大野へかえろう 〜とある盆地の地方創生〜

  • 日下 慶太
    株式会社電通 マーケティング・クリエーティブセンター コピーライター
福井県大野市

大阪から福井まで特急サンダーバードで2時間、その後、2時間に1本の越美北線という単線に乗り換えて、山を3つほど越えて、このままどこに連れて行かれるのかと思っていると、突然平野が開けてくる。そこは福井県大野市。人口3万4000人の美しい盆地。ぼくはここの地方創生プロジェクトに携わっています。

大野市の課題は人口減少。20代で20%、30代で40%の市民が市外へと流出しています。特に子育て層の流出は問題です。だって、この層がいないと子どもが増えませんもんね。それをなんとかしようと「大野へかえろう」というその名のとおりUターンを推進するプロジェクトを企画、実行しています。

プロジェクト第1弾は「大野ポスター展」

大野ポスター展

大野ポスター展は、いつもの商店街ポスター展とは違い、地元の高校生・大学生にポスターを作ってもらうというもの。今までは商店が主役ですが、今回は生徒たちが主役です。

というのも大野市には大学がないので、外に出ていく子が多い。事実、福井県立大野高校の卒業生の約6割が市外に出て行く。だから「出て行くな」とは言えない。でも、地元の魅力を知ってから出るのと、知らないで出るのは大きく違う。だからポスター制作を通じて、それを理解してもらいたかったんです。

広告制作というのは、基本的に「ある対象」の良いところを見つけて、それをより分かりやすい形で伝えるということです。なので、地元を嫌だと思っていても無理矢理にでも良いところを発見してもらう。地元を理解するにはとても有効な手です。

狙いは3つありました。1つ目は地元の魅力を再発見すること。高校生の時って、地元の魅力を分かってるようで分かってないので、ポスター制作を通して地元の魅力に気づいてもらおうと考えました。

2つ目は地元の面白い大人たちとつながること。こだわりコーヒー店をしていたり、ダンス教室をしていたりと、Uターンして面白いことしている人が少なからずいる。高校生が知ってる大人って、親か親戚か学校の先生ぐらい。ロールモデルが極端に少なすぎるんですよね。地元で活躍する大人たちはいい見本になる。こういった大人たちと高校生たちをつなげることはとても意味のあることでした。

3つ目は、高校生たちに「自分には町を元気にする力がある」と気づいてもらうこと。良いポスターはいろんな人を元気にしたり、笑わせたりして、町までも元気にします。そういうことを経験して、自分もできるんだとつかむと、いつか戻ってきたときに、自分の力で町を元気にしようと行動してくれるんじゃないかなって思いました。

僕は過去に何度か「ポスター展」をしているので、比較的簡単に「高校生ポスター展」は思いついたのですが、企画よりも実現が大変!これが地方創生の仕事なのかもしれません。相手は見知らぬ土地の見知らぬ人。いい企画だし、簡単に協力してくれるっしょ!なんて思っていても、時間がかかる。

本当のところ、ポスター展は学校の授業の一環にしてほしかったのですが、学校はカリキュラムがすでに決まっている。授業中に何かあったら責任がもてない(そりゃそうだ)。だから、生徒の自主参加という形で夏休みにやることになりました。

体育館で全校生徒に説明
全校生徒を前にポスター展の説明をする。

ようやく日程は決まったけど、生徒が来てくれるか分からない。まずはポスター作りに興味を持ってもらわなくてはと学校に何度も説明に行きました。

そして、創立記念日の朝礼で全校生徒に説明できるチャンスがもらえる! ということで、朝8時45分からの朝礼の始めの5分のために、大阪から出向いて全校生徒の前で説明をしたり、10人ほど集まった希望者への説明会を昼下がりの優しい光が差し込む放課後の理科室でやったりと、変なおっさんが高校に何度も足を運んだわけです。何人集まるか本当に不安だったんですけど、結局36人が集まってくれて、それぞれが1店舗のポスターを担当して36店舗のポスターを作ることになりました。

ポスター作りの様子
ポスター作りの様子

夏休みに4日間、講師が6人ついてワークショップ形式でみっちり教えて作りました。講師は電通のクリエーターが5人、地元のデザイナーが1人。

電通の講師の2人、江上さんと植村さんはなんと大野市出身なんです。しかも二人とも同級生という奇跡的なつながり。まさに「故郷に錦を飾る」ですよね。結局飾ったのはポスターですけど。

