電通総研ジャパノロジー 世界を良くする日本らしさ #03

『MONOCLE』を魅了する国、日本。

  •         01
    Wilson Fiona
    モノクル アジア支局 支局長
  •         02
    中井 桃子
    株式会社電通 2020プロデュースセンター コミュニケーション・プランナー

日本が本来持っている隠れた強みや魅力に光を当て、対談を通じて探っていくコラムの第2回は、グローバル雑誌『MONOCLE』のフィオナ・ウィルソン アジア支局長です。12年以上日本に住み、全国各地での取材を通じてさまざまな人と出会い、文化に触れてきた彼女に、外国人の目から見て感じる魅力、そして世界中を取材して編集される雑誌『MONOCLE』の目を通して見る「日本」について話を聞きました。

関心の発端は日本建築

中井:ウィルソンさんは、どういう背景で日本にいらっしゃったのですか?

ウィルソン:学生時代はオックスフォード大学で歴史を学んでいたんです。その後、ロンドンで建築史を学ぶ中で、日本建築への関心が高まりました。雑誌『Wallpaper*』で働くようになって、特派員として日本に来ることになりました。それが2004年のことですね。

中井:来日のきっかけは『Wallpaper*』だったのですね。『MONOCLE』はその後の2007年に創刊されていますが、こちらにはいつから合流したのでしょう?

ウィルソン:『Wallpaper*』の特派員として日本に来て、日本の建築、デザイン、クラフトなどさまざまな記事を書いていました。日本にはたくさん取材したいことがあって、それに建築家から伝統芸能の人、デザイナーまで、取材に対してとてもオープンな人が多く、記者としては興味が尽きませんでした。そのうち、『Wallpaper*』を離れたタイラー・ブリュレが、『MONOCLE』を創刊するというので、創刊時から合流しました。私もタイラーも、建築やデザインだけでなく、社会や政治などに関心が広がっていた時期で、『MONOCLE』創刊はその自然な流れの中でのことでした。

日本の魅力は日常の中にあるストーリー

中井:『MONOCLE』の記事を読んでいると、日本について積極的に取材し、またその記事がオンタイムというか、日本に住む日本人から見ても情報が古いということがなく、かつ独自の視点で魅力を描いているという印象を受けます。日本に関して、どういった視点で取材しているのでしょうか?

ウィルソン:視点を絞るということはなく、その時面白いと思ったものを調べて、取材して、ということをしています。対象は古いものや伝統的なものであることもあるし、コンテンポラリーなものであることもあります。例えば、たまたま見た家具がいいな、と思ってメーカーを調べると、ある日本の地方にある家具メーカーであることが分かって、そこに取材に行いって、といった感じです。

中井:インテリアや建築など、デザインが切り口となることが多いのでしょうか。

ウィルソン:そうとは限りません。日本の素晴らしい点は、デザイン面での研ぎ澄まされた文化だけでなく、日常のいたるところに素晴らしいストーリーや思想を持ったモノやコトがあることだと感じます。そして、その高いレベルのストーリーや思想が、最先端の現代的な日本の中で自然と共存しているところだと思います。工業化、産業化が浸透した先進国で、研ぎ澄まされた伝統の守り手がさまざまな分野で存在している、これは非常に稀有(けう)なことです。

中井:確かにそうですね。ただ、伝統工芸などの分野については、今は非常に見直されていますが、10年ほど前は今ほど価値を見いだされていなかったように感じます。実際に取材されている立場から、どのように感じていましたか?

ウィルソン:確かに、私が来日した当初は、日本人の特に若い人たちは、あまり日本のデザインに誇りを感じていないように感じました。もちろん価値を感じている人もいましたが、この伝統と最先端の共存がいかに珍しくて素晴らしいことか、ということを大多数が認識しているとは言い難い状況でした。その分、私は書くことがたくさんあって本当に熱中しましたし、日本について記事を書くと世界中の人からビビッドな反応がありました。

中井:そう考えると、この10年程で大きく変わりましたよね。日本のことを外からの視点で肯定されることによって、日本人自身の日本文化に対する見方が変わった部分もあるように思います。

ウィルソン:そうですね。外の視点からの日本文化に対する肯定や支持による影響は、一部あると思います。私から見るとこんなに素晴らしいのに誇りを持っている人が少なかったことが不思議ですが、一方でそのおごらない謙虚さも日本人の魅力だと思います。

中井:謙虚というとポジティブですが、日本自身のマーケティングをもっと積極的にできるのではないか、という見方もあります。

ウィルソン:以前よりはかなり積極的にマーケティングをしているように思いますが、謙虚ですよね。ただ、マーケティングも日本らしいやり方で行えばよいのではないでしょうか。日本の場合、自分たちで「私たちはここがすごい」と主張するよりも、あらゆる物事の細かいところまで心が行き届いている、といった主張しにくい心配りのようなところに最大の魅力があるように思います。例えば小さい家族経営のような企業が、非常に魅力的な製品を丁寧に作っていることが多々あります。先日取材した野田琺瑯もそんな企業でしたし、枚挙にいとまがありません。

