Dentsu Design Talk #74

考える、ということについて、考えてみよう
―コピーも映画も、脳から生まれる―(前編)

  •    prof2
    西川 美和
    映画監督
  •      pr
    谷山 雅計
    谷山広告 コピーライター/クリエイティブ・ディレクター
  •      pr
    福里 真一
    ワンスカイ CMプランナー/コピーライター

ゆれる』『ディア・ドクター』などの話題作を連発し、現在は自らの直木賞候補作『永い言い訳』を撮影中(2016年公開予定)の映画監督の西川美和さん。その映画宣伝のコピーワークをコピーライターの谷山雅計さんが手伝っている縁で、この2人の対談が実現。司会進行を務めるのは、谷山さんとの仕事も多く、西川さんの映画のファンでもあるというワンスカイの福里真一さん。それぞれの分野のトップランナーが、考えるとはどういうことか? どういう脳の動かし方でアイデアが生まれてくるのか? それぞれの制作プロセスをたどりながら語り合った。

(左から)谷山氏、西川氏、福里氏

 

谷山さん⇔西川さん 5つの質問
「映画を夢から着想するって本当ですか?」

福里:西川さんはつくれば必ず話題になるという映画を次々とつくられていて、昨年は小説『永い言い訳』(文藝春秋)が直木賞候補にもなられました。今、ご本人自らその映画化に取り組んでらっしゃるんですよね。

谷山:その映画『永い言い訳』のコピーを書かせていただくというご縁で、今日のトークが実現しました。今日は「考える」ということについて考えてみる、というテーマで、お互いに質問を出し合って進めていこうと思います。

福里:西川監督から見て、谷山さんの印象はどうでしたか?

西川:企画を説明する能力がとても高い方だと思いました。私の仕事のフィールドには「プレゼンテーション」がないんです。企画をプロットや脚本にして、プロデューサーに渡すと、プロデューサーが各方面にプレゼンを行う…というのが映画の流れなので。だから私は「自分のアイデアがどう素晴らしいか」などということを生の言葉でうまく人に伝えることには慣れていないし、苦手意識があるんです。広告のフィールドの方は「伝え方」については思考も鍛錬も重ねられているので、そういう方とのお仕事はとても刺激になります。

福里:まず、谷山さんからの質問です。「アイデアのとっかかりについて伺いたいです。夢で見た情景から着想することが多いと以前インタビューで語られていましたが、本当ですか?」

谷山:映画『ゆれる』は、友だちが人を殺している夢を見てできたそうですね?

西川:1作目『蛇イチゴ』と2作目『ゆれる』は確実に夢から着想を得ました。『ゆれる』は、男友達がハイキングに出掛けた山奥で、気のある女の子に助けるつもりで出した手を振り払われたのに逆上して滝つぼに突き落としたのを、私がやぶの陰から目撃してしまう夢でした。友達ですから、私さえ黙っていれば殺人者にならずに事故で収められる。そう思って事故を装っていたら、善良だった彼も自分もどんどんおかしくなっていく…という夢でした。

谷山:本当にそこまで夢なんですか? 今、あらすじを聞いているみたいでしたけど。

西川:本当に見て、汗びっしょりになって起きたんです。2人の主人公の関係性をもっと密に、お互いの人生から逃れられない関係にした方がいいと考え、映画では「兄弟」という設定にしました。

福里:なんでそんな夢を見たんですか?

西川:なんで見たんでしょう…。じわっと、自分の中でも意識下に抑え込んでいる恐怖や、自分の中に隠しておきたい一面というものを、夢を見ることで発見することが多いです。逆に、皆さんはどんな夢を?

福里:全く見ないです。

西川:ふふふ。

谷山:支離滅裂で、すぐに忘れちゃいますね。

西川:私も普段はそうです。だから書き留めたわけです。でも、1作目、2作目と夢でうまいことストーリーができて、今後も夢で食べていけるかと思ったら、一切見なくなりました(笑)。

谷山:そう甘くはなかった?