企画と撮影は生徒がやりました。最後のデザインはマック使えない人がほとんどだから、ぼくらでやりました。生徒たちに都度確認をして、思いをきちんと再現できるようにレイアウト作業をしました。

真夏の美しい里芋畑で撮影したり、開店準備中のラーメン屋で高校生と二人っきりでなにも共通の会話が見いだせなくて1時間沈黙していたり、普段では絶対味わえないような経験ができました。高校生と仲良くなるにはすぐにあだ名で呼ぶ、それが今回得たいちばんの教訓です。

フォトサロン高宮
ポスター総選挙 グランプリ作品:高宮写真館

 

松田陽明堂
ポスター総選挙 準グランプリ作品:松田陽明堂

 

パンパカパーン
ポスター総選挙 準グランプリ作品:パナデリア

 

ポスターは町の中心や、駅、ショッピングセンターに掲出されました。人気投票の投票総数は1万を超え、「広告にするだけで地元がこんなにもステキに見えるとは思いませんでした」「こういうポスター展ができるような町、移住したくなります」など、大野市内外で大きな反響があり、市民に愛されたポスター展でした。「続けてほしい」という市民の声に応えて、来年も行う予定です。

そして、帰ってきてほしいという思いを歌にする

第2弾は地元で活躍する大人たち数人に高校で講演してもらい、第3弾は「大野へかえろう 楽曲プロジェクト」。「大野へかえろう」というオリジナルソングを作って、それを卒業式に父母から生徒たちへ歌ってもらおうというもの。

Uターン施策についていろいろ企画していたときに、親たちは「帰ってきてほしいと思っているけどなかなか言えない」と思っているいう事実に気づきました。今から夢を求めて旅立とうとする子どもたちに言えないですよね。あと、照れくさいという思いもあるはずです。でも、結局は「帰ってきてほしい」と言うんだけど、それが就職を決めるときのタイミングだったりで、子どもたちからすると「今さら言われても…」ということになってしまう。

あと、大人たちが声を大にして「帰ってきて」とお願いするのは、今までにないもので新しいなと思ったんです。吉幾三さんの「俺ら東京さ行ぐだ」の逆ですね。

曲作りは、音楽制作会社PIANOのプロデューサー冨永恵介くんに相談しました。伝えたいメッセージがはっきりしているから、詩を作ってから曲を作る方がいいだろうということで、まずはぼくが歌詞を書きました。では歌詞を読んでいただきましょう。

大野へかえろう

山が世界を切り離し
世界はこの町だけのよう
自然にあわせて時は過ぎ
人はゆっくり生きている

夕日が田んぼを照らしてる
里芋の葉が揺れている
小さな町の子どもたち
夢を求めて旅立つよ

大野へかえろう

言い出せないから歌にする

大野へかえろう

広い世界に出るといい
いつでも大野は待っているから

川が盆地を駆け巡り
すべてに水はしみわたる
雪が積もれば雪をかき
毎日変わらず生きてゆく

長い冬が揺らぎ出し
雪が水へ変わる頃
大人になりつつある君は
この町から巣立ってく

大野へかえろう

言い出せないから歌にする

大野へかえろう

広い世界に出るといい
いつでも大野は待っているから

夢を追い
友と出会い
恋をして
大きくなれ
時には
思い出してほしい
わたしたちがいることを

大野へかえろう

言い出せないから歌にする

大野へかえろう

広い世界に出るといい
いつでも大野は待っているから

すべてが初めての試みで紆余曲折がありました

大野に50回ぐらい足を運び、たくさんの大野人の話を聞いて、思いをまとめて歌詞を書きました。自分のエゴを一切排し、「これがおもしろいだろう」みたいな企みの気持ちも捨てて、ただの媒介になったように、人と自然の声に耳をすましました。満足のいく歌詞が書けました。

作曲は、PIANOに所属する松司馬拓くんにお願いしました。大野に来てもらって、大野を感じてメロディーをつけてもらいました。

注文は、2つ。
1.ずっと歌いつないでもらえるような、スタンダードな曲にしてほしい。
2.明るい曲にしてほしい、旅立つ高校生たちの応援歌にしてほしい。(この歌詞で曲が悲しいとあまりにしんみりしすぎるから)