世界が日本から学べる価値観

中井:われわれのJAPANOLOGYの初回の記事では、世界の長寿企業に関するデータを取り上げましたが、実は300年以上続く企業の50%以上が日本企業というデータがあるのです。研ぎ澄まされた価値観が受け継がれているから、独自の価値が提供できるのかもしれませんね。

ウィルソン:非常に興味深いデータですね。もうけやビジネスの拡大よりも、いかに良いものを作るか、ということに注力している企業や職人が多いように感じますし、その心配りは素晴らしい魅力です。

そういう魅力があるにもかかわらず、日本が「変わらねばならない」という外圧を受けていることが悲しくなることがあります。世界の1%が富を独占する画一化された世界が本当に幸せでしょうか? それが、日本の目指すべき方向でしょうか? 私はそうは思いません。世界はむしろ日本から学んだ方がよいのではないでしょうか。

中井:世界の富の集中の流れや工業化の浸透は止められないと思いますが、画一的でないオルタナティブな選択肢を求める層も増えているのではないでしょうか。ポートランドやブルックリンなどに、これからの経済のあり方を見いだす動きもあります。マスにはならないかもしれませんが、環境に配慮し、生活の質を大切に生きる「live well」という考え方が世界的な潮流として広がっているように感じます。違う選択肢の存在に気付き、意志を持って選ぶ人が増えています。

ウィルソン:そうですね。そういう世の中になったら素晴らしいと思いませんか。

中井:はい。実際、『MONOCLE』はそういう価値観や文化を見いだし、スポットライトを当てて発信していくスタンスを取っているように感じます。

ウィルソン:その通りです。世の中の人全てに支持されたり、マスマーケットの話題であったりはしないかもしれないけど、「これが私たちの好きなものです」といった、私たちの本心で大事だと思うこと、好きなことを発信しています。

グローバル誌『MONOCLE』の全分野を網羅する日本

中井:『MONOCLE』は全世界で共通の版を出版されていますが、地域版を出さない分、世界中の特派員が集めた情報から選定し、記事を発信されているのではないかと思います。また、表紙にもありますが「A-B-C-D-E」(A:Affairs <国際情勢>、B:Business <ビジネス>、C:Culture <文化>、D:Design<(デザイン>、E:Edits <編集選定>の5分野で記事を載せていますが、特にどこの地域がどの分野で掲載が多い、ということはありますか?

ウィルソン:現在『MONOCLE』では、世界8カ所にオフィスを構え、あらゆる地域に赴いて雑誌を作っています。どこの国や地域を取り上げるか意図していませんが、大体の国は、掲載される記事が特定の分野に偏りがちです。そんな中、実は日本は「A-B-C-D-E」の全分野を網羅する非常に珍しい国です。

中井:それはうれしいですね。先ほどのお話からもあるように、『MONOCLE』の価値観が日本文化のもつ価値観や哲学に合致することが多い、ということもあるのでしょうか。

ウィルソン:そうですね。「live well」という視点で世界を見てみると、今の時代にあっては、「ガラパゴス現象」と表現されることもある日本が保つことができている価値観や哲学はユニークな個性であり、その文化の中で育まれた製品などは非常に高く評価されているのだと思います。

これからの日本に対して感じること

中井:現在、日本には多くの観光客が訪れるようになり、日本も観光立国に向けて積極的に迎えようという方針です。また、2020年はその大きなタイミングにもなるため、変化に向けた勢いが非常に強くあると思います。

ウィルソン:そのように感じます。ただ、外国人として感じるのは、外国人が快適になるための変化はしなくてよいのではないか、ということです。人は異文化に対して対応力がありますし、観光などで訪れる人は、全てが簡単であることを必ずしも望んでいません。むしろ不便さの中に自国とは違う異文化を感じるのが海外へ訪れる魅力である、ということもあります。

中井:画一化していないユニークさが魅力、ということですね。

ウィルソン:そうです。それに、変化を外国人目線でする必要はないと思います。「どうしたら、日本人のために日本をよりよくできるか」という視点での変化が大事なのではないでしょうか。日本文化がこれまで育んできたストーリーや、モノに込められた哲学は日本の大きな魅力です。これらを核として持ちながら進化していくことでさらに豊かな国になっていけるのではないでしょうか。

中井:今日はありがとうございました。

 

プロフィール

  •         01
    Wilson Fiona
    モノクル アジア支局 支局長

    世界80カ国以上の読者に年間10号を発行している『MONOCLE』で、2007年の創刊当初から日本を拠点に取材を行っている。現在、日本在住12年目。

  •         02
    中井 桃子
    株式会社電通 2020プロデュースセンター コミュニケーション・プランナー

    2003年入社。人事採用担当後、外資系企業の食品・飲料企業のブランド戦略・メディア戦略に関わった後、2020年以降を見据えたリサーチ、広域広報戦略や活動業務や、エリア・ブランディング業務に従事。電通総研では、幼少期にドイツのインターナショナルスクールで体験した異文化交流と海外視点も生かし、日本と社会の現在やこれからの可能性を探る。2016年2月から現職。

バックナンバー

関連記事

続きを見る
ページ先頭へ