西川:その後はふるわないですね(笑)。

福里:せっかくなので、『ディア・ドクター』のお話も聞いていいですか?

西川:2作目の『ゆれる』が小さい作品の割にヒットしまして、世間的な評判も高かった。当時30歳になったばかりで、日本映画の期待の星などと言われて、非常なプレッシャーを受けてしまって。自分は到底そう思えないのに、偽物を本物だと世間が仕立て上げたいだけなんじゃないかという思いがあって、偽医者の話を書いたんです。

福里:なるほど。そこでも自分の恐怖心というのが、とっかかりになっているんですね。

 

西川さん→谷山さんに質問
「シンプルなアイデアのよさが、考え続けるうちにかすみませんか?」

福里:次は西川さんからの質問です。「谷山さんの本を読むと、コピーを100本、300本、一晩で、などという言葉がたくさん出てきます。例えば『日本の女性は、美しい。』のような極めてシンプルなフレーズはどの段階ででてきたものですか。シンプルなアイデアは数を考えているうちに、そのよさが埋もれたり、かすんだりしてきませんか」ということです。

谷山:いいものが出るのは、たいてい最初の10本以内か、最後の最後。TSUBAKIの「日本の女性は、美しい。」は0本目かもしれません。0本目というのは「日本の女性は、美しい。」は商品のテーマだから。当時、アジアンビューティーやハリウッドビューティーをイメージしたシャンプーが売れていて、日本の女性をど真ん中に置いたシャンプーというポジションが空いていた。そこで「日本の女性は素晴らしい、美しい」と言い続けるブランドをつくろうと生まれたのがTSUBAKIです。1本目に書いたものって、結構いいなと一瞬思うけど、だんだん不安になる。試し算のような感じでどんどん書いていくと、「これだけたくさん書いたけど、やっぱり最初に書いたのでOKだった」と、不安が解消されるんです。

西川:私も台本をすごく書き直します。でも、いろいろな要素を足し引きして、そのプロセスが膨らんでいくと、シンプルなものに立ち戻る勇気が無くなることも多くて。

福里:『ゆれる』の脚本を書き直しすぎて、出演する香川照之さんに「前の台本に戻してほしい」と言われたことがあるそうですね。

西川:そうなんです。「監督に俳優がこんなことを言うのは筋違いだろうけど、人生で俳優が監督にモノ申していいチャンスが3回あるなら、そのうちのカードの1枚を切ります」と言って、「2つ前の台本に戻してくれ」と言われたことがあったんです。

福里:香川さん、カッコいいですね。

西川:カッコいいんですよ。いろんな説明を台詞の中に理屈で込めて行くうちに、感情そのものの流れや爆発力は反比例して弱まった、ということを指摘されて、初稿を読み直したところ、とてもシンプルだということに気付くことができました。

 

谷山さん→西川さんに質問
「原作・脚本・監督を1人でする時、視点をどう切り替えているのですか?」

福里:では、谷山さんから。「1人で、原作→脚本→監督を手がけられていて、それぞれの時点で、視点・モノの考え方の変化はありますか?」

谷山:他人が書いた原作なら、ここはいらないから切ろうとか、客観的に判断できるだろうけど、自分が書いた原作を脚本家や監督として変えていく時って、1人だからこそ難しい部分ってないのかな?と思ったんです。

西川:文章でできることと映像でできることは違うと思っています。脚本は映像のための青写真ですが、原作には視覚化しなくていいことも書けます。視覚化するという条件を自分に強いずに書くことで、キャラクターや物語のベースに厚みをもたせられて、自分自身もよく理解できるんじゃないかというのが、今回原作を書いた目的でした。

谷山:原作を読んだ時に、映画化を意識した原作に全然思えなくて。小説としての高い完成度がありました。今回はそれをかなり意識していたということですね?

