企画者は3度たくらむ #12

基本以外、大切なことなんてない

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    梅田 悟司
    株式会社電通 プロモーション・デザイン局 コピーライター/コンセプター

2015年2月、日本経済新聞出版社から『企画者は3度たくらむ』が発売されました。そして、およそ1年後の今年1月、韓国の大手出版社Tornade Publishingから翻訳が発刊されました。出版科学研究所の出版指標年報によると、日本の書籍は1日に200冊以上も生まれています。その中で、なぜ本書が選ばれ「国を超えて読まれるべき」と感じてもらえたのか。その理由を自分なりに考えてみました。

 

スキルは、いつの日か、必ず廃れる

お読みいただいていない方のために本書の概要を簡単に説明しますと、企画を行う上で重要なのは「たくらむ」ことであり、「たくらむ」の根底にあるべきものは、相手の期待や予想を超えて「そうきたか!」を生み出そうとする思いと若干の技術である、と定義しています。

企画とは決して、企画書を完成させるために生まれるものではなく、クライアントの納得を得るためのものでもなく、当然のことながら、最新のテクノロジーを用いることによる“やった感”で満足するためであるはずもありません。その目的はたった一つ、世の中を良くするために生み出されるべきものであると書いています。

そんな企画を生み出し続ける「カラダ作り」のために、心掛けておきたいことを体系立てています。そのため、本書を読んだからといって、明日から企画が劇的にできるようになるわけではない内容であり、すぐに役立つスキルについてはほぼ触れていません。

その一方、世の中はスキル本であふれています。~~~する方法、~~~できる10の掟、絶対に困らない~~~法などです。以前は私もわらをもつかむ気持ちでこのような書籍を読み漁ったこともありましたが、実際には、頭では理解できても、行うことが難しいものが大半でした。

重要なのは「なぜスキルは十分に理解したのに、自分が抱える課題に直面したとき、そのスキルを使いこなすことができないのか」です。その疑問の答えを考えていったところ、ある考えに至りました。

「基礎がないのに、応用ばかりを学ぼうとしているのではないか?」

どんな仕事でも、まったく同じ案件はありませんし、解決すべき課題も異なります。特に課題先進国である日本において、今までの方法論では太刀打ちできないような新しい課題に直面することも多くあります。仮に手法としてのスキルを知っていたところで、その武器の使い方も分からず、無理やり振りかざしてみたところで空回りすることは目に見えています。

スキルとはそれ自身が「基礎から生み出された応用」であって、基本ができているからこそ使いこなせるものなのです。そこから、私はスキルに対して懐疑的になり、企画者として世の中に影響を与える責任感こそが、企画の精度を高めると考えるようになりました。

広告という視点で考えれば、テレビCM全盛期に役に立ったスキルを、そのままデジタル広告の制作には転用できませんし、むしろ、テレビCMを作るようにデジタル広告を作ってしまうことの方が危ういとすらいえます。

しかしながら、もっと根本的な、どのように人々に受け入れられるようなコンテンツを生み出すべきかというポイントは変わりません。その理由は明確で、メディアや生活環境は数年単位で劇的に変化する可能性があるものの、人間の心の動きが激変することはないからです。

つまり、誤解を恐れずに言えば、全てが激しく変化していく社会において「基本以外、重要なことなんてない」ということです。

 

マルチに活躍する人ほど、基本を大事にする

もちろん、最新の情報やスキル、テクニックを習得することは重要です。そこで私が気を付けてるのは、「いま自分は応用を学んでる」と意識することです。すると、表面的なスキルの奥にある、共有項としての基礎が自然と見えてきます。「なるほど、あの基礎が発展してこの理論に達しているのか」と頭の中で納得できると、いままで関係ないと思っていた情報同士がつながり、自分のものとなり、使える知恵へと姿を変えます。逆説的な言い方をすれば、基礎さえあれば、応用を理解するスピードは格段に変わる、ということでもあります。

本書が海を超えて共有すべきと思われるに至った最大の理由も、ここにあると感じています。国が違えば、市場環境はもちろんのこと、働き方も価値観も、メディア環境も、抱えている課題も違うはずです。しかしながら、企画者の基本としての思いや使命感、責任感に国境はなく、誰もが持っていなければならないということなのでしょう。環境に依存しない基礎体力としての「たくらむ」力が注目され、本書を通じて、その重要性を感じ体得する方が一人でも増えることは、大変うれしいことです。

私自身も広告で培った「たくらむ」という力を持って、広告コミュニケーションの立案から、イベントの立ち上げにとどまらず、雑誌連載や書籍執筆、テレビ番組の企画脚本、楽曲の作詞作曲など、多くのコンテンツ制作に携わっています。これは決して私が多才であるわけではなく、むしろその逆で、たった一つの「たくらむ」という企画の基本を身に付けてきた結果であると考えています。

世の中でマルチクリエーターと呼ばれている人たちも、さまざまなジャンルに精通しているのではなく、企画を生み出していく能力を多くの分野に展開しているように感じます。専門性が必要な分野についてはその道のプロから教えを請い、情報を自分なりに整理・料理して、企画に落とし込む。あらゆる分野で専門性が高まっている現代において、企画者は案件ごとに専門家から知恵を吸収する素直さと、彼らとのつながりを大切にするコミュニケーション力が、さらに重要になるといえるでしょう。

 

プロフィール

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    梅田 悟司
    株式会社電通 プロモーション・デザイン局 コピーライター/コンセプター

    上智大学大学院 理工学研究科修了。広告制作の傍ら、製品開発、雑誌連載、アーティストへの楽曲提供など幅広く活動。カンヌライオンズ、グッドデザイン賞、観光庁長官表彰など国内外30以上の賞を受ける。著書に『企画者は3度たくらむ』(日本経済新聞出版社)など。メディア出演歴に、NHKおはよう日本、TBSひるおび!、Yahoo!トップなど。CM総合研究所が選ぶコピーライターランキングトップ10に2014年/2015年連続選出。横浜市立大学国際都市学系客員研究員。

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