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Experience Driven ShowcaseNo.58

「おもしろしんぶん館」子どもたちに、新聞の現場を伝えること(後編)

2016/03/24

2014年9月新潟日報社の黒埼本社横に、「おもしろしんぶん館」がオープンしました。新潟日報と電通のプロジェクトチームは、この施設を単なる「箱もの」ではなく、地域社会や未来の読者との新しいコミュニケーション・プラットフォームと位置づけ、新潟日報の全社員が「新聞の未来」にコミットメントする試みとして企画を推進してきました。開館から1年を経て、そのプロセスと成果、課題について、新潟日報社の阿達秀昭常務取締役と、電通の松本陽一氏が語り合います。

取材・構成編集:金原亜紀 電通イベント&スペース・デザイン局
(左から)松本氏、阿達氏

 

新潟日報全社員と、新聞の本質や未来を考える

松本:コンパクトな組織で24時間、全ての新聞発行作業を回している中、こういったプロジェクト作業を全社の方にいろいろお願いしました。大変だったと思うのですが、社員の方の感想はいかがですか。

阿達:電通にお任せすることになったのは、展示物的なものが多くあるわけではないのに新しいものを生み出さなきゃいけないような状況で、アイデアが豊富な会社にお願いする必要があったので感謝しています。

ただ、当初の計画よりも縮小せざるを得なかったところもありました。当初の打ち合わせ段階では、より集客性、認知性を意識して、隣の「ふるさと村」(新潟県の物産・観光展示施設)に観光バスの団体客に立派なガラス張りのゲートを向けて、動く歩道を使ってお客さんを誘導したり、エントランスホールそのものもARの導入や、新聞記事が滝のように流れるような情報系アートを展開しようとか、屋上にユニークな巨大看板や漫画のイラスト設置などいくつものインパクトのあるアイデアに感動したけれど、残念ながら取り入れることはできなかった。時間と予算のなかで適合したのが今の形ということです。

道の駅「ふるさと村」(手前)と、新潟日報黒埼印刷センター(奥)

 

予算オーバーで見送って、第2期第3期工事に回したものもあったのですが、なかでも屋上を開放しての施設展開、館内のエレベーターの導線整備隣接するニュースセンター棟の4階レストランスペースの活用など、やり残した部分はたくさんありますね。

松本:ご要求に合わせ、気宇壮大なアイデアも出させていただいたんですが。完成を新聞大会に間に合わせるというのも必須でしたし、ぎりぎり間に合ってよかったと思っています。

こういうものは普通に考えると、販売拡大のための投資と考えがちですが、当初から「新聞ファンをつくる」「未来の読者をつくる」という大きなテーマで、非常に長いスパンで考えられていますね。

阿達:これを、無駄としてやらなかったらどうなるのか、ということを考えました。新聞そのものが広告も発行部数も減っていく中、このほかにどんなブレーキを掛ける方法があるのか?と。新潟日報に対する親近感、新聞づくりに対する理解、地域貢献の周知、新聞社の事業に対する信頼感を構築するには、こうした形が今は一番適していると思いました。でも最終的には歴史が判断するものなのかなと思っています。

松本:隣接する観光施設とリンクさせて、知的エンターテインメント施設として位置付けていこうというお話がありましたが、隣にあるのはふるさと村(道の駅)ですので、新潟県以外の方がよく利用されるわけですよね。その関係性づくりも大切ですね。

阿達:新聞が抱えている問題は、一つの新聞社がどうという話ではなくて、業界全体の問題であると認識しています。例えば群馬、富山、東京などから「ふるさと村」に来られた人たちがここに立ち寄って、新聞を見る目が少しでも変わってくれれば、その延長として日本全国47都道府県にある新聞社がもっと活性化されるんじゃないかと思っています。さらにこれらの考え方が47紙に広がればおもしろいと。

また「ふるさと村」までは、信濃川があって市の中心部と定期船も往来しているのです。道路交通とそれらを活用すれば、観光交流という意味でも、新潟地域の一部の話だけではなくて、地域の交流、文化の交流の可能性を秘めています。

松本:電通も本件を扱わせていただいたおかげで、まだ形にはなっていないものの、他の新聞社さんから引き合いや問い合わせをいただいています。この具体的事例が、試金石となっています。皆さん、きっと同様なお考えなのかと。

ただ、われわれは単純に箱物をご提案したわけではありません。こういったものは出来上がった瞬間から風化が始まるので、有効に使わないと。今出来上がったのは「コミュニケーション・プラットフォーム」という認識で、これをどう使っていくのかが非常に重要だと思うのです。そう言った観点で運営計画は、どのように考えていらっしゃいますか。

阿達:われわれも手を加えなきゃいけないですね。ふれあいの接点という意味では、基本的にはリピーターをどう生むか。今回のオープンでは、指導要綱に照らして学校の校外学習対応の内容にすることで、安定的な集客をまずは小学5年生をターゲットとしたわけで、小学校5年生の社会見学、あるいは校外学習の利用については、毎年学年が変わって下からどんどん上がってくるから心配はしていない。でも、その子たちをもう1回、もう2回、もう3回呼び寄せる努力はしなきゃいけないですね。そのために機会つくりとそのためのコンテンツを考えたい。家族と再来訪してもらうために週末の開館を具体的に検討しています。

 

来館した子どもたちに、「新聞社に就職したい」と思ってほしい

阿達:究極はやはり、何度かくるうちに、理解共感を超えて「新聞社や新潟日報っていいな、入社したいな」と思っていただけるといいですね。
ふれあい接点作りでは、今回、第1期工事で間に合わなかったものがまだある。まず「おもしろしんぶん館」がどこから見ても分からないんですよ、看板がなくて。
先に述べた、読者調査でも、まだまだ施設の存在認知が低いのです。大きな国道や新幹線から、あれなんだ?と思わせる主張が必要なんです。非読者層にも足を運んでもらえるように。