西川:そうですね。いつもは映画の脚本を最初に書くのですが、予算などの縛りの中でしか話を書けないことに、すごく窮屈さを感じていて。『永い言い訳』はそういう縛りを取っ払って物語を書きました。原作の忠実な視覚化を目指してしまうと、どうやってもキャストは私が原作を書く時にイメージしていた人物像とは異なりますし、場所だって違う。原作に縛られると「違う」ということを否定的に捉えてしまうんです。ですから、映像化する時はスタッフやキャストの中で私が一番原作を忘れるように心がけました。

福里:あれだけ克明に文章で心理を描かれていて、それを映像に移し替えるのは、ご自身にとってどんな作業なんですか?

西川:人の内面のことって、映像で表現するのはすごく難しい。モノローグを使えばいいといった単純なことじゃない。例えば、小さな子どもの思っていることを映像で描こうとしても、なかなかうまくいかなかったりします。そういうことも自由に表現できるのが言葉の世界の面白さだなと思います。原作を書くことと映像化は全くの別作業だと捉えて、映像にしかできないことは何なのか考えながら、ワンシーンずつ積み重ねていきます。原作をうまく脚本に焼き直そうとするよりも、ああいう気持ちはどう人物を動かしたら表現できるのか、単に台詞で喋らせるよりも何かそれを物語る風景を1枚映せばそう「見える」のではないかといったように、置き換えの発想をしています。そうすると一つ一つの作業が新鮮で飽きないんです。

 

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企画プロデュース:電通イベント&スペース・デザイン局 金原亜紀

 

プロフィール

  •    prof2
    西川 美和
    映画監督

    1974年広島県生まれ。
    大学在学中より『ワンダフルライフ』(是枝裕和監督)にスタッフとして参加。2002年『蛇イチゴ』で脚本・監督デビュー。
    以降『ゆれる』(2006年)、『ディア・ドクター』(2009年)、『夢売るふたり』(2012年)などの長編映画はいずれも本人原作からのオリジナル作品。小説作品に『ゆれる』『きのうの神さま』(いずれもポプラ社)、『その日東京駅五時二十五分発』(新潮社)、『永い言い訳』(文藝春秋)。エッセー集として『映画にまつわるXについて』(実業之日本社)がある。2013年、制作者集団・分福の設立に参加。長編最新作『永い言い訳』(本木雅弘主演)は10月14日(金)より公開決定。

  •      pr
    谷山 雅計
    谷山広告 コピーライター/クリエイティブ・ディレクター

    1961年大阪府生まれ。84年博報堂入社。
    97年に独立して谷山広告を設立。
    主な仕事に東京ガス「ガス・パッ・チョ!」、資生堂「TSUBAKI」「UNO FOGBAR」、新潮文庫「Yonda?」、日本テレビ「日テレ営業中」、東洋水産「マルちゃん正麺」、日本郵便「年賀状」、サイボウズ「働くお母さん応援Webムービー」など。著書に『広告コピーってこう書くんだ!読本』『広告コピーってこう書くんだ!相談室(袋とじつき)』(いずれも宣伝会議刊)。

  •      pr
    福里 真一
    ワンスカイ CMプランナー/コピーライター

    1968年鎌倉生まれ。1992年電通入社。
    2001年からワンスカイ所属。今までに1000本以上のテレビCMを企画・制作している。
    主な仕事に、ジョージア「明日があるさ」、サントリーBOSS「宇宙人ジョーンズ」、トヨタ自動車「こども店長」「ReBORN」「TOYOTOWN」、ダイハツ工業「日本のどこかで」、ENEOS「エネゴリくん」、東洋水産「マルちゃん正麺」、アフラック「ブラックスワン」、ゆうパック「バカまじめな男」など。著書に『電信柱の陰から見てるタイプの企画術』(宣伝会議)、『困っている人のためのアイデアとプレゼンの本』(日本実業出版社)。

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