Experience Driven Showcase #56

新潟日報社「おもしろしんぶん館」
開館から1年、未来の読者へのアプローチから見えてきたもの

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    松本 陽一
    株式会社電通 イベント&スペース・デザイン局

2014年9月、新潟日報社の印刷センター内に、「おもしろしんぶん館」がオープンしました。新潟日報と電通のプロジェクトチームは、この施設を単なる「箱もの」ではなく、地域社会や未来の読者との新しいコミュニケーション・プラットフォームと位置付け、新潟日報の全社員が「新聞の未来」にコミットメントする試みとして企画を推進してきました。新聞業界と二人三脚で歩んできた電通だからこその知恵が凝縮した本施設、開館から1年半を経て、そのプロセスと成果、課題についてリポートします。

編集構成:金原亜紀 電通イベント&スペース・デザイン局

 

「おもしろしんぶん館」で新潟日報が挑戦した、未来読者へのアプローチとは

新潟日報は、デジタルメディアの隆盛を背景とする購読者数減少の打開策として、“未来読者”の小学生をメーンターゲットに「新聞価値」を伝える拠点づくりを企画しました。
おもしろしんぶん館は、文科省指導要綱に準拠し、子どものころから新聞に親しみを持つ機会を積極的につくり出すことを目的に、既存の新聞印刷工場の中に整備しました。

館内は、新聞印刷に使う4色(シアン、イエロー、マゼンタ、ブラック)に分かれた四つのフロアで構成。トリックアートやプロジェクションマッピングのコーナーなども設けています。見学は約1時間。一筆書きのような動線を歩くことで、新聞のさまざまな側面に触れ、体験ができる仕組みになっています。

「新聞の世界」に入り込んだようなエントランス空間
新聞づくりが学べる「シアン」の廊下

説明員もストーリーの登場人物として活躍する、プロジェクションマッピングシアター

 

来館者の反応から見えてきたもの

来場者アンケートや、来館した学校の先生の意見からうかがえるのは、「新聞というコンテンツは、教育現場との親和性が非常に高い」ということです。

新聞社が毎日繰り返し行っている「人にものを伝える工夫」をしんぶん館で体験できることが好評の理由です。「分かりやすい文章の構成の仕方」(5W1Hをきちんと押さえること)や、内容全体を一文でキャッチーにまとめる「見出しのつけ方」などは、文章の読み書きの鍛練となり、国語の勉強につながります。

また、多岐にわたる新聞社の活動や歴史を知ることが、そのまま地域の特色や歴史を知ることになり、社会科の学習につながります。学校の授業ではなかなか子どもたちに実践させることが難しい内容も「総合学習/社会科見学」のカリキュラムの中で外部機関に任せることができ、授業計画の効率的な推進に貢献しているようです。

さらに、18歳選挙権の施行、センター試験の大幅改定など、教育業界における今後の社会的変化に、現場の教員たちも不安を感じています。また、「情報をきちんと取り扱い、正しい情報とそうでない情報を自分で見極め、考える力」を子どもたちにどのように身に付けさせていくか、日本中でその教育手法が模索されています。

そこで、情報を扱うプロであり、地域のことを良く知る地方新聞社だからこそできる活動の一つとして、「おもしろしんぶん館」をアクティブラーニング型※の学習が可能な施設へと昇華させることが考えられます。施設で行う教育カリキュラムをさらに充実させ、未来読者のメディアリテラシーを高めていくことに、地方新聞社ができる社会貢献の新しい可能性を感じています。

※アクティブラーニング
教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学習者の能動的な学習への参加を取り入れた教授・学習法の総称。認知的、倫理的、社会的能力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力の育成を図る。

 

多方面分野の評価から見えてきたもの

そして、「おもしろしんぶん館」のプロジェクトが4つの賞を頂きました。特筆すべきは、それぞれ違う角度からの視点で評価されたことです。子どもに対するプロダクトやプロジェクトを評価する「キッズデザイン賞」、映像のストーリー・品質や企画性を評価する「映文連アワード」、空間の分かりやすいサイン案内を評価する「日本サインデザイン賞」、展示空間と地域まちづくりの観点から評価する「日本空間デザイン賞」。

このことは、「未来読者に新聞の良さを知ってもらいたい」という一貫した軸で展示空間や映像制作を行ってきた結果であるといえます。

一つの大きな目的に対して、空間演出、映像設計、運営計画、広報計画に至るまで一貫したトータルコミュニケーションとして実現できるのが、電通イベント&スペース・デザイン局および制作会社を含むプロジェクトチームの強みであると考えます。

ゴールの見えないプロジェクトも、課題の本質を読み解き、一気通貫した軸を設定して、それぞれ最適な手法、コスト、工期で解決できることが、今後ますますクライアントのパートナーに求められる条件になっていくと確信しています。

次回は、「おもしろしんぶん館」開館のプロセスと成果、課題について、新潟日報社の阿達秀昭取締役と語り合います。

※「おもしろしんぶん館」受賞歴
●第9回キッズデザイン賞「奨励賞 キッズデザイン協議会会長賞」
(講評)「デジタル時代の中で、新聞の価値や制作プロセスを展示や体験によって学ぶ、地方紙の意欲的試み。新聞を通じた教育は活字親和、読解力育成にもなり、情報リテラシーの向上に寄与するはず」
●映文連アワード2015「優秀企画賞」
展示施設内の小シアター映像。プロジェクションマッピングを用いて、アニメキャラと女性MCがライブ掛け合いで新聞のおもしろさを伝える映像ショーの芸術性・こどもコミュニケーション性への評価。
●第49回日本サインデザイン賞「空間・環境表現サイン部門 入選」
文字と平面グラフィックで子どもたちを巻き込んでゆく展示手法への評価。
●DSA日本空間デザイン賞 2015「文化・街づくり空間部門 入選」
新聞に入りこみ、新聞の新たな側面と触れ合う情報体験の空間デザインへの評価。

 

プロフィール

  •  a8664
    松本 陽一
    株式会社電通 イベント&スペース・デザイン局

    1957年生まれ。東京工業大学工学部建築学科卒業。社会開発工学修士。
    梓設計で成田空港第二旅客ターミナルビル設計担当。1989年電通中途入社。
    以後、札幌市大倉山ウィンタースポーツミュージアム、宮城県慶長使節船ミュージアムなど、展示施設のプランニング、デザイン&プロデュース担当。ワシントンで花火打上げ、博覧会、大型展示会などイベント業務も多数担当。

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