また、地域ではもっと使っていただきたいので、当初の計画にあった屋上の活用や、使用していない施設を使って社所有の絵画を展示などして地域の交流と安らぎの場を提供することも考えたいですね。

松本:多目的利用ですね。

阿達:そういうことも合わせながら、今後の企画展、特別展をやっていけば、リピーターにもお応えできるかなと思っています。年配の方も多いので、エレベーターをつくったり、整備が必要と思っています。継続的ふれあい接点、という意味では地元、地域への根付きは重要と考えています。

オープンのときに地元の小学校をお招きして、地域に対する貢献的なプログラムなどで新潟日報の存在感をアピールしました。また、東日本大震災の3.11以降、新潟市内には緊急時や災害時の避難場所が少ないということで、弊社、万代本社メディアシップは津波の避難場所として指定され、「おもしろしんぶん館」のある黒埼本社メディアポートも、洪水、豪雨のときの地域住民の方々の避難場所として指定されています。

そういった面でも、新潟日報は地域に何かあったら支えてくれる、というイメージを、地域・近隣の方々や子どもさんたちに持ってもらえれば、新潟日報が新聞社であるだけじゃなくて、地域の一員として存在する意味も大きくなっていくのかなという気がします。

細かいことですが、地域の話題に上り続けるために、見学の方々には、お土産だけではなく自分たちが写ったその当日の新聞を渡しています。さらに後ほど、訪問していただいた方の記録として、朝刊本紙上で来場の記念写真を月1回まとめて載せています。

地域の新聞として、一人一人が学校で話題にしてくれたり、このサークルや町内会に行ってみたい、というような情報交流の源になってくれればありがたいなと思います。土日祝日の開業も試験的に何回かやっているのですが、ファミリーで来ているお客さんが多いんです。ここまでは平日団体予約限定でしたが、今後は土日開業を積極的にやらなきゃいけないですね。

松本:土日開館のテストケースも、やられているんですね。

阿達:圧倒的に平日とは客層が違います。案内人員確保の問題はありますが早く取り組まなきゃいけないと思っています。
小学校のときに見学で来て、2回目は中学校のときにお母さんやお父さんと来て、3回目は大学のときに彼女と来て、4回目は卒業して新潟日報に入社しましたというぐらいに「おもしろしんぶん館」を使ってもらうにはどうすればいいか。そのためにわれわれも「おもしろしんぶん館」をさらに成長させなきゃいけない。

松本:地方紙として地域密着型の貢献ができる素地が今あり、様々な試みを年々歳々積み上げていく状況のいわばスタートラインにあるということですね。

阿達:そうですね、新しいものに貪欲に取り組んでいきたい。調査では、まだ、新潟日報の読者でさえほとんど来ていないわけですから。そこをまず全力で認知促進、集客努力しないといけない。

松本:新しい利用の喚起、という意味では、教育改革への対応という視点があると思います。
もともと出張教室などもやられていて、新聞のつくり方や読み方の教育コンテンツをいくつもお持ちなので、それらを使って、先ごろ提案いたしましたように、文部科学省の新指導要領要点のアクティブラーニングに対応した“自分で調べて発信し人を巻き込む”教育の場所としてもにもこの施設は価値が高いと思います選挙制度の変更も追い風ですね。先生方と、親御さんの賛同が重要かと。

阿達:そういうことと思います。

 

地域の文化の交流を促す、知的エンターテインメント施設へ

松本:ところで、集客促進と来場満足のためには、何等か名物のようなものがあるといいですよね。お勉強だけど楽しい。

阿達:それも、私どもができなかったこと、電通に期待したところです。電通は新聞、新聞社の事情に詳しいだけでなく、来場者を満足させることを考えてくれた。

日進月歩でさまざまな技術的なものが出てくると思うので、それを適正に駆使していただければ、もう少し新聞産業の将来も明るくなるのかなと。映像的・音響的なサービスというのは、活字、紙とは相反するものではありますが、もうそんなことは言っていられないので、そういう力をかりながら、新聞のよさ、紙のよさというのをアピールするということを、ためらいなくやっていく時代だと思います。新聞の館でプロジェクションマッピングに人気が集まること自体、皮肉な話ですが、

私も行き詰まったときには、あそこへ行って、あのシアターを見るんです。いつも涙が出るんです。それで、かつ、頑張らなきゃいけないという力こぶができる。

説明員もストーリーの登場人物として活躍する、プロジェクションマッピングシアター

 

松本:それはどんな涙ですか

阿達:感動するんです。改めて新聞づくりの原点をあれで教わって泣いちゃう、物語のちからで。日報キャラクター「ニック」とMC女性の絡みのわずか10分程度のショーなんですがで、そこへ行くと元気づけられるんです。さあ、頑張らなきゃいけないと。

松本:知らないことや、食わず嫌いは実物に触らないと直らない。とにかく手にさわらせるところまで連れていってあげましょうという意味合いで、考えどころ、アイデアだしどころでしたね。

阿達:そうだと思います。このリアルな場所で、新聞のよさ、必要性あるいは、新聞への親しみ、関心、興味を持ってもらうためには、映像、音響、新テクノロジーなど総動員してもよいと思う。むしろ、それぐらい、ぎりぎりの時代だと痛感しています。
それが今回できたのが電通との協働だったと。

松本:今日は一緒にこのプロジェクトの振り返りができて、とても勉強になりました。本当にありがとうございました。