曲のデモができて、完璧だと思いました。1回聴いただけで2歳の娘がずっと歌ってるし。まわりのみんなも「これは泣くね」と。

いい曲はできた。あとは学校と親が気に入ってくれるかどうかでした。ここで気に入らないって言われたらもう終りですもんね。おそるおそるプレゼンすると、学校とPTAも快諾してくれました。曲はいい、ただ、卒業式で歌うことをどう実現するか。そもそも卒業式でそんな時間をもらえるのか。

すべてが初めての試みで紆余曲折がありましたが、大野市役所のチームの仲間が粘り強く動いてくれて、卒業式で歌うことができました。企画はいいけと実現は大変。先のポスター展と同じです。

学校から生徒を通じて、CDと歌詞を各家庭に配りました。そして、2回の練習を設けました。誰も来なかったらどうしようと不安でした。

合唱練習の様子
練習の様子

でも、PTA会長が率先して連れてきてくれて、それぞれ20人ほどが来てくれました。とはいえ、来たのは父兄の1割ほど。残り9割は果たして歌ってくれるのかな、そんな思いでいっぱいでした。

そして、本番。あんまり言い過ぎるとなんなので、映像を見てください。
できれば歌が1曲まるまる入っているフルバージョンで見てほしいです。

 

フルバージョン

 

ショートバージョン

「大野へかえろう」の本当の効果は、大野に戻って来る若者が増えるということ

翌日の福井新聞と日刊県民福井が、大きく報道してくれました。歌詞をすべて掲載してくれました。言葉に携わるものの冥利につきますね。「本当に歌詞の通りでした」とPTA会長は言ってくれました。

在校生は、「私が卒業する時にも歌ってね」と親にお願いしたり、PTAでも歌い継ごうと言ってくれてます。孫を持つおじいちゃんが、娘が2年後に卒業するから今から練習しておくとCDをと取りにきました。吹奏楽部の生徒が、来年は私たちが演奏したいと音源を取りにきてくれたんです。来年は「大野のかえろう」生演奏かもしれませんね。残るものができたと思います。

高校生たちだけではなく大野市民、さらにはすでに大野から出て行った人々にも歌は届いています。「私の育った大野は良い町でしょ」と、映像を次々とシェアしてくれました。これまで伝えたくても伝えにくかったことも。映像というきっかけがあると、言いやすくなってるんですね。歌が、映像が、地元に誇りを抱くいい機会になっている。それは本当にうれしいことです。

大野ポスター展に参加した学生と店主
大野ポスター展に参加した学生と店主

「大野へかえろう」の本当の効果は、大野に戻って来る若者が増えるということ。結果が出るのは、何年も先にはなります。ぼくらがやったことは感動を呼び起こしたけど、成功なのかどうかは分からない。ただ、ポスターを作った学生たちが、ポスター展で知り合った地元でがんばっている大人たちと、楽しそうに混ざりあっているのを見た時、やってきたことは間違ってはいないなと思いました。

こういうことをこつこつ続けると、きっと何人かが大野の町に残ったり、戻ってきたりして、この町を引っ張っていく大人の一人になるんだろうなと思います。

「大野へかえろう」プロジェクト、来年も続きます。あたたかく見守っていてください。

プロフィール

  • 日下 慶太
    株式会社電通 マーケティング・クリエーティブセンター コピーライター

    1976年大阪生まれ。チベット、カシミール、アフガニスタンなど世界中を旅をして電通に入社。コピーライターとして勤務する傍ら、写真家、セルフ祭実行委員、UFOを呼ぶバンド「エンバーン」のリーダーとして活動している。『商店街ポスター展』を仕掛け、佐治敬三賞を受賞。他、東京コピーライターズクラブ最高新人賞、ゆきのまち幻想文学賞など受賞多数。また、都築響一氏編集「ROADSIDERS' weekly」でも写真家として執筆中。ツッコミたくなる風景ばかりを集めた『隙ある風景』日々更新中。http://keitata.blogspot.jp

関連記事

続きを見る
ページ先頭へ