「2015年 日本の広告費」特別対談 
ネットがリードする時代だからこそ、メディアにはブランドの確立が求められる

  • 0224 089 prof
    砂川 浩慶
    立教大学 社会学部 メディア社会学科 准教授
  • 奥 律哉
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーションラボ統括責任者

2015年 日本の広告費」は、インターネット広告費の2桁成長にリードされ、4年連続で前年実績を上回りました。放送メディアやジャーナリズムが専門の立教大准教授の砂川浩慶氏と電通総研の奥律哉氏が、インターネット時代における広告やメディアのありようを探ります。

立教大准教授 砂川浩慶氏(右)と電通総研 奥律哉氏
立教大准教授 砂川浩慶氏(右)と電通総研 奥律哉氏


ネットが広告費の伸びをリードする時代

奥:2015年の日本の広告費は、前年比100.3%の6兆1710億円で、4年連続でプラス成長となりました。確かに、12年から15年の4年連続で100%を超えてはいるのですが、12年の103.2%や14年の102.9%と比較しますと、15年は本当にギリギリという感じがあります。

14年はインターネット広告費が1兆円を超えたということで注目されました。15年も2桁成長で1兆1000億円を超えるところまで拡大しており、トータルで100%を超えたというところです。

砂川:やはりネット広告が全体をけん引したということですね。学生から「テレビ広告費とネット広告費はいつ逆転するんですか」と質問されることがありますが、ネットの伸びは今後も続くのでしょうか。

奥:単純に成長率で伸ばしていくと、6年ぐらいで逆転するといわれています。ただし、日本の広告費は07年には7兆円を超えていましたが、そこに戻るかというと、昨今の伸び率では難しい。海外ではネット広告費がテレビ広告費を超えた例もありますが、当然メディア同士の食い合いも起こりますし、日本ならではのテレビの強さというものもあり、予測するのは簡単ではありません。

テレビ事業者も動画に参入していますし、やはり鍵を握るのはネット広告であり、検索連動や動画に関わる広告市場がどうなるかに尽きると思います。

砂川氏


テレビとネット――メディア利用の境目は40代!?

砂川:ネットとマスメディア、特にテレビとの関係では興味深い調査結果があります。NHK放送文化研究所の「日本人とテレビ 2015」によれば、「1番目に欠かせないメディア」が20代と50代では真逆になっています。50代ではテレビが1位で55%、2位がインターネットで21%でしたが、20代では、1位がインターネットの54%で、2位がテレビの25%なのですね。要するに、テレビとインターネットに関して、今後30年でユーザーの意識が完全に入れ替わる。

奥:昨年、電通総研で「頼りにしている情報源・メディア」を各年代に尋ねたところ、50代以上では地上波テレビをはじめマス媒体が多かったのですが、30代以下ではニュース・キュレーションサイトやSNS、あるいは男性コミック・ゲームアニメ誌が多くなっていました。因子分解をしてみると、そのマス志向とネット志向の境目は40代で、40代よりも上の年配層はマスメディアに対する信頼を重んじる人たちで、40代よりも下の若年層は完全にネット系に入っているわけです。

おっしゃるように、今後15年、30年たったとき、境目が年配側にシフトしていくわけですから、成長が期待される一方で課題もたくさん出るでしょう。

奥氏


インターネット広告の今後の方向性

砂川:そうなってくると、ネット広告をどういう定義づけにしていくのか、いよいよ考えなければいけませんよね。マス4媒体の広告はイメージしやすいわけですが、ネットは指標というか、スタンダードをどのように考えていくかという問題があると思います。

奥:たしかにソーシャルでも、タイムライン上で出てくる、いわゆるアドインされた広告は記事なのか広告なのかあいまいなところがありますね。

砂川:もう一つ、ネット広告はモノを売るには効果的でしょうが、社会的認知を得る広告というか、ブランドイメージを高めることには必ずしもつながっていないケースも多いのではないか。

奥:ネットでブランド認知を高めるという場合、ソーシャルで誰かが商品を推薦するとか、話題にするとか、そうしたことによって高まる側面が強いと思うのですね。

これまででしたら、テレビのスポットでイメージを伝え、新聞で詳細を語り、というような4マスの使い方が基本だったのが、メディア接触スタイルが変わってきたときにどうするのか。

ネット広告の利用は、一定の関心がある生活者をさらに取り込むには特に効果的ですが、興味のない生活者に対してどのように的確な情報を与えることができるのかが課題でした。動画が注目される理由はそこにあると思います。今後は認知率やブランドイメージをいかに向上させるかを志向するメディア開発が求められてくると考えられます。

砂川:広告には暇つぶしの要素が多分にありますが、インターネットを利用すること自体、暇つぶし的な側面も強いですよね。

奥:回答や正解を求めるのであれば検索型に入っていくわけですが、暇つぶしということになると動画が関わってくる。「チャンネルをひねる」というのは古い言い方ですが(笑)、かつてはチャンネルをひねりながら好きな番組を探したものです。

