鍛えよ、危機管理力。 #07

危機回避は、
急ブレーキよりもポンピングブレーキ

  • Dpr pr aoki kohichi
    青木 浩一
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 リスク・マネジメント部部長  企業広報戦略研究所上席研究員

私たち企業広報戦略研究所では危機管理力のうちの「回避力」をこう定義づけています。すなわち「危機の発生を未然に予防回避、または、危機の発生を事前に想定し、影響を低減する組織的能力」。

クルマでいえば、慌てて急ブレーキを踏むようなことのないように視野を広くとり、できるだけ早い段階で障害物や人の動きを察知してゆっくりと段階的にブレーキを踏む、あのポンピングブレーキのようなものでしょうか。

もっと専門的には「アクティブセーフティー」(能動的安全)という言葉があります。これはドライバーの安全運転を支援して事故を未然に防ぐ技術の総称で、例えば急ブレーキの際に車輪がロックしないようにする技術や、カーブでの車の横滑りを防止する装置などこれに当たります。ちなみに、万一事故が起きてしままった際に、乗員への被害を軽減する技術領域を「パッシブセーフティー」(衝突安全)と呼んでいます。シートベルトやエアバッグなどが代表選手です。

危機管理情報の横串共有が大事

さて、昨年の1月に当研究所で実査した「危機管理力調査」では、これまでもご紹介している“5つの危機管理力”のうち、「回避力」が相対的に高いスコアを示しました。特に「電力・ガス」は業種別で最高の100点中77点でした。この「回避力」を測る10の項目のうち、危機管理の専門家が「これは特に重要だ」としたのが次の4項目です(重要視順)。
①全社的な危機管理を定期的に検討する場(危機管理委員会など)が設けられている。
②危機管理の専門部門が設置されている。
③本社以外の、海外拠点・地方拠点と連携した危機回避・予防体制を構築している。
④自社に影響を与える可能性がある「危機」への対応について優先順位付けを行っている。

このうち①の危機管理委員会については54.8%と半分強の企業が設置をしています。その立ち位置、運営の仕方や集まるメンバーはさまざまであろうと推察しますが、組織が大きければ大きいほど、また事業領域が多い企業ほど、こうした“横串”で社内横断的にリスクの発生・発現状況や、他社で発生している不祥事などの情報を「共有」する場を持つことは、危機を管理する上でとても大切です。

「回避力」の二つの局面

回避力は大きく二つに分けられます。一つは不祥事(事故・事件)につながるような危機の種が「発芽しないように」手を打っておくこと、もう一つは「万一の発芽や開花に備えて」各種準備をしておくことです。

発芽しないようにするためには、前出の危機管理委員会や専門部署の設置と、そこを中心とした社内のリスク(危険因子)の洗い出し、それを「リスクマップ」に落とし込んで“見える化”し、注意喚起をするといったことが挙げられます。

リスクを根絶することはできません。有名な「ハインリッヒの法則」が示すように、会社の屋台骨を揺るがすような不祥事の発生を防ぐためには、予兆やちょっとした異変をできるだけ早く発見し、早期に対応・処置することが大切です。こうした予兆や異変は「ヒヤリハット」と呼ばれて危機管理の教科書には漏れなく出てきます。業務中に「おっと危ない」とヒヤリとしたりハッとするような、ちょっとしたアクシデントを指す言葉で、人の命を預かる病院や運輸関連の企業などではこのヒヤリハットの報告をかなり厳密に行っています。

関係ある法令が新たに施行されたり、改定あるいは強化された際、それをしっかりと把握し、違反に備えるといったアクションも重要です。社会や経済環境の変化によって法律も刻々と改定されていきます。それが会社や業務に及ぼす影響を検討し、必要なものは社内に向けて注意喚起を行います。例えば今年は「マイナンバー制度」が本格化します。その取り扱いについて、さまざまな部署であらゆる角度からリスク想定をした取り組みが、今まさに行われているところでしょう。

一方、たった一人の悪意や、たった一人のうっかりミスで危機の種が発芽や開花してしまったときに備えてどういう準備が必要でしょうか。まず必要となるのは「マニュアル」です。通常の業務マニュアルの中に、「事件や事故が起きたら」といった項目を入れ込んでおく、あるいはそれ専門の「危機管理マニュアル」を整えておくことも大事です。

マニュアル制作に当たって最も大切なのは、そのマニュアルがいざという時に使えるもの、実効性があるかどうかです。その実効性を検証するために、洗い出したリスクの中から一つ選んで、それが本当に起きてしまったという想定の下、そこからの動き(対応)を頭と体を動かしてやってみる「シミュレーショントレーニング」はお勧めです。そんなに頻度を上げる必要はありませんが、防災訓練のように年に1回程度実施してみてはいかがでしょう。これによって「あ、ここがつながらない」「ここがすっぽり抜けていた」といった発見がありますし、組織変更や人事異動があった場合は報告ルートなどもメンテナンスしなくてはなりません。最近はインターネット上でのトラブルも増加傾向にありますので、ソーシャルメディア用の運用ガイドラインを整備して、組織内に徹底しておくことも忘れてはなりません。

「仏作って魂入れず」では駄目

以上のように、「危機管理委員会の設置」「リスクアセスメント」「危機管理マニュアル制作」などの施策を実行していくことはもちろん大事ですが、これらは必要条件に過ぎません。加えて最も重要なのは、これらを通じて危機管理もしっかりやっていこうという「意識」です。まさに仏つくって魂入れず。意識の伴わない危機管理は「絵に描いた餅」でしかありません。意識啓発、意識醸成というのは「言うはやすし」で、これといった特効薬はありません。他社で発生した不祥事を、いかに「自分ゴト化」させるかなど、普段からの社内のコミュニケーションが鍵を握ります。

ある企業のトップは、全社会議などいろいろな機会に繰り返し一つの言葉を投げ掛けていたそうです。それは「100-1=0」。たとえ100人の従業員が頑張って仕事をしていても、たった一人がうっかり失敗すれば、100人で築いてきた信用や信頼も水の泡となる、という戒めです。

さて、「転ばぬ先のつえ」。皆さまの企業の「回避力」はいかがですか?

 

プロフィール

  • Dpr pr aoki kohichi
    青木 浩一
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 リスク・マネジメント部部長  企業広報戦略研究所上席研究員

    1983年、株式会社電通PRセンター(現・電通パブリックリレーションズ)入社。
    以来、各種広報業務サポート活動のほか、企業不祥事にあたり、渦中のクライアントのメディア対応などをサポート。
    また上記のような経験とノウハウを踏まえ、多くの官公庁、自治体、業界団体、民間企業の研修等において職員や企業幹部等を対象とした広報の基本的なセミナー、会見やインタビューなどのメディア対応トレーニングなどを遂行中。
    2007年10月から2011年9月まで、内閣府 食品安全委員会 緊急時対応専門委員。
    日本パブリックリレーションズ協会認定プランナー

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