FinTech~社会を変えるそのビジネスインパクト #01

FINOLABから始まる日本のFinTech

  • 20160115 036
    伊藤 千恵
    株式会社電通国際情報サービス 金融ソリューション事業部 金融事業開発部 企画グループ グループマネージャー
  • 蓮村 俊彰
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター

「FinTech」とは金融(ファイナンス)とテクノロジーを組み合わせた造語です。
ITを使って全く新しいビジネスモデルの金融サービスをつくるスタートアップ企業、およびこれに関連した業界を指す言葉です。2008年に起きたリーマンショックで金融人材がIT業界に流出し、FinTechスタートアップ業界の成長が加速されたといわれています。

2007年には、FinTechスタートアップ企業が投資家などに7分間のデモを行う「Finovate」というイベントが初めて開催されました。Finovateは毎年、シリコンバレー、ニューヨーク、ロンドンで開催される世界最大のFinTechイベントで、初回には2014年に米国で上場したLendingClubなどが登壇していました。その第1回から日本企業で唯一参加し続けているのが電通国際情報サービス(ISID)です。

今日は、FinTech企業のためのインキュベーションオフィス「Fino Lab(注1)」の立ち上げと運営に携わっている電通ビジネス・クリエーション・センターの蓮村俊彰が、同じくFINOLAB立ち上げ・運営メンバーであり、ISIDでFinTechに取り組んでいる伊藤千恵さんに話を聞きます。

(注1)FINOLAB(フィノラボ)…今年2月1日に、東京・大手町エリアの東京銀行協会ビルに開設されたFinTech企業のためのインキュベーションオフィス。FinTechスタートアップの創業・成長を支援し、企業や投資家などへのプレゼンテーションやマッチングの拠点となる。正式名称は「The FinTech Center of Tokyo FINOLAB」。
参考記事:「日本初のフィンテック集積拠点『FINOLAB』大手町に誕生
 
伊藤さん(左)と蓮村。共にFINOLABの立ち上げメンバー
伊藤さん(左)と蓮村。共にFINOLABの立ち上げメンバー

英語で開催されるFiBC

蓮村:ここ1年、FinTechという言葉が国内でも使われるようになってきました。伊藤さんがこの言葉と出合ったのはいつごろでしょう。

伊藤:個人的に知ったのは2010年ころでしょうか。米国ではFinTechスタートアップ企業が既存の金融機関にはないサービスを提供し始めている、というので、そこから注目をしてきました。

蓮村:2007年にアメリカで初めて「Finovate」というイベントが始まりましたが、第1回から日本企業で唯一参加しているのが伊藤さんの所属するISIDだったわけですね。
2012年には、FiBC(金融イノベーションビジネスカンファレンス)という国内初のFinTechのイベントを行っていますね。

伊藤:はい。FiBCは2012年から毎年開催し、今年で5回目になります。初回は、日本にもFinTechスタートアップに該当する企業があるのかどうか調査し、こちらからイベントの趣旨を説明に伺い、登壇していただけないかお願いする、という形でした。

5年たった今年はFinTechという言葉も浸透しましたし、登壇者の数も増えました。金融業界は、他の業界と比べて流れが遅いといわれますが、昨年からメディアなどでも注目をされ、FinTech関連のイベントも増えています。

今年のFiBCは、2月25日に丸ビル(東京都千代田区)で開催しますが、こうした環境の変化を踏まえ、参加者を増やすよりも、グローバルのイベントに育てていきたいと、全て英語で行う形にしました。

蓮村:FiBCのメーンのイベントとなるピッチ(短めのプレゼン)コンテストなどを英語で行い、それをYouTubeにアップし、全世界で閲覧できるようにするわけですね。全て英語と言われると、僕はちょっと躊躇してしまうのですが、本当に全て英語なのでしょうか?