ところが今の若い人たちは、ユーチューブなどで動画を見ながら、リコメンデーションが示す他の動画をどんどん見ていく。彼らからすれば主体的に見ているのかもしれませんが、リコメンデーションエンジンがリコメンドしてこなかったものは存在しないのと同じなのですね。そこが大きな課題です。

砂川氏と奥氏


求められる情報の信頼性

砂川:マス4媒体の広告費は残念ながら100%を割ってしまいましたが、実のところ、ネットニュースのソースは新聞です。ネットに拡散しているさまざまな情報も、元をたどれば新聞由来だったりするわけですね。

奥:最近、ネットとマスのどちらが入れ子になっているか分からない状況が増えています。従来型というか、マスメディア的な1対多数型、ネットでいえばカリスマブロガーの書き込みにユーザーがシンパシーを感じるような形もあれば、書き手と受け手が入り交じって多数対多数型の状態になって、どこまでがオリジナルで、どこからがコピーなのかが分からないままコミュニケーションが進んでいくこともある。

発信地が問われにくいというか、問いにくいというか、逆にいうと、オリジナルに対する意識が希薄になったのかもしれません。

テレビでも同じようなことが起こっています。「どんな番組を見ていますか」「この時間は何をしていましたか」といった調査で、「その番組は何チャンネルで放送していましたか」と尋ねると、年配者は個別の放送局名を挙げられるのですが、若い人ほど「分からない」という回答が多くなる。

昔は「何チャンネル=何々テレビ」でしたが、現在はネットに伝送路がありますから、発信源が希薄になっていて、オリジナルを追えない、追わないという、同じような話があるわけですね。

砂川:情報の信頼性でいえば新聞は非常に高い。その信頼性を生かすような形になっていないために、ユーザーが離れていってしまうところもあるのではないか。そうした状況に歯止めをかけるには、信頼性やクオリティーを維持しながら、上から目線ではないニュースを発信していくことが必要でしょう。

砂川氏


今こそ、メディアはブランドを確立しなければならない

奥:実際のところ、多くの人々がネット経由で新聞発の情報を読んでいるにもかかわらず、情報の中身だけネットに持っていかれて、実際に取材して汗をかいた分が見えなくなってしまう。

最終的に何が売りに結び付いたか、何が集客に結び付いたかというアトリビューション(貢献度)を考えるとき、オリジナルは実はテレビや新聞だったということがたくさんあるのに、その貢献が見えにくくなっている。それは非常にもったいないことであり、既存メディアはあらためてブランドを確立しなければならないと思います。

砂川:ネットの情報に接していても、実は新聞のソースを読んでいるんだという認識をもっと持たせる必要があるでしょうね。

近年、広告メディアが置かれている状況がジェネレーションによってかなり違ってきているように感じています。その一方で、それぞれの媒体でなければ出せない質感みたいなものもあるはずです。そういう意味からも、マス4媒体も真剣にウェブの使い方を研究していかなければならない。今、起こっているのは、ウェブと組みながらいかに広告価値につなげていくかという話だと思います。

奥氏


ネットとマスのコラボレーションが広告パワーを生む

奥:課題は多いですが、トライアルはさまざまなレベルで始まっています。実際のところ、議論をするよりもトライアルをした方が早い。やってみてだめならやり直せばいい。ネット的な感覚というか、100%の確度を求めるのではなく、五分五分でスタートして成果を積み上げていくことが必要ではないでしょうか。

砂川:企画書を上げなければ始まらないということではなくて、現場感覚でやっていかないと、会議を繰り返しても仕方がありません。かつてはテレビもラジオも、あるいは雑誌も、今でいうところのインターネット型のようなチャレンジをずっとやってきたはずです。

奥:広告とコミュニケーション、あるいはプロモーションと広告でも、その境はどんどんあいまいになってきています。これまでは、各メディアが自分のところだけで賄うことを優先してきたわけですが、最近では、他の土俵と組むケースも増えてきています。

砂川:15年の広告費からは、既存メディアがいかにネットとコラボしていくか、本腰を入れて考えざるを得ないという示唆が明確に出ています。

奥:ネットをドメインにする側からすれば、既存のマスメディアの広告機能をいかに取り込み、信頼に足る環境に整備していくことが求められてきますね。

砂川:双方が知恵を絞っていくことで広告費全体が上がっていけばいいと思います。
奥:本日はありがとうございました。

砂川氏と奥氏

プロフィール

  • 0224 089 prof
    砂川 浩慶
    立教大学 社会学部 メディア社会学科 准教授

    1986年日本民間放送連盟に入り、放送制度、著作権、機関紙「民間放送」記者、地上デジタル放送担当などを経て2006年退職、同年から立教大社会学部メディア社会学科助教授、07年4月に准教授。主要研究テーマは、放送を中心としたメディア制度・政策論、ジャーナリズム論。

  • 奥 律哉
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーションラボ統括責任者

    1982年電通入社。主に情報通信分野について、ビジネス・オーディエンス・テクノロジー視点から研究開発を行う。著書に『ネオ・デジタルネイティブの誕生~日本独自の進化を遂げるネット世代~』(共著、ダイヤモンド社)、『情報メディア白書2016』(共著、同)などがある。

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