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押忍!カイゼン道場!No.1

デイリーポータルZの林編集長が新たに提唱する心理プロセス「TIGER」とは

2016/03/03

電通国際情報サービス(ISID)の研究開発組織、オープンイノベーションラボ(イノラボ)では先端技術を用いたプロトタイプを制作しています。本連載はデイリーポータルZの林雄司編集長がイノラボのプロジェクトについて改善案や見せ方などを勝手に提案するという企画です。月1回更新の全6回を予定していますが、途中で終わったら、何かあったな…と考えてください。

今回は、ISIDの3Dスポーツ動作解析システム「Running Gate」について、林編集長がイノラボの阿部元貴さんにプレゼンしました。

(左から)イノラボの阿部元貴さん、デイリーポータルZの林雄司編集長
(左から)イノラボの阿部元貴さん、デイリーポータルZの林雄司編集長

頼まれてないプレゼン資料を作ってきました

阿部:イノラボについてもう少し説明しますね。イノラボのミッションはテクノロジーを使ったプロトタイピングです。研究や調査ではなく、テクノロジーがどう使えるかの実証実験を行ってます。

林:で、今回のお題はRunning Gate。

阿部:そうです。よくプロのアスリートは3Dの動作解析システムを使って自分のフォームの特徴を解析してます。あれがもっと安価で簡易なシステムならば一般の方々にも使ってもらえるんじゃないか、より運動を楽しめるんじゃないか、という思いで作ったプロジェクトです。

ランニングゲート
複数のセンサーが設置されたゲートを人が通り抜けるだけで、身体の動きをリアルタイムで3Dデータ化し、解析できるシステム。Kinect v2をセンサーとして採用することにより、人体にマーカー等を装着することなく、簡易な機器構成で動作情報を3Dデータ化する。http://innolab.jp/work/349

林:スポーツ解析の民主化みたいな話ですね。

阿部:普通の人にも使ってもらいたいと思ってます。

林:サイトを拝見しました。説明がテクノロジー中心だったので、ここに加えて利用者にとってどんなにいいことがあるのかという話があるといいですよね。

そう思ってシナリオを考えてきました。コンセプトは「足が速くなる装置」。ペルソナ設定は運動が苦手な小学生男子。小学校は足の速いことが至上主義社会ですから。トリガーは運動会。

シナリオ

阿部:このペルソナ、林さんですね(笑)。

林:ええ、走るの遅かったですから。エクスペリエンスゴールとしては「足が速くなる」。ライフゴールとしては「前向きな人生」。

阿部:ライフゴールに「もてる」って書いてあるじゃないですか。最後の「第二次性徴」ってなんですか。

林:勢いで書いて消し忘れました。

阿部:保健体育の教科書ではゴシック体になる単語ですね。

林:このシナリオをベースにカスタマージャーニーマップを作りました。

カスタマージャーニーマップ1

阿部:電通報っぽい。

林:カスタマージャーニーマップのステージの頭文字をつなげるとTrouble、Interest、Guess、Experience、Repeat…TIGER!

カスタマージャーニーマップ2

阿部:AIDMAじゃなくてTIGER。

林:冗談だと思ってるかもしれませんが、今回の提案を貫くキーコンセプトは「虎」です。

阿部:はい、冗談だと思ってます。冗談であってほしい、と。

林:小学生男子に受けることを考えるとRunning Gateの形はこれです。

認知

阿部:(笑)。

林:昔、校門の近くで怪しげな教材売ってる大人がいましたよね。あんな感じでこれを置いておくと間違いなく子どもは来ます。デイリーポータルZの撮影でしょっちゅう子どもに囲まれているので分かります。

子どもが寄って来たら説明はマンガですね。少年マンガ風の。3D解析といっても分からないでしょうから。ミニ四駆や仮面ライダーなどヒットするプロダクトはコンテンツとセットになってます。