伊藤:日本の来場者のために、同時通訳も付けますよ。
FinTechはこれから世界中のインフラになっていきます。アジアの中の日本という意識で、ピッチも英語でやって、その動画をアップしていくことで、グローバル市場に日本のスタートアップ企業をアピールしていければ、と考えています。

蓮村:FinTechスタートアップは国内では40社とも100社ともいわれていますが。そのほとんどが今までのFiBCに登壇してきたのではないですか?

伊藤:応募企業は累計で60社以上あり、今日本で活躍されているスタートアップの多くにご参加いただいているイベントではありますが、ほとんど、とまでは言えません。
また、もっともっとスタートアップ企業の数が増えてほしいと思っています。イギリスではFinTech企業が1000社以上存在するといわれています。市場規模を考えると、日本はまだ少ないですね。

さらには、企業評価額が10億ドルを超えるようなスタートアップ企業、これは「ユニコーン」と呼ばれますが、そういう企業が出てくるといいですね。

伊藤氏

日本で最初のFinTech拠点FINOLAB

蓮村:そして、この2月1日に日本の金融の中心、大手町エリアに「Fino Lab」が開設されました。

伊藤:日本でもFinTechの「ビジネスエコシステム(注2)」をつくりたい、と考える人たちが集まることができるリアルな場所として、FINOLABができました。FiBCのような年1回のイベントだけではなく、継続的な取り組みが必要ですから。

(注2)複数の企業のつながりを生態系になぞらえ考えるもの。投資家、起業家など多数の企業がつながり、効率的に共存共栄する仕組み。
 

蓮村:1月に伊藤さんと一緒に、ロンドンのFinTechエコシステムの拠点の見学や構成プレーヤーとの面談をしました。「レベル39」という施設もその一つでロンドンの新興金融街Canary Wharfの高層ビル「ワン カナダ スクエア」39階に設けられたインキュベーションオフィスです。ここがまさに日本のFINOLABが目指しているところですね。

伊藤:そうですね。FINOLABの設立に関しても、「レベル39」を創設したエリック・ファンデルクレイさんに何度かお会いしてアドバイスを頂きましたが、ロンドンにFinTechのビジネスエコシステムをつくらなければならないという熱い思いに刺激を受けました。
また、エリックさんを含め、英国のFinTech業界に関わる方たちが皆さん、非常に忙しい中でも率直にディスカッションしてくださったことで、あらためてオープンイノベーションの大切さを実感できました。

蓮村:昨年12月に自民党でもフィンテック推進議員連盟が設立され、1月には「金融革新同友会FINOVATORS」というFinTech業界のキーマン有志によるプロボノ組織も創設されるなど、FinTech関係の動きは相当に激しくなってきました。日本でも、英国のような官民一体となった取り組みが進むといいですね。

蓮村

中小企業の資金繰りが飛躍的に向上する

蓮村:インターネット以前とそれ以降で大きなパラダイムシフトが起きましたが、FinTechが出てきたことで、どのような変革があるのでしょうか。

伊藤:FinTechの最大の恩恵を受けるのは、個人や中小企業だと思います。日本の地方にある小さな企業や、個人でスモールビジネスをやっている人が、世界中にサービスやモノをダイレクトに売ることができる世界を想像してください。国境を超えたお金の支払いや回収がだれでも簡単、確実にできるようになる。例えば、そういう仕組みがFinTechによって出来上がります。

蓮村:お金の出入りの仕組みがどんどん変革されていくわけですね。

伊藤:IoT技術(モノに通信機能を持たせる技術)とFinTechが結びつくと、物流をリアルタイムでデジタル制御でき、スマート倉庫でモノが棚から出て、出荷と同時にお金が移動するといったことができるようになります。
モノの流れとお金の流れが一致することで、仕入れ先への保証金が最小限になり、資金繰りが飛躍的に良くなる可能性があります。

伊藤氏

変革に対応できなければ取り残されるだけ

蓮村:大手法人のような基盤がなくても、個人がグローバル市場に参入できるというのはすごいことですね。そうなると、今後大企業の活動にも影響がでるのでしょうか。FinTechは既存の金融機関にとってどのような存在になりますか?

