loading...

「マス富裕層」をつかまえろ!No.3

富裕層女性の消費のツボとは?
キーワードは個対応

2016/02/16

富裕層の“マス”化によって生じるビジネスの可能性を探る連載企画。

富裕層女性に5つのタイプ別インサイトがあることを紹介した第1回、富裕層女性のココロのつかみ方を掘り下げた第2回を通して、さまざまな業種の企業や団体から反響をいただき、あらためて富裕層に対する関心の高さと、ビジネスの可能性を感じることができました。

連載最終回となる今回は、ハースト婦人画報社の笠原久さん、電通の島田寛さん、小山雅史さんの鼎談をお届けします。富裕層プロジェクトの活動を振り返りながら、今後の展望を語り合いました。

左から、電通・島田氏、ハースト婦人画報社・笠原氏、電通・小山氏

富裕層ビジネスの広がりと可能性

小山:昨年からハースト婦人画報社と共同で富裕層調査を進めていますが、電通報に掲載した記事に対してもたくさんのお問い合わせをいただき、富裕層への関心の高さを感じています。

笠原:調査結果リリース後、広告会社や取引先からの問い合わせ、さらに取引のないところからの問い合わせも多くありました。それも、ラグジュアリー向けから一般商材を扱う企業まで幅広く反応があったのが驚きでしたね。

業種としては、ラグジュアリーブランドをはじめ、金融やカード会社、高級な車を扱っている自動車・化粧品メーカー、観光会社、意外なところでは食品・家電・楽器メーカー、Eコマース事業者、チャリティー活動を行うNPO団体からも問い合わせがありました。

小山:具体的にはどのような問い合わせがあったのでしょう?

笠原:「調査の詳細を知りたい」というのはもちろん、富裕層の方々とまったく接点がない企業や団体から、「富裕層に対してアプローチをしたいけれど、どこから手をつけていいのか分からない」という相談を受けることも多々ありました。

小山:私のところにも教育、実は私立の保育園なのですが、そういう「意外な」ところからも問い合わせがありました。富裕層とどう関連するんだろうと思うような事業でも、話を聞くとそこにビジネスチャンスが見いだせたりして、富裕層の広がりと可能性を実感できますね。

富裕層というと、どうしても雲の上の存在のように考えてしまいがちですが、今回の調査やハースト婦人画報社さんの知見、このプロジェクトを通じていろいろな方々と話をさせていただく中で、どうやら富裕層女性の攻略ポイントは、彼女たちは価値を見いだせないものには消費しない、つまり彼女たちに響く価値をどうつくるかがカギという、実は一般の消費者と比べて特別でも何でもないということが分かってきました。ただし、その価値が一般の方とも異なること、さらに、以前電通報でも紹介したように、5タイプのクラスターによってお金の使い方も少しずつ異なることが明らかになりました。以前の掲載でもご説明しましたが、簡単に5つのタイプを振り返ると、

①しっとり・大和撫子タイプは、受け継いだ資産は使うものではなく、守るものという考え方が基本。とはいえ、全く消費をしないのではなく、本当に必要なものに対してはしっかりとお金を使っていくタイプ。

②全力投球・人生謳歌タイプは、仕事もプライベートも全力投球で楽しんでいる、人生を謳歌されている方。また、先ほどNPOからのお問い合わせがあったと伺いましたが、まさにチャリティーや社会貢献への関心が強い層です。

③ふんわり・守られタイプは、高所得の夫に守られながら幸せを満喫するセレブ奥様。一方で、将来や老いに対する不安を抱いていて、「美しい奥様」を持続し高めるための消費に関心が強い傾向にあります。

④キラキラ・ミーハータイプは、輝いていることが重要で、肉食系男子が大好き。エレガントでありたいという欲求が高いので、ラグジュアリーブランドやペットなどにお金を使います。

⑤無自覚・隠れタイプは、自分が富裕層であることに無自覚なタイプ。親はお金持ちだけれど、普通の人として育てられているので、金銭感覚は最も一般女性に近いといえるでしょう。基本的に高級ブランドは持たないけれど、親族などからプレゼントされたバッグなど、一点ものの高級品を持っていることがあります。

このような分析をもとに、価値提供の提案をした事例もあるんですよね?

島田:はい。住宅メーカーさんから、「モデルルームを富裕層の方々に見ていただきたい」という依頼を受けて『25ans』の十河編集長のアドバイスをいただきながら提案しました。例えば、通常モデルルームは靴を脱いで上がる場所なので、どうやって富裕層の方々に靴を脱がせるかが大事です。そこで、備え付けのスリッパではなく、その方々のために特別なスリッパを準備しました。また、送り迎えもタクシーではなくハイヤーを手配し、そこで提供する料理もミシュラン店のシェフたちを呼んで調理してもらうなど、ターゲットに対するおもてなしのポイントがよくおさえられた提案になり、お客さまにも非常に喜んでいただけました。

読者をビジネスにするのではなく、読者から得た知見をビジネスに生かす

小山:一般的にも「モノを売るのではなく、価値を提供する時代」だといわれています。そこは富裕層も同じで、価値を見いだしたものにだけ消費をする。逆に彼女たちが価値を感じられなければ、どんなラグジュアリーブランドであってもファストファッションと変わりません。ただ、富裕層のすごいところは価値さえ見いだせば桁違いのお金を使うことができる点。その消費インパクトが大きいからこそ、どうやって価値を提供するかが非常に重要になってきます。

笠原:弊社の全サービスが富裕層だけをターゲットにしているわけではないのですが、富裕層の方々に喜んでいただけるようなキーワードは常に意識しています。例えば、「非日常」「オンリーワン」「社会貢献」「知的好奇心」など。それから、特別な体験を提供する場としてイベントも開催しています。例えば、フランスでしか食べられないシェフの料理を特別に日本で食べられる会など。結果としてそのサービスが高額になるケースもあるのですが、価値をきちんと見いだせれば募集人数をはるかに上回る応募が集まります。

小山:かつて、雑誌は編集長や編集部が提案する「切り口」に共感してもらうことで部数を積み上げてきたと思うんです。でも、そういった価値提供の場がウェブ上にも点在する今、読者に共感してもらうだけの雑誌はもはや機能として弱いですよね。その点、ハースト婦人画報社さんは読者との絆を深めると同時に、読者の最終的な「消費」にまでトータルに結びつけることに強みを持たれていると思います。これは業界全体の傾向でもあるのでしょうか?