検討

阿部:どう見ても林さんの絵ですね。

林:描きました。両親が怪しまないように大人向けのパンフレットも用意しておきます。

阿部:健康食品風ですね。「足が速くなるって本当なんですよ」って書いてる。

林:絶対に効果があるって当事者は言わないんですよね、あれね。

阿部:第三者に言わせてる。「個人の感想です」のパターンだ。

林:トレーニングと称して発電させて売電というビジネスもできます。

阿部:電力自由化を絡めてきた。

林:いま子どもが好きなものはYouTubeなのでトラキンというYouTuberのチャンネルを開設します。

利用

阿部:どこかで聞いたことある。

林:学校の帰りにRunning Gateを使って、帰ってからはトラキンでモチベーションアップ。

阿部:トラキンはどんなことを言うんですか。

林:トラキンはお菓子を食べたりするんじゃないですかね。あとボイスパーカッションしたり。

阿部:そのまんまじゃないですか。

林:運動会で利用が終わらないようにイノラボが独自の高レベルな運動会を開催しましょう。隣の学校のライバルとしてちょっとごつい同級生があらわれたりして。

継続

阿部:ちょっとじゃない(笑)。

林:そしてRunning Gateを使って努力して勝利してライバルとの友情。友情→努力→勝利は子どもにとってのPDCAです。

阿部:すばらしい。

林:ウェブサイトもマンガにしましょう。「Running Gateです!」と書くと警戒されるかもしれないので。

阿部:そうですね。構えちゃいますもんね。

林:以上がデザイン変更から待ち伏せ、YouTuberを使ったRunning Gateのグロースハック案でした。

阿部:やりたいですね。

林:虎つくりましょう!

YouTuberはデイリーポータルZだった

阿部:YouTubeのところで引っかかったんですが、YouTubeをどう利用したら広がっていくんでしょうね。

林:僕も流れ的に唐突かなとは思ったんですが、トラキンを入れたかったので。

阿部:子どもは好きですよね。テレビ見ないでYouTubeばかり見ている。

林:どう使うんですかね。YouTuberがこれいいよって一切言わないでずっと後ろに置いてあるとか。虎が。

阿部:それ気になりますね。
いま、子どもがおもちゃで遊ぶだけのYouTubeの動画がいっぱいあるんです。あれがすごい。うちの子どももアンパンマンが好きなんですけど、アンパンマンのおもちゃで兄弟がずっと遊んでるチャンネルがあるんです。で、そればっかり見てる。実際のアンパンマンは見ないで。

林:ゲーム実況もそうですね。

阿部:そうですね。遊んでいる人を見ている。

林:お菓子食べてるだけのYouTuberも同じか。作り手でありながら利用者なんですよね。

阿部:あれがなんでコンテンツになるんだろうっていうのはすごく気になってるんですよね。「共感」なんですかね。

林:ゲーム実況は同じ部屋にいる人のゲームを見てる感じですよね。そういえばアドテックで西川貴教さんがネットのときは4〜5人でしゃべる感じで話すと言ってました。ラジオは1対1、テレビは大勢。

デイリーポータルZの林雄司編集長

阿部:それ、おもしろいですね。

林:…でRunning Gateとどうつなげましょう。

阿部:今のはヒントじゃないですか。やってるのが楽しそうに見えるっていうのがいいのかなと思って。

林:デイリーポータルZもそうか。なんか楽しそうにやってる。

阿部:そうですね。やってるのが楽しいからコンテンツになる。商品がよくできているとかではないじゃないですか、デイリーポータルZって。たぶん、そこがある気がする。

林:僕らは意識的に楽しそうにやってます。居酒屋で隣のテーブルの人がおいしそうに食べてると食べたくなるじゃないですか、あれを狙おうとよくライターに話してます。

阿部:ありますね。

林:なんかわからないけどあいつがあんなにうまそうに食べてるなら頼もうと思わせようって。これは山崎浩一さんの『危険な文章講座』という本に書いてあったまんまのことなんですが。