伊藤:FinTechによって大企業のビジネスが先細りするとか、銀行が無くなるということはありません。
ロンドンでお会いした、グローバルのFinTechネットワーク「ニューファイナンス」の代表エディ・ジョージさんの言葉は印象的でしたね。
「あなたがイノベーションを受け入れないなら、FinTechはあなたを回避して進むだけだ。その進化に対応できない企業・国家はマーケットから取り残されるのみだ」

つまり、大企業であろうと、中小企業であろうと、ユーザーの求めることが提供できないなら、生き残れないというのは確かでしょう。

蓮村:ユーザーの求めることとは何なのでしょう。

伊藤:ここで、大切なのは金融というものが何なのか原点回帰して考えることです。仮想通貨が流通することで問われているのは、お金とは何か、銀行というのは何のためにあるのかということです。

国境を超えて個人と個人のマッチングがIT技術でダイレクトにできるようになると、お金のやりとりでも間に銀行が入ったりする必要がなくなる。また、わざわざリアルなお金を介してサービスをする必要があるのか、そういうところまで問われています。

蓮村:より本質的な部分を考えないといけないわけですね。

伊藤:今現在、リアルなお金とビットコインのような仮想通貨があります。こうした図式の手前に、すでにわれわれが使っている「プリペイド」や「マイレージ」や「ポイント」がありますね。これらはモノと交換できる価値を持っており、デジタルの世界では本当のお金との違いが少なくなってきています。その先にFinTechのもたらす新しいサービスが見えてきます。

簡単に言うならば、デジタル音楽配信や電子出版など、音楽業界や出版業界で起きた変革が、金融業界でも起きるということです。なぜ家を買いたいだけなのに住宅ローンについて勉強しなければいけないのか、なぜ海外と国内で同じような決済ができないのか。そういうことがFinTechで解決し、当たり前のことになります。

蓮村:これからはFinTechによってお金との関わり方が変わっていくということですね。金融もITもインフラですから、その仕組み自体は意識しないで、もっと便利に使えるような時代がくることを期待しています。
今日はありがとうございました。

プロフィール

  • 20160115 036
    伊藤 千恵
    株式会社電通国際情報サービス 金融ソリューション事業部 金融事業開発部 企画グループ グループマネージャー

    1991年入社。大手銀行向けの資金為替トレーディングシステムの構築、海外勘定系システムの構築を担当。顧客プロジェクトで約1年ドイツに出張。その後、ISIDを退社して米国に語学留学したが、縁あって同社のニューヨーク現地法人で採用。2007年にISID本社に戻る。その後は、海外ソリューションベンダーとのパートナーアライアンスや新規ビジネス立ち上げに従事。2014年からは国内最大のFinTechピッチコンテスト「FiBC」などFinTechスタートアップとの協業の他、新規ビジネス開発およびパートナーアライアンスを担当している。2020テクノロジー&ビジネス開発室兼務。

  • 蓮村 俊彰
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター

    学生時代にカメラマン業で法人化(起業)。約40カ国を取材。その後、社会的影響力のある組織でソーシャルビジネスを興したく電通に入社。電通主導のビジネスの新規開発に取り組む傍ら、空港民営化などのPFIコンセッション入札事業構想アドバイザリ業務などのPRE/PFIコンサルティング、新規商業施設開発事業構想コンサルなどに従事。
    事業開発例として、2013年日本初のクラウドファンディングによるマスメディア放送「LISTENERS’POWER PROGRAM」事業を構想、立ち上げに参画。2016年日本初のFinTech産業拠点The FinTech Center of Tokyo 「FINOLAB」の事業を構想、 設立に参画、現在も運営チームとして日々活動中。

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