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アクティブラーニング こんなのどうだろうNo.10

アメリカの学校では、
本を読むようにバイオリンを習う。

2016/03/10

電通総研に立ち上がった「アクティブラーニング こんなのどうだろう研究所」。アクティブラーニングについてさまざまな角度から提案を行っていきます。このコラムでは、ラーニングのアクティブ化に活用できそうなメソッド、考え方、人物などを紹介していきます。

アメリカの学校に転校して、仲良くなり始めた同級生から一緒にバイオリンを習いに行かないかと誘われた。「バイオリン?」。バイオリンは以前習ったことがあったので興味が湧いた。

「いつ?」と聞いてみたら、なんと「今からだ」というのだ。「え!?でも今授業中だよね? どこで?」と聞くと、「カフェテリア」との答えが返ってきた。どうやらこの時間、バイオリン、ビオラ、チェロを習いたい人は、カフェテリアで習えるとのこと。なるほど。とりあえず一緒にカフェテリアに行ってみることにした。

するとクラスの半分ちょっとと他のクラスの子が集まって、バイオリンなどを弾き始めたではないか。なんと、そこには悪ガキやアメフト少年の姿もあった。「え?なんで彼らもいるの?」と驚きを隠せなかった。なぜなら、以前ロシアでバイオリンを習っていたときは、クラシックはそもそもとても格式があるもので、みんなが習うものではないという空気が流れていたからだ。だから、バイオリンを弾くことには謎な優越感があった。

でもここではそんな空気は一切なかった。みんなカフェテリアで楽器を片手に練習している。しかも、みんなレベルがバラバラだし、結構な確率で違う曲を練習している。

そうこうしているうちに、先生が私のところへやって来た。まず、音楽の基礎や有名な作曲家などについてのレクチャーを受けるのかと思っていたが、その予想は裏切られた。先生はただ私にバイオリンと楽譜を渡して、「さあ練習してごらん」とだけ言って去っていった。

「え!?」と戸惑っていると先生はまた戻ってきてこう言った。「音楽は音読とよく似ている。書かれた文字を読み、それを声の代わりに楽器を使って音にするのだ。楽譜が読めたら楽器は誰でも弾ける。ほら、楽譜を読んでごらん」

楽譜を見たらそこにはドレミではなくアルファベットで音程が書かれていた。一瞬戸惑ったが、音楽の知識がなくてもこれは誰でもすぐに理解できる。確かに分かりやすかった。あとは、楽器の音に置き換えるだけだ。楽器に貼ってあるシールの位置に指を置く。何だか本当に本を読むのと同じような感覚だった。急に特別なことではなく誰にでもできることのように思えた。以前のあの敷居の高さは何だったんだろうか?

あとから詳しく聞いたらこのクラスは「Strings」と呼ばれ、弦楽器に興味がある児童は誰でも参加できる。楽器は学校が貸してくれるし、お金も掛からない。時間も授業時間内だから特別なスケジュール調整もいらない。簡単な曲から練習して弾けるようになったら、先生からシールをもらう。次の難易度の楽譜をもらって今度はその曲を練習する仕組みだ。何だかとても新しい。私もStringsメンバーに加わった。

このシール集めは春ごろまで続き、私も5〜6個シールを集めることに成功したころで、発表会があることが分かった。集めたシールを貼るための胸元につけるリボンが配られた。

当日、コンサートホールに行くと他の学校の子どもたちもいっぱいいた。総人数は100人を軽く超えていた。そして、みんな同じシールが貼ってあるリボンを胸につけているではないか。シールの個数ごとにホールのステージに並んで、みんなで演奏するシステム。

シールの個数は何曲目まで弾くかというサイン。つまり、6個のシールなら6曲目まで弾いて、そのあとは、バイオリンを持ってスタンバイする。曲が難しくなるにつれて弾く人が少なくなりスポットライトを浴びることになる。長くステージに立てるし、最後まで拍手が送られる。これが次の年の練習のモチベーションとなるわけだ。

特に、音楽のうんちくや過去の偉人は最後まで教えられることはなかった(自分たちでモーツァルトとは誰だ?と調べることはあった)。優等生からやんちゃな悪ガキまでみんな単に楽しくバイオリンやビオラやチェロを弾いていた。

弾いてみないと、音楽の楽しさは分からない。自分にその才能があるかもしれないということも分からない。弾くことを入り口に、多くの子どもたちにクラシックの奥深さを見事に教えているのである。そして彼らは、一つ新しい世界と出会う。

この方法は一流の芸術家を育てるにはベストではないかもしれない。でもほとんどの人は何のために芸術と触れるのだろうか。これは芸術だけではなく全ての学問にいえることなのかもしれない。もしそうならば大人たちは子どもたちをどう、それぞれの世界へ引き込んでいくといいのだろうか。とても考え深い質問だ。

本も音楽もABC