阿部:YouTuberと一緒じゃないですか。

林:一緒だったのかー。

手段を目的にしてしまおう

阿部:そのこと自体が楽しそうだから、やってくれるんですね。

林:足が速くなるという長期的なゴールがあるんだけど、直感的に…。

阿部:ゲートを通りたくなるようにしないといけないってことですね、まず。

林:ふわっふわの毛が中にいっぱい入ってて、気持ちいいとか。

阿部:ぬるぬるだとか。

林:日本一床がぬるぬるの中華屋作りたいですね。

阿部:床がぬるぬるの店ありますよね。

林:だったらわざともっとぬるぬるにして、立てないぐらいだったらみんな来るかもしれない。

阿部:どうだろう(笑)。

イノラボの阿部元貴さん

林:フィジカルな感覚のものってネットで伝わらないじゃないですか。行くしかない。デイリーもネットで伝わらないものをリアルイベントにしています。それにネットで伝わるものってそんなに面白がられない気がしていて。

阿部:パーッと読んで終わっちゃいますからね。

林:トラキンがRunning Gateでべちょべちょになっていて、で、それがどっかにあるという流れがきれいですね。

阿部:通りたくなっちゃうような仕掛けがありながら、3Dデータもとれる。

林:むかしどこかのアドレスにメールを送ると関西弁になって戻ってくるっていうサービスがあったんですが、…スパムだったらしいです。

阿部:ははは。

林:でもWin-Winですよね。利用者は関西弁の変換を楽しめる、向こうはメアドとれる。

阿部:一緒ですね。

林:気持ちいい、冷たい、ぬるぬるするみたいな、刹那的な楽しみをこのプロダクトに追加すると一層動機がはっきりする。

阿部:今は自分のフォームがどうなのかを確かめたいみたいなところから始まってるんですよ。

林:子どもの足を速くするのはもう忘れよう!

阿部:せっかくグロースハック作ってきたのに(笑)。

林:そうしたら、カスタマージャーニーマップを「ぬるぬるしてておもしろそう」ってところから始められる。

阿部:そしたら一気に。

林:ブレークスルーが生まれます。

阿部:走るのがそんなにうまくない人をちょっと速くする方が簡単なんですよ。すごく速い人をちょっと速くするよりは。

正直走るのに興味ない人に通ってもらって、そこでデータを見ながら「もうちょっと肘をこうするだけで速くなるよ」って言えれば、なんかぬるぬるが楽しかったし、足も速くなった、ラッキーってことになる。

林:いいことしかないですよね。ちょっと服がぬるぬるになるぐらいですよね。

阿部:プールとかでやればいい。水着でやれば全然オーケー。

林:水着でこれやったときのリア充感すごそうですね。

阿部:某炭酸飲料のCMみたいにしましょうか。

林:いまさらですが、Running Gateって実物を見ると門じゃないですね。

実際のランニングゲートの様子
実際のランニングゲートの様子

阿部:実はゲートじゃないです。でも作っちゃえばゲートになるのでそれは全然いけるかもしれません。

林:ゲートは面白いですね。運動会といえば入場門ですからね。

阿部:だいたい通りたくなりますからね。通りたくないゲートなんてほとんどない。あれば絶対通りたくなるはずですよね。

林:人間にもそういうのありますよね。猫に指出すと匂い嗅いじゃうみたいな行為が。

阿部:本能的なものですね。

林:ボタンあると押しちゃいますよね。

次回も続いてほしい

阿部:ちゃんとした対談っぽくなりましたね。

林:全編タイガーで終わるかと思ったのに。

阿部:いま両者ともばか、みたいになってないですか。

林:ばか同士が会話をしてばかな結論に至ったみたいなね。

阿部:「おれたちの旅はまだ続くぜ」って1行追加されて最終回になってたりして…。

(つづく)

 
イノラボ