島田:アメリカの『Kinfolk』をはじめ、雑誌そのものがコミュニティーを体現する傾向にはありますね。単に読むコンテンツとして消費されるだけでなく、雑誌の周りにいる読者たちが接触し合って一つの集合体をつくり上げている。ハースト婦人画報社さんは長い歴史の中で自分たちの周りにいる読者=富裕層のことを少しずつ理解し、それを雑誌に体現し続けてきたからこそ、読者との深い信頼関係が築けているのだと思います。

小山:雑誌の強みって「編集者」だけではなくて、「読者がいる」ということも大きな強みだと思います。読者と交流して絆を深めながら、そこで得られた知見をさらにビジネスに展開できますよね。

笠原:ひと昔前まで、われわれの雑誌をどんな人が読んで、何を感じているのかを知る手段は限られていたのですが、今はEコマースやデジタルを介してユーザーとの明確な接点を見いだせます。だからこそ、読者から得られた知見を生かして、サービスの質を高めることが非常に重要だと感じています。

富裕層のココロを動かすカギは「個の対応」

小山:現在、われわれはハースト婦人画報社さんと一緒に富裕層のカスタマージャーニーづくりに取り組んでいます。カスタマージャーニーとは、お客さまが消費を起こす際のきっかけや気持ちの動きを、シーンごとに整理したものです。これは大まかなものなのですが、ご覧ください。

富裕層女性に一貫しているのは、「年齢や社会的地位にふさわしいステータスを好むことと、上品でいたい」ということ。その根底には、自分がそのステータスにふさわしいと認められたい、上品であると認められたいという承認欲求、そして認められることで安心したい、という気持ちがあると思います。

そのために、信頼できる情報を整理して収集し、信頼できる場所で購入します。一般の方は価格や評判の口コミ情報を収集しますが、富裕層女性は確固たる意思をお持ちなので、その道に詳しい人の話を参考にすることはあっても、口コミをうのみにするといったことはしません。購入したモノやサービスを積極的にSNSでシェアすることもなく、価値観を理解してくれる人とだけ共有。SNSの使い方も、見せびらかすことで自分をブランディングするのではなく、クローズドなコミュニティーの中で承認し合います。そして、個の対応で自分がそのブランドやサービスにふさわしいと認められることで、ますますファンになって消費が活性化する傾向にあります。

笠原:社会的地位にふさわしいというのは、すなわち消費行動を通して自分のステータスを確認しているということ。価値の分かる人にだけ共有するのも、相手に自分のステータスを確認してもらうということなので、やはり自分の立ち位置を非常に気にされている方々なんです。だからこそ、個人対応で一人一人をしっかりと認めていくことが大切ですよね。

小山:富裕層のココロを動かすカギは「個の対応」であり、承認欲求やステータスを満たすことでさらなる消費につながると。今までは証券の外交員や外商さんなどがその役目を担っていましたが、ようやくデジタルにおいても個の対応が実現しつつあります。

笠原:弊社の場合、今までは雑誌という縦軸でユーザーを管理していたのですが、デジタルの導入によって、雑誌の縦割りに縛られる必要はなくなりました。ユーザーファーストの観点から見れば、むしろデジタルをフル活用しながら、ハースト婦人画報社として総力を上げてユーザーの満足度を高めることが大切なんです。技術的にはデジタルを駆使してパーソナライズドされたサービスを展開することも可能なので、今後はそういったことにも取り組んでいきたいですね。

小山:「パーソナライズド・マス・コミュニケーション」とでもいうのでしょうか。デジタルを活用することによって、効率的にかつ、一人一人の満足度も高めていくことができますよね。

さて、来年度も富裕層プロジェクトを継続する予定です。1年目は意識ベースの分析として5つのクラスターを明らかにしましたが、次はどうすれば彼女たちががもっと消費に動いてもらえるのか、行動ベースの分析に踏み込んでいきたいと思います。

島田:笠原さんが先ほどおっしゃっていたように、ユーザーファーストの視点で、富裕層へのソリューションを提供できるのがこのプロジェクトの強みです。『25ans』や『婦人画報』『Richesse』など、各雑誌が個々に持っている最大限の知見をエッセンスとして広告主に提供することで、ビジネスを成功させることができると思っていますので、関心のある方はぜひ私どもにお声掛けください。

笠原:広告主にとって一番喜ばしいことは何かを考えたとき、モノやサービスを買ってもらうのもそうなんですが、ユーザーに広告主のファンになってもらうことが最終的な目標だと思っています。そのためにはユーザーを知ることが大事だし、消費の裏側にある満足度を分析する必要があります。今後の調査では、そういったことも見いだしていきたいですね。

小山:はい。調査だけでなく、読者との接点を設けるイベントや商品開発の提案など、さまざまな形でこのプロジェクトを展開していきたいと思いますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。