えている必要もなくて、写真記憶もある必要はなくて、それを全て他の機械が代替して成立する。次は、おまえら会話しなくていいよというのが多分、人工知能のもう一つのわな。会話しなくても機械が結果だけあげるからみたいな話。ミーティングする必要すらない。機械の機能で言語を何でもしゃべれるようになると、結局人間は退化しているんだけど強化されているという二つのせめぎ合いになるとか。

アイデアしか価値がないって2003年ぐらいによく言われていたけど、アイデアなんてツイッターを探せば無限に転がっていて、アイデア自体には全く意味がない。何が重要なのかといったら、アイデアじゃなくてつくった物の方が重要。つまり人間は「物質でコミュニケーションをとるようになったんだ」と思っています。だからコンサルタントという職業は、論理をコードか物質に落とす職業になってきて、物に落ちないコンサルが昔結構いたけど、そういうのはずいぶん意味がなくなってきましたよね。

物質になっていないと、もう価値なんてないんです。特許とかも多分掃きだめになるし、著作権もきっと掃きだめになるんですね。もし、歌詞のデータベースを適当に並べ替えて、何億種類ぐらいの歌詞をつくってためておくサーバーがあったら、あらゆる新しく出てくる曲を著作権違反で訴えることができるじゃないですか。そういう時代になったら、著作権は足かせにしかならない。その状態で何に意味があるかといったら、歌詞じゃなくて、歌ったものなのです。歌った音になっていれば意味があるけど、歌詞の段階では多分意味がない。

藤田:日本では軽視されがちなプロデュースの重要性がより一層高まっていきますね。

落合:次は貴族の話を書きたいんです。19世紀から始まる貴族論なんです。昔は貴族がエンタメを担保していたし、科学も担保していた。今はもう一回貴族社会に戻ろうとしていて、それは生活が便利になったから。貴族に集まる富からどれだけ回収して、それ以外からは薄く回収する差分、エンドユーザーのコミュニケーション消費をどうデザインするかというのがキーワード。ゲーミフィケーションとプラットフォームから成り立つ帝王学、偽善的な雇用生産の連鎖。どういう社会構造をつくっていくかといったら、貴族社会はより物質的になっていくと思うし、一般の人たちは、その代替としてのバーチャルリアリティーを享受できるような気がしている。貧者のVRと貴族のVR、そういう世界が来そうになっているなって思うんですよ。

藤田:話は尽きないですね! 今日は本当に面白かった。刺激になりました。

<了>

 

プロフィール

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    落合 陽一
    筑波大学助教/メディアアーティスト

    1987年東京生まれ。メディアアーティスト・筑波大学助教・デジタルネイチャー研究室主宰。東京大学大学院学際情報学府博士課程を飛び級で修了し、2015年から筑波大学に着任。コンピューターとアナログなテクノロジーを組み合わせ、新しい作品を次々と生み出し「現代の魔法使い」と称される。研究室ではデジタルとアナログ、リアルとバーチャル、人と機械の区別を超えた新たな人間と計算機の関係性である「デジタルネイチャー」を目指し研究に従事している。著作に『魔法の世紀』(PLANETS 刊)・『これからの世界を作る仲間たちへ』(小学館 刊)がある。音響浮揚の計算機制御によるグラフィクス形成技術「ピクシーダスト」及びフェムト秒レーザーの計算機制御によるグラフィクス形成技術「フェアリーライツ」が経済産業省「Innovative Technologies 賞」受賞、IPA認定スーパークリエータ、 Prix Ars Electronica 栄誉賞/ Laval Virtual Award グランプリ/Asia Digital Art Award優秀賞 / WIRED CREATIVE HACK AWARDグランプリなどその他国内外で受賞多数。2015 年、日本人個人として、ノーベル賞受賞者の中村修治以来二人目となる World Technology Award の IT Hardware 部門を受賞。ホログラム技術のピクシーダストテクノロジーズCEO、ジセカイ株式会社取締役、電通ISIDメディアアルケミスト、など産学連携にも力を入れている。

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    藤田 卓也
    株式会社電通 イベント&スペース・デザイン局 プランナー

    2003年4月電通入社。入社以来、イベント・スペース関連部署に所属。
    イベント・スペース領域に加え、マーケティング、クリエーティブ、プロモーションなど領域にとらわれないプランニングを